表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/201

173話「ブラクロのヤバすぎる怨嗟の情!」

 肌黒く染め、赤い紋様が走り、筋肉隆々の大男へと変貌したブラクロ。

 怨嗟(えんさ)こもるかのような白目を輝かせ、不敵に笑む。そして放射状気味に舞い上がる灰色の長髪が揺らめく。


「……ヤマミアナザーちゃん。こっちの世界のヤマミちゃんは裏切り者として始末された。だからあなたが代わりにこの想いを受け取ってもらえるかしら?」


 踊るような感じで両手が絶えず揺らめき、その間で輝く水晶玉が浮く。


「嫌よ」

「まぁ、そういう無愛想なとこ再現度高くて憎らしい!」


 ヤマミの淡白な答えに、不機嫌な顔を見せるブラクロ。

 その激情に反映するように大地は唸りを上げながら蠢く。破片が徐々に浮く。旋風が赤い稲光と共に吹き荒れ続ける。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 エレナとスミレは戦々恐々と強張っているが、ヤマミは表情を変えず鋭い眼光を見せるばかり。


「貴方を狂おしいほど嫉妬していたわ……。

 生まれたばかりのヤマミちゃんには相当な潜在力が秘められてると、ヤミザキちゃん様は喜んでおられた。

 英才教育で徹底的に鍛え上げたが、思ったより伸びず失望されたけどね。

 その妹が生まれ、そっちの方が優秀でヤミザキちゃん様も関心がそっちに向いた時は心底嬉しかったわ」


 見下すような笑み。ヤマミはピクリと眉をはねた。


「もしかしたら、高い潜在力を開花したバージョンが今の貴方なのかもね」

「なぜ、そうまで私に嫉妬してたの?」

「うふ、うふふふ! ねぇ、私って醜いでしょう? 心は女なのに体は男……。

 鏡を見るたびに自己矛盾に悩み苦しんだものよ。そんな事貴方は知らないでしょうけどね」

「性同一性障害……」


 ヤマミは目を細めて呟く。


「そして貴方のその美しい女体が、私にとって理想の体。

 輝くような黒髪に、慎ましいスレンダーなライン、そして凛とした上品な顔。

 死ぬほど欲しかった肉体を、下らない貴方が持ってるんだものォ……!」


 憎々しいと表情を歪めるブラクロに、ヤマミは「気持ち悪い」と一蹴。

 エレナも「うんうんキモい」と頷いて同意してしまう。


 ブラクロはギシリと歯軋り、表情に怒りのシワを刻み、白目で睨みつける。

 バッと万歳するように両手を掲げた。すると水晶玉から大量のカードが滝のようにドバーッと溢れ出して、ヤマミたちを周回していって囲んでいく。


 ズオオオォォォォン!


 なんと、広範囲に渡って大量のカードが重々しい威圧を放ちながら周囲を席巻した。

 遠くから見れば、まるでバームクーヘンかと思うほど囲む大量のカードを並べた壁は分厚いものだった。数百数千では片付けられないほど尋常じゃない量だ。


「二〇(がい)四五〇〇(けい)枚! ……これがこの呪符の数よ!」


「な! なに……これ……!?」

「ウソ~? そんな多いの~~??」


 そしてその全ての呪符には『怨殺』と殴り書きされたような憎々しげな書体で記されていた。そんな(おぞ)ましい雰囲気にエレナは青ざめる。


「これは貴方を想って私用の時間全てをこの創作につぎ込んだわ。もしかしたら使う機会はなかったかもしれない。けど、この煮え滾る怨恨は抑えられなかったわ」

「だからこれほどの呪符を……」

「そう。けれど良かったわ。無駄にならず……、貴方にこの二〇(がい)四五〇〇(けい)枚の呪符を届けれるのだから!」


 にたーり、と不気味な笑みを見せブラクロは瞳を歪ませて嘲る。


「ち、ちょっと待ってよ!! あたし関係ないじゃないッ!!」

「ガキは黙らっしゃい!」

「なっ!」


 抗議したエレナを一瞥し、そして再びヤマミへ怨恨の瞳を戻す。

 ヤマミも負けじと鋭く見据え返す。


「……貴方の想いは決して私に届かない! 届くは愛しい男からの想いのみ!」


 愛しいナッセの笑顔を思い浮かべながら、毅然(きぜん)と恐怖に立ち向かい胸を張る。それがブラクロにとって面白くなく、あからさまに表情を醜く歪ませる。


「…………時空間魔法使えてたわよね? 発動するまでの(わず)かな時間では、この呪符の起爆から逃れられないわ」

「それで?」


 あくまで平然とするヤマミに、ブラクロは苛立って歯軋り。


「ち、ちょっと~ノーヴェンさんが言ってたじゃない~?」

「ごめん。コイツを前にそういう事できない。善処はするけど……」


 慌てるスミレに、ヤマミは半顔で一瞥し首を振る。



「私も……私だって女性として、恋焦がれる男を愛したかった! 愛したかったのよッ!!」


 かつて初々しい恋心を抱き、無残に破れた悲しき想い。自分の届かぬ願い。

 呪うは(おのれ)の男としての体。そして自分の理想とした肉体を持つヤマミ。更に自分が恋心を抱いた愛しい男を無遠慮に蹴ったヤマミ。

 年々募っていく想いはやがて途方もない絶望の闇で染め、次第に怨恨のそれに変貌した。


「私の想い人、ノーヴェン! それを踏みにじった貴様を許さないッ!!」

「知らないわ。そんなもの」


 ヤマミはサラッと長い髪の毛を払う。


 ブチン、頭の中で何かがキレた。積年の恨みを爆発させるようにブラクロは激昂。荒ぶるように全身を奮わせて一言咆哮。


「二〇(がい)四五〇〇(けい)呪符! 爆・殺ッッ!!!!」


 全てのカードが眩く輝きを放ち始め、ヤマミたちは見開いたまま、真っ白の光に飲まれていく。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………ッッ!!


 大地を揺るがしながら、大瀑布のように天高く爆煙を噴き上げ続けていった。

 なおも数分は続き、爆煙は暗雲を貫いて宇宙へ届かんと猛威を振るいながら上昇を続けていった。

 その余波が絶えず戦場へ吹き荒れて岩飛礫が流されていく。


 まさに滅亡兵器に等しいほどの大破壊と、一万度を超える超高熱が爆心地で獰猛に荒れ狂っていった。




 遠くで待機している巨大浮遊艦にも振動が届き、ビリビリと操縦室にいるヤミザキにも伝わってきた。

 何を想うか哀を秘める瞳で「ブラクロ……」と呟いた。


 とっくの昔に、我が子のそんな想いなどヤミザキはお見通しだった。


 人間は喜怒哀楽(きどあいらく)の感情を持つ生き物。時として抑えきれないほど暴走して、自滅しかねない危険性を孕む事がある。

 幼い頃より、ブラクロがヤマミを見る目が思わしくないのは知っていた。本題に触れぬ程度で「我々は家族なのだから大切にしよう」と何度も王子たちに言い聞かせていた。

 それでもブラクロは恨みづらみと、ヤマミへ向ける矛先を収めなかった。


 だからこそヤマミを尖兵として、遠くの地域に追いやったのだ。

 才能開花が(かんば)しくないのも幸いしてか、それを理由として二人を引き離せた。更に冷たく見捨てるような態度を取ったりもした。

 それでブラクロに滞る怨嗟(えんさ)は和らぐ事ができた。


 だがヤマミは愛する人を見つけ、我々に反旗を翻した。

 悲しきかな、反旗を翻すと同時に才能がみるみる開花していくヤマミを見届けてしまった。好きな人がいるとこうも違ってくるものかと思い知らされもした。

 内心嬉しくは思ったが、いつか牙を向くであろう危険因子は野放しにできなかった。


 そしてやがてはヤマミとブラクロによる骨肉の争いが夕夏(ユウカ)家を壊滅させかねんと恐れた。


 これ幸いと裏切り者として彼女(ヤマミ)の命を奪った。犠牲はやむを得なかったが、これで恐るべき事態は避けられたと安堵した。

 なのに運命はそれを裏切るようにヤマミアナザーを呼び寄せた。



「思ったようにはいかぬものだな……」


 もはや自分では止められなかった。

 願わくば、ヤマミアナザーを殺した時点で暴走が収まらん事を……。




「アヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 轟々と燃え盛る凶悪な灼熱地獄の最中、ブラクロだけが狂ったように哄笑を上げ続けていた。

 そして彼を包む巨大な像はピンクに染まる女性と青く染まる男性の半身を左右対称と備えた明王のような形状だった。

 これがブラクロの欲と想いを顕現化させた『偶像化(アイドラ)』だった。


 ブラクロは確かに見た!


 自分が込めた怨念の爆殺によって、巻き起こった超高熱の激流でヤマミたちは一瞬にして血肉を焼かれ骨までもが消失していった。

 これほどまでに憎しんだ女が消し飛んだ爽快感に、煮え滾っていた黒い激情は快楽に酔いしれた。


「ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 まだだ! まだ! もっと!!

 同じような破壊の快楽を!! もっと憎らしいモノを破壊し尽くしたい!


 その止めどもない激情と欲望の暴走が『偶像化(アイドラ)』をより深淵の闇に染めていく。


 ズズズズズズズズズズズ……!!


 なんとそれは般若を模した禍々しい形相、女体の上半身にカマキリのような四本足を伴う下半身、四本に生えた男の太い腕に、と姿を変えていった。

 その像からドス黒いエーテルが膨大に溢れ出していく。

 より巨大化し、より禍々しく、より暴走をあらわに!


 像に取り込まれるかのようにブラクロはグッタリと正気を失い、口からゴポゴポと気泡を漏らしていく。




 刻印魔人(エンチャントデビル)状態のダグナは憤怒の表情で、聖剣である『轟雷斧』を振り下ろす。


 ゴロゴロビッシャアアアアン!!


 天空の暗雲から極太の雷が落ち、四方八方と放射状に稲光が地表に荒れ狂った。

 それは大地を揺るがし、烈風を巻き起こして石飛礫を飛ばし、軌道上の障害物を崩していく。凄まじい大音響とソニックブームが広範囲に広がって戦場を駆け抜けていった。


 ズズズズズ……!


 立ち込める煙幕が風に流れ、ダグナがただ一人立つ。


「済まんな。これ以上戦争を長引かせる訳にはいかんゆえ」


 あちこち横たわるオカマサとドラゴリラ。そして遺跡の壁に背を打ち付けて頭を垂れているフクダリウス。

 痛々しく焼き焦げていて血塗れだ。死んでいるかのように微動だにしない。

 ダグナは「む……?」と、ブラクロのいるであろう戦場を見やると、底知れぬ黒い闇が立ち込めていた。


「コクア殿……ではないな。まさかブラクロ殿に限って!?」


 ダグナは一筋の汗を頬に垂らす。

あとがき雑談w


ナッセ「なんか、夕夏(ユウカ)家ってヤバい人多くない?」

ヤマミ「ええ。ヤミザキも含めて真っ当な人はいないわ」


ナッセ(もしヤマミと結婚したら、その夕夏(ユウカ)家と親戚になるんだよな?)


 ────想像してみた。


ヤミザキ「我が娘を幸せにな。さもなければ県ごと消し飛ばすぞ!」

コクア「僕がお義兄さんだ。ヤミザキ様に逆らったら斬るぞ」

ブラクロ「憎いヤマミちゃん繋がりで、貴方も憎いわ。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」

ダグナ「平民ごときが我々夕夏家と繋がるなど、由々しき事態!」

マミエ「……お義兄さん嫌い!」ギリッ!


ナッセ「ヒッ!」((((;゜Д゜))))



 次話『絶望が絶望を呼ぶ! 底知れぬ絶望!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ