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180話「これマジ!? スミレの正体と本性!」

「その忌々しい余裕ッ、もろとも消し飛べェッ!!!!」


 震えるほど激昂し、般若の顔に激情のシワを刻んだブラクロが腕を振り下ろすと共に、周囲の呪符が一斉にヤマミたちへ雪崩(なだれ)()むように吹き荒れる。



「そんな憎悪(はら)む想いなど、私には決して届かないッ!」


 鋭い視線で毅然(きぜん)と言い切られて、ブラクロはギッと血眼で見開く。


 同時にヤマミは足元から這い出るように黒い小人を数体召喚。ヤマミを囲んだまま小人たちはグルグル周回しながら加速していって、それは目にも留まらぬほどの速度に達していく。すると氷床から黒い水上竜巻が高く巻き起こって、呪符をことごとく飲み込んでいく。


 ゴオオオオオオオオオオオオオ……!!


 天を衝いて荒れ狂う水上竜巻を見てブラクロは「なにッ!?」と汗を垂らす。


 最初に氷床を広げたのは、大規模な水上竜巻を起こす為。その目論見(もくろみ)通り、莫大(ばくだい)な量の呪符は全て巻き込まれてしまった。

 ……こうして収まった後、真っ黒に濡れた大量の呪符が地面に敷き詰められるように散らばっていた。



「ウソ! なんで呪符が爆発しないのッ……!?」

「闇属性の水は対象を深く浸透して、乾く事叶わず」


 ハッとブラクロは闇属性の性質を思い返した────。

 闇で汚染し、執拗に粘りつく厄介な特性。黒い炎なら普通の消火では消えない。黒い水なら普通では乾かない。

 従ってべっとり濡れた呪符では起爆もままならない。例え起爆したとしても威力はたかが知れている。


「もう終わりよ!」

「舐めるなァァァァッ!!」


 ビキビキ表情にシワを刻んで激怒したブラクロは『偶像化(アイドラ)』である巨躯の体で、ヤマミへ殴りかかろうと駆け出す。

 すると地面を無数の黒い線が屈折しながら這い回っているのが見えた。頭に血が昇っていて対策を失念していたブラクロはそれをまともに浴びてしまう。

 ボゴゥ、と黒炎が『偶像化(アイドラ)』を覆い被さるように燃え盛った。


「うぎゃああああああッ!!!」


 獰猛な黒炎に苦悶の声を上げる。

 それでも恨みの執念か、キッとヤマミへ憎々しげな血眼を見せ「アナタは許さなぁぁぁぁああッ!!」と黒炎に焼かれながらも両手でガバッと勢いよく飛びかかろうとする。


「そう。なら介錯を……」


 突っ立っていたヤマミは杖から魔力の刃を形成────。



「待ちな!」


 なんとスミレがヤマミの肩に手を置いて、制止を促す。

 豹変したかのような険しい顔のスミレにヤマミも思わず手を止めた。いつもの明るくてふかふかな癒し系の雰囲気はない。

 まるで何か別人のようにも思わせる態度だ。


「あなたは一体……?」


 戸惑うヤマミに、スミレはニッと不敵に笑ってみせる。

 気付けばスミレは両手にゴツイグローブ、両足にレッグガードと、格闘僧(モンク)の格好をしていた。トントンフットワークで足を鳴らす。

 拳に光属性を付加させ、光輪を燦々(さんさん)と放つ。


「オラァッ!!」


 剛力一閃と、スミレは豪快なストレートパンチでブラクロの『偶像化(アイドラ)』をドンと打つ。背中からヒビ割れて、本体であるブラクロが排出された。

 本体を失った『偶像化(アイドラ)』は白目で呆然とした顔のまま、黒炎と共に木っ端微塵に弾け散った。


「うそー! あんな強かったのッ!?」

「いいえ。私の攻撃で『偶像化(アイドラ)』はとっくに豆腐ほどに脆くなっていた。そもそも()()では長くは保たない」


 ヤマミがダンジョンのリッチ戦で()()をやったのと同じような状況だ。

 それをノーヴェンに聞かれて、それを元に策を練ったわけだから簡単に倒せたように見えるだけだった。

 詳細は後ほどに……。



「ぐ……ぐっ……!」


 刻印(エンチャント)魔人(デビル)状態だったが、全身に走っていた紋様がズズズ……と引っ込みながら巨大化が解けて、元の体へ縮んでいく。

 上半身半裸のブラクロは「ハアッハアッ」と息を切らし、震える手を眺める。


「あ、本当に力尽きたー!」

「普通に戦ってたら危なかったわね……」

「うん。マジ強かったー」


 エレナは息を飲んだ。

 初見で戦おうとしたら全滅してたのかもしれない、と。



 上目遣いでスミレを恨めしく睨む。


「う……、アンタ……ッ!」

「俺はスミレ。ブラクロさんよ、気分はどうだ?」

「……最悪よ! 呪符もぜーんぶ台無し! ヤマミ爆殺計画もブチ壊し!! アナタたちのせいでッ!!

 この身体もヤマミもナッセも何もかも憎くてたまらないッ!!」


 恨み節とブラクロは八つ当たりのように喚き散らす。



「苦しんでるのがテメーだけと思うなよ? クソアマが!」


 凄むスミレに、ブラクロは恨めしい目を見せるが「ア、アマ……?」と気付いた。

 スミレも頷いて「ああ。言ったぜ! テメェの心は女だろ? アマ言って当然だろが」と笑う。ブラクロは訝しげにスミレを眺める。

 さっきの言葉を噛み砕いてみる。


《苦しんでるのがテメーだけと思うなよ? クソアマが!》


 苦しんでいるのが……? テメーだけ? 思うなよ…………??


 ブラクロは次第に見開いていく。

 今までと打って変わって、今の彼女(スミレ)はぶてぶてしい態度で見下ろしてくる。


 ま……さ……か!?



「ああ! 俺もだよ! 性同一障害はテメーの専売特許と思んな!!」

「な……に……!?」


 驚きに満ちていくブラクロにスミレはフッと笑む。


「ただし、お前とは逆な。体は生物学上女だが、心は男だ!」



 ヤマミはチラッと側のエレナに見やる。その視線に気付いたエレナは「し、知らないわよッ」と首をブンブン振る。

 スミレは半顔で「騙しててすまねーな……」と謝る。

 訝しげなブラクロは震えながら立ち上がっていく。


「あ……あなたも……?」

「おう! 幼い頃から『女の子らしくしろ』って叱られてばっかだったよ。身体と心が合わなくてモヤモヤしてたもんだ。

 だから前向きに女らしく振る舞って百合(ゆり)を堪能する事で、自己矛盾を紛らわせていたんだ。

 だがアソコがねーから、男としての欲求は解消されねーけど」


「ち、ちょっとォ! あたしの胸むにゅむにゅ揉んでたのもッ!?」

「言い方ァ!」


 エレナを(たしな)めた後、ヤマミはふと思い返した。


 転生前のエレナは二十歳で胸が大きいので、男にしてみれば魅力的だろう。

 同性同士って事でやたらボディタッチしてたけど、あれは違ってたのね……。

 そしておそらく巨乳のリョーコに絡んでたのも同じ下心だろう。

 更に言えば、リョーコとナッセの絡みにジェラシーしてたのも納得がいく。


 ダンジョン攻略の時だって、しきりにナッセとヤマミ、スミレとリョーコと区分けしていた。


「セクハラ……」

「えっちー」

「わ、悪かったよ! 悪かったって!!」


 ジト目のヤマミとエレナに、スミレは慌てて合掌して頭をペコペコ下げる。

 ブラクロは合点がいったのか「そう……」と呟きながら、下の布を破って胸にチューブトップみたいな感じに縛って隠す。体は男だが心は女。羞恥心は変わらない。

 スミレは逆に手足の装備を脱ぎ捨てて素手に切り替えた。


「さて、同じ境遇同士拳で語り合おうぜ?」

「望むところよ……」


 ザッと構える二人。共に駆け出すとスミレのパンチをブラクロもパンチで合わせ、ガツンと大気が爆ぜた。

 ガガガガッ、と拳と蹴りを織り交ぜた激しい格闘が繰り広げられた。

 それでもスミレとブラクロは晴れ晴れとした顔で笑いながら、清々しく汗を散らしていく。


「…………蚊帳の外ね」

「うん」


 二人だけの世界に、エレナとヤマミはただ突っ立つしかなかった。



 しばししてからようやくブラクロは膝を地面に降ろした。


「……もういないと思っていた」


 息を切らしながら悲しげな顔のブラクロ。スミレは構えを解き、静かに見下ろす。


「私の境遇とこの気持ちを理解してくれる人なんて……」

「だが、今は違う! ここにいるぜ!」


 その力強いスミレの言葉に、ブラクロはハッと見上げた。


 どことなく熱い気持ちが湧いてくる。

 初めて自分の事を「アマ」って言ってくれたからだ。


 これまで誰からも「オカマ野郎」としか言われなかった。だからやり場のない憤りを溜め込み、心は常に黒いモヤに包まれたままだった。

 それは永遠に解消されないだろうと悲哀に思っていた……。



「行こうぜ!」


 スミレの差し出してきた手に呆然とした。その光景が信じられなかった。


「異世界にはよ、性別を変えれる秘宝あるかもしれねーんだ」

「そんな……確証のない……」


 スミレはギュッとブラクロの手首を握って、強引に引っ張って抱擁した。

 心がときめいてくるような温もりに、自然と涙が溢れてくる。これまで抱擁してくれる人は総統様以外にいなかったはずなのに……。


「何にもしないで腐ってるよか、夢ぇ探す方がロマンじゃねーか?」

「そんな……いいの?」

「ヤマミに嫉妬ばかりするよか、一緒に旅してった方が楽しいだろがー!」


 ブラクロの両肩に手を置いたスミレの精悍(せいかん)とした笑顔が眩しい。

 次第にブラクロは女性らしく物憂(ものう)げになっていく。



「それは名案ね……」

「…………いいの? 恨んでたのに」


 ヤマミは鋭い目線をそっと伏せ、首を振る。


「私にとってナッセが全てってだけ。そこに害がなければ協力するのもやぶさかではない」

「ヤマミ……」

「聞くけど、もし私がノーヴェンの求愛を受け入れたら、貴方は納得してた?」


 ブラクロはしおらしく首を振る。


「でしょ? 自分の恵まれない境遇を私のせいにしたいってだけ。そんな気持ち分からなくもないけど、こっちに当たり散らされても困るわ」

「ごめんなさい…………」

「貴方が本当に女性になったら、私なんてどうでも良くなると思う。元々顔立ちは整ってるもの。きっと大変な美人になれるでしょうね」


 ヤマミの穏やかな笑み。


 なんだか認められたようで、ブラクロはあまりの嬉しさで涙がまた溢れ嗚咽(おえつ)する。

 こんな晴れ晴れとした気持ちは、いつの頃か忘れられていたようだ……。久しく爽やかになれた気がする。


「もう……嫉妬なんか……しなくてもいいのね…………」


 安心したように嗚咽(おえつ)しながらブラクロはへたり込んだ。それをスミレは快い笑顔でしゃがみ込んで介抱する。その二人が繋いだ手はギュッと温かく握り締められた。

 新しく繋がれた友情の絆────、ここにまた一つ誕生した。



 ────第二王子ブラクロ、戦意喪失にて陥落。

あとがき雑談w


スミレ「ああは言ったけど、男としては女になりきるのも好きなんだよなぁw」

オータム「それなw 魔法少女憧れてたからなーw」

スミレ「ふふっw」

オータム「それにしても羨まけしからんw」

スミレ「ははっ! そうだろ? そうだろ? この女体に可愛さ詰まってて俺満足w」


オータム「いいなぁ。俺も女性になれる秘宝探してぇ!」

スミレ「俺はふた●りになれないかと思ってるんだが……」ボソ!


ブラクロ「ねぇ、なんか言ったかしら……?」ゴゴゴ!(怒)

スミレ「ヒッ!」((((;゜Д゜))))



 次話『ダグナ対フクダリウス!! ……とオカマサとドラゴリラ』


オカマサ&ドラゴリラ「思い出したように付け足すなァァァァ!!」

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