165話「スペリオルクラスとは……?」
どこからともなく湧いてくる刻印獣。
ただ物量に任せて進撃するだけの感情を持たぬ創造の無人兵器だ。
「往生際の悪いヤツめッ!! 爆砕しろッ! バーニングバン・パンチ!!」
大柄な体躯で肉薄し、鍛え抜かれた筋肉質から繰り出される大きな拳に火炎が包む。刻印獣の胴を貫かんとめり込ませ粉々に爆散。生じた大爆発が四方に広がった。
それでも後続の刻印獣が怒涛と襲いかかる。
「単調で攻めが甘いわッ!! バーニング・ウォール!!」
火炎のパンチを地面に打ち込む。そこから燃え上がった火炎の壁が一直線と噴き上げ、轟々と刻印獣を巻き込んでチリにしていく。
「シャドーサウザンドレイン!!!」
今度は黒仮面黒タイツの男がコウモリのような大翼を生やして、扇状に黒い弾丸を斉射して地上と空にいる刻印獣を撃破していく。
死角から襲いかかってくる敵にも掌を向けて、集中砲火で爆散。
仲間が押されてピンチになってる所にも援護射撃。
八面六臂の活躍でヴィランからも喝采が起きるほどだった。
縦横無尽に走らせた鎖で複数体の刻印獣を縛り付けた。
「真に地獄の鎖で裁く相手は……日本を糧に侵略する悪しきヤミザキら勢力よ!」
悪を許さぬ憤怒がこもったチェーンヘルザの宣告で一斉に砕く。
それは側にいたヴィランすら震え上がるほどだ。敵だった時は恐ろしい相手だったが、今は味方とホッとする者もいた。
「第三陣の布陣にも隙を見せぬ猛者が勢揃いか。戦力の層が中々に厚いな」
「そうでございましょうな。彼らも必死ゆえ」
ヤミザキとダクライは複数のモニターに映る戦場を抜け目なく観察していたが、敵は各々の長所や短所を補い合って隙をなくしているようだ。
王子たちを先行させて切り崩したくなるが、ダクライの言うように罠であったとしたら早計だ。
「総統様としても、日本の時のように洗脳するというのも好まないでしょうな」
「……甘いか?」
「いえ。上に立つものとして人道が残っていればこそであり、それがなければただの独裁者でしょうな」
「何を今更。もう私は日本を支配したのだぞ」
「事が終われば解放するのでしょう。元々兵として駆り出す気がないのも分かっております」
「心を覗かれておるようで不気味だわ……」
皮肉るようにヤミザキは笑み、ダクライは「恐縮でございます」と頭を下げる。
王子たちはそのやりとりに、彼ら二人の付き合いは随分長いものと察した。
総統に心酔するコクアも嫉妬の念に駆られそうになるほどだ。だが同時に敵わぬとも知って唇を噛む。
「ナッセ様以外にも面白い創作士がいるようですな」
とある日本の創作士────。
黒髪で前髪二分け、黒いコートのやや暗い少年。肩まで長めの茶髪ショートヘアの胸が大きめの少女。寒色ツインテールでセーラー服が特徴の引き締まった顔の少女。
彼らは三人でパーティーを組んでいるようだった。
「行くよ! ホノバーン!!」
「おう! メグミいけー!」
メグミと呼ばれた茶髪の少女は杖をかざし、巨大な火炎球を『衛星』で浮かす。
振り下ろされる杖に従って急降下する火炎球が爆裂して火柱を上げ、数十体の刻印獣を呑み込んだ。
複数の刻印獣が一斉に飛びかかる。
「ここはオレに任せろ!」
「了解! クニロー」
黒髪の暗い少年はクニロー。なんとスラッと手品のように手から銀に煌めく剣が生まれた。
「聖剣クニローブレード!」
これも聖剣だが特注のようだ。そして襲いくる刻印獣に正眼で構える。しかし攻撃する素振りは見せない。
するとクニローの背後に光の輪が生まれ、放射状に光の刃が円陣を組むように伸びた。まるで仏様の後光のような形状だ。
意思を持っているかのように後光は一斉に光の刃を撃ち出し、それぞれが屈折しながら刻印獣を的確に射抜いた。更にまた光の刃が後光に装填されて再度射出。
あたかも自動的に迎撃しているかのように見える挙動だ。
「相変わらず便利な『血脈の覚醒者』だな」
「おい! レイ!」
「……言われるまでもない」
クニローによそ見していたレイに刻印獣が襲いかかるが、振り下ろした腕は地面に突き刺さる。
気付けばレイは遥か向こうに着地した。トン!
ズバババババババッ!!
突然、数十体の刻印獣は細切れに斬り散らされた。
「いいチームですな。それにしても『血脈の覚醒者』の勇者とは珍しい」
「『勇者』か。スペリオルクラスの一つ。対魔とも言うべき特攻クラス。そして組んだパーティーに永続強化がかかり、不思議とチームワークが上手くいく特性もある」
「スペリオルクラス!?」
ヤミザキとダクライの会話で気になったコクアはつい声を出す。慌てて「し、失礼しました」と頭を下げるが、ヤミザキは首を振り「構わぬ。後学の為だ」と寛容を示した。
「スペリオルクラスは、通常のクラスよりも上位に位置する特殊なクラスだ」
「上位に位置する特殊クラス……!?」
息を呑むコクア。
「さよう。通常のクラスとは『剣士』『魔道士』『狂戦士』など、人間が持つ才能の傾向を指す。職業と誤認しがちなのはゲームの影響ですな」
「……才能ね。創作士になってから判明するものよね」
ブラクロにヤミザキは頷く。
モニターに映る軍人は戦車や銃器で必死に応戦していた。
「軍人は『創作士』ですらない」
「そういや魔法はおろかオーラとか出さねぇもんな」
「……動きも反応も鈍い。まるでレベルがゼロだ」
「ライクとカゲロの言う通り、ただの人間にレベルなどが存在しない。鍛えれば強くなれるが、馬のように速く走れたり、生身で銃弾を弾いたり、大岩をぶん投げたりまでには絶対届かん。
だが、とある『扉』を開く事で『創作士』として誕生し、レベル1からスタートできる」
「『扉』を開く方法は様々であります。もちろん生まれつきの人もございます」
「そうだ。それにより、生まれ持ったクラスが発現する」
「改めて聞くと不思議なモンだな。当たり前だって思ってた」
ライクはポリポリ後頭部をかく。
「だが、後天的にスペリオルクラスに発現する者も少数いる」
「条件は様々ですが、例えば『勇者』なら、女神の祝福を受ける事で才能の追加や増強がなされる。『魔皇帝』ならば、一定のレベルまで達し己のカリスマで大勢に認められて初めて才能が引き上げられる、と言った感じでしょうな」
「ふむ。確かに通常のクラスと比べ強いな……」
ダグナはアゴを触りながら納得していく。
「だがナッセ様を見る限り、どうしても『剣士』の枠内には当てはまりませんな」
「気付いていたか……。ダクライ」
洞窟や仮想対戦を見る限り、最初はちゃんとした『剣士』として才能を発揮していた。
だが、今回の戦争ではまるで別人になったかのように戦い方がコロッと変わっていた。新しく得たとは思えないほど、戦い慣れ過ぎている。不可解だ。
基本は剣で戦うが、時として暗殺者のように変幻自在に刃を全身から出して戦ったり、格闘僧のように器用な体術を見せていた。
これまでのナッセでは考えられない動きだ。身軽なのは前からだったが、更に異常なほど磨きがかかりすぎている。
「うむ『鍵祈手』の可能性がありますな。伝説と聞いていましたが、いやはや……」
ダクライの言葉にヤミザキは眉を跳ねる。
「『鍵祈手』? それはなんじゃ?」
「伝承でしか聞いていない伝説のスペリオルクラスだ」
アメリカジェネラルにヘインは怪訝な視線を向ける。
「前の並行世界のナッセは明らかに『暗殺者』だった。純粋な少年がなぜ? と思ったものだ。だが今は『剣士』と言うじゃないか」
「異世界にはクラスを変えれる施設があると聞いておるぞ? あいつら一度は行ってるらしいからな」
「いや、ここでは生まれた時から『剣士』だと登録データにあった」
創作士ならば、誰でも創作士センターに登録する義務があって、例え赤子であっても例外ではない。具体的なステータスやレベルは開示されないが、誰がどのクラスかは調べれば分かるようになっている。
「じゃあ……、つかなんでじゃ?」
「『鍵祈手』は転生し続ける不思議な運命を背負う。特別な鍵を得て発現するクラスで、スペリオルクラス以外のクラス全ての才能を持つと言われている」
「はぁ? 言われておるじゃと!?」
「……滅多にいないのだ。同じ時代に二人は存在しないほどにな」
鍵が神々しく輝くイメージが浮かぶ。それを背後に数人のシルエットが並ぶ。
それぞれ流れ星のように飛び散って、数多ある並行世界を転々としていく。
「というか特別な鍵とは何じゃ?」
「これも伝説として聞いている。挿せば『なんでも願いが叶う』鍵。
ただし『鍵祈手』はその代価として命を払うらしい」
「ほう、じゃから滅多にいないというワケか?」
「それもあるな。彼らが短命だとも昔から伝わっている」
ヘインはモニターを生みナッセの様子を映す。緊急ベッドでみんなと熟睡してるのが見える。
「あの銀髪のガキが、とは信じられぬのじゃが?」
「そう今は銀髪だ。我々が知ってるナッセは黒髪だった。原因は分からんが転生を繰り返してきた影響かもしれん」
《半分正解だね》
気付けばウニャンがトコトコ歩いて来ていた。
「魔女クッキー様!?」
「なんだとぉ!? あの伝説の魔女がか?」
《そう。ナッセこそ『運命の鍵』を背負う『鍵祈手』だよ。
転生の度にワタシがクラスごとに修行をつけていたよ。ただし今回で転生は終わりだし、鍵の使用もまたできない》
ヘインもアメリカジェネラルも思わず仰け反る。
「……ま、まさか本物の『鍵祈手』がここに!? だが終わりとは?」
《一見、無類の才能だけど恐ろしいデメリットがあるからだよ。都合が悪いから今は言えない。だが必ず克服させてみせるよ》
ナッセがいずれ魔王化すると言えば、余計な混乱を招くからだった。
「わ、分かった……。お主がそう言うなら検索はしないでおこう」
「余はとても気になるんじゃが!?」
《ナッセはワタシの責任だよ。いいから戦争に集中してくれないかな》
有無を言わせないウニャンの圧にヘインも「……分かったわい」と切り上げた。
あとがき雑談w
クニロー(16)「実はナッセはオレの従兄弟だぞ」
ナッセ(20)「オレは富山出身。従弟のクニローは新潟出身だぞ」
メグミ「初めましてメグミです。クニローと一緒にパーティーをやっています」
ヤマミ「……よろしくね」(年下なのに胸大きい……)
レイ「私は『暗殺者』レイだ。世話になっている。よろしくな」
ヤマミ「ええ。よろしくね」(こっちは私より小さい。良かった……)
ヘイン「ちと聞くんじゃが、どっちが城路家の本家じゃ?」
ナッセ&クニロー「どっちも分家だぞー。本家は代々名前に『タツ』が入るぞ」
ヘイン「じゃあクニローが『勇者』でナッセが『鍵祈手』なら、本家はさぞかし凄い名家じゃろうな」
ナッセ&クニロー「いや全然! 普通だぞ」
ヘイン「ん、そうか? 意外じゃの」
レイ(……分家がスペリオルクラスだと本家が知ったら揉めそうだな)
次話『刻印獣ワンパターンだから、新種いってみようかw』