192話「三新星 対 四首領ヤミザキ!!」
魔王を連想させる、漆黒の巨大な『偶像化』。
頭上から左右に牛のような二本の角。悪魔のような憤怒の形相。隆々とした筋肉質で、四本の腕がそれぞれ漆黒の大剣を掲げていた。
歪な両翼が大きく広げられ、より巨躯が大きく見えてしまう。
「ヴォヴォヴォオオオ……!」
奇妙な唸り声。溢れてくる膨大なドス黒いフォース。
途方もなく広大で深い海を彷彿させるほど底知れない魔力。人間の想像を遥かに超えた容量。
その闇に恐怖した。
「ナッセェ!!!」
ハッと我に返ると、ヤマミが不安そうに横からオレの肩を揺らしていた。
「しかっとするし!」
「あ、うん……!」
冷や汗滲む苦い顔のマイシに言われるも、オレは自分の手と足が震えているのに気付いた。
するとヤマミがギュッとオレの手を握り、片方の手でこちらの頬を撫でる。そして気付いた。彼女も顔面真っ青で震えている事に。
「ヤマミ……!」
「うん。本当は怖い……」
それを静観するヤミザキ。恐ろしいほど凍てついた双眸。彼を包む巨大な『偶像化』がなおも大地を震わせ続けている。
未だかつてない大きな壁。乗り越えなければならない壁。だがそれはあまりにも遠い……。
不安そうな顔で見つめてくるヤマミ。
「……別れの挨拶ぐらい心ゆくまでやれ。待つぞ。覚悟を決めたなら洗礼をまず浴びせた後に『器』を乗っ取らせてもらおう」
ヤミザキの恐ろしげな宣告。……オレは神妙に目を瞑る。
何を思い違いしているんだぞ……!?
オレだけじゃない! ヤマミも……、そしてマイシですらビビってる!
それにな、それ以上の絶望などとっくに体験したじゃないか!!
元いた世界は平和のようで、実は虚無。どこまで行っても不幸で不満で不幸、故に幸福感が希薄。
良い言葉より悪い言葉の方が多い。いや良い言葉であっても、それは建前だったり欺瞞だったりする。おぞましいほどに欲深く悪意満載の人間が我がもの顔で社会を横行していた。
そこでは今の世界のように、異世界の存在はおろかレベルやスキルなどファンタジー要素は無かった。
オレはそこが全ての世界と錯覚し、明るい未来の無い殺伐した社会の中で無為に働き続けてきた。そのままであったら死ぬまで空虚な人生で終わっていただろう。
それほどまでに長期間に渡る絶望的なものは他にない。
……いやまぁ実際そのまま死んだけどな。
「へ……へへ!」
沸き上がってくる愉快。ヤミザキは「あまりの絶望に気が触れたか?」と訝しげだ。
オレはヤマミをギュッと抱きしめた。するとヤマミもまたオレの背中に腕を回して抱きつく。
「────かもな!」
しんみりと愛しい彼女の温もりを噛み締めていく。
今こそ『異世界へ旅する』一歩手前じゃないか!
元いた世界ではそんな事など絶対に不可能と、空想に耽るしかなかった状況からすれば希望的じゃないか。
目の前にいる四首領さえ倒せば、念願の夢が叶えられるじゃねぇか!
それによ……、今のオレには愛しい人がいる!
一緒に戦ってくれる相棒も仲間も友達もいる!
応援してくれる! 励ましてくれる! 褒めてくれる! 認めてくれる! 愛してくれる! 支えてくれる!
そんなポジティブなパワーがオレに力を与えてくれるんだ!!
抱擁から離れ、ヤマミを片手に雄々しくヤミザキへ向き合い、花吹雪で生成した太陽の剣を天に向かってかざした。
希望に輝く瞳。覚悟を決意した表情。気後れしない気概。自分でも自覚できるほどに活気溢れる希望で胸を満たしていく。
「だからオレたちはそれを糧に戦えるんだッ!!」
ヤミザキは「フハハハハハッ!」と笑い始め、パチパチと拍手。
「そうだ。それでいい……。運命に逆らって戦うか? それとも運命を受け入れるか?」
「戦うに決まってるだろぞ!」
「既に結果が決まった運命に最後まで抗うか……?」
ヤミザキは怪しい笑みを浮かべ、彼を包む『偶像化』も「ヴィギギギ」と憤怒で唸る。
ヤマミと手を繋げたまま気張った。ゴウッと共に花吹雪を巻き上げながらフォースを噴き上げていく。
既に背中に浮く羽は六枚の円陣。
オレもヤマミも大地を震わせるほどの威圧を発していく。
「へっ! 燃えてきたし!!」
触発されてかマイシは笑む。全身からボウッとフォースを噴き上げ、更にマイシは「かああああッ!!」と吠える。
セミロングの髪がズズズッと伸び、竜の両翼を象るように広がって白いラインが竜の骨を模して走る。頭上の二本の逆立った髪の毛は四本に増え、それぞれに尖った白いラインが走る。
更にマイシの肌にウロコを模す白いラインが走り、それは顔面の頬や顎にも及ぶ。
威風堂々とマイシが立ち聳え、全身を覆うフォースと共にウロコを模すスパークがバチバチッと激しく迸る。
「灼熱の火竜王マイシか……!! ここまで進化するとはな!」
ズン、とオレたち三人は力強く一歩を踏み出した。
すると大地が波打って震え、破片が浮かび、ズオッと烈風を巻き起こして煙幕や破片を吹き飛ばすように押し流していった。
「絶対勝てるワケないやろ……!」
「ああ! 明らかに勝ち目はない! ましてや青二才では……!」
ドラゴリラとオカマサはまだ怪訝に疑問を持っていた。
しかしフクダリウスは「黙ってろ! 希望の超新星を信じてやるのも我らの戦いだ」と叱責。
「ああ! ナッセ殿の目は希望に輝いておる。諦めてはいない」
ダグナもフッと笑む。
リョーコ、フクダリウス、ノーヴェン、スミレ、エレナ、コハク、シナリ、モリッカ、アクト、クスモさん、コマエモン、ミコト、ヒーロー連中、創作士たち、軍人たち、王子たち、この戦場にいる人々は固唾を飲んで戦いの行方を見守る……。
ドクン……ドクン……! 自らの鼓動が感じれるほど緊迫する。
「行くぞ!!」
同時に三人は駆け出した。
それを瀕死のヘインは「我らが希望の切り札じゃ……! 後は任したぞ!」と快く笑いながら見送った。
ヤマミの周囲を踊り舞う黒い小人が次々と地面に潜り、黒いラインを描いて超高速でヤミザキへ殺到、轟々と黒炎が貪る。しかし魔王級『偶像化』は漆黒の螺旋を纏って、それらを霧散させる。
なおも続々と黒いラインが執拗に黒炎で包み込もうとするが、ことごとく跳ね除けられていく。
「火竜王の炸裂剣ッ!!!」
その隙を突いてマイシの振るう一撃で大爆発を巻き起こし、魔王級『偶像化』を僅か吹っ飛ばす。そして天からオレはヤマミと一緒に剣を振り下ろして強襲。
「サンライト・フォールWッ!!」
「ぬ!」
流星のように煌めく二つの刃は交差した漆黒の大剣に受け止められるも、ズンと粉塵を巻き上げて足元が地面にめり込む。次いで周囲に衝撃波が吹き荒れた。
「喝呑ッ!!!」
ヤミザキの咆哮一発で、全身から稲光を伴う漆黒のフォースが放射状に爆ぜた。それにオレとヤマミは弾かれてしまう。ビリビリと全身を衝撃が突き抜けていくが、受身を取って地面を滑りながら着地。
すかさずマイシは地面を抉るように飛沫を吹き上げながら疾走。
「火竜王のッ、炸裂焔嵐剣ッッ!!」
通り過ぎながらヤミザキへ炸裂剣の乱打を見舞う。
天地揺るがすほど嵐のような爆裂の連鎖が咲き乱れ続けて『偶像化』ごと覆い尽くす。
爆裂の激流に包まれ、それは「ヴォアアア!」と苦悶に呻いた。
それを見逃さず、オレとヤマミは追従する小人と共に再び大地を蹴って爆走。
「W・流星進撃ッ!!!」
背後から天の川横切る夜空が映る。ヤミザキは見開く。
オレとヤマミとその小人たちで繰り出す流星のような剣戟が数百もの軌跡を描いて流れ出す。
「────千連星ッ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
大地ごと魔王級『偶像化』をも穿つほどの剣戟の嵐が怒涛と吹き荒れた。
ドッと衝撃波が雲を突き抜けるほど高々と噴き上げた。
「その程度か!!!」
ドパァン!!
なんと強引に衝撃波を跳ね除け、漆黒の大剣四本を高速回転しながら振るう。咄嗟に掌を差し出し────!
「デコレーション! 攻撃無効化ッ!!」
「無駄だ!! 夕夏大魔神・降魔滅殺旋ッ!!!」
幾重もの漆黒の刃を螺旋状に、爆ぜるように膨れ上がって全てを斬り刻んでいく。
「ぐああああ!!」「きゃあ!!」「ぐっ!!」
無効化しきれず、オレたちはそれを浴びて吹き飛ばされていく。
しかしヤミザキは攻撃の手を緩めず、漆黒の稲光を迸らせた一撃必殺を大地に叩き込み、漆黒の衝撃波が稲光を伴って吹き荒れた。
ズガアアアァァァァァアン!!!
天地を裂くほどの天変地異級の衝撃波が戦場を走り抜ける!
衝撃波の津波に吹き飛ばされたオレたちは「うわああああ!!!」と押し流される。同じく巻き込まれた小人たちもボボボボボボッと黒炎を散らしながら一気にかき消されていく。
そして三人揃ってズザザザザザッと破片を吹き飛ばしながら滑り、横たわる。煙幕が舞う。
「がはあッ!!」
血が喉からこみ上げてきて盛大に吐いた。
「フッ! 確かにあの頃よりは強くなったが、所詮こんなものよ!
やはり占いの結果は絶対的!! 我が勝利は揺るがん!!」
ズゥンと漆黒に聳える魔王級の『偶像化』を纏うヤミザキ。
「う……占い?」
霞んだ視界で、震えながら身を起こそうとする。ヤミザキは「そうだ!」と頷く。
汝の家系の命運を握る器。汝と相性は良く、後々の未来に多くの幸をもたらすであろう。
汝は己の底を器にぶつけ、天地揺るがす闘争に発展する。しかし恐るなかれ、汝はその最中で器を理解し、そして己の運命を託せるようになろう。
器は忌まわしき呪縛を祓い、そして汝の覚悟と使命を受け継ぐ。それは邪なる勢力を断ち、歪な世界をも回帰させるほどまでに至るであろう。
それを語ってくれた。
ヤミザキがなぜ自信満々で自ら勝利を疑わないのか理由が分かった。
「既に汝の命運は決まっていたのだよ。ナッセ、お前は死ぬ!
そして我が魂を受け継いで、大きく世界を変えるほどの偉業を成し遂げるのだ!!」
「そ……そんな……!」
絶望感がこれでもかと押し潰してくる……。
あとがき雑談w
クッキー「三人かがりで歯が立たないなんてね……」
アリエル「でも、あのヘインが切り札と言わしめるほどだからぁ~、ステータス以上の事を期待しての事かもねぇ~w」
ヤミロ「それしかねぇだろが……」ポテトぽりぽり。
クッキー「確かに単純なスペックじゃ、ヘインの方がずっとダントツ高いね」
アリエル「そうそうw 普通だったら勝ち目なんてないわよぉ~w」
ヤミロ「……それに、あの占いの結果は破れねぇ。まぁ、どぉでもいいがな」
クッキー「見てる本、さかさまw」
アリエル「ホントは心配してんのねぇ~w」
ヤミロ「…………う!」(汗)
次話『果たして逆転できるのか!? ナッセたちの奮起!』