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181話「表面上の強さに頼らない底力だぞ!!」

「ふむ。これはいかんな」


 ダグナは白目ひん剥いている刻印(エンチャント)魔人(デビル)だったが、全身を走っている紋様を収拾して巨大化していた体は元通りに縮んでいく。

 ふう、と一息をつく。

 それを見計らったようにオカマサとドラゴリラは立ち上がってきた。不敵に笑みを浮かべている。


「フッ! 作戦通りだね……」「せやな!」


 するとフクダリウスは「やれやれ」と首を振って、スクッと立ち上がる。

 真剣な面持ちのダグナとフクダリウスは無言で睨み合う。


 オカマサはコキコキと首を鳴らす。


「さて、と。ダグナとか言ったかな?」

「いかにも」

()()()は長く保てるものではないし、何度も発動できぬと見た」

「せや! オカマサの言う通りや」


 オカマサは背部に付けていた二段式の鞘から二本の刀を引き抜く。それは二本の長刀、赤い刀身のが『村正(ムラマサ)』で、青い刀身のが『正宗(マサムネ)』だ。コオオオ……、ただならぬ妖気を発している。

 同時にドラゴリラも全身のゴリラパワーを片腕に集中する。するとドン、ドン、ドンと断続的に膨らまして巨大化させていく。


 フクダリウスは溜め息をつく。

 ダグナに視線を送ると口角を上げてきた。付き合ってくれるみたいだ。


「……我輩にとっても()()は気が進まん。対策も充分されてたようでな。故に解除した」


「負け惜しみをッ!! ドラゴリラ!!」

「おう行こかッ!! オカマサ!!」


 オカマサとドラゴリラは互いに手を叩き合って燃え上がる威圧を倍増。即座に地を蹴ってダグナへ飛びかかる。その凄まじい剣幕で走った跡が抉れて飛沫を巻き上げていった。

 オカマサは「ごおおおおおッ!!」と吠え、灼熱のバーナーを吹き上げながら二本の長刀を巨大化させて振り下ろし、ドラゴリラは巨大化した片手でダグナの股間を揉むべき地面から振り上げていく。


「バーニング・ツインオーバードライブゥゥゥゥッ!!!」

「ギガース・ゴリラ男根(タマタマ)揉みィィィィッ!!!」


 最大最強の技を、突っ立っているダグナに喰らわせんと迫り来る!!


 しかし!



 ガガゴォン!!


 なんとダグナは両拳を振り下ろし、オカマサとドラゴリラを地面に埋めた。その衝撃で震え、破片が舞う。

 なっ!! このゲンコツ一発でオカマサとドラゴリラが沈んだ!?

 今のダグナは『偶像化(アイドラ)』はおろか刻印(エンチャント)魔人(デビル)ですらない通常状態。フクダリウスも思わず見開いた。


「し……信じられんッ……!?」


 オカマサとドラゴリラのステータスは通常のナッセとリョーコを少し上回るほどだ。

 いくらダグナ単体でナッセたち個々を上回るスペックであろうとも、『連動(リンク)』までした二人を同時に相手するのは分が悪い。

 普通に計算すればダグナに勝ち目はないはず。


「吾輩は決して貴殿らを(あなど)っているから戻った訳ではない」

「やはりか……」

「この二人はともかく、フクダリウス殿は察しが良いようだな」


 ダグナは側に立てていた戦斧を引き抜いて、肩に乗せる。


 通常に戻ったのは、不相応の力を持っては己の力を出し切れぬと判断した故。

 それに最初の一撃でフクダリウスたちがそれほどダメージを受けていないのもあって、これ以上の持続は無意味と悟ったからである。

 今まで通り、これまで鍛錬し続けた己の力を過信せず奮えば本来のステータス以上の力を出し切れるとも自覚していた。

 ナッセたちが本来のスペック以上に底力を出せた原理と同じだと、フクダリウスは察した。


「……精彩を欠いたな」

「む?」


 ダグナはオカマサとドラゴリラを見下ろして訝しげだ。


「どういう事だ……?」

「フクダリウス! 貴殿はこの二人を見て来たのだろう? 気づかないか?」

「まさか……!?」


 一筋の汗をたらしてハッとした。


「吾輩はデータ上でしか二人を語れぬが、大体は『連動(リンク)』の精度は衰えていたはずだ」

「む……むうッ……」

「こいつらは愛していたはずだ。男女のように恋して愛して交わってきて、何にも代え難い絆を育んできた。それを何かの誓約とやらで失ったか捨てたか……?」

「なるほど……」


 フクダリウスは悟った。

 例の『血戒(けっかい)魔石板(ませきばん)』による儀式で『二人はもう愛さない』と誓約をする事で、潜在能力を引き出して強くなれた。

 確かにスペック上では以前の数十倍も強くなっただろう。

 しかし、愛さなくなった事で絆が希薄になって『連動(リンク)』の効果も薄れてしまった。


「だ……だからか……」


 それに儀式による自殺率が高い理由が分かった気がした。

 誓約による弊害でなにか欠けてしまった自分がどうしようもなくなって、絶望して、人生に意味を見出すことができずに自ら命を絶った。

 改めて自分の事のように痛感して、フクダリウスは唾を飲み込む。


「……主は話が分かる御仁(ごじん)。ここは吾輩の独断だが、一時休戦を申込みたい」

「む? 左様か」


 意外な申し出にフクダリウスは怪訝とする。が、ほどなく頷く。


「そうしなければならぬ理由(ワケ)があるのだな?」

「いかにも!」


 ダグナも頷く。


 彼は危惧している事を胸に、この戦争に対して迷いがあった。

 それをフクダリウスに打ち明けた。

 その後、ダグナは浮かない顔で巨大浮遊艦ヒカリバナへ振り返った。


「事情は分かった。……それならばヤミザキも責められぬな」

「色々と済まぬ」

「ダグナ殿とて本意ではなかろう」


 ダグナは「うむ」と頷いた。

 力を温存すべき、二人は「よっこらしょっと」とそこら辺の破片に腰掛けた。

 頭上にタンコブを作って白目でピクピク痙攣しているオカマサとドラゴリラに哀愁が漂う……。


 ────第三王子ダグナ、一時休戦にてフクダリウスと共に待機中。



 すると上空は眩い光で染まった。途端に凄まじい鳴動が大地を揺るがしていく。

 誰もが見上げた。

 命の輝きとも言える超新星爆発のような真っ白の眩い空。


昇天魔法(ラストヘヴン)


 誰かを守るために命を懸けるという慈悲の心を持った者のみが発動し得る自己犠牲魔法。

 通信によると、あのケン治が敵であるライクと共に空へ舞って自爆したと伝えられた。まさかあの凶悪な人造人間ケン治がそのような行為をするとは誰もが信じられなかった。


 足元を煙幕が流れていく最中、ナガレは「助けてくれてありがとう……」と柔らかい笑みで涙を流していた。



 すると眩い空から一つの塊がドズゥゥンと地面に落ちてきた。

 呆然としていたカゲロはハッとする。ライクだ。あの爆発にも耐えたと、表情を綻ばす。


「ライク!! 良かった!」


 窪んだ地面の中心で白き光竜が「ハアッハアッハアッ」と息を切らしながら、起き上がっていく。

 恐怖に歪んでいて汗ビッショリだった。

 しかし何故かナガレは驚きもせず、落ち着いていた。


「フフフ! ハハハッ! ハーッハッハッハッハ!! なんとか瞬間的に自ら力を高めて全身から爆発する事で相殺できたぁ!! ケンなんとかってヤツァ無駄死にだぁ!!!」


 天に向かって笑い上げ、生き残れた事に歓喜した。

 カゲロも胸をなで下ろして笑む。

 そしてライクはギロリとナガレを睨み、ニヤリと不気味に笑む。


()さを晴らさせてもらうぜぇ…………!」


 ライクは巨竜の身を覆うように凄まじいエーテルを噴き上げた。そしてナガレへ超速で駆け出す。少女をいたぶれる楽しみで「ハッハー!」と笑う。

 ナガレも意を決して水龍のエーテルを纏って駆け出す。


「それは同感ッ!!」


 なんとナガレはライクの顔をドゴォンと豪快に蹴っ飛ばす。


 吹っ飛んだライクは後ろの遺跡へ突っ込んで、破片を散らして煙幕を巻き起こした。

 ナガレは拳を握ったまま追い討ちと駆け出す。ライクはそれに見開く。拳がライクの大きな顔面をメリメリと穿つ。


「ぐぎ……ッ!?」


 ナガレは「ずりゃあああッ!!」と精一杯こもる気合の咆哮で拳を振り切って、ライクを再び遺跡のガレキへ吹っ飛ばす。ドガァァァンと煙幕を巻き起こして破片が四散。

 カゲロは「な……何ッ!?」と見開いて呆然。

 さっきまでと形勢が逆だ。これまで歯が立たなかったのに、一転としてライクを吹っ飛ばし続けている。


「ただし、()さを晴らすのはこっち!」


 凄むようにナガレは拳をポキポキ鳴らす。


「こ……! このぉ……! このガキィィィィ!!!」


 怒り昂ぶったライクが飛び出し、嵐のような竜の拳のラッシュを見舞う。

 しかしナガレは両腕でガガガガガガッと弾いて捌いていく。確実に敵の攻撃を見切って完全に通らせない。これにライクとカゲロは唖然とする。

 逆にナガレの飛び上がりアッパーがライクの巨躯の腹にめり込む。


「グオバァッ!!」


 信じられねぇ、とライクは見開き吐血をぶちまける。

 続いてナガレは飛び膝蹴りでライクの顎をズゴガッと打ち上げた。上空へ舞って、重量感たっぷりに地面へ仰向けに倒れた。

 ライクは震えながら「バ……バカなぁ……?? なぜっ!?」と顔を上げる。


「く……このア……!?」


 カゲロは見かねて飛び出そうとするが、動かない!

 後ろへ振り返れば、黒いトゲがカゲロの影に突き刺さっていた。


 ……闇属性の拘束魔法? 一体誰が!?


「舐めるな!!」


 カゲロは苦手ながらも後ろへ向かって光魔法で一瞬の閃光を放つ。

 こういった影縛り系は光を照らせば簡単に解ける。いざという時の為にライクから手ほどきされたものだ。だが、カゲロはその呪縛から解き放たれる事はなかった。依然として動けない。


「な……何ッ!?」


「おい! 何をじっとしている!? 助太刀しろぉ!!」

「そ……それが!! 何者かに呪縛されてッ……!」


 何度も閃光を放つも、弱まる気配はない。

 竜王の動きすら止めるほど、かなり強力な拘束魔法だ。並の人間では決して真似できない。魔獣王こと竜王と対等の種族でもない限り……。



「思う存分、ケン治さんの(かたき)討たせてもらうよ」


 スタスタと歩み寄るナガレ。その顔に怒りが滲んでいた。

 ライクは恐怖で汗タラタラ滲み出た。ジリジリ後しざりしていく。血眼で歯軋りする。


「な、なんかの間違いだぁ!! オレぁ負けるワケねぇぇぇぇえ!!!」


 地面を震わすほど全身からエーテルを噴き上げて、全身全霊の突進でナガレへぶちかましにかかる。

 ナガレの拳を覆うエーテルが水龍の頭を象っていく。

 溜めるようにゆっくり後ろへ拳を引きながら、3・2・1と内心カウントダウンしていく。


「ずりゃああ──ッ!! 水龍槍パァ────ンチッ!!!」


 気合いを爆発させ、片足踏み込んでストレートパンチで突き出すと、なんと拳から水龍が高速で伸びていってライクの頬をドゴガァァンッと強打した。更に伸び続けてライクごと遺跡の壁をガンガンガン突き破って遥か向こうにまでボォォォンと爆煙を四散させた。

 煙幕が晴れると、ライクは舌を出したまま白目でグッタリ仰向けになっていた。

 ズズズ……と紋様が収まっていき竜だった巨体から、元の人型へ戻ってしまった。


 息し切らしながらナガレは「やっぱ素手の方が向いてるかも」と笑う。



 激昂したカゲロは「このガキィィィィ!!」と強引に呪縛を破って、全身から血飛沫を噴きながらもナガレへ猛スピードで殴りかかる。

 もはや力尽きたナガレは疲れた顔で笑む。


「姉さん、あとは頼みます……」


 ガシッ! カゲロの大きな拳を何者かの手が受け止めた。


「き、貴様!? 何故生きているッ……??」


 なんとマイシがナガレの前へ立ち塞がっていたのだ。

 全身傷だらけで衣服はボロボロでオフショルダー気味に両肩をあらわにするマイシはニッと好戦的に笑む。

あとがき雑談w


オカマサ「はっはっは。俺は大丈夫。わざと負けてあげたんだ」

ドラゴリラ「せや!」

オカマサ「年長は尊重してあげないと、ね」

ドラゴリラ「せやせや!」


フクダリウス「………………」


オカマサ「さて禁忌シリーズのプレゼンです。一対の長刀二本。『村正(ムラマサ)』と『正宗(マサムネ)』の紹介だよ」


村正(ムラマサ)』赤い刀身の長刀。術者のバーニングを極大化させる。

正宗(マサムネ)』青い刀身の長刀。術者のバーニングを極大化させる。

 一本だけでも術者の威力値は五〇〇〇万倍にも跳ね上がるんだ!

 つまり、二本同時に使えば一〇〇億倍!! ドン!

 いつもの三倍の力で振るえば三兆六〇〇〇億倍!! ドドン!

 更に回転を加えれば四六〇京九〇〇〇兆倍!! ドドドン!

 あのブラックホールすら絶対に斬り裂くほどだァァァァ!!


オカマサ「あまりにも恐ろしすぎて、使う気になれなかったんだ。だからワザと負けざるを得なかったね」

ドラゴリラ「せやせやせや!」

オカマサ「その気になればヤミザキもまとめて倒せてたかな」

ドラゴリラ「せやせやせやせや!」


フクダリウス「…………」(呆れ)



 次話『カゲロの卑劣な真似にマイシ怒る!!』

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