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168話「ついに夕夏家王子たちの出陣だッ!」

 とある休憩所で、ブラクロは椅子に座っていて幼いヨルを太ももに乗せてオレンジジュースを飲ませていた。

 そんな時コクアは真剣な顔で歩み寄る。


「まぁ、いつになく真剣ね。なんの用かしら?」


 女性っぽく滑らかな仕草で頬をさすりながら振り向く。コクアは紳士として丁重にお辞儀する。


「一応聞いておきたいのですが、やはり『予言』は……?」

「残念だけど今は無理ね。総統ヤミザキ様に『予言』した事はご存知でしょう?」

「はい」


 ブラクロは何か文章が書かれた紙をテーブルに乗せた。


 (なんじ)の家系の命運を握る器。(なんじ)と相性は良く、後々の未来に多くの幸をもたらすであろう。

 (なんじ)は己の底を器にぶつけ、天地揺るがす闘争に発展する。しかし恐るなかれ、(なんじ)はその最中で器を理解し、そして己の運命を託せるようになろう。

 器は忌まわしき呪縛を(はら)い、そして(なんじ)の覚悟と使命を受け継ぐ。それは(よこしま)なる勢力を断ち、(いびつ)な世界をも回帰(かいき)させるほどまでに至るであろう。


「これは……」

「内容はご覧の通り、総統様の行く末を表す『予言』よ」


 ヤミザキを対象に占って出た『予言』の結果。

 故に内容は彼視点で記述されている。器とはナッセの事。ヤミザキは赤い『刻印(エンチャント)』によって、己の魂を別の体に移せる。これにより長年も生きながらえてきた。

 その方法でナッセの体を器に乗り移ればヤミザキ自身の肉体となる。そしてこの後に世界を変えるほどの偉業をもたらすという解釈だった。


「この通り、総統ヤミザキ様の勝利は確定しているわ」

「そうでございましょう。当たり前の事です」


 コクアは当然というように笑む。


「この『予言』の内容は、対象になった本人が『破棄の言霊』を言わない限り結果は確実なものとなるのよ。そしてこの効力は結末まで」

「結末まで…………」

「ええ。その結末を迎えるまでの間は『予言』ができないのよ」

「やはり」


 コクアは確かめてみて納得した。

 本当は可能であれば、自らがナッセと戦った場合の結果を『予言』してもらおうと思っていた。


「……あなた、やっぱりナッセが狙いでしょう?」

「お見通しですね。さすがはブラクロ殿」


「確かに『予言』で勝ち負けの有無を確定できれば、絶対勝てるわね。負ける結果ならば『破棄の言霊』を言えばいいし、勝てる結果ならばそのままその通りにすればいいワケだから」


 コクアは冷淡に笑む。


 ナッセとの勝負は彼にとってはどうでもいい事。

 器として確保する為に、いかなる手段も問わないと考えていたからだ。


「全ては総統様の為に……!」


 両端の口角が不気味に釣り上げられ、両目がより釣り目に反り、表情が不穏な影に覆われ、愉悦に歪んだ笑みになっていく。

 総統様に心酔するあまり、自ら心血を捧げた魔性の悪魔のようだ……。

 フフフッと含み笑いを繰り返し、それにブラクロはゾクッとした。



 彼が休憩所を出た後、今度はダグナが懸念した顔でブラクロへ歩み寄る。

 ヨルは真っ青で震えたままブラクロにしがみついている。


「…………腕はこの中でもトップクラスなのだが、心酔する余り自分を軽んじて見失いつつある」

「ええ……心配だわ。よく『偶像化(アイドラ)』を出す傾向にあるから」

()()は使い過ぎてはいかん……」


 ダグナの言葉にブラクロは頷いた。



 ヤミザキより集合の合図が『刻印(エンチャント)』より告げられ、王子たちは顔を引き締めて司令室へ集まった。

 荘厳と「機は熟した」と笑みを漏らす。


「これより皆のものを戦場に送るべき時空間転移を行う」


 それぞれ王子たちの前に黒い渦が生まれた。


「コクア!」

「ハッ!」

「……やはりナッセと剣を交えたいか?」

「はい! それだけは譲れぬゆえ!」


 ヤミザキはフッと笑う。


「……よかろう。だが私の言葉を心に刻んでおいてくれ」

「なにか?」

「うむ。主が私に対して心酔と言えるほどに忠誠心が高いのは知っている。だが、ただ私の言いなりの人形にはなるな。私が間違っていると思ったならば進言も必要だ」

「は……? 完璧な総統様に限っては……」


 ヤミザキは首を振る。それにコクアは当惑して眉を潜める。


「私はお前が思うほど完璧な人間ではない。

 浅慮で短絡的で、ただ強いだけの(おご)れる男だ。それにヒカリという恋焦がれた人への想いを引きずって、未練がましく生きているただの愚かな人間でもある」


 絶句するコクア。

 今まで神格化して、ヤミザキ様を非の打ち所のない存在と見てきた。なのに当の本人は自分を『欠点だらけのただの人間』と言い切ったのだ。


「これまで歩めて来れたのは私一人の力ではない。コクア、そして他の王子たちもみんなも私の背を押してくれたからこそなのだ」

「そんな……そんな事ッ!」


 ヤミザキはコクアの肩に手を置く。ズシリとしていて温かみがある。


「お前もだ。決して私とお前だけの間柄ではない。周りを見よ、主を案ずるのは私だけではない」


 コクアは言われるままに見渡す。

 ダグナもブラクロもいる。奔放なライクも暗めのカゲロも、そして好々爺のダクライも、ウユニーギら仲良し五人も、未だ幼いヨルもいる。


 ……紛れもなく自分の家族だ。


 もしかしたら自分は総統様しか見えていなかったのでは、と(かえり)みていく。



「心酔するままでは、欲を体現する『偶像化(アイドラ)』は危険だ。恐るべき敵はナッセでも誰でもない……、真に恐るべきは弱い自分なのだ! 打ち克て! 我が誇れる息子コクアよ!」


 聞いていてじーんと熱き気持ちがこみ上げてくる。

 総統様である前に、一人の父として慮ってくれているのだと確信した。



「お主ときたら、総統様の事で一途だからな。それは悪くないが……、困ったら力を貸すぞ?」

「そうよ! あなた()一人で背負っていくんだから! たまには私たちにも頼りなさい!」


 いつも一緒に共に歩んできた兄弟であるダグナとブラクロの言葉も熱い。

 なぜだか溢れてきた涙を拭って「……お気遣い感謝する」と優しい笑みを見せた。ダグナもブラクロも快い笑みで頷く。


「が、がんばれ……コクア兄ちゃん!」


 気付けば、恐る恐ると応援してくれるヨル。

 コクアの心にも染み「ヨル、ありがとう。終わったら遊びましょう」と頭を撫でる。えへへと満面なヨルの無邪気な笑顔で、心は落ち着き穏やかになれた。


「コクアは元より期待しているが、皆の者にも同じだけ期待をしている。だが、くれぐれも無茶せぬよう戦場へ臨め!」

「ハッ! 心得ました!」

「よし行け!」


 コクア、ダグナ、ブラクロ、ライク、カゲロ、ダクライ、そしてウユニーギら夕夏(ユウカ)家五戦隊は、眼前の黒い渦へと潜っていった。

 総統様の『器』の確保と最高機密要塞の制圧を目的として、各々がそれぞれの想いを抱きながら……。


 黒い渦がフッと収縮して消え、静寂が訪れた。

 ヤミザキは緊張をほぐして「ふう……」と、背もたれに身を預けた。


 一人残ったヨルは「総統様。大丈夫ですか?」と心配そうに寄り添う。

 ヤミザキは「ん、うむ……。お気遣いありがとう。大丈夫だよ」と、ヨルの頭を優しく撫でる。




 遺跡の壁に隠れ、オレはしゃがんでリョーコに体力回復の魔法をかけていた。

 傷や体力の程度によるが、やはり時間はかかる。側でアクトが見張りをしてくれてるからありがたい。


「……なんか敵の幹部さんァ……来たぞ」

「え?」


 こっちに?


「ありがと、もう元気よ! 行きましょっ!」

「ああ!」


 リョーコと共に揃って立ち上がると、目の前にマントを羽織っている黒いスーツの美形男性が歩いてきていた。その目から力強い意志が窺える。


「僕は第一子コクア! ナッセよ、貴様を総統様の『器』としていただきに参った!」




 黒マフラーをなびかせるヤマミとエレナとスミレの前に、ブラクロが妖しい笑みを見せていた。


「私は第二子ブラクロよ。是非お相手願うかしら? うふふ」

「オカマがきた────あ!?」


 目の前の中性的な男性のクネクネとした仕草に、エレナは絶叫した。




「吾輩は第三子ダグナ! 我らが目的の為に貴様を討つ! 許せよ」

「ワシはフクダリウス。覚悟を以って戦場に臨んでいる。気遣いは無用だ」


 ズンと太い足を踏み鳴らすフクダリウスとダグナ。

 後方で突然爆発が起きて、遺跡の破片と一緒にオカマサとドラゴリラが飛び出す。まるで映画のような派手な演出を据えての登場だ。


「フッ! 待たせたな……」

「せや、こんな辛気臭い戦争なんかより笑ってた方が楽しいやろ?」


 フクダリウスの左右に並んで、漢と漢の対決風な雰囲気を生んだ。




 マイシとナガレに対してライクとカゲロが相対する。


「ヘヘッ! オレは第四子ライク。先輩よぉ……会いたかったぜぇ?」

「オレは第五子カゲロ。同じ竜として相手していただく」


 マイシは首をコキコキ鳴らし、殺気漲る視線を見せる。


「フン! 邪魔するならぶっ殺すし」


 ナガレは戦々恐々ながらも、ドキドキと姉の背中を見ていた。

 親も誰もが恐れていたが妹のナガレにとっては、どんな敵にも負けぬ無敵の姉に映っていた。そしてそれは自分の憧れ。

 いつかマイシのようなカッコいい女になりたいと……。


 一方、ケン治は怪しく笑む。




 静かに佇む好々爺のダクライへ、電光のようにモリッカが超高速の飛び蹴りをかます。


「うりゃーあ!」

「ほっほ、いきなり()()とは。中々礼儀の良い坊ちゃんですな」


 ひょいとかわされたモリッカの蹴りは後方の遺跡ごと広範囲の地盤を捲り上げ、稲光を伴って衝撃波が荒れ狂った。ゴゴッ!

 コハクは頬に一筋の汗を垂らす。


「ひゅう~! デンガを形態(フォルム)したモリッカの不意打ちを軽々とかわせるなんて、ただもんじゃねーなー! コイツ、相当強いぜー? カオスッ!」


 シナリがわざわざ解説してくれる。

 思ってた事を言ってしまう彼に、コハクはジト目で見やる。




 最後に、ウユニーギ、ホエイ、カンラク、ギュラー、ムイリが全員腕を組んで並ぶ。

 彼らは夕夏(ユウカ)家五戦隊。

 先ほどのヤミザキとコクアのやり取りを見て、これまでのようにリーダー争いで内輪揉めする傲慢(ごうまん)は彼らから失せていた。


 クスモさん、ミコト、コマエモンの三人は「む……」と、ビリビリ響いてくる威圧に強張る。

 楽に勝てる相手ではないと感じて、頬に汗を垂らす。

あとがき雑談w


コクア「そういえば『予言』は対象の()()()()()()()()()()でしょうか?」

ブラクロ「ええ。もし死ぬ結果ならば、そこで文章は途絶えるもの」

コクア「やはり、寿命を縮めて死ぬ運命はないのだな。そしてナッセに殺される事もないと!」


ブラクロ「その通りよ……。でも『予言』なんてなくても総統様は負けないわ」

コクア「フフッ」


ダグナ「む……、それはそうとブラクロ殿に聞きたい事が」


ブラクロ「なぁに?」

ダグナ「『予言』の効果を無効にする『破棄の言霊』とは如何(いか)のように?」

ブラクロ「そうねぇ……、それを唱えて無効にしても『予言』の結末と同じ時間軸を過ぎないと、新しく『予言』はできないものだけどね」

コクア「なんと! それは厳しい制約ですね」


ブラクロ「ええ。でも話が逸れたわね。『破棄の言霊』は『私はその予言を破棄します』と唱えながら予言の紙を破くって簡単な方法よ」


コクア「……確かに簡単ですね」

ダグナ「吾輩は『予言』をしてもらうつもりはない故、方法は知らぬが……」


ブラクロ「対象の人と面を向き合って、その対象の血で『予言』を書くのよ。多ければ多いほど長い未来まで書けるから」


コクア&ダグナ「…………うっわ引く」

ブラクロ「もうっ! これも()家系能力だからね! 仕方ないわよ!」



 次話『四首領(ヨンドン)ヘインの裏切り!? 七皇刃による不意打ち!?』

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