193話「愛しき人と会いたいが為に!」
ヤミザキの威圧に震える大地は、ゴゴゴゴと唸りを上げながら、あちこち岩山がボコッボコッと突き出ていく。
「既に貴様らの命運は決まっていたのだよ。ナッセ、お前は死ぬ!
そして我が魂を受け継いで、大きく世界を変えるほどの偉業を成し遂げるのだ!!」
ボコッと突き出た岩山の上で、魔王級『偶像化』を備えたヤミザキが高らかに告げてくる。
「そ……そんな……!」
だがヤマミが絶望に苦しむオレに寄り添い、肩に手を優しく置いて首を振る。
「あの占いは絶対に勝敗を明確に決めない!」
「変わらんさ……。これまでも、そのような恩恵を受けて長らく生き続けてきたのだ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
遠のくかのように、ヤミザキを中心に大地は徐々に大きな山へと隆起していく。岩山が所々突き出た歪な山岳。まるで魔王が佇みそうな仰々しい山だ。
それを見上げるだけでも、大きな存在と思い知らされる……。
するとマイシがドンと飛沫を上げて踏みしめる!
大地が唸り、一陣の烈風が彼女を中心に吹き抜けていく。ヤミザキは目を細める。
「『鍵祈手』なら! そんな占いなど、打ち破れし!!」
ハッと見開いた。
「幾度もなく転生を繰り返し、数多の並行世界を渡って、てめぇの運命を変えてきただろがし!」
……そうだったぞ!
彼女の言う通り、オレは変わる事のない虚無の運命を変え、ここまで来た!
ここで尻込みする訳にはいかないぞ!!
でもヤミザキの言葉で気になる部分があった。
「なぜ、そこまでしてオレの体が欲しいんだぞ!?」
ヤミザキの頑なな姿勢と執着に、納得いかないものがあった……。
それを察してかヤミザキは厳かな視線を伏せ「何も知らぬで、死ぬのは忍びないか」と首を振る。ヤマミはキッと睨みつけ!
「あなたが! あなたが勝手に!! 異世界へ行ってヒカリが代わりに生贄になったから、生き延びれたでしょ!!
それなのに、そのヒカリを取り戻す為に多くの人を犠牲にして、あまつさえ私の大切な人を奪おうとしている!! そんなの二度とあってはならないッ!!」
「ヤマミ……!」
オレを庇うかのように、ヤマミの腕が遮る。
「フフッ……! 随分と憎まれたな」
自嘲するヤミザキ。ヤマミはキッと厳しい視線を向けたままだ。
こないだだって『刻印』を通して殺そうとした事だってあった。あの時は無効化して仮死状態にしていたから良かったようなものの、父が娘を殺すという明確な行為を彼女は味わってしまった。
「憎むなら憎め……! ヤマミの言う通り、私はもう許されざる罪人! 否定はせん」
「ヤミザキィ!!」
荒ぶるヤマミ。しかしオレは以前のヤミザキと違う違和感を感じた。
だがキッとヤミザキは強い執念を孕む厳かな視線を見せ!
「だからこそだ!! 罪深い私の為に、罪もないヒカリが生贄になど許し難い!!」
ズオオオッ!!
地響きと共にヤミザキを中心に激しい烈風が吹き荒ぶ。
ビリビリッと体を貫いてくる威圧に「くっ!」と踏ん張る。巻き上がった煙幕が濛々。
「私が妖精王の力を手に入れて、異世界の脅威を挫き、必ずやヒカリを取り戻す!
そして、これから作る平和な世界の下で幸せに暮らして欲しいのだ!!
その為になら……! その為にならッ!! 私は地獄でも奈落にでも落ちて構わんッ!!!」
強く握った拳をギリッと見せつけ、その際の出血がこぼれ落ちていく……。
「ヤミザキ…………!!」
「ナッセ! お前には、いや、お前らに犠牲を強いて申し訳なく思う」
「…………!!!」
ヤマミは歯軋りし、怒りを表情に滲ませていく。
それを落ち着かせるように、彼女の肩に手を置く。
「すまん! ヤマミ、少し話させてくれぞ……」
「うん……」
一歩前に出た。ヤミザキは厳かに佇むのみ。
マイシは彼らの様子をただ見守っていた。
「だったら、オレたちと協力して異世界へ行って、ヒカリを取り戻すってルートはないのかぞ?」
「…………!」
「ここまで戦争になっておいてヘインたちには申し訳ないけど、なんとか説得してみんなで異世界へ行かねぇ? 人手は多い方がいいだろ?」
それをモニター越しで見た一同は「ええぇえっ!?」と驚き返る。
「……その申し出はありがたいが、却下だ!!」
コオオオオ……、身も凍るほどの威圧が滲み出てくる。
その剣幕に、頬に汗を垂らし息を呑む。
「私はもう長くない!! それに個人の問題故、人任せにできん!!
第一、ナッセ! お前がいかに強かろうと異世界の経験がなければ、私と同じ過ちを繰り返しかねんッ!!」
そりゃ、そう言われると弱いなぞ……。
「だから異世界の経験があるこの私自身が、お前の命と妖精王の力を受け持てば、ヒカリ奪還の可能性が広がる!!
この事業は私にしかできぬのだァッ!!!」
魔王級『偶像化』が漆黒の剣をひと振り、遥か後方の山がドガァアッと砕け散る。ビリビリと伝わる殺意を含ませた言葉の裏から、オレは『ヒカリと会いたい』という強い想いがひしひし感じ取れた。
「へへっ!」
「何がおかしい?」
悪戯っぽく笑いながら、小指を立てた。
「本当は自分がヒカリと会いたいんだろー? 好きな人だもんなー」
ヤミザキは見開く。
「どーやら図星だったみてーだな!」ニッ!
オレだってヤマミが生贄になったら、きっと同じ気持ちになってたかもしれない。後悔と罪悪に苛まされて、何が何でも取り返そうと周りが見えなくなっていくのかもしれない。
好きな人がいる者同士、気持ちは分かるぞ!
「それを知っちゃ黙ってられねーな! よし! みんなでヒカリに会おう!!
だが、その前にてめーを殴って止める!! オレとヤマミで二発だ!」
「あたしの分は!?」
省かれたマイシが突っ込む。
「じゃあ各三発でいいか!?」「計九発!?」
「あ、間違えた」
そのやりとりに呆然としていたヤマミはプッと吹き出し、柔らかい笑顔を見せた。そしてオレと向き合って快い笑顔で頷き合う。
「ええ! 私もヤミザキを殴りたい!」
「おうよ! 決まりだな!!」
「へっ!」
そんな明るく燃え上がる三人に、ヤミザキは目を丸くしていく。
まるで若い頃の自分とヒカリたちを連想させる懐かしい雰囲気。ジワリと温かい何かが込み上げてくる。何かが戻ってくるような気がした。
だが、今は心を鬼にしなければとキッと引き締めた。
「もはやこれ以上の話は無駄ッ!! ナッセ!! 貴様の全てを頂く!!」
そうはさせない!! もうヤマミを悲しませねぇッ!!
キッと目元を引き締め、活気を漲らせて「おおおおおッ!!!」と天に向かって吠え、足元の花畑が猛々しく咲き乱れ続け、花吹雪が螺旋を描いて広く広く舞い荒れていく。
「────七輪羽!! 全開ッ!!」
誰もが驚いた!
オレの背中で更にもう一つの花弁が加わり、六つ羽備える円陣に組まれて微かに羽ばたく。
ヤミザキは「更に進化を……?」と驚きを僅かに見せた。
マイシは「それでこそ、あたしが認めたライバルだし!」と笑む。
ズズズズズズズ……!!
更にヤマミも足元の黒い花畑から、魔女のような漆黒の『偶像化』が象られていく。
黒髪ロングがリンクして、その巨像の姿は禍々しく聳えた。大袈裟なほどに大きく伸びた三角帽子と纏う黒フード、そしてその細長いギザギザの裾は触手のように蠢く。
三角帽子の下には氷彫刻ような美しい色白なヤマミの顔。両肩にもミニバージョンの氷彫刻のようなヤマミの顔が三角帽子をかぶっている。
胴体の左右から両腕のように二本の裾が大きく伸びていて、片方は先っぽが球体でガラスのような大きな杖を握り持っていた。
「私も全開で行く!! 行きましょ!!」
「おう!!」
「フン!」
気丈にヤマミが吠え、オレもマイシも頷く。
高い位置からヤミザキは不敵に笑い「……いいぞ! 全力で来い!」と構え始めた。
両手を挙げ、ヤマミは『偶像化』の大きな片手を挙げ、巨大な白黒の火炎球を『衛星』で浮かばせ、ポコポコと数十個に増殖。
なんとまるで星団を再現したかのように轟々燃え盛る。
ヤミザキを覆う魔王級『偶像化』は漆黒の螺旋を纏い、難攻不落の防御を築く。
「スタークラスター・WBホノバーンッ!! いっけー!!」
ヤマミと共に腕を振り下ろすと、轟音鳴り響かせ火炎球は尾を引いて、頂上のヤミザキへ襲いかかる。
ドガガガガッドガッドガガッドガガァン!!
白黒織り交ぜた爆発の連鎖が高々と舞い上がり、山を砕いて破片を散らし、周囲に振動と熱風を広げていく。
ヤマミと一緒に地を蹴って大地を爆発させた。飛び散る破片の間を通り抜けながら疾走し続け、小人もパラパラと散開していき、地面へ潜っていく。
「無駄ッ!!!」
膨れ上がる漆黒の螺旋で莫大な爆炎を吹き飛ばすと、マイシが飛び込む。彼女の渾身の炸裂剣が側面を打つ!!
ドゴォン!!
魔王級『偶像化』も傾き、ヤミザキはグラグラと振動に襲われる。
「フォ────ルッ!!!!」
鋭く急降下して振り下ろす剣を、漆黒の剣が咄嗟に受け止める! ガギン!!
その衝撃で足元から衝撃波がドンと津波となって広がった。更に山が破片を散らし崩れていく。次いでヤマミの『偶像化』と小人が振るう杖の刃で斬りかかり、幾重の剣閃が交錯。
ガギィン!! ガギギギッ、ガッ、ガギィン、ガッ、ガガガガッ、ガ!!
「おおおおおお!!!」
「かあああああ!!!」
オレもマイシも入り乱れで剣戟を繰り出す。数百数千と剣閃が交錯し続け、周囲の地盤が続々と巻き上げられ、数キロ範囲までに衝撃波に押し流されていった。
オレとヤマミとマイシの鬼気迫る激しい剣戟の嵐を前に、ヤミザキは笑みを崩さない。
「喝呑ッ!!!」
ヤミザキの咆哮一発で、全身から稲光を伴う漆黒のフォースが放射状に爆ぜた。だがマイシは「かあっ!!」と大声一発!!
パシィィ……ンッ!!
互い相殺し、共に弾け飛んで周囲に烈風が吹き荒び、遠くのリョーコやフクダリウスにまで通り抜けた。
ビリビリ……ッ!!
戦場にいる人々に、全身を突き抜ける衝撃が走った。
ヤミザキは「ほう! いい気迫だ……!」と感心。
「最終決戦だァァァァッ!!」
ヤマミと手を叩き合い、マイシと共に大気をゴオッと切り裂き土砂の飛沫を噴き上げながら全力疾走でヤミザキを目指していく!!
あとがき雑談w
クッキー「ナッセとヤマミは私が育てた!」えへん!
アリエル「ヤマミは私が力を与えたからでしょぉ~!」
ヤミロ「あー……、オレもなんか育成してぇな」ポテトぱりぱり。
またビール缶あけてカンパーイ!!
つまみも手に、ワイワイ盛り上げてナッセたちの戦いを観戦!
一方、ヤミロは携帯でゲームやり始めた。
次話『更に力を増すナッセたちとヤミザキの激戦の果ては……?』