190話「七皇刃 対 四首領ヤミザキ!!」
星々煌く夜空の下、冷たい風が煙幕を押し流していく大地。
浮遊艦の上から見下ろす四首領ヤミザキ。それに対峙する魔皇帝ヘインと七皇刃、そしてナッセとヤマミとマイシだ。
「……それでも私の完全勝利は揺るがん! だが驕るつもりもない!」
ヤミザキ全身の紋様が赤く不気味に輝く。
緊迫した空気がピリピリ響き、七皇刃も汗をかき腰を落として身構えていく。
ヤミザキはナッセとヤマミを見下ろす。
二人の目は気迫で漲っていて鋭い眼をしている。
こないだエキシビションマッチで戦った時とはまるで別人と察した。ダクライの言う通りだと認識を改めた。
これまで夢見がちな甘い目をしていたのに、まるで数十年も人生経験を経て成長を遂げたような貫禄を感じさせる目に変わっていた。
色々失って何度も絶望を味わって、なおも乗り越えてきた歴戦の眼光だ。
そう感じさせずにいられなかった。
「……ヤマミ! アナザーではないな!?」
ヤマミは黒いマフラーを引きちぎって霧散させていく。もはや偽装も要らない。堂々と父であるヤミザキを見据えるのみ。
そんな凛々しい姿にヤミザキはフッと笑む。
何があったか知らないが、元から二人に分けていて、それが一人になったのだろうか?
ナッセのような『鍵祈手』ではないが、二人の結束を見るに同じ道を歩んできたのが分かる雰囲気だ。
説明はつかないが、そうとしか信じられなかった。
ヤマミは周囲に光礫が舞い上がると、衣装を魔法少女のそれに換装し、背中に四枚の漆黒の花弁を浮かせた。
「おい! ナッセ、ヤマミ、マイシ!! 手ぇ出さず、よう見とけ!
この世界の命運は貴様らにかかっておる! 我らを捨て駒にしてでも、ヤツの技や動きを見極めて優位に立ていッ!!」
「え……? 捨て駒に!?」
「ヤツは日本全土の人間を支配するほどの四首領! 犠牲もなしに勝てると思うな! 気ィ引き締めておけぃ!」
表情をしかめ「ああ!」と頷く。ヘインは満足そうに笑う。
訝しそうにグレンは肩に銃を置きながらオレの前へ歩み寄り、高圧的に見下ろしてくる。
「気に入らねェが、これからの未来の為だ。糞餓鬼、てめぇらに未来を託すぜ! いいか、幻滅させたら地獄からブッ殺しに来るからな!?」
かつてアメリカで地獄を再現しようと猛威を振るってきた極悪人ですら、オレたちに期待を寄せているぞ……。やはり大災厄に関して危惧を抱かずにいられないようだ。
「分かった!」と頷く。
「へぇ~はっは! 勝てぬとも七皇刃の意地見せてやるぜぇ!」
「少なくとも貴様らを萎えさせはさせねぇぜ!」
「ツィリーフめは執事として完璧に奉仕してみせます!」丸眼鏡をピカーと光らせる。
「……全てはいずれ『空』に帰す。が、後の未来の『色』はそなたが築き上げていくモノ。それを愚僧めが身を扮して繋げてみせよう」
「あーはははは!! やってやるぜぇ!!」
「魔☆法☆少☆女オータム!! 未来への希望をあなたたちにッ!!」
ガヅィン、エイス、ツィリーフ、サタネクス、スエック、オータムは精悍とした顔でオレたちに向けた。
神妙に笑んだまま、まるで「後は任したぞ」と暗黙で伝えてくるかのようだ。
「七皇刃ッ…………!」
「……任せましょう!」
オレの肩にヤマミが手を置いてくる。振り向くと頷いてくる。彼女も何か言いたげだったのが窺える。
逆へ振り向くとマイシすら静観しているようだ。
七皇刃ッ……! あいつら……犠牲になる気だぞ…………!
こみ上げてくる感情にオレは唇を噛み締めた。
本当なら共に戦いたい。犠牲者を出さず、懸命に闘って一緒に未来を勝ち取りたかった。だが、既に七皇刃は自身を駒として玉砕する覚悟ができているんだ……。
それに応えるべき、オレたちはヤミザキの一挙手一投足見極めなきゃ!!
ギッと踏ん張って、眼を凝らす。
「七皇刃よ!! 次世代の超新星どもに我ら世代の生き様を見せつけてやれいッ!!」
「うおおおおおおおおおッ!」
七皇刃は気合いを吠えて士気高揚。グレンはヘインと並び、恐ろしい形相を浮かべてヤミザキを見据える!
ゴゴッと大地がうねり、広範囲に渡って剣山のような大小様々な岩山が突き上げてくる。同時に七皇刃は「行くぜッ!!」と気迫の勢いで駆け上がっていく。
「フッ! いい覚悟だ……! 来い!!」
刻印翼を背中から広げ、足元を浮かせ上昇していくヤミザキ。
「へぇ~っはっはっ!! どこまで行けっか試してやるぜぇ~!!」
ガヅィンはヴヴンと複数に分裂して数十人の大勢で音速の乱打を繰り出す。音を置き去りに音速の弾幕が大気を切り裂きながらヤミザキへ殺到する。
更にエイスも手元の槍を扇風機のように回した後、超高速の連続突きを見舞う。
ヤミザキは刻印剣を両手に、目にも留まらぬはずの超高速攻撃をも瞬時に捌ききり火花が続々と散り、足元の岩山が余波だけで崩れ去っていく。
「はっはああああああッ!!!」
「シィヤアアアアァァッ!!!」
気合い発するエイスとガヅィンの猛攻を、ヤミザキは余裕綽々と身を翻しながら得物で軽やかに完全に捌ききっていく。
ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
音速をも超える攻撃を完全に捌くヤミザキの動きに、必死に目を凝らす。
「ならばこそ、この執事めが!」
予めバラバラになっていたスライム体のツィリーフが周囲から飛びつく。そしてヤミザキの全身に巻きつくように融合して、ギュッと万力のような剛力で締め上げる。
それを斬り裂こうと剣を振るうが、エイスは自ら体に差し貫かせてギュッと固定。
「ぬ?」
エイスとツィリーフは共に不死身の能力持ち。身を張って動きを止めた。
「そのまま止めておれ! 愚僧の『四臂観音』で空に還すッ!!」
「ああ、やってくれッ!!」
後続でサタネクスが周囲に光の巨大な手を生み出す。それは千手観音の繰り出す無数の手のように超高速で連打され続けた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「世界の巨悪を払拭するプリキューメン・オータム参上ッ!!」
魔法少女へと変身したオータムから光の波紋を散らしてキラキラが飛び散った。
「いっくよー!! MAXソード・ファイブウェイ!!」
オータムは大剣を振り回し続け、五方向に三日月の散弾をばら撒いた。爆発の連鎖を重ね、容赦のない弾幕が延々と繰り出され続ける。
「七色の尾を持つ神鳥よ舞い降りろ! ラーニックス召喚! ……幻獣憑依!」
魔法陣から巨大なフェニックスが神々しく余波を散らしながら現れ、スエックへ吸い込まれるように合体。
溢れ出る灼熱が眩い閃光と共に周囲へ吹き荒れ、フェニックスの両翼が羽ばたくようにポンチョを揺らし、片手に神々しくフェニックスを象る斧が具現化される。
「ラーニックス・バーニングレイドォー!!」
斧を振り下ろすと、周囲に灼熱の津波が吹き荒れながら天空より降ってきた火炎柱がヤミザキへまともに直撃! 大爆裂が吹き荒れ、空を明々と照らしていく。
凄まじい衝撃波が大地を荒れ狂い、烈風が大気を駆け抜けていった。
「まだまだぁ!! 地獄へ消し飛びやがれぇぇぇえッ!!!」
圧倒的な威圧を放ちながら、グレンは荘厳と山のような竜の化石と身を変えて天高く聳えた!
ムカデのように複数の腕を蠢かせ、長い体をしならせ、尖った竜の頭の四つ目は赤く輝く。
ズズン!!
その圧巻とも言える地獄の使者が、口を大きく開き溶岩のような赤く輝く光球を膨らませていく。
「地竜王の爆裂波動砲ッ!!!」
扇状に広がる極太の激流がヤミザキごと押し流し、アメリカ全土を揺るがすほど大爆発球が数十キロと広がって炸裂した。
ドゴオオオオオンッ!!!
尋常じゃない超高熱の、鉄さえ溶かす熱風が戦場を吹き荒れ、大地さえ赤くドロドロに滲ませていく。
凄まじく吹き荒れてくる暴風にオレもヤマミたちも「くっ!」と腕で顔をかばい、身を屈んでこらえきる。
ゴゴッ! 眩い閃光と共に大きな地震が通りすぎ、余韻と濛々と煙幕が流れていく……。
「避けたか?」
「いや! 間違いなく当たった!! だが……!」
確信して首を振る。
ヤミザキの位置は『標的探知』で把握している。しかしアレはッ……!
「まさかこれで終わりかな?」
ヘインは苦い顔で「チッ!」と舌打ち。
虚空からエイスとツィリーフの二人は即座に塵から再生して、空中で留まる。
険しい顔のツィリーフは「失礼ながら……、妙な技で弾かれました!」と告げてきた。
「なんじゃと……!?」
ヘインの顔に焦りが窺えた。
明々と広がっている爆心地からなにか影が薄ら浮かび上がってきた。
「……哀れだな。雲泥ほどに離れた力の差とはいつも残酷なものよ。だから一つ忠告しておこう……」
爆炎の中からヤミザキは赤く照らされながら薄ら笑んでいた。
「私は完全無欠だ!」
戦慄して汗をかいた。
「渦、見えたかぞ…………!?」
マイシも「ああ、見えたし! あの黒い渦が全てを……」と呟く。ヤマミも頷く。
ヤミザキは両手で上下に重ねるようにして、その間に黒い渦を生み出す。
おぞましく高速回転する邪悪な闇の螺旋。
ヘインは「無効化じゃ!!」と切羽詰って叫ぶ。咄嗟に掌を────!
「儚く散れ……! 降魔穿嵐旋ッ!!!」
漆黒の竜巻球が爆ぜるように一気に膨れ上がり、岩盤もろとも大地と山脈を粉々に吹き飛ばし、戦場ごと蹂躙。
巻き込まれた地竜王状態のグレンはおろか、オータム、スエック、ガヅィン、ツィリーフ、エイス、サタネクスは「うわああああああ────ッ!!!」と全身から破けた衣服と血飛沫を散らしていく。
バガゴォォォォンッ!!
七皇刃は四方八方に吹っ飛ばされ、多くの岩山をガンガンガン突き破っていき、地面を抉るように滑っていって草木を薙ぎ散らしながら、果てにズドォォォンと大規模の煙幕を噴き上げた。
七人揃って血塗れで横たわり、微動だにしない。
七皇刃!! 一撃で全滅!!!
ゾクッと絶句した…………。
「ま……間違いない!! ヤツも三大奥義が一つ『無限なる回転』をッ!!!」
あとがき雑談w
アリエル「やっば~w 七皇刃が全滅ですってぇ~w」
クッキー「うんヤバい! ナッセたちも戦ってたら一緒に全滅してたよ!」
ヤミロ「だなぁ……。ヘインってヤツぁ……四首領だけあって抜け目ねぇな……」
緊張感走るバトルにクッキーたちは手に汗を握ってモニターに釘付け。
アリエル「このままじゃ間違いなくヤミザキの完全勝利ねぇ~」
クッキー「私もかつて、どうしようもない状況に絶望してたのが懐かしいね」
ヤミロ「それでも勝たなきゃなぁ……。でねぇと都合悪ぃぜ」ポテトぽりぽり。
クッキー「でぇじょうぶだ! ナッセならなんとかなるさ! ……たぶん」
しばしの沈黙。やっぱ不安だなと、アリエルとヤミロはジト目だ。
次話『ヘインとヤミザキの四首領同士の戦い!! ヤバいぞ!』