18話「粘れ! ナッセの根性!」
「ならば……どちらか先に力尽きるか、根性比べに付き合ってやろう!!!」
不敵に笑うフクダリウスに、オレは立ち向かう。再び両雄は斬り結び合っていく。
それを影から見守る女生徒の二人は固唾を飲んで汗を垂らす。
「……狂戦士を相手に真っ向からやり合うだなんて正気の沙汰じゃないわ」
「え~? 狂戦士と蛮族は似たようなもんでしょ? 脳筋~?」
ヤマミは首を振る。
「確かに一見すればどっちも脳筋ね。でも性質は全く違う。
蛮族は野生と動物の力を借りる創作士。大珍さんがそうだったように自らの体を動物に変えたり、動物を召喚して攻撃したりする創作能力が多い。
でも狂戦士は全くの逆。強靭な筋肉の鎧と想像を絶する膂力のみを頼りに、何ものの力を借りず己の力だけで暴れまわる。そしてどんな攻撃も意を介さずひたすらに周りを捩じ伏せる。時には致命傷を負っても暴れ続ける不死身のヤツもいる。そういう特徴が厄介過ぎる。
なるべくなら真正面から戦いたくないクラスよ……」
青ざめるヤマミに、スミレも「ひえ~」と目を丸くして口を開けた。
「ナッセもナッセよ。戦うには早すぎるわ……! こうなったら……」
「待ってよ~! 加勢したらダメ~」
飛び出そうとするヤマミの手首を掴んで引き止めるスミレ。
ガムシャラと何度も斬って斬りまくる。それに介することなく戦斧を振るうフクダリウス。
もう何十分もその繰り返し。
この長期戦で師匠の事を思い起こしていた。
きょとんとするオレに師匠であるクッキーは笑む。テーブルにはチェスが置かれていた。
「戦っていけば、いつか歯が立たないような強敵にぶつかるでしょう。私だって嫌というほど経験したわ」
「うん……」
尻込みしつつ頷く。頬に一筋の汗が垂れる。
「そういう時は『粘る』事ね」
「粘る……?」
「そう。敵にとって嫌なのはサクッと倒れてくれない相手。逃げたり避けたりする相手を追っかけるのも面倒。特攻して玉砕してくれた方がまだ楽」
チェスの駒をくるくると指で遊ぶ。
「逃げるが勝ち?」
「ちょっと違うかな? 要するに相手にとって自分の攻撃が思い通りに通らない事がストレスなの。イラついて隙を見せるかも知れない。勝手に消耗して自滅するかもしれない。
それに戦略の上でも重要。敵の主力を相手に粘れば、他の味方が楽になる。もしくは怪我している味方を逃がす時間稼ぎにもなる。
粘ればその分だけ主力の敵は消耗するし、ムキになって援軍を呼んでくれれば儲け物。敵軍が手薄になって味方に活路を与えるの。まぁ、自分も生き残れるようにってのもあるけど」
「ほへ~、なるほど……」
クッキーは満足げに笑むと玄関の方へ向かう。なんだろう、と首を傾げる。
「さて、その為にあなたには長く粘ってもらうわ。さぁ戦いましょ」
「え、ええ~~~~!!!!」
青ざめて飛び上がる。
……それからは地獄だった。何度も何度もそういう特訓をさせられたのだ。
強敵に立ち向かうに必要なのはただ強いだけではない。時には粘る根性も必要だからだ。
飛び回りながら、フクダリウスの猛攻をかわし続け、隙を見て通り過ぎざまに斬り抜けていく。
「ぬがあああああああああああああ!!!!!」
ひたすらに最高攻撃力で振り回し続けるフクダリウスの猛攻は絶えることがなかった。天災のように戦斧が振るわれるたびに地面を揺るがし、建造物を崩していく。
そんな大雑把な猛攻でも絶対にかわしきれるものではない。
「ぬんっ!!」
「く!」
切り返してきた戦斧を、盾を三つ連ねて咄嗟に防御。が、盾は木っ端微塵に砕け散り軽々と吹っ飛ばされる。ぐっ!
ズン、と建造物を貫いて破片を噴き上げ、煙幕を巻き上げる。
だが何事もなかったかのようにオレは煙幕から飛び出す。額から血が垂れている。それでもなお「おおお!!」と吠えた。
ズゴン! ドガァ!! ゴゴッ!!
フクダリウスの暴れ回りで地面が断続的に揺れる。次々と倒壊していくビル。
飛び回りながら額に汗を滲ませ、体には所々血で染める。それでもひたすらと粘る事に集中力を注いでいた。
攻撃に特化して玉砕に賭けることもせず、相手に臆して死を恐れて逃げ回ることもせず、ただただひたすらに自分の戦法に徹して戦い続ける。
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
負けないと、雄々しく吠える。強敵フクダリウスの威圧にも負けず、最後まで戦い抜く覚悟を眼光に宿す。
フクダリウスは逆に焦りを覚えていた。
……違う! 資料と違う! どこまで戦える? いつ力尽きる?
もうかれこれ一時間になる…………。
その刻印とやらでバフをかけ続ければ、その分だけ魔法力を消耗し続ける。資料通りならとっくに力尽きてもいいはずだ。
さては藻乃柿殿が謀ったか? ……いやそれはないな。あの見下す目は違う。
城路殿をゴミとして切り捨てようとする男に、ワシを謀る理由はない。きっとこれは想定外なのだろう。
「おおおおあああッ!!」
飛びかかって振り下ろした光の剣は、かざされた戦斧に阻まれた。その激突でビリビリと衝撃が互いの身体を走る。フクダリウスの足が地面にめり込む。
「ぬうんっ!!」
力任せの戦斧に弾かれる。
くるくると受身を取って着地すると、また間合いを詰めて剣を振るう。執拗に効かない攻撃を与え続ける。何度も何度も何度も!
負けないぞ! 執念にも似た根性をあらわに攻め続ける!
もはや作業ゲーとも言うべき延々とした繰り返しだ。
だがオレにとっては、ある創作作業とイメージを重ねていた。
原稿用紙に執筆をして消しゴムで消しながらラインを整えて下描き。次は黒墨をペンで下描きをなぞる。丁寧に綺麗にペンを走らせる。
次はトーンを貼る。色が付いたように見せるためにキャラと背景に、自分の感性を信じて貼り続けていく。
そうした地味な作業は何時間も要する。根気よく集中して最後まで描ききる気持ちがなければ完成までたどり着けない。
それが長い。長くて放り出しそうになる。それでも『描き続けなければ』完成までいけない!
それと同じ感覚で戦っていた。
完成まで、そして勝利するまで、戦い抜くぞぉぉぉお!!!
「おおおおおおッ!!!!」
力強く咆哮を発する。ビリビリと周囲に威圧が響くほどだ。それほどまでに強き意志は研ぎ澄まされていた。
上半身を起こしたままタネ坊とキンタはその延々と繰り返す戦闘を見守っていた。
想像以上に粘るナッセの姿に驚きつつも、なにか焦りを感じた。これまでナッセを軟弱と思っていたが、それは過小評価だった。
弱々しい見た目や引っ込みがちな態度を見て『弱い』と高を括っていた。
気付くべきだった。ナッセが垣間見せた鋭い目線。
奥底に秘める燃え上がる戦意はフクダリウスと変わらない。ただ戦うのが好きじゃないだけ。
「侮っていたね……」「せやせや……」
そして、それはヤマミも感じ取っていた。ナッセの秘められた戦意と強固な戦法。それは自分の目的に利する。
ナッセなら、きっとなんとかしそうね。そう感じてヤマミの口元が緩む。
「……頑張って!」
もうそろそろ二時間に達する頃──……。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅ──……」
フクダリウスは激しく苦しく息を切らしていた。
それでも「ぬおおお」と気力を振り絞って戦斧を振り回し続けていく。オレは察した。──精度が落ちてきた。
意地で暴威を振るってくるが、徐々に衰えていくのが目に見えていた。
それでも慢心せず堅実と飛び回り続けてフクダリウスと交戦を続ける。
例え徐々に積み重なる疲労と傷で身体が悲鳴を上げようとしていたとしても、最後まで意志を堅く持って戦い抜く事に終始する。
真剣な目で見据え、揺るがぬ信念で徹底的に剣を振るい続けるのみ!
どこまで……!? どこまで…………!!?
焦りを伴い、汗でびっしょり濡れるフクダリウス。全身の筋肉が痙攣しつつある。戦斧を握る握力が緩んでくる。全力で戦える時間が限界を迎える。まさかここまで粘られるとは思ってもみなかった。
だがワシとておいそれと折る訳にはいかぬ! 体力のある若者に屈しては狂戦士の名折れ!
憤怒と戦斧を握った腕をぶんぶん回転させた。周囲が旋風で荒れ狂う。
「ぬおおおおおおおおお!!!!」
最後の渾身の力で粉砕せんと振り下ろしてくる。この旋風纏う一撃は確実に広範囲を粉砕し屠ってくる。
それを危険と直感。萎縮しそうになる。冷や汗が吹き出る。
……ヤバい!!
あとがき雑談w
タネ坊「……あれ? 思ったより強くね?」
キンタ「熱血で根性あるのナッセはんの方やね」
タネ坊「言うなー!! 熱血漢は俺の方だ!! あんな糞餓鬼なぞ!」(素)
フクダリウス「まさかこんな根性あるヤツだとはな……!」
ヤマミ「頑張ってー! 頑張ってー!!」(必死)
スミレ「あらあらまぁまぁ~w これはガチね~w」
次話『ついに決着だ!! 勝つのは一体どっち!?』