171話「猛攻にもへっちゃらな王子たち!」
「王子様が出てきて、いよいよ佳境迎えたみてぇだぜ……。アリエルさんよぉ」
ヤミロは戦争を映し出す複数のモニターを眺めてせせら笑う。当のアリエルは大きなソファーでくつろいだまま「そうねぇ……」とパフェを召し上がっていた。挿しているストローで中のジュースをすする。
「で、どっちが勝つと思うよ?」
「断・然! 四首領ヤミザキ側っしょ!」
あっけらかんとアリエルは断言した。
ヤミロは少し驚いて見開く。
「お、おいおい? ここまで粘ってきたし、同じ四首領ヘインもそれに近いグレンも妖精王二人もヨネ校長もマイシもアクトもフクダリウスも健在だぜ??」
「お笑い種ねぇ……奴らは日本を征服してる分のエネルギーの半分はおろか十分の一すらも使ってないわぁ。ちょろっと供給したら確実にナッセちゃんたち全滅よぉ」
「……いいのか? ナッセたちが全滅したらこちらにとって都合が悪いぜ?」
その忠告にアリエルは目を細め、せせら笑う。
「ただし……! 勝利の女神はヤミザキちゃんには微笑んでないわぁ」
「勝利の女神だぁ?」
「うん! それどころか、激おこぷんぷん~!」
轟々とブラクロだった遺体を黒炎が貪っていた。
その呆気なさにエレナも怪訝な顔だ。スミレはポカンとしている。
……だが、ヤマミはあらぬ方向へ振り向いた。
「ここまで闇属性の特性である『汚染』を活かせれる才能があるとはね……」
エレナはハッと振り向くと、やや傾いている遺跡の支柱の上で平然とブラクロが立っていた。嘲笑うように見下ろしている。
「ええっ? じっ、じゃあアレは誰~??」
エレナは慌てて、黒炎の方を向く。
弱火に収縮していく黒炎。ブラクロだった何かはパラパラと消し炭に散った。
「火魔法を闇属性の『汚染』を混ぜて黒炎を創作、とは素晴らしいわね。あれなら普通ではまず消せないわ。ヤマミちゃん……。いえ、ヤマミアナザーちゃんかしら?」
「ヤマミアナザー……?」
ヤマミは訝しげに目を細める。再び地面を這って襲って来る黒筋が支柱を登ると、ブラクロはひょいと飛び退く。
執拗に幾重の黒筋が飛び交うも、ブラクロはダンスでもするように軽やかに身を踊らせてかわしていく。
「闇属性って、光属性の『浄化』には弱いから対策は簡単ね」
ブラクロは周囲を覆うように光の壁を地面から噴き上げて、周りから襲って来る黒筋を全て蒸発させてしまう。
しかしスミレが不意に間合いを詰め、輝く拳を脇腹に叩きつけ、更に片方の手でそれを押し込むと眩い閃光の束が放射状に広がった。
「うりゃ~~!! レゾナ~ンスびっぐば~んっ!!!」
ブラクロの体内に衝撃が叩き込まれ、五臓六腑に響き渡って周囲に光の波紋が振動と共に広がっていく。
「ブ……ブラバァッ!」
込み上げる激痛にブラクロは身を屈ませて盛大に血を吐いた。
そしてエレナのかかと落としが「うりゃー!」とブラクロの頭上に炸裂し、その勢いのままに地面に埋めた。地盤が広々とめくれ上がって衝撃波と共に破片が舞い上がる。
吹き荒れる煙幕が収まると、地面はでっかいクレーターに窪んでいた。
「あらまぁ、可愛い系のくせに暴力的で野蛮ね。いやだわー」
何故か、遺跡の大きな破片に座り込んで他人事を言うブラクロがいた。
エレナは「え、ええっ? なんで? なんでェ?」と慌てた。眉を潜めるスミレ。殺気立つヤマミ。
「ヤマミアナザーちゃん。どこの世界に存しているか分かりませんけども、ねぇ貴方のいた世界でも総統ちゃん様はいたのかしら?」
「……いない! 私には父などいない!!」
「あらまぁ、そんな殺気立たなくてもよろしくて? 貴方の世界の事を聞きたいのよ?」
ブラクロは困ったような態度で首を振っていたが、落ち着いてからスッと静かな目線を見せる。
「……あなた達が死ぬ前にね」
ゾクリ、と背筋に悪寒が走る。
オカマが気持ち悪いからではない。どこか底知れない深淵がベールを脱ごうとしているからだった。
あまりにも圧倒的な力の差を感じさせるほど、ダグナを取り巻くエーテルは稲光を伴って大地を揺るがしながら荒れ狂っていた。
近付こうもんなら怪我しかねないほどだ。
そんなダグナ一人を前に、オカマサとドラゴリラは不敵に笑む。
「要は『刻印』の力で膨大なエネルギーを纏える優位性があるだけ、だろ?」
「せやな。それぐらいどうという事あらへん!」
オカマサは見た事もない武装……つまり巨大な黒いペンチのような物を両腕につけている。そして「禁忌の連装爆弾!」と紐を通して黒い玉を連ねた変な武装を、自分のズボンを下ろし尻の穴にグイグイ詰めていく。
フクダリウスは不安になり「ちょっと待て……」と呼び止めるが、それも聞かずオカマサとドラゴリラは互いに手を叩き合い「行くぜ!」と駆け出した。
ちなみに下半身露出してるが、股間は黒く影で覆われてるから大丈夫だぜ!
「禁忌の挟撃具! ハイメガァァァ・ツインバァァァァニングッ!!」
下半身露出のオカマサは両手のペンチを開き、二つの極太熱線を撃つ。
そしてドラゴリラは身をゴリラ化して、それをウホウホ追従する。
突っ立ったままのダグナに熱線が直撃して大爆発。大気が爆ぜ岩礫を伴う烈風が広がった。
「スライスにしたるわ~!!」
煙幕の最中、突っ立っているダグナの顔面にゴリラクローで斬りつけ、更に交差するように反対側の爪で斬り裂く。
その凄まじい衝撃で大地に三連を交差させた六つの爪痕を刻んだ。ザン!
そしてオカマサが両腕のペンチでガンガンガン連射を続けながら突進し、ダグナの全身に爆発の連鎖を重ねていく。最後に尻に詰めた連ねた黒い玉を連続で爆発させる事で推進力を発生させて、加速、加速、加速だぁ────!
それによりオカマサは爆炎を纏う巨大な火の塊と化した!!
「ごおおおッ!! ビッグプライヤー・サンドウィッチ────ッ!!!」
両腕のペンチを合体させて、渾身の力でダグナの顔を挟む。更に後ろからドラゴリラがゴリラの膂力でペンチをガガンと挟み込んで挟撃倍増。そのインパクトの瞬間、爆炎を撒き散らし周囲に衝撃波の余波が広がった。
「ツープラトン! 食い破る熱血の猟犬……ッ!!」
キリッとオカマサとドラゴリラは手応えを感じ呟く。
しかし、煙幕が晴れて現れた無傷のダグナは「煩いわ……」と仏頂面。両手でペンチを難なく引きちぎってしまう。
それに驚いてオカマサとドラゴリラは飛び退いた。
フクダリウスは「ううっ」と戦慄して一筋の汗を垂らす。
今のオカマサとドラゴリラは決して弱くはない。さっきのは必勝の一手だった。
並の相手なら致命傷になる。それにも関わらず痣すらつかぬ無傷……。
「ばっ……馬鹿なッ! 俺たちは『一生自慰しない』という誓約をして更にパワーアップしたのにッ!!」
「せや! もういっぺん誓約せへんと!!」
「だな! 今度は『一生お菓子を食わない』という誓約でいこうかっ!」
「ええやんっ! ほな面白くなってきたでー」
変に盛り上がるオカマサとドラゴリラ。
フクダリウスは頭が痛くなって額に手を当てた。
「……その辺にしておけ。お前らネタだらけになるぞ」
とはいえ、彼ら二人組に限った事ではない。オカマサとドラゴリラのコンビも、ナッセとヤマミのコンビに負けず劣らず相当強いはず。
二回目の誓約込みで考えれば、それ以上の強さになっているだろう。
それが効いていない。由々しき事態だ。
「オカマサ、ドラゴリラ! 気を付けろ……! まだ何かある!」
フクダリウスの警告に、オカマサもドラゴリラも半顔でコクッと頷く。
マイシは気張って全身を包む灼熱のエーテルを更に激しく燃え上がらせた。
「かああああああああああッ!!」
精一杯の咆哮。大地を揺るがし、マイシの周囲を衝撃波の津波が荒れ狂う。
ビリビリと響いてきて、竜王化しているライクとカゲロは「へっ!」「……面白い!」と依然余裕綽々だ。
大地を爆発させ、マイシは決死と超高速で駆け出した。
「火竜のッ、炸裂焔嵐剣ッッ!!」
瞬時にライクとカゲロに炸裂剣の乱舞を全身全霊で叩き込み、天地震わせるほどの爆裂の嵐を巻き起こしていく。
それを浴び続け、さすがのライクとカゲロも「ぐおおおあああッ!!」と巨体を宙に舞わせた。
マイシは一旦飛び退いて間合いを離れ、背中を仰け反らして息を吸う。
「火竜の爆裂波動砲ッ!!!」
思い切って極太の灼熱の波動を吐き、ライクとカゲロを地盤ごと灼熱の激流で押し流す。
ズゴオオォォオォォォオン!!!
天高く咆哮を上げるように灼熱の大爆発が広がり、地上を蹂躙した。
更に何度も何度も何度も極太の灼熱を吐き続け、大爆発を重ねていく。衝撃波の津波と轟音が滅茶苦茶に荒れ狂って地響きも絶えない。
ナガレは「うわわっ!」と地面に伏せて目を瞑っていた。
「はあっ! はあっ! はあっ!」
肩で息を切らすマイシ。汗がびっしょり肌を流れる。
ヘインが「半分の力も出してない」と通信してきたからこそ、本気を出される前に全力で叩き潰さんと大技を連発したのだ。
ナガレは立ち上がり「ね、姉さん……すごい!」と驚愕する。
しかし濛々と立ち込める煙幕を前に、マイシは息を切らしながら睨んでいた。
「先輩ってマジで怖ぇえほどに強いわ!」
「……ああ。確かにな」
マイシはピクッと震わせた。
煙幕から二頭の巨大な竜が何事もなかったかのように平然と現れたのだった。ライクはコキコキと肩を鳴らす。
「ぜ……全然ダメージを受けていない…………!」
ナガレは恐怖で震え上がっていく。
後ろで高みの見物を決め込んでいたケン治は曇った顔を見せていた。
巨大なクレーターがポッカリと穴を開け、周囲は階段状の段差に大地が凹んでいる。そして至る所に破片が散らばっている。
コハクはポカンとしている。ハッと我に返ってモリッカを見やる。
いつもなら陽気でふざけた感じではっちゃけるのに、息を切らしながら真剣な顔で見下ろしている。
「コハクゥ~気付いたか? 全然効いてないぞ~!」
飄々とシナリが肩を竦めてみせる。
モリッカもそれに気付いていて、警戒しているのだろう。並の強敵なら今ので倒せていた。
「ワッハハハハ!! これは愉快! 愉快じゃ!!」
妙にハイテンションでダクライが平然と穴から飛び上がってきた。聖剣を手に、足裏から二つの光の刃を付けて浮遊していた。嬉しそうな笑顔で狂気すら走る目。
「ワシを格上の敵と見るや否や、初見から大技をかます最善の手! 良い! 実に良い!!
……それでこそ血が滾るというもの!」
ニイッと狂喜の笑みを浮かべ、重厚な威圧を漏らし始める。ズズ……!
あとがき雑談w
オカマサ「こんにちは。今回も『禁忌シリーズ』の紹介をプレゼンします」
ドラゴリラ「せや! 超高性能でワイの相棒の武器としては非常に頼れるんや」
フクダリウス「…………」
『禁忌の挟撃具』
形状は黒い鋼鉄のペンチ。両前腕に装着する。掴み面には無数のトゲがある。閉じ開きするための『かしめ部』に銃口が備えられていて、熱線や光弾を撃てる。構造については勢いとしか言えない。
オカマサ曰く『挟めば絶対に潰してしまう万力』との事。
『禁忌の連装爆弾』
複数の丸型爆弾を紐で連想したアレな道具。尻に詰め込んで連続爆破する事で推進力を発生させ加速していく。頑丈な肛門によって爆風の方向性を整えて推進するため、オカマサとドラゴリラ以外誰もできない。ガチで禁忌道具。
オカマサ曰く『マッハを超えるほどの加速装置で、絶対に誰も避けられない』との事。
フクダリウス「その辺で止めておけ。絶対ネタにしかならんわ」
ウユニーギら夕夏家五戦隊「関係ないけど、本編で俺ら省かれてない??」
次話『圧倒的絶望! 四首領ヤミザキ勢の真の力!』