179話「妖精王が持つ生態能力!」
「すまん。妖精王隠せなかった」
空中モニターに映るノーヴェンに、申し訳ないと後頭部を掻く。
ノーヴェンは「イエ……」と寛容に首を振ってくれる。
味方陣内でテレパシーにも似た通信の他に、目の前で空中モニターを形成して通信もできる。
……って要塞の持つ便利な機能の説明は置いといて。
「むしろ手柄デース」
「そ、そうなのかぞ?」
ノーヴェンはなんか嬉しそうだ。
「あの誘発された憎しみは容易に収まらないデス。コクア王子は間違いなく殺されていたでショウ。それでも治療班の憎悪は消えず、他の夕夏家へ矛先を向けるなりでキリがなかったデース。最悪、他の人にも憎悪が伝播して広がっていたかもしれまセン。
それを事前に食い止めたのは大きな功績デース」
「た、確かに言われてみれば……」
振り向けば、横になっているコクアの側にヨル。治療班が囲んで治療に取り掛かっている。そしてアクトとリョーコが防衛役。
もう憎しみは消え去って、諍いも何もないようだ。
「ミーもネガティブ濃度の高い並行世界での記憶があるからこそですガ、憎しみの連鎖は長い歴史に渡って繰り返されてましたネー」
「だね……」
元いた世界では、老若男女個人から国レベルまで争いは絶えなかった。
それに悪意や憎悪などによって犯罪が起こり続けるから、被害は常に連鎖する。
あそこの世界では和解や改心が難しい。
良い言葉を並べて善人のフリして打算的に出し抜こうとする。反省の言葉で取り繕って改心したフリして全然自分は悪くないと開き直ったりする。それどころか指摘されれば逆ギレするまである。
おまけに綺麗事で慈善事業を謳って、搾取や反社行為を行う偽善者までいる。
需要な品物を独占して高く売りつける悪意満載な転売屋も横行する。
……だからトラブルも戦争も貧富落差も永遠に止まらなかった。
「やはりナッセ君は大災厄に対して強力な切り札になりマース」
「大災厄の…………」
思わず息を呑み込む。
ヤマミが語った、星獣後の第二次災厄。これの存在は今や要塞側の人間はみんな知っている。
数多ある並行世界に悪意を撒き散らす最凶最悪のラスボスって感じだぞ。
「あの鈴は前から創作してましたカー?」
首を振る。
「そういえば……、攻撃無効化もそうだったけど、なんかできるのが当たり前みたいな……」
「それは妖精王の生態能力……ですネ」
「え?」
確かに魔女クッキーも妖精王。攻撃無効化はできるってたな。
それはオレにも受け継がれていて、成長するに従って自然と取得していくスキルなのだろうか?
鈴の錬成もそうなのかな?
「妖精王ナッセ。こやつが切り札かの」
「うむ、ヒーロー側としては是非欲しい。対ヴィランとして強力な……」
「そうゆう事、余の前で言うんじゃあないッ!!」
ヘインとアメリカジェネラルの漫才のようなやり取り。
しかし内心、大災厄に対して強力な切り札としては喜ばしく思っていた。
あの鈴は人智を超えた浄化能力があり、強制的に和解させるほど効力が強い。
例えとして敵を倒す為には攻撃してダメージを与えるのが普通だ。そして和解する為には、話し合いなどで長い時間をかけて理解し合う必要がある。
だけど『快晴の鈴』はそんな過程を必要とせず、攻撃して倒すのと等しい事象で実現できる。
殴り合って互いにスッキリして分かり合うなんてベクトルじゃない。時を巻き戻すのと同じくらい有り得ない事象だ。
「それができるからこそ……か」
鈴の音色が炸裂した瞬間、垣間見た。
憎しみを抱いていた人から黒い血が吹き出て霧散した。それは悪意とか憎悪とか負のナニカではないのだろうか?
ナッセの奥義も、そういう特性を少なからず持っているのではないか?
不殺の奥義。明らかにオーバーキルレベルの威力ではあるが、それでも紙一重で生き残らせるように倒せる。
しかも食らった人はいずれもナッセと和解している。
もしかしたら人間形態で可能な浄化手段なのかもしれない。妖精王状態で繰り出す奥義ともなれば、もっと効力が拡大化するのかもしれない。
「なんか、とんでもない敵を育てようとしてるんじゃが?」
「はっはっは。何を言うか。私としては頼もしい限りだ」
「くっそ……! 今すぐ裏切りたいんじゃが、大災厄が控えている手前、何にもできないわい」
諦念とヘインは首を振る。
そしてある戦場を映す無事なヤマミたちを見て、悶える思いだ。
「あの闇属性のヤマミですら、これじゃからな!」
────時は遡る。
第二子ブラクロの呪符により、滅亡兵器級の破壊でヤマミたちを消し飛ばした後……。
「ハァーッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
ブラクロのその止めどもない激情と欲望の暴走が『偶像化』をより深淵の闇に染めていく。
なんとそれは般若を模した禍々しい形相、女体の上半身にカマキリのような四本足を伴う下半身、四本に生えた男の太い腕に、と姿を変えていった。
その像からドス黒いエーテルが膨大に溢れ出していく。
より巨大化し、より禍々しく、より暴走をあらわに!
像に取り込まれるかのようにブラクロはグッタリと正気を失い、口からゴポゴポと気泡を漏らしていく。
「な、なにこれー!?」
その声にブラクロの『偶像化』はピクンと反応し、般若の面で振り向く。
なんとボロボロのキャミソールのエレナがビビっていた。しかも灼熱燃え盛る高熱地帯で。
「な、なんですって!? なんで平気なのよッ!!」
「なんかおっかない像みたいなの喋ってるー!!」
「まぁ!! 私の『偶像化』は神聖女よ!
これこそ私の精神生命体!! ついに高次元の女神へ私は進化したのよッ!!」
オーッホッホッホッホ、と男のような四本の腕を左右に伸ばして高らかに笑う。
すると、途端に灼熱地獄は黒い氷床に覆われて沈黙させられてしまった。
エレナは「さむっ!」と両腕で反対側の上腕を掴みブルッと震えだす。
《……全く。本当しぶといわね。リッチの時といい、今回の時といい》
ブラクロは見開いた。
なんと螺旋描く黒い花吹雪からヤマミ、エレナ、スミレが現れたのだ。相変わらず涼しい顔のヤマミは優雅に後ろ髪のロングをサラっとかきあげた。
そんな様子にブラクロは固まった。
いつ時空間魔法で逃れたのか、困惑するしかない。
一瞬で逃れられる暇などなかったはず。
そして破けたキャミソールのエレナと、そうでないエレナが並ぶ。不可解だ。
「まさか金属化の『血脈の覚醒者』能力で、あの超高熱すら弾くとはね」
「ほんとチート~!」
ため息をつきながら首を振るヤマミ、そして目を丸くして口に手を当てて驚くスミレ。
「なぜ生きているのよッ!? 間違いなく消し飛んだはずッ……!」
キャミソールの肩紐がちぎれて脱げ落ちる全裸寸前のエレナを、足元から巨大な黒い花弁が包むように閉じていく。それは徐々に浮きながら黒薔薇の蕾へ巻き戻っていった。
ヤマミの真上で、太陽がごとく放射状に光を放つ黒薔薇。
ブラクロはそれを美しいと見惚れてしまった。やがて黒薔薇は収縮して消えた。
「なん……それはッ!? それはなんなのッ!?」
「わざわざ教えるとでも?」
「くっ! 精巧な分身を造ってたのねッ!?」
ナッセの鈴同様、ヤマミはこの生態能力でブラクロを謀っていた。
『ブラックローズ・アバター』
これは本来なら、並行世界にいる人物をコピーして受肉させて自分のコントロール下で下僕にできる闇の妖精王の秘術。
経験や記憶は元より、肉体構成や能力まで本物そっくりに再現できる。
ただしオーラや魔法力など内在するエネルギーは全て術者が供給源である為、無制限ではない。
故に今のヤマミのレベルでは、この世界に存在する人物をコピーして二人三人アバターを短時間召喚するのが精一杯だった。
事の真相としては、自分たちをコピーしたアバターを前線に出して、最初っから時空間の中で高みの見物をしていたのだった。
「バカねッ! わざわざ表に出てきてッ……」
「もう詰んでるからよ」
平然とツンと言ってのけるヤマミ。
勝算があるからこそ、わざわざ堂々と出向いてきたのだ。先ほどの大量呪符による爆殺の無駄撃ちに加え、そのカラクリを解析してしまっていた。
だから、もう負けないとヤマミは確信していたからだ。
「え~もう?」
「ちょっとぉ!! ジャマミ~説明してよねッ!」
事情が分からないスミレは戸惑う。プンプンなエレナにもヤマミは無反応だ。
キーキー喚いて飛びかかろうとするエレナを、スミレが「よしよし~」と宥める。
「詰んでるですってェェ!? ほ・ざ・けェェェェッ!!!!」
真上に浮かぶ水晶玉から、人型の呪符を四枚出すと徐々に同じ『偶像化』状態のブラクロを象って、本体そっくりに具現化された。
最初、黒い炎で燃やし尽くしたのも、スミレやエレナの攻撃で潰したのも、その呪符による分身だったのだ。
「分身増やして出力上げても結果は同じ」
ヤマミは冷めた目を細め、髪の毛が風になびく。
エレナは「ちょっとおッ! 無駄に挑発しないでよねッ!!」と慌てる。
ブラクロなる『偶像化』の般若の形相が更に怒りのシワをピギィと刻む。
「いつまで余裕ぶってるつもりッ!!」
一斉に五人のブラクロは男の両腕を万歳するようにかざし、水晶玉から再び膨大な量の呪符が滝のように溢れ出た。
以前と同じように膨大な量の呪符が巨大バームクーヘンみたいに囲んでしまう。
戦々恐々と竦むスミレとエレナだが、ヤマミは依然涼しい顔だ。
「今度こそ喰らえッ!! 九九九九無量大数呪符による爆殺をッ!!」
「水増しが酷いのは相変わらずね……」
「その忌々しい余裕ッ、もろとも消し飛べェッ!!!!」
震えるほど激昂し、般若の顔に激情のシワを刻んだブラクロが腕を振り下ろすと共に、周囲の呪符が一斉にヤマミたちへ雪崩込むように吹き荒れる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド………!!!
あとがき雑談w
クッキー「ブラックローズ・アバターって、錬金大戦の時にアリエルが横槍入れてきたヤツね。さんざん苦しめられたよ」
ヤマミ「へぇ」
ナッセ「ヤマミー好きだー!」
積極的にナッセがヤマミを後ろから抱きついて、頬ずりしている。
ヤマミ「しょうがないわね。ふふふ」
ナッセ「えへへ!」
ヤマミ「もっと抱きしめて。こう腕を腹に回して」
ナッセ「…………うん」
より密着するようにギュッとヤマミの腹で腕を交差するように抱きしめる。
火照って頬を赤くするヤマミとナッセ。
ラブラブな雰囲気で、ハートがぽわぽわ上空へ舞っていく。
クッキー「……それアバターだよね。いいの? そんな使い方で」(汗)
ブラックローズ・アバターによって生み出されたアバターは記憶と感情関係なく、あたかも親しい関係として術者に従うという、うらやまけしからんな能力なのだ。
その気になればハーレムでも何でも自由にできるぞ。
ヘイン「ヴィラン側に向く能力じゃが、やっぱナッセ関係しないとと言うこと聞かなさそうじゃ……。ちっ」
次話『誰かの為に戦うかで、人は強くなる!? ヤマミとブラクロの想い!』