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175話「悪のケン治、大空に命の輝きを!」

 ライクを光の矢で縫いとめたケン治の体そのものが輝き始め、周囲に激しく稲光が荒れ狂う。

 凄まじい力場が充填されていくに従って、大地が震え始めていく。

 徐々にケン治の体は眩いほどに輝度を増していく。


「くっ! させるかァ────ッ!!」


 焦ったカゲロは闇のエーテルを纏って超高速で突っ込み、巨竜の手でちっぽけなケン治を引き剥がそうと掴みかかるが、バチッと稲光が爆ぜて弾かれた。

 闇のエーテルで包む拳で必死に乱打するが、取り巻く膨大なエネルギー奔流に阻まれて届かない。


「カゲロォー! 早く何とかしてくれぇ!! お、オレは死にたくねぇ!!」

「待ってろ!! 大技を出す! 多少の痛みは覚悟しろッ!!」

「ああ! 分かった!! やってくれぇ!」


 切羽詰まったカゲロは腰を屈め「はあっ!」と噴き上げた闇のエーテルで全身を包む。


「闇竜王の漆黒崩壊閃(ダークレイ・コラプス)────ッ!!!」


 彗星のように尾を引きながら、闇のエーテルを纏っての超高速体当たりが炸裂。

 その甚大な衝撃で大地を砕き、黒い光球を核に爆発球が膨れ上がった。


 ズドォォオオオッ!!!


 その爆風で旋風が吹き荒れ、遠くにまで広がってゆく。煙幕が螺旋を描いてしばし立ち込めた。


 しかし何事もなかったかのようにケン治とライクに変化はなかった。

 カゲロは絶句して見開き、ヨロヨロと後しざりする。


「バッ、バカな……!? 今のオレは闇竜王で四首領(ヨンドン)級だぞ!? その全力でさえ……!」


「な、なんでオレだよ!! たかがガキをいたぶったぐらいで酷くねーかッ!! 恨みを買う道理はねぇぞーッ!」


 涙目でライクは体を動かして振り解こうと試みるが、震えたまま微動だにできない。

 ケン治は「いえいえ、恨まれる動機としては充分ですよ」と、ほくそ笑む。


「頼む! ライクは見逃してくれ!! ガキも見逃す! もういいだろ!」


 取り乱したカゲロは地面に両手をつき懇願するが、ケン治は首を振る。


「ほっほっほ。その言葉信じられませんね。どうせ素直に解除したら、私はおろか竜のガキも一緒に殺すんでしょう?

 ですから解除するつもりは毛頭ありません!」

「な……なっ!?」

「て、てめぇッ!! ハナっからガキをかばうために自爆をッ!」

「そんな単純なものではありませんよ」


 何もできず「くそ!」と悔しがるカゲロ。恐怖に竦んでいるライク。そして悪辣と笑むケン治。

 ナガレはそんな様子に呆然と突っ立っている。


「ケン治さん! 私のために……?」

「私はれきっとした悪……。これまで数多くの命を奪ってきた。あなたなんて眼中ありませんよ」

「で……でもなぜ自爆を……? ほ、本当は……」


 戸惑うナガレにケン治は呆れたようにため息をつく。


「おっと! 勘違いしないでください。私は極悪非道な人造人間ケン治。たまたま、悪党同士で潰しあってくれてラッキーと思いなさい」




 ────数日遡る。この戦争の休憩中での事だった。


 ナガレが「一緒に頑張ろうね」と缶ジュースを持ってきても、ケン治はパシンと跳ね除けた。


「この戦争が終わりさえすれば貴様らは敵です。馴れ馴れしくしないでください」

「ケン治さん……」

「フン! マイシと違って甘いですねぇ。そういうのが嫌いなんですよ」


 不機嫌そうに顔を歪ませた。



 だが、おかげでこの時のために突っぱね続けてよかった。こんな小悪党の為に悲しんでもらっては困るからだ。

 ケン治自身も、そういう相手への気遣いに戸惑いつつも受け入れていた。

 これまでと違ってケン治は悪人ではなくなっていた。


 そう、クラッシュオーガの一部としてナッセの奥義を食らった時点で既に悪意は失せていたからだ。


 あの戦いの後、残った破片から時間をかけて元通りに再生したケン治は、ナッセたちに対して解放された感謝しかなかった。

 なぜならヘドロのような黒く濁った悪意からの解放感は、なにものにも代え難い清涼感だったからだ。

 同時に、自分が犯してきた大罪に胸を痛めた。

 それ故に、自らの命を償って恩を返そうと機を窺っていたのだ。


 そして、ついにその時がやってきた……。


 これでナッセたちが明るい未来へ歩めるよう、奉仕ができる。

 かつて欲と快楽のために悪事を働いていた頃とはまるで違って、心が洗われたように清々(すがすが)しい気分だ。


 今まで闇の底で過ごしてきたケン治にとっては信じられない行為。

 誰かを想って行動する。それがこれほどにも爽やかで気持ちの良いものだと初めて知った。


 そして生きてて良かったとさえ思えたのも、生涯初めてだった。



「姉さんとこれから仲良くやっていきなさい! ナガレちゃん」


 この時だけ、ケン治はニコッと優しく微笑んだ。

 それはナガレにとって眩しく見えた。そして涙腺が緩んで視界が滲んでいく。


 ケン治はそんな感傷的なナガレに感慨深く心に染みる。


 願わくばナッセたちのように、共に仲間と歩める人間へと生まれ変わりたい。

 心を許せる友と喜び、怒り、哀れみ、そして楽しむ。


 そんな真っ当な人間へッ…………!



 意を決したケン治は天へ向かって高らかに叫ぶ。


昇天魔法(ラストヘヴン)────ッ!!!』


 周囲から放射状に集まってきた光の筋がケン治とライクの元へと収束され、糸玉(いとだま)のように包み込んでいく。

「ひッ、や……止めろォ────────────ッ!!!!」

 恐怖で青ざめたライクは涙目で、絶叫する。


 巨大な光の糸玉(いとだま)は両端から天使のような二つの翼を広げた。バサッとそれは羽ばたき、天高く舞い上がっていく。そして遥か空から命の輝きがパッと弾けた。


 まるで超新星爆発のような眩い輝きが大空を覆い尽くした。


 ドオオオオオオオオオオオオン!!!



 ポロポロ涙をこぼし。ナガレは「ケン治さん……」と見上げていた。


 戦場にいる誰もがその輝きに目を奪われていた。

 そして巨大浮遊艦にいるヤミザキの目にも届いていた。モニター越しで見える凄まじいまでの命の輝き。


 まさか悪党である人造人間ケン治がそれを使ってくるとは思わなかった。

 なぜなら『昇天魔法(ラストヘヴン)』は誰にでも使えるものではない。身を(てい)して誰かを救いたいと想う強い気持ちをもってでしか、これは発動し得ない。

 だからこそ慈しむ心を抱く『僧侶(プリースト)』に取得者が多かったのだ。


「……ナッセが私に仕掛け、モリッカが入れ替わった、あの時と同じだな」


 その命を賭した自爆によって、ヤミザキは致命傷近い大ダメージを食らってしまった。そして逆に大切な仲間を失い、激昂したナッセは驚くべき覚醒を果たした。



「オレがあんたを倒してやるッ!! そしてヤマミに会うんだッ!!」


 悲しみと怒りを秘め、涙目のナッセは表情を引き締めて全身に力を集めていく。

 足元から光の花畑がポコポコと咲き乱れて広がっていく。ナッセの双眸の虹彩に星のマークが浮かび、後ろ髪が長く伸びていく。背中から花が咲き、その花弁が六つ離れ、その花弁が拡大化して羽のように背中で滞空する。

 荒ぶるように花吹雪がナッセの周囲を吹き荒れ、溢れる第三次オーラであるフォースは光柱となって猛々しく天を衝いていく。


 ゴゴゴゴゴゴゴ…………ッ!!


 大地を揺るがし、神々しい輝きをナッセが放っていた。

 ヤミザキは「なに! まさかこれほどの力をッ!?」と驚愕に顔を歪ませる。


「おおおおおおおおおッ!!!」


 昂ぶるナッセは吠え、大地を爆発させてヤミザキへと超高速で突っかかってきた。




 その回想を終え、ヤミザキは操縦席で背もたれに身を預ける。


「そして妖精王ナッセか……」


 これまでナッセは妖精王化できる素振りは見せていない。ヤツの奥義を破った時も変身を隠していた様子はなかった。

 だから今回のナッセは全く別モノと思っていた。

 しかし、ヤミザキは王子たちが伝えてきたダクライの忠告を思い出す。


《総統様は未熟者と評しておられましたが、儂には違った印象でした。

 表面上の性格に合わず、地獄を乗り越えてきた歴戦の威圧が奥底に窺えました。もし相対するならば聞いた通りとは別人だと思ってくださいませ。かなりの強敵ですぞ》


 ダクライは非常に見る目が良い。故に確信するに足る言葉だ。


 恐らく、どのタイミングか(あずか)()れないが何らかの外的要素が加わって、ナッセは中身だけ生まれ変わったのだろう。

 そしてもちろん今や妖精王化も可能なはず!


「フッ! 今回は同じようにはいかんぞ……!!」


 戦意を漲らせて不敵に笑んだ。




《総統様!! こちらも戦闘終了致しました!!》


 なんと第六子ウユニーギら夕夏(ユウカ)家五戦隊が誇る『偶像化(アイドラ)合体ロボ』グレードロイヤルエースが、重々しくズゥンと巨躯で(そび)え、その足元に煙幕が漂いクスモさん、コマエモン、ミコトが血塗れで横たわっていた。

 惨憺(さんたん)たる敗北。そう思わせられるほど無情な様相だった。



 第一子コクアの一撃でナッセ、アクト、リョーコ撃沈。


 第二子ブラクロの爆殺でヤマミ、エレナ、スミレ消し飛ぶ。


 第三子ダグナの雷の一撃でフクダリウス、オカマサ、ドラゴリラ一蹴。


 第四子ライク、第五子カゲロの竜王化を前にマイシ、ナガレは敗れ、ケン治は王子一人を道連れ自爆。


 歴戦の黒執事ダクライにコハク、シナリ、モリッカは歯が立たず撃沈。


 第六子ウユニーギ、第七子ホエイ、第九子カンラク、第十子ギュラー、第十一子ムイリら夕夏(ユウカ)家五戦隊にクスモさん、ミコト、コマエモン敗れる。


 ほぼ夕夏(ユウカ)家側の圧倒的勝利で終わっていた。それにも関わらずヤミザキは決して気を緩まず、戦意を漲らせたままだった。

 その剣幕に、王子たちは怪訝に眉を潜めた。


《……総統様?》

《ナッセ含め、跡形もなく消すつもりでトドメを刺してみろッ!!》


 容赦のない命令を聞いて、王子たちに衝撃が走った。

あとがき雑談w


ケン治「本当は自分の体を分割して、王子たち全員に『昇天魔法(ラストヘヴン)』を仕掛ける予定だったんですよ」

作者「さすがに無理があると思って、普通にしましたー!」

ケン治「おかげでネタにならずに済みましたよ」


自爆岩「『昇天魔法(ラストヘヴン)』に余計な制約が付いたせいで使えなくなった」(´・ω・`)

作者「でも、別に『自爆魔法(ジバクラッシュ)』として設定されてますー!」


自爆岩「ありがとう。それではお礼に『自爆魔法(ジバクラッシュ)』!」(^ω^)


 ちゅどーん!!!


作者「ぎゃ~~~~ッ!!」【HP 0】



自爆魔法(ジバクラッシュ)

 自らを犠牲に周囲を巻き込んで大爆発する。『昇天魔法(ラストヘヴン)』と違って、単なる凄い爆発なので敵への即死率は高くない。



 次話『反撃開始!? ナッセたちの秘策とは?』

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