174話「姉マイシ墜つ……! 妹ナガレの決死!」
ノーヴェンは「ぐ……ぐっ!」と苦しそうに胸に手を当てて、ガクッと膝をつく。
と言うのも無理もない、モニター越しとは言えヤマミたちが消し飛んだのだ。
「……おいおい大丈夫かの?」
当惑しているヘイン。アメリカジェネラルは「無理もない」と首を振る。
なぜなら、消し飛んだヤマミはニセモノでもなければ、分身でもない。はたまた幻術でもない。そして瞬時に時空間で回避できた訳でもない。
本当に血肉が焼き尽くされ骨の髄まで塵となったのだ。
「ノーヴェン」
気付けばウニャンがちょこんと目の前にいる。
ノーヴェンは目を丸くする。聞いた話だとナッセとヤマミに師事していた魔女様。弟子が消し飛んだというのに平然としている。
正気を疑いたかったが、次の言葉で察した。
「仲間なら信じなきゃね。せっかく彼らのために策を講じたんだ」
ニッコリとウニャンは微笑んだ。
それだけで充分だった。彼女は血も涙もない畜生ではない。なにか根拠があるからこそ、平然としているのだ。
師匠ほど弟子の力量を推し量れる人は他にいない。
だからこそウニャンことクッキーは信じきれているのだ。それを察した。
「サンキューデス! 心配をかけましター」
ノーヴェンは立ち上がってメガネをクイッと押し上げる。
ヒュウウ……、地面を這う煙幕が風に流れる。
細切れになった破片がびっしりと地表を転がっていた。アゲハ蝶を模すように光の刃を連ねた両翼を背に大柄で若々しいダクライが浮いていた。
「フム! ひとまず休憩かの?」
ボロボロで血塗れで転がるモリッカ、シナリ、コハク。ピクリともしない。
見渡せば、遥か向こうの山脈も完全になくなっていて真っ平らになっている事に気付く。
「ん、ちとやり過ぎたかの。まぁ、戦闘空間だからこそか。
しかし……アナザーとは言え、ヤマミ様は殺されましたかな。せめて少々話をしたかったものよ。ほっほ」
名残惜しそうに笑い、しみじみと黙祷に耽っていく。
小さい頃からヤマミを見てきた。
戦略、戦術を叩き込んできた事もしんみり思い出せる。伸び悩みはあれど、育ててきた感慨はあった。
しかし彼女が我々夕夏家へ反旗を翻してから才能が伸び始めたのは些か驚かされた。
それなのに、父であるヤミザキの手によって殺されたのは惜しい。
そしてヤマミアナザーの存在。
あれこそダクライが描く彼女の理想像そのもの。
冷徹に無情に敵を始末していく。敵にベラベラ余計な事を喋らず、常に自分の有利な土俵に引きずり込んで、最善の手を打ちながら追い詰めていく。
初見から見極めて敵わないと見たら即撤退する。時空間移動ができるのも素晴らしい。
それに『血脈の覚醒者』の能力は大変応用が利く。特に死角に潜り込ませて敵を討つのにこれほど最適な能力は他にない。
「せめて会話を! 欲を言えば一戦を! ……されど叶わぬか!」
ダクライは憮然と物足りない様子。
「かあああああああッ!!」
血塗れで満身創痍。ボロボロのマイシは荒ぶる火竜のエーテルを纏い、巨大な白竜に飛びかかる。逆に白竜ことライクは「へっ!」と鼻で笑う。
マイシの炸裂剣と白竜の爪が交差し爆裂が巻き起こる。その余波で地盤を木っ端微塵にして衝撃波に流されていく。
ズガガガッガッガガガガッガッガッガッガ!!
必死に剣戟を見舞うマイシを、余裕と捌いていくライク。
そして「おらあッ!」と竜の膝蹴りがマイシを突き飛ばす。しかしぶっ飛んでいる途中で体勢を整え、跳ね返るように舞い戻って再び乱打を繰り出す。
なおも地鳴りは絶えず、煙幕が放射状に吹き荒れる。
マイシは死に物狂いで猛攻を続けるが、少しずつライクの攻撃を受けて傷を増やしていく。
吹き荒れる烈風に耐えながらナガレは心配そうに行方を見守る。ケン治は両腕こそぶら下げたままだが、隙を窺うように前屈みに構えていた。
マイシは「くそったれー!」と剣を振り下ろす。すると巨躯ながらもカゲロが割り込んで、片手でバキンとその剣を握り砕く。
そのままカゲロは黒いエーテルで包んだ拳でマイシを殴り飛ばす。
「がっ!」
ライクは「あ! 横取りすんなよぉ!」と苛立って声を荒げる。
しかしカゲロは半顔でキッと睨む。
「遊んでいる場合じゃないぞ! ライク!」
「いいだろ! カゲロ! もう少し遊ばせてくれよぉ!」
「早く終わらせろと、総統様もおっしゃっていただろうが!」「ちぃ!」
苦悶しながら吹っ飛ぶマイシへ、二頭の巨竜はそれぞれ口を開け、共に白と黒の光子を収束。
「光闇・双竜王のッ! 超弩級・爆裂波動砲ッ!!」
闇の旋風を纏う光の扇状の奔流が広々と放射された。
マイシは「あぁああああぁぁぁぁぁ……!!」と光の彼方へ飲み込まれ、大地を深く穿つ爆発球が輪を伴って膨れ上がっていく。その中心部に闇の光球が滞る。
ドゥオオオオオオオン!!
全てを吹き飛ばさんばかりの烈風と衝撃波の津波が周囲を吹き荒れ、残るは立ち込める煙幕。そして広く穿った深き大穴。底が窺えないほど黒い影に覆われている。
ヨロヨロとナガレは穴を覗く。姉であるマイシが死んだとワナワナ震えていく。
「これでオシマイかぁ! 弱っちい先輩さんよぉ!」
「言うな。ヤツが竜王化できない時点で勝敗は決まっていた」
言いたい放題のライクとカゲロに、ナガレは怒りに震えていく。
「姉さんは弱くない!! 弱くないんだっ!!」
ナガレの叫びに気付いたライクとカゲロは振り向く。
ライクはおちょくるように「弱いから死んだー。先輩なっさけなー」とハハハ笑う。
「弱い言うな────ッ!!」
水竜のエーテルを纏ってナガレは怒り任せに剣を振り上げながら、超高速で飛びかかる。
そのままライクの顔に斬りつけて、バガゴッと弾いて体勢を崩す。
更にナガレはライクの胴体に剣の乱打を見舞う。
「は? 虫かよ? 痛かねぇな!」
ライクの高速フックがナガレを殴り飛ばす。すっ飛ぶナガレは途中で宙返りして、地面を滑りながら着地。
苦しそうにはぁはぁ息を切らしながら、鼻血を手で拭う。
ライクは「へっへっへ」と、ズンズンと踏み鳴らしながら拳をボキボキ鳴らす。
「おい! ライク!」
「心配すんな。こんなガキに何ができるよ?」
「だから遊ぶなって言っただろう。戦争をさっさと終わらすのが目的だ。見失うな」
「うわあああああ~!!!」
仇を討たんと飛びかかるナガレとライクの激しい格闘。大気を震わせ、大地を揺るがす。
必死なナガレを嘲笑うように、ライクは鼻歌交じりに剣戟を捌いていく。
ドガガガガガガガガガッ!!
「おい! ライク、勝手が過ぎるぞ」
「他が終わってないじゃん? ちったぁ遊んだっていいだろがー」
ライクは巨竜の回し蹴りでナガレをバキッと蹴り飛ばす。そして引いた両手を突き出し「光竜の連刃弾!!」と光弾を乱射する。
「おらおらおらおらおらぁー!!」
無数の光弾による無差別の爆撃が地上を蹂躙していく。
必死にナガレは飛び回りながらかわしていく。しかし絶え間ない光弾の嵐を前に、反撃の暇もない。
「たかがガキに無駄な力を……」
カゲロはため息をついて呆れる。
被弾し、爆発で吹っ飛ぶナガレをライクは上から叩き落す。地上に叩きつけられ土砂を噴き上げる。
「いいんだよ! 夢見がちなガキをボコるのが趣味さぁ~」
ライクはニカッと巨竜のツラで笑む。
なんとか必死に立ち上がろうとするナガレ。ボロボロで血塗れ。ひっくひっく嗚咽しながらも、ライクを睨む。
「こちとら戦争やってんだ。ガキだろうがなんだろうが戦場じゃあ関係ねーよ!
弱ぇえヤツぁ、好き勝手やられるのが相場なんだよぉー!!」
俊敏に間合いを縮め、大きな巨竜の腕でナガレを殴る。そして右往左往に殴って殴る殴る。いたぶるように殴りまくる。最後に蹴り飛ばす。
ナガレは受身が取れず、ズザザザザと地面を滑って横たわる。折れた剣の刃先が地面に突き刺さった。
それでも力を振り絞って立ち上がろうとする。
「無敵の……姉さんは……負け……ないッ! 負けない………もんッ!!」
震える足でゆっくり前進しながら、ナガレは折れた剣を手にライクへ向かっていく。
「ひゃっはっはっは──ッ!! 無様なガキだぜぇ!!
てめぇの仲間が引くぐらい、グシャグシャひき肉にしてやるよぉー!!」
大地を揺るがし、巨竜から凄まじい聖なるエーテルを噴き上げてライクは歓喜。
飛沫を上げながら疾走し、ナガレへ容赦なく巨竜の拳を振るう。カゲロは「やっとか。やれやれだ」と背を向ける。
ドグシャア!!
ナガレは目をつむっていたが、何も起きない事に恐る恐る目を開ける。そして目の辺りにした光景に驚いていく。
周囲から飛んできた無数の光の矢が、ライクの首を後ろから羽交い締めするケン治ごと射抜いて縫い止めた。次第にバチバチッと稲光が迸り始めていく。
カゲロは「なっ!?」と驚愕し、ゾッと背筋を寒気が走った。
「こっ……この魔法はッッ!!」
動けぬライクも状況を把握し、恐怖を帯びて見開いていく。
あとがき雑談w
カゲロ「……ライク。光竜王のクセして、ゲスいな」
ライク「はぁ? オレは綺麗な心で正直になってるだけだぜぇ?」
カゲロ「だから小学生の頃から乱暴者で、よく総統様に折檻されてたな」
ライク「言うなよぉ! 思い出したくねぇ!!」
カゲロ「オレは何度も止めた。聞かないのが悪い」
ライク「くっ! 闘争本能あってこそ強くなれるモンだろーが!」
ダクライ「ほっほ。それは一理ある。では儂とお手合せ願おうかの? ライク様」
ライク「げっ! き、今日は腹が……」
カゲロ「ささどうぞ、煮るなり焼くなり! ちなみにバッチ健康です」
ライク「て、てめぇ!!」
ぎゃあああああああああああ!!!!!
次話『人造人間ケン治の密かな想い……!』