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157話「恐るべきヤミザキの復活!」

 ズズズズ……!


 不穏な闇の気配が忍び寄る……。

 ヤミザキの眠るであろう寝室からだ。王子たちはガタッと会食中の席を立つ。この場にいる誰もが冷や汗をかいていた。未だゾクゾクと悪寒が全身を貫いてくる。

 一番末っ子のヨルはイルカのぬいぐるみを抱きしめ、ブラクロの膝下でガタガタ震える。


「だがこれは…………!」

「総統様? 目を覚ましたのかしら……?」


 ピリピリと屋敷が振動に震えていく。

 コクアもダグナも顔を強張らせ、響いてくる黒い威圧に戦々恐々だ。


「僕が……見にいってきます!」

「吾輩もだ! ただし、みんなはここにおれ!」

「分かったわ……。二人とも気を付けるのよ……」


 二人が走った足音が遠のいていき、ブラクロはヨルの頭を撫でながら顔を強張らせた。




 ────コクアとダグナは絶句した。

 寝室のドアからおぞましい闇のオーラが溢れていた。凍えるような深淵の闇。これまでのヤミザキとは段違いの異質なエーテル……。


 いやこれはエーテルよりも更に上の…………!?



「……コクア殿! 前に『刻印(エンチャント)』をパワーアップさせたと総統様はおっしゃられたが……、自身も?」

「失礼! ドアを破ります」

「おい!」


 コクアは正直不安に満ちていて、気が動転しそうになっている。

 ヤミザキの身に何が起きているのか胸の高鳴りが収まらない。故に失礼と分かっていても()ぐにでも安否を確認したかった。


「ホノレーヴァ!!」


 ダグナももちろん同じ心境だった。だから止める事をしなかった。

 コクアの聖剣が一閃、ドアごと周辺の壁を爆破させた。すると(せん)で水を()()めてたかように、(たが)が外れた途端に闇の激流がドッと吹き荒れた。

 その勢いのままに寝室もろとも屋敷の一部が粉々に吹っ飛んだ。


 激流に耐えながら、コクアとダグナは先の光景を見据えた。──夕夏明王。


 ヤミザキが発現させる『偶像化(アイドラ)』。

 神仏のような漆黒の明王像。黒い筋肉隆々とした身体に、憤怒の形相。片手に超巨大な黄金の文殊利剣が握られている。

 そこまではコクアもダグナも見知っている。


 だが!


「ヴォ……ヴォヴォヴォォォ…………!」


 二人は見開き、青ざめていた。

 夕夏明王を覆う、更に大きな()()()()の『偶像化(アイドラ)』が唸りを発していたからだ。

 夕夏明王よりも更に深淵の黒で染め、牛のような巨大な二本の曲がった角が左右に伸びている悪魔の形相。筋肉もより隆々としていて、四本の腕がそれぞれ蠢くような漆黒の大剣を掲げていた。

 悪魔を思わせる歪な両翼大きく広げられていてミシミシと軋み音を鳴らす。


「ヴオオオオ……!」


 怖気走る悪魔の口から、紫の吐息がこもれ出る。


 冷や汗いっぱいでコクアとダグナは膨大で邪悪な威圧に絶句した。

 パワーアップなんてもんじゃない……。

 それだけの圧倒的な威圧とフォース。まるで目の前に大魔王が降臨したかのようだ。



「……心配かけたな」


 ヤミザキの声に、コクアとダグナはハッと我を取り戻した。

 悪魔のような偶像化(アイドラ)の中から、人影が、そしてそれは自信に満ちたヤミザキの威風堂々な姿が現れた。


「は! お、恐れ入ります……。どうかご無礼をお許し下さい」

「同じく、吾輩も……」


 咄嗟に(ひざまず)き二人は頭を垂れた。罰されてもお構いなしの覚悟だ。


「いや、(とが)めはせん。その忠誠心故、私の身が心配だったであろう……。今はすこぶる調子がいい。例え誰が相手でも負ける気がせんわ」


 刀を鞘に収めるように、二つの『偶像化(アイドラ)』はジュクジュクと粘液的な流動で放射状にヤミザキへ吸い込まれていった。

 コクアは次第に歓喜に打ち震えていく。


 偉大なヤミザキ様が更なる昇華を果たした……。限りない進化の果てに集約された至高の強さ。

 例え屈強な創作士(クリエイター)が束になろうが敵わないほどの圧倒的な御力。

 それこそ王!! まさに世界を統べる王!! 今ここに生誕したのだ……!


「行くぞ! 果たすべき目的の為に!」

「はっ! 喜んで!」


 自信に満ちたヤミザキの不敵な笑み。

 嬉々と追従するコクアと対照的に、重い足取りのダグナは曇った顔をしていた。


 …………あの禍々しい『偶像化(アイドラ)』は一体……?




 ヤミザキが起きる数十分ほど前────。


 星々煌く夜空の元、最高機密要塞はライトアップを含めた数多の光源を発してSF映画のような神秘的な光景を醸し出していた。

 近くの宿泊用の施設の灯りを消した一室で、それを窓から眺めていた。

 まるで映画の世界に入ったかのような気分に浸っていた。


 すると後方で黒い花吹雪が螺旋状に散開しヤマミが降り立つ。枕を抱いたまま、パーカーのようなパジャマ姿をしていた。


「ん、こんばんは」

「こんばんは」


 ゆっくりした足取りで歩み寄ってくると、密着するように身を寄せてくる。

 寄りかかって触れた彼女の肩と胸、そして手に手が絡み合ってきて、思わず心音は高鳴った。


 ──本来なら、一人一室と厳守して宿泊する決まりだった。

 消灯する時、各々一人で就寝する。よほどのことがない限りは二人以上でしかも男女で一緒になってはいけない決まりがあった。


 それの説明を初日で聞いても、ヤマミは平然としていた。

 いつも一緒にいたがるにしては珍しいと思ったら、就寝の時間に夜這いのように時空間魔法で侵入してきやがった。そりゃ平然とするワケだよ。

 早朝に起床すると、自分の部屋へ戻る。そして部屋から何食わぬ顔で「おはよう」と出てくる。


 とはいえ、普通に添い寝するだけなので何も言わなかった。

 彼女(ヤマミ)はそれ以上の事を知らないから、一線を踏み込んでこないってのもあるのだろう。多分そういう発想がない。

 リョーコ辺りは当然知ってるから、こういう事はしない。

 でもエレナはよく飛びかかってきてたから、速攻で踏み込んできそう。転生して少女になっていても多分お構いなしだろうなぞ。


 ……純粋なヤマミでよかったな。うん。


 だがベッド一つで一緒に寝る時はいつもドキドキさせられた。

 間近で愛しい寝顔を、そして密着してくる温もりで落ち着かない。いけない事しているような背徳感もそうだろうが、やはり顔で美人だよなぁと胸の高鳴りが収まらないのもあった。

 不意に覆いかぶさって柔らかい何かが当たってきて、気が動転しそうになった事もあった。


 元いた世界のオレだったら耐えられたのだろうか?

 未だに抱いた事もないし、抱く勇気もないチキンだけどぞ……。



 しばらく光景に浸っているフリしながら悶々としていると、ヤマミがこちらの裾をグイグイ引っ張ってくる。

 振り向くと幼げを見せたような無垢なヤマミの顔にドキっとする。

 普段は生徒会長みたいに引き締めているけど、二人きりの時は全く違う顔を見せてくる。初々しい感じの頬を赤に染めた儚げな顔。

 そして唇の色っぽさに胸が高鳴っていく。


「そろそろ寝ましょう」

「う、うん……」


 ベッドへ寝転がると、ヤマミも体を横にしつつ毛布を被せてくる。

 顔を向け合って見つめ合う。じっと見つめてくる恥ずかしげな顔。いつ見ても慣れないなぁ……。ドキドキが止まらない。


 その時『標的探知(ターゲットサーチ)』で察知している対象がピクッと動き始めた。


「動いた!!」


 思わず身を起こし、慌てて携帯で緊急用の連絡を送信。


「部屋へ戻ってて!!」

「う、うん!」


 事情を察知して、ヤマミは頷くと枕を抱え黒い花びらの渦に飲み込まれた。



 同じ施設内の食堂。──緊急用の集合の場として指定されていた。

 オレとヤマミが踏み入れると、既に銀狼とクスモさんがいた。後にぞろぞろとマイシ、コハク、モリッカなどがやってきた。

 眠たそうなリョーコが「なんなのよぉ……」と目をこすっていた。


「ついに来たのかァ!?」


 アクトがどしどし現れてきたのを見て、オレは頷く。

 後から来たノーヴェンはメガネを煌めかす。


四首領(ヨンドン)ヤミザキがついに動き出したのデスネ……」

「ああ! 多分起きた。今は活発に動いている」

「グッド! ミーに言われた通り、即座に連絡をサンキューデース!」


 ヨネ校長が最後に現れ、既に携帯を耳に当てていた。



「でも『標的探知(ターゲットサーチ)』は標的の位置と足跡を感覚的に感知するだけだから、どこにいて何をしているかまでは全然分からないぞ」

「イエ、それで充分デース! ヨネ校長……」

「うむ、連絡は済ませた。機密要塞へ集合との事だ。これでいいな?」


 ノーヴェンは頷く。


 オレの連絡も含め、これもノーヴェンの指示だった。

 恐らく何かが原因で寝込んでいたヤミザキが起きだした時、それは開戦を告げるものだと察した。既に戦争は始まっていると彼は主張していた。

 オレには過剰反応で焦っているようにしか見えなかった。何しろヤミザキたちが要塞へ攻め込むまで相当時間がかかるからだ。早くても二日以上は要する。

 もし日本人全員を軍として出動させるなら、その準備も含めて更に時間がかかるはずだぞ……。



「えー、まだアメリカに来てないじゃん! どうして急ぐのー!」


 リョーコは不満げだ。

 だがノーヴェンは「不測の事態を前提に早急に態勢を整える必要がありマース!」と(たしな)めた。





 夕日で赤く染まった空を背景に、山脈の中からメキメキとヒトデ状の巨大な五方形浮遊物が黒いシルエットで浮かび上がってきていた。

 ゴゴゴゴ……と唸るように、()()は赤い空へ高く上昇していく。


 内部は広大な空洞で、壁は点々とした電灯が煌めいていた。そして電子回路のような縦横無尽に入り乱れる道と、至る所に浮遊箱。その中で一際大きい箱は、十面ダイスのような形状であちこちからケーブルがたくさん繋がれている。

 その箱は三階層に部屋が分けられた構造で、その真ん中の階層には肋骨を連想させる球状の外壁に包まれた操縦席があった。そこに座するヤミザキは不敵な笑みを浮かべていた。


「これより『超大型浮遊艦ヒカリバナ』発進する!」

あとがき雑談w


ヤミザキ「即席ゆえ、ツッコミは野暮だ」


『超大型浮遊艦ヒカリバナ』

 ヒトデのように五方形浮遊要塞。超大型で直径二三km以上もある。中心部は山なりに膨れている。

 花びらのように五方に伸びている尖った端は内側に閉じる事もできる。

 内部は空洞で、電子回路のような道とは箱型の部屋が入り組んでいる。

 収容人数は約数十万人。魔法炉最大MP(マジックプール)約100億以上。


 主な機能???


 かなり大昔に製造された超大型浮遊艦。目的は謎。使われている合金は地球の材質ではないと判明している。


コクア「コソコソ噂話。ヒカリバナとはヤミザキが名付けた名前だそうです。好きな人の名前を付けるとはさすがですねw」



 次話『ついに要塞と要塞の激突!? 本物の戦争始まる!』

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