178話「憎しみの連鎖を断ち切れ! 快晴の鈴!」
ついにコクアは最終必殺剣を繰り出し、ナッセたちへ上昇して襲いかかる!
『ファイナル・クリメイション────ッ!!』
刻印魔人状態のコクアが顕現させた『偶像化』が突き出す巨大な聖剣の切っ先に、小型の太陽とも見間違うぐらい獰猛に燃え盛る球体を携え、火炎の余波が螺旋を描いて撒き散らされている。
その威力は想像を絶するものだと、マジでビビる。
「だけど、そんな凶刃にオレたちは負けねぇぞッ!!」
「あァ……、ここで終幕だァ!!」
「いっせーのォ!!」
コクアは見開く。既にナッセたち三人の上空へ膨大な量の光子が放射状に集まって、数千億及ぶ星々が螺旋状に渦巻く銀河系が巨大な威圧感を放って現れた。
周囲に烈風を放ち、たちまち背景は夜空へと変わっていく。
「そんな薄っぺらな奥義なぞ、我が最終必殺剣で焼き尽くしてくれるわッ!!!」
コクアの激怒に呼応して、より獰猛に燃え盛り、荒ぶる灼熱火炎球が巨大化。
それに対してオレたちは「おおおおッ!!」「があああッ!!」「せいやああッ!!」と吠えた。
急下降しながらナッセは銀河の剣を、アクトは銀河刀を、リョーコは銀河斧で、全身全霊と一斉に振り下ろす。
三つ重なる斬撃と灼熱燃え盛る火炎球が激突!!
ガカァンッ!!!
空を眩い光で覆い尽くし、天地震わす天災レベルの衝撃が戦場を突き抜けて広がっていく。
バキン、砕かれたのは聖剣の方────!
灼熱の火炎球は儚く霧散され、コクアは絶句する。
砕かれた聖剣の破片が飛び散る最中、コクアの『偶像化』を三つの斬撃が穿ち、そのまま勢いよく落下していく。
コクアは『偶像化』で跳ね除けようとするも、強烈な重力がかかったかのように剥がれない。
なおも落下はグングン速度を増していく。
徐々に『偶像化』は破片を散らしていく。まるでコクアの頑なな心が打ち砕かれるかのように、それは瓦解していく。
ばかな!! ばかな!! ばかなばかなばかなばかなァァァァ!?
どうして────!!?
なぜ子供じみた夢を抱えた奴らに、我が崇高なる野望が打ち負かされなければならないのだ!!
苛立つしかない!! 憤怒で脳を沸騰させて腸煮えくり返って、体を燃え上がらせる。
「このォォォォふざけた夢なんかにィィィィ────ッッ!!」
「だから負けない────!!」
日本人を洗脳し、無理やり支配するような奴らには!!
ましてやそれを搾取して、自分が頑張って得た力だと勘違いしているバカ王子には!
それにオレだって悪意や欲に満ちた世界に苦しまされてきたんだッ!
明るい夢を目指したっていいじゃないかッ!!
互い競争して傷つけ合って己を満たす野望と欲で成り上がるよりも、みんなで各々の夢を語り合ってワイワイ楽しく盛り上がって、励まし合いながら切磋琢磨してる方がよっぽど楽しい!
そんなものを幼稚だと笑うなら、好きなだけ笑え!!
そんな剣幕のオレに、コクアは怒りの表情が崩れていく……。
「オレたちはァ────こんな戦争終わらしてェ────!!」
全身全霊と渾身の力を込めて、勝利へと目指すべき一心不乱に叫ぶ!!
リョーコもアクトもそれに便乗して、三人の力が一体化していく。それは眩い輝きを放つ。まさに友情で繋ぐ絆の輝き。カガッ!
「異世界へ行っくぞ────ッッ!!!」
「あァ────ッ!!」
「絶対行きましょ────ッ!!」
コクアは激怒を破るほどの、三人の友情パワーにおののくしかなかった。
そして徐々に観念して脱力していく。
どうあがいても奥義を破れそうにないと…………。
「ギャラクシィ・シャインフォールT────ッ!!!」
ズガガァァァァァアン!!!
ナッセ、リョーコ、アクトが重ねた斬撃が、『偶像化』を木っ端微塵に砕きコクアの頭を真っ逆さまに大地に埋めた。
隕石衝突みたいに広範囲の岩盤を捲れ上げ、土砂の大津波を広げ、飛沫を噴き上げた。
大地を震わせ、戦場を荒々しい烈風が通り過ぎていった。
じばし衝撃波が大地を蹂躙し、煙幕が流れ、岩礫の嵐が吹き荒ぶ。
ようやく煙幕が晴れ、巨大なクレーターが全貌を現す。
「ゴアハッ!!」
コクアは地面に頭を埋めたまま黒い血を吐いた。ゆっくりと足を下ろし、仰向けに倒れていく。
シュワシュワ刻印魔人から元の体へ縮んでいった。
「くそ……なんで……だ…………!?」
コクアはこんな無様すぎる敗北が悔しくてたまらなかった。
そんな彼を息を切らしたまま見下ろす。
「我々夕夏家が……こんな有象無象に、ま……負けるはずが……ない!!」
「まだ分からねェか? そんなんだから負けは確定してンだァ……」
アクトの言葉にハッとした。あれは挑発か戯言だと思い、聞き流してきた。
「怒ってばっかだったろ? それで何もかも見失ってたぞ」
「うん! 自惚れてもいた」
オレとリョーコの言葉にコクアは「なに……!?」と見開く。
《恐るべき敵はナッセでも誰でもない……、真に恐るべきは弱い自分なのだ! 打ち克て! 我が誇れる息子コクアよ!》
総統ヤミザキの言葉を思い出し、全てが繋がった。
総統様の為にと言いながら、ただ激情任せで暴力のままに暴れていただけだ。
「ああ……あぁぁぁぁぁ…………!」
コクアは後悔し、顔面を手で覆って自己嫌悪に苛まされた。
「治療班、ただいま到着しました!!」
しばしして三人の治療班が走ってきて、手を振る。
すると「敵の施しは受けん……」と聞こえ、振り向く。なんと震えながらコクアは立ち上がって、こちらを睨みつけている。
「コクア! オレたちの奥義を喰らった以上、もう勝負はついている」
だが、それでもコクアはギッと睨みつけてくる。
「それでも! 総統ヤミザキ様と共に異世界へ攻め入って、ヒカリ様を奪い返さねばならん!」
「ヒカリ……?」
「そうだ! 総統様が胸を痛め、恋焦がれた人! それを取り返す為に、この戦争を起こしたのだッ!」
コクアから語られたヤミザキの目的────。
ドスッ!
そんなコクアの腹に槍が突き刺された。その衝撃的光景に絶句してしまう。
なんと治療班の防衛役のランサーの男が槍でコクアを突き刺したのだ。
「な……!?」
呆然するコクアはゴフッと赤い血を吐く。
「なにをッ!?」
気付けば、ランサーは怒りに表情を歪めながら歯軋りしていた。
「そんな……、そんな下らない目的の為にッ、多くの命を奪ってきたのかあッ!?」
「そうよ! この戦争で兄は命を落とした! もう許せないッ!」
「あんたらの身勝手な目的のせいだよッ! 恥を知って恥を!」
「く……下らないだと!? 貴様らなぞ……」
ランサーは怒り任せに肩から腰まで斜めにズバッと斬り下ろした。血飛沫が四散し、コクアは「ぐああッ」と仰向けに倒れる。
憎々しく「死ね!!」とトドメを刺そうとする槍を、アクトはガッと握って止めた。
「何をする!? こいつは敵だぞッ!?」
「もう勝負はついたァ! これ以上は止めろォ!!」
「試合じゃないんですよ!? それにこいつは日本でも人殺してんですよ?」
「ヒカリが何!? 兄はもう戻らないからッ!」
コクアはそんな怒りと憎しみに囚われた治療班の様子に畏怖すら抱いた。
なぜなら自分が怒りのままに吐いていた言葉と変わらなかったからだ……。
恨まれても仕方がない事を、怒りによって忘れられ凶刃を振おうとした結末がそれ。自分がしてきた事をやり返される。
「それが……僕の…………」
ショックを受け、罪悪に苛まされるコクアを前に、それでも治療班は怒り狂ってアクトにも暴言を吐いていた。
そして突然、空間に円を描く線が穴を開け、幼いヨルが飛び出してコクアに泣きつく。
「コクアにいちゃ~~ん!!」
「な、なんだ!? このガキ!!」
ヨルはキッと涙目で睨みあげ「ゆるさない!!」と声を荒らげた。
しかし「殺人鬼の家族か!!」「コイツも殺せ!!」と悍ましい殺意の言葉が返ってくる。ヨルは怯え、震えながら涙をこぼし始める。
それでも治療班はドス黒い激情をあらわにした罵声の嵐を吐き続ける。
「夕夏家はみんなァ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せェェェェェッ!!」
目の前で憎しみの連鎖が繋がっていくのを、オレは血の気を引いていく。
それを繰り返させまいと、感情が爆発した────────!
「ダメだァ────ッ!!」
感情のままに叫び、足元に淡く灯る花畑を広げ、伸びたロングの髪が風に流れ、背中から花弁のような羽を二つ広げた。
花吹雪舞う神々しい光が溢れ出し、誰もがナッセへと振り向く。
アクトもコクアもヨルもリョーコも、そしてモニター越しでヤミザキもヘインもジェネラルアメリカも驚きに満ちていく。
無我夢中で手を天に向かってかざし、花吹雪が収束していって鈴を創造していく。
スイカの大きさほどの純白に燦々輝く鈴────!
「トゥインクルサニ──ッ! 快晴の鈴ッッ!!」
その鈴を手に、オレは一周するように振り回す。すると優しい音色を鳴り響かせ、暖かい光の波紋が広げていった。
キラキラ光飛礫を撒き散らし、純白の蝶々の群れがブワッと舞い、たちまち明るい世界に満ちた。
この場にいた人間は呆気に取られる。
治療班とコクア、ヨルの背後から黒い血のようなものがドバッと吹き出て霧散……。
「もう憎しみ合う必要なんて、ないから! な!」
みんなを元気づけるよう、首を振って笑んでみせる。
そんな天使のような彼に宥められ、熱い感動に満ちて泣き崩れる治療班。ヨルも嗚咽して泣き崩れる。その上空に明るく澄み切った青空が広がっていた。
コクアは無様に敗れ、治療班に恨まれ、何もかも打ちのめされたが、ナッセの響かせた暖かい音色によって心に安らぎが訪れた。
もはや感激しかない。とめどもなく涙が流れ続ける。
そして口元に柔らかい笑みが走る。
「総統様すみません……。僕、ナッセ様にまいりました…………」
────第一王子コクア、戦意喪失にて陥落。
「……ついにナッセもその片鱗を見せ始めたね」
ウニャンは感慨深くウンウン頷いた。
あとがき雑談w
モブである治療班の三人。
ベンカリー「俺はベンカリー。防衛役でランサーをやっている」
ミヤコ「恥を知って恥を! 戦争じゃないんですよって言ってた大人な女性ですよw」
ミネリア「兄を殺された、いたいけな金髪少女です。」
アレンシア「はーい! 殺された兄でーす! 刻印獣にやられましたー」
ミネリア「ひょっこり現れてる~~~~!!?」
グレン「大地を操って、地下壕作って緊急避難させてただけだからな?」
次話『ヤマミにも目覚めた力が? そしてエレナが二人に??』