151話「ヤミザキの想い人! ヒカリィ!!」
上空は雲一つない澄み切った青空。太陽がまぶしく輝いている。
そしてスフィンクスを模した創作戦艦アニマンガー号は、雲の上を飛行していた。眼下の雲の隙間は海しか見えない。
リョーコたち生徒は窓から見ていて「うわー」と歓声を上げていた。
「諸君、日本を出た。そしてこれよりアメリカへ向かう」
ヨネ校長の言葉に誰もが唖然……。
それを察したのか、更に言葉を続ける。
「大丈夫じゃ。既にアメリカとも連携は取れておる。この創作戦艦の着陸先は用意されている。それから全員分の入国手続きも終わっとるから安心なされよ」
「い、いや……なんつーか、展開ついてけねーんだが?」
とっくにノーヴェンはこの学院の仕組みもとっくにご存知で、そこまで用意周到に策を張り巡らしていたのかぞ……?
するとノーヴェンが歩いてきた。
「ナッセ君、ヤミザキはどうデスカ?」
「ん? まだ大阪にいるぞ」
「イエス……。ではこのまま予定通りの運航で行きまショウ」
そう、総統継承式に出向いてヤミザキに『標的探知』をしかけておいたのだ。
これはマイシがオレにかけてたのと同じもので、例え異世界で隔てようとも対象の足跡と位置を感知し続けるスキルだぞ。
「でもなぜオレが?」
「……ヤミザキ打倒の切り札はユーデス。最後の戦いに赴けるよう位置は把握しておいた方がいいデース」
確かにあの四首領ヤミザキを相手に勝つ可能性は限りなく低い。
妖精王となったオレとヤマミなら勝てるかも知れない。他に可能性としてはアクトとマイシぐらいが太刀打ちできそう。あと……。
「ヨネ校長…………」
チラッと操縦席にいるヨネ校長へ見やる。
「ヨネ校長さんはスーパー聖剣持ちですが、終始防御役デース」
「そっか。すげーバリア張れるもんな……」
「そういう事デース」
オレは知っている。いざとなれば隕石すら阻む力がヨネ校長にある。戦えば強いかもしれないけどアメリカで被害を出さぬよう、最高の防御布陣として任せる事になっていたぞ。
そうこうしている内に日は傾いて、ついに夜となった。
夜空の星々を見上げながらノーヴェンと会話を続けていた。オレの側にヤマミが佇んでいる。
「……不思議と動かないなぞ?」
「ナッセ君の話だと総統継承式のヤミザキはやや焦っている印象でしタ。逃すまいと学院まで飛んできても良さそうデスが、妙ですネー」
思ってみれば、ヤミザキはオレの体を器にしようとフライングしてまで速攻で儀式を行うほどだ。でも今は驚くほど動きがない。
「諦めた……?」
「イエ、それはありまセーン。何らかの準備をしていると考えていいでショウ」
「あー! 諦めて大人しくしてくれりゃいいんだけどなー」
そう思いたかった。だがノーヴェンは首を振る。
「大掛かりに日本を支配しておいて諦めるとは思えまセーン。引き続き警戒を頼みマース」
「おう」
ヤマミの頭がウトウトし始めている。
こちらに寄りかかって重みがズシリ来ている。今まで独りだった反動か、いつもくっついてくる。
ノーヴェンは察してか「二人ともゆっくりお休みなサーイ」と去っていく。「ありがと。おやすみー」と返すと、手を振ってくれる。
そういや最初は彼もヤマミの事好きだったっけな……。
「つーか、ヤミザキ何してるんだろ?」
ガシャン! 落ちたポッドが床で割れて液体が飛び散る。
「ヤ、ヤミザキ様ッ!!」
第一子コクアが慌ててドアを開けて書斎に踏み込む。
すると目の前の光景に思わずハッとする。ヤミザキは前屈みにゴホゴホ咳き込み、その足元におびただしい鮮血が広がっていた。
震える手で机に付き、立ち上がろうとする。それをコクアが慌てて肩を貸す。
「……済まんな」
「いえ! でも病を……??」
「いや。刻印の効力をパワーアップさせる為に命を代償にした。よってこの体はもう長くない。だからこそ新しい『器』を手に入れねばならん……」
ゴホゴホと咳き込み、当てた手に血が染まる。
「なぜ、そこまでして……?」
「……本来なら質問など聞かぬと、いつもの嫌われ役に徹しようと思ってたのだがな。私も弱気になったものだ。それでも聞くか?」
「それはぜひ……」
ベッドの上に腰掛けてヤミザキは震えながら自嘲する。
「前から何度も言った通り、再び異世界へ挑戦するためだ……」
「ヤミザキ様!!」「ヤミザキ様ちゃん!!」
今度は第三子ダグナと第二子ブラクロが駆けつけてきた。肩で息を切らしている。
「む?」
「許可なく書斎に踏み入れて失礼します! それよりその状態は!?」
「一体何があったのよ……?」
厳ついダグナも冷や汗で青ざめている。ブラクロも怪訝と床に染まる血に目が行く。
「総統様はある目的のために寿命を縮められた!」
「コクア殿!」「コクアちゃん!」
振り向いているコクアの元へ二人は歩き寄った。
「フフッ、どれだけ冷徹に扮しても慕ってくれるとはな」
自嘲するヤミザキ。コクア、ダグナ、ブラクロは俯いたまま沈黙している。
自らの野心のために我ら子供を突き放すように厳しくし続け、至高の『器』として育ててきた。もしそこに愛情を持てば犠牲にできなくなる。
だから嫌われる事で、ヤミザキは大所帯を有しながらも自ら孤独を貫いたはずだった。
「分かりますよ……。ただ単に傲慢な王様風に気取っていない事くらいは!」
「うむ! 吾輩も冷徹な仕打ちに私怨を抱いた時期もあった。だが総統様はそれも構わぬと捨て置いてくれた。いつも「失敗すれば命はないぞ」と言いながら、失敗しても「殺す価値もない」と見逃してくれた!」
「ええ……。いつもそうだったわ……。あなたって悲しい目をしてるのね……」
ヤミザキは「ははははっ」と笑った。
「……どんなに暴君を気取っても子供とは敏感なものだな。恨んできた人も多かったが、これまでにも何人か私を慕いながら先に老いて死んでいった者もいた。それを抱えながら私ははるかな昔から生きてきた」
「ヤミザキ様……」
「うぬらなら、語ってもよかろう……」
かつてヤミザキは若い頃は血気盛んで剣を振るっていた。
気になる女性もいて、そして親しい友や仲間がいた。充実していた。ふとした所で『洞窟』へ挑戦した。何度か繰り返す内に別世界へ繋がっているのを知った。
念頭な準備をして、異世界へ訪れた。
だが異世界は地獄だった……。
太刀打ちできないような強力なモンスターが闊歩していて、更に恐ろしい毒や幻を仕掛けてくる動植物もそこらじゅうに蠢いている。おぞましい呪いをかけてくる死霊もさまよっている。
それに加え、重力が強い地帯や灼熱地獄の湖など劣悪な環境もあった。
黒いまだら模様の巨大竜が「シャオオオオオオオ!!」と咆哮で周囲を震わせ、威圧の余波が吹き荒ぶ。
吐き出す黒い玉が軌道上の全てを飛沫に吹き飛ばす。
────圧倒的だった。たった一匹の竜で、大勢の仲間の命が散った。
「お前ら逃げろ!!」
「ここは俺たちが引き受ける!!」
ヤミザキは無念の想いで、側の女性の手を握って走り去った。
心の中で「許してくれ許してくれ許してくれ」と何度も必死に連呼。息も絶え絶えに静かな所へたどり着けた。
はぁはぁ、と息を切らし悲愴に打ちひしがれていた。
「…………また……見捨てた」
「いいえ」
女性は首を振り、泥で汚れた笑顔を向けた。
「あなたは多くの命に支えられて生きながらえたのです」
「支えられて……?」
「ええ。逃げろって言ってくれた仲間もあなたにはもっと長く生きて欲しいと願っていたでしょう。決して恨んでなんかいませんよ」
優しい手がヤミザキの頬を触れる。
切羽詰っていた緊張が解れ、愛しい想いが湧き上がっていく。
「ヒカリィ……!」
ヤミザキはポロポロと涙を流す。
異世界から帰還を図るも、行く手を阻む悪魔のような妨害でヤミザキとヒカリはボロボロになっていく。
身も心も限界だった頃、とある遺跡にたどり着けた。
もはや逃れられぬのならばと、秘法に望みをかける事にした。
ようやく遺跡の奥底へたどり着くと、床で淡く灯る魔法陣と中心部のドラキュラを象った像の不思議な広場に出た。
魔法陣を取り囲む光は薄い壁だが、何者をも拒む強力な障壁だ。
《主らの大切な者の魂を捧げよ! さすれば秘法を授からん!》
どこからか聞こえる声に、ヤミザキたちは絶句した。
「くそ! ここまできて……!」
「ヤミザキ」
諦めるしかないとヤミザキの気持ちは絶望に沈もうとしていた。
すると一歩前へ出たヒカリが優しい微笑みで振り向いてきた。ヤミザキはハッと察する。しかし遅かった。
「あなただけは生きて…………!」
微笑んだままヒカリは障壁に触れ、眩い光が広がった。
じゅうっと溶けていくように彼女は光飛礫となって四散していった。そして障壁は弾け散った。
《その方の大切な魂は確かに戴いた。故に望みの秘法を授けてしんぜよう……。像に触れるがいい》
「ヒカリィィィィィィィッ!!!!!」
とめどもない後悔と悲しみに溢れヤミザキは慟哭した。
たった一人残された彼は一歩一歩進み、ついに像へと手で触れた。
すると赤い『刻印』が手の甲へ流れ出してくる。同時に頭の中にその扱い方が流れ出してきた。
ヤミザキは怒りのままにギッと形相を見せて、目の前の像を粉々に砕いた。
それから幾度なく複数の世界を渡ってきたが、どこにもヒカリはいなかった。
その後、数百年も長い時間を過ごしてきた。
胸にポッカリと空いたような虚しさを感じながら…………。
「……こうして一人無様に生きながらえてきたのだ。笑いたければ笑うがいい。咎めはせん」
ポタポタと涙が床に滴り落ちて、ヤミザキはハッと気付く。
コクアたちは震えながら涙を流し「そんな事はございません……」と自分の事のように悲しんだ。
書斎の外で第四子ライクと第五子カゲロも嗚咽。
「なぁカゲロよぉ……!」
「ああ。分かっている。ライク!」
コクア、ダグナ、ブラクロも息が合ったように頷く。
「一緒に異世界へ行って、取り返しましょう!! 最愛のヒカリ様を!」
あとがき雑談w
四首領ヤミザキ「若い頃というのは懐かしいものだな……」
若い頃のヤミザキは、七三分けのややロン毛の黒髪の少年。
彼は元々は闇属性の『剣士』で、危なげな直情的で周りをヒヤヒヤさせていた。
ヤミザキ「フフ、よろしくな。異世界でも俺はこの剣を轟かせてやる!
裂かれて沈め! 漆黒の滅殺剣!!」
四首領ヤミザキ「それ止めてくれんかね……。痛いのだが」(恥)
ヤミザキ「てめーだって降魔滅殺剣とか名付けてんじゃねーか!」
四首領ヤミザキ「…………」(´;ω;`)
ヒカリは金髪ツインテールでオフショルダーのワンピース。長ニーソとロンググローブで手足を覆う。回復系を得意とする光属性の『僧侶』だが、棒術で戦うのも得意な創作士。
底抜けに明るい性格で、みんなの癒しになっていた。
ヒカリ「なーんか自ら生け贄になったヒカリでーす!」
ヤミザキ「なんで勝手に突っ走るんだよ! いつもは俺が突っ走って世話焼かせたのに、今回は逆じゃないか!」
ヒカリ「だってさーしょうがないじゃね! 全滅だよ? 嫌じゃん?」
ヤミザキ「う……!」
ヒカリ「さて、四首領となったヤミザキの姿は……?」ひょい!
ヤミザキ「止めろォ!! そいつは黒歴史ィィ! 止めてくれェ!!!」
四首領ヤミザキ「……黒歴史とか私傷つくのだが?」(´;ω;`)
ヒカリ「あっはっはっはw いーじゃねw いつもの厨二病を余計こじらせただけじゃねw 二人とも全然変わらないよねw」
二人のヤミザキ「ガーン!!!」∑(´Д`;)∑(´Д`;)
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