152話「夕夏家の王子たちの思惑!」
朝日昇る青空の下でコクアは庭園で凛々しい表情を引き締めていた。
「来たれ! ホノレーヴァ!!」
右腕を横に伸ばすと、声に反応して飛んできた剣が手に納まった。
すかさず斜めに振り切って疾風を巻き起こす────。間を置いてから、様々な角度で幾重の軌跡を描く。最後の締めと、緩やかな流れで弧の軌跡を描いた後に正眼に構え直す。
「コクア殿。相変わらず朝早いな……」
「ダグナさん」
厳つい顔の大男ダグナはニヤリと不敵に笑む。
「聖剣の機嫌取りだ。毎朝振り回してもらわんと気が済まんようでな」
「フフッ、吾輩とは違ってせっかちよな……」
「全くです」
聖剣には意思がある。
生き物のように千差万別の性格があり、それによって持ち主は選ぶ側ではなく選ばれる側にもなりうる。
面倒な事に機嫌を損なうと言う事を聞かない。持ち主と認めない場合は勝手にどっかいってしまう。
普通の武器と違って、死んだ場合ナマクラになって使い物にならなくなる。
だが型にハマれば、とてつもない力や能力を引き出せる。
故に聖剣に認められし者は、英雄にもなりうる資質を持ってるとも言われている。
「……ヤミザキ様はあれから眠っておられる。継承式を失敗した時から不調だったようでな」
「目を覚ますのは三日後ですか。面倒な……」
「うむ」
「あーら? おはようございますわ。元気ねぇ」
今度はブラクロがクネクネ腰を揺らしながら中性的な顔で微笑みかけてくる。
コクアとダグナは「おはようございます」と丁重に返す。しばし見つめ合う沈黙の間。
「ダグナさん。ブラクロさん。万が一に備えて伝えたい事があります」
「む?」
「なにかしら?」
「ヤミザキ様の命が危うい場合、緊急として僕が『器』になりましょう」
丁寧な仕草で胸に手を当ててそう告白した。
ダグナもブラクロも「なっ!?」と戸惑いを見せる。
「それはいかぬ! 主はこれからの夕夏家をまとめていくカリスマ的存在。よって吾輩が『器』になるべきだ!」
「ちょっとぉ! 勝手に決めないで頂戴! 緊急の『器』は私がなるべきよ! あなたたちは夕夏家を支える大事な柱! どちらか一人欠ければ大変な事になるわ!」
「それはこっちのセリフです! ブラクロさんには貴重な家系能力が」
「それならば力しか能のない吾輩が!」
ダグナの言葉にコクアはキッと睨む。
「ダグナさん! あなたの人柄の良さも貴重です。僕などより慕う人は多い! 放って置かれるのもいかがなものかと!」
「ぬ……! し、しかし! だが今はそんな場合じゃないぞ!」
「もう! かばいあってる場合じゃないでしょー!」
焦れったくて堪らずブラクロはプンプン怒り出す。
以降もムキになって言い争う三人。
「コクアさま、ダグナさま。ブラクロちゃん。朝ごはんの時間でございますー」
とことこと、イルカのぬいぐるみを抱きながら女の子が歩いてきた。
年頃は小学生四年相当。茶髪のボブ。黒統一のベレー帽にセーラー服。とても可愛らしいが、年に合わぬ落ち着いた仕草。
「第十四子ヨルか。……分かった。この話はまた後ほど」
「うむ。……ヨル殿。伝言ご苦労」
「そうよ! 朝ごはん終わったら一緒に遊ぼうねぇ~」
「うん!」
頷くと、ヨルはぐるんと指で輪を描く。するとポッカリと虚空に黒い穴が開く。全員はそれに入って、穴は収縮して消えていく。
庭園は再び静寂に包まれていった。
煌びやかな食卓の部屋で黒い穴が開くと、コクアたちが降り立つ。
「……時空間魔法は便利ですね」
「うむ」
「さすがヨルちゃんねぇ~! 敵わないわ~」
ブラクロに頭をなでなでしてもらって嬉しそうに微笑むヨル。
「えへへ。ヨル役に立ったでございます」
彼女は時空間魔法が使える『血脈の覚醒者』だ。養子になる前に幸せだった家族を失った出来事があって、親戚からも見放されて孤児院に捨てられた経緯を持つ。
心を開かず引っ込みがちな彼女はヤミザキに養子にされる事で新しい家族を持てた。そしてようやく心を開いたばかりだった。
「では戴きましょうねぇ~」
「ヨルいっただきまーす!」
ニッコニコなブラクロの膝下で、ヨルは笑顔でフォークとスプーンを手に取っていた。
コクアとダグナは「甘やかしおって」と言いつつも安堵の笑み。
「んあーメシかぁー」
「……眠い」
ふしだらなパジャマ姿でライクと眠そうなカゲロが入ってきた。
その様子にコクアたちは一転して訝しげな顔を見せた。
「それに引き換え、お前らはもう少し夕夏家の王子として自覚を持て!」
夕夏家の屋敷は大きくて広く、三階建ての構造をしている。
その中でも、仮想対戦センターと同じ機能を持つ施設も独自で持っていた。仮想空間で実戦訓練が行える為、頻繁に訓練を行って王子たちは切磋琢磨していた。
「はああっ!」
「ぬんっ!」
コクアの聖剣ホノレーヴァをダグナは大仰な戦斧で交差させた。
ガッキィィィン!!
弾け散るように衝撃波が吹き荒れ、大地を揺らし木々を騒がせる。土煙が草原を覆うほど巻き上がる。
そして打ち合った際の衝撃が二人の体にもビリビリ突き抜けていく。
「聖剣『轟雷斧』よ! 吾輩と共に唸れッ!」
稲光を発し、雷に包まれた戦斧を手に地を蹴る。コクアも「聖剣『ホノレーヴァ』!! 行くぞッ!!」と刀身に火炎を纏わせる。
火炎の余波と稲光を散らして、互い譲らぬ斬り合いを繰り返していく。その余波で巻き上がった煙幕が彼らを中心に離れるように波紋状で吹き荒れていく。そして大地は震え続けていた。
「ぬうりゃああ!!」
閃光を伴って戦斧が振り下ろされ、コクアは咄嗟に上空へ舞う。
目標を失った戦斧は、大地を深く穿つと共に地盤を巻き上げるほど雷が爆裂。更に放射状に散らすように雷が地面を切り裂き、彼方にまで亀裂を広げていった。
不敵な笑みで見上げたダグナも上空へと速攻飛び上がる。
「フッ! 逃さぬ!!」
「なんの!」
上空でコクアとダグナが切り結んだ衝撃によって、大気が破裂。
目にも止まらぬ速度で空を駆け回って、あちこち激突で爆ぜていった。その度に地上は振動し、吹き荒れた烈風に草木が揺れる。
ズガガッガッガッガガガガッガガガガ!!
「あらまぁ、子供の頃はよくケンカしてたものだけどねぇ~」
「今は仲良しでございます~」
仮想対戦モニターを眺めるブラクロとヨル。
ふと振り向いて別のモニターを見やると、眩い光が轟音を伴って画面が唸っていた。
画面を覆う光が収まると、巨大な竜が二匹睨み合っていた。
黄金の竜と黒き竜が「グルル……」と唸る。辺りの地形は荒らされていて煙幕と瓦礫広がる荒野になっていた。
ズズズズ……と竜は縮みながらオーラへ変質して人型に覆う規模になった。
なんとライクとカゲロだった。
「へへっ! やりすぎたかぁ!」
「無問題。現実世界に影響ない」
「ライクちゃんは光竜王。カゲロちゃんは闇竜王。マイシちゃんのデータを元に急遽発現できた魔獣王ね。扱いに難があるけど、相当な強さだわ……」
「すごいおっきいドラゴンちゃんでございますー」
カツカツと杖を付いて好々爺が歩いてきた。
執事風に整った黒服。白髪のオールバックで目が細い。少々前屈み。
「あら黒執事ダクライちゃんね。お元気で何よりだわ」
「ダークラーイー、お元気でございますかー?」
「ブラクロ様。それにヨル様。お気遣いありがとうございます。総統様の具合も大変心配されてこの爺も嬉しゅうございます」
ダクライは会釈する。
細々とした優しそうな爺さんではあるが、隙を見せぬ百戦錬磨の気配も窺える。
ブラクロは「さすが歴代最強の執事ね」と頼もしさを覚える。
「継承式でナッセ様を逃したのは痛手ではありますな」
「ええ。まさかヤマミアナザーがまた来るとはね……。腹立つわ」
「その事が気になりまして」
激戦が繰り広げられる王子たちを映すモニターを眺めながら話を続ける。
「全ては偶然でも行き当たりばったりでもありませぬ。学院側の頭が切れる人が策を講じたのでしょう。恐らく芽鐘家の御子息ノーヴェン様と見ています」
「そういえばそうね。変な格好しているけど、かなりの策士と聞くわ」
「うむ。そのまま逃亡をせず、継承式にナッセ様を敢えて送り出したのには理由がございます」
百戦錬磨の経験による勘は衰えていないと、ブラクロは内心感嘆した。
「……陽動で学院から人々を引き離した。そしてもう一つ総統様の位置を把握するために一度対峙した。故にこの二つの策は成功して、向こうは総統様の位置を把握しながら遠くへ逃亡したと見ていいでしょう」
「『標的探知』かしら。面倒ね」
「厄介ですな。ではこの執事めも人肌脱ぎましょう」
思わずブラクロは「おお」と声を漏らす。
今の平和な世に彼が戦線に赴くのは滅多にないが、一度出撃すれば確実に功績を挙げてくる。
「それから継承式の際に一目見てみましたが、ナッセ様は聞いた通りの人ではございません」
「どういうことかしら?」
「総統様は未熟者と評しておられましたが、儂には違った印象でした。表面上の性格に合わず、地獄を乗り越えてきた歴戦の威圧が奥底に窺えました。もし相対するならば聞いた通りとは別人だと思ってくださいませ。かなりの強敵ですぞ」
「わ、分かったわ……。みんなにも伝えておくわ」
「そうしてもらえると有難い。予備知識は何よりも強い武器になりますゆえ」
ブラクロは感嘆にゾクゾク震え上がる。
惚れちゃいそうな渋い執事の洞察力。そして優しさを感じる好々爺。老いたとはいえ最強は健在だ。
実際に戦った所を見た事はなかったが、総統ヤミザキに次ぐ強さだと確信し得た。
「聖剣『ラー・ブリュナ』よ! 久々に力を貸しておくれ!」
《……御意!》
杖は眩きを放ち、ジグザグと屈折する剣に変わった。周囲にクナイのような刃が四本浮いている。
戦意のオーラを表面に漏らし、黒執事ダクライ不敵に笑む……。
「久々に血が滾るわ……」
あとがき雑談w
ライク「カゲロよぉ……今日こそ決着つけてやるぜぇ!」
カゲロ「望む所だ……」
なんと格闘ゲームで対戦だー!!
バキッ、ドガッ、ドガッ! バガーン!
ブラクロ「なんで強パンチと強キックしか使わないのかしら? 技出さないの?」
ライク「オカマうっせぇ!! このままで十分だぁー!!」
カゲロ「この程度必要ない!」
抜け駆けしようと技入力すれば、失敗した上にボコられて負ける。
なので全て強パンチ強キックだけで必死に格闘している。
コクア「では僕も混ぜてもらって……」
ライク「てめーはチートすっからダメだぁ!!」(怒)
カゲロ「必殺技など邪道!! 手出し無用ッ!」(怒)
途方に暮れるコクアの肩にポンと手を置くダグナ、首を振る。
ドラゴンの魔獣王はコマンド入力できない宿命であった……??
次話『ついに学院側はアメリカへ! しかし!?』