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150話「フライング総統継承式!」

 ────八月四日、火曜日。



 ぞろぞろ……ぞろぞろ……ぞろぞろ…………。


 不気味なほどに日本各地から大勢の人が無表情のまま足並みを揃えて、とある場所へと集合していく。

 彼らの目に夕夏(ユウカ)家の家紋が浮かび、手の甲に赤い刻印(エンチャント)が灯っている。



 大阪の中心に塔とも思える巨大なドームが聳えていて、その大きさは最大級。

 復興を建前に、ヤミザキはこうした日本征服の象徴となる建造を企んでいた。これまで大規模侵略によって誰もが余裕を持てなくなっていた隙を突いた形だ。


 人造人間大侵攻でさえも、この為の布石でしかなかった。

 多くの人々を利用して踏みにじってまでヤミザキは我が野望のために邁進し続けていく。



「────という事デス」


 話し終えて、ノーヴェンのメガネが光る。



 翌日の五日、学院へ緊急招集されて、話を聞かされたオレたちは呆然としていた。


 何も知らずに毎日を過ごしていたっていうのに、彼はちゃんと気付いていた。

 そしてヨネ校長も真剣な顔で一歩踏み出す。


「にわかに信じられぬと思うが、それほどまでに四首領(ヨンドン)ヤミザキの野心は深淵よりも深く、そして恐ろしい程に黒く貪欲じゃ。そして何らかの方法でパワーアップして日本をも掌握した……」

「でなければ、とっくの昔に日本は落ちてましター!」


「大阪どころか日本を……!? ここまでとは……」


 青ざめて震える。

 これまで歩んできた並行世界(パラレルワールド)では、こんな結末はなかった。

 モリッカとフクダリウスの犠牲によってヤミザキを打ち倒せたから、今後の展開は起きなかった。だからこうなるとは……。


「ナッセ大丈夫?」

「あ……!」


 ヤマミの声で我に返った。動転してて頭が真っ白になっていたようだぞ。


「だ、大丈夫……ぞ」


 息が苦しい。ヤマミは慌ててオレの背中をさする。

 と言うのもマイシすら「くそったれし……」と悔しそうに歯軋りするくらい、各々は自分の無力を感じていた。

 現実、このアニマンガー学院を取り囲む人々がじっと無表情で見上げていた。

 洗脳されているとはいえ、相手はただの一般人だ。これまでのように薙ぎ倒していくワケにはいかない。


「一ヶ月前のノーヴェン君の進言によって、邪悪なる者を近付かせない結界を張り続けていたのが幸いじゃ。おかげでここにも紛れ込んでいるという事はない」

「だ、だがこれでは……籠城するしかない!」


 冷や汗いっぱいのフクダリウスはそう呟いた。ヨネ校長も頷く。


「なので策を()()()()()()考えておきましター」


 ノーヴェンは不敵な笑みで、立てた人差し指をチッチッチと揺らす。

 こういう時、彼の頭脳が頼もしく思えた。



城路(ジョウジ)ナッセ殿! そろそろ『総統継承式』へ参られよ……!》


 どこからか威圧こもる声が響く。

 思わず竦んで膝がガクガクする。ヤマミは「落ち着いて」と寄り添ってくる。

 エレナが「あー! ずるいッ!!」と背中から抱きついてくる。

 ……そんな気休めでも、安心できた。


 学院を囲んでいた人々は道を開けて、その先に黒い渦が広がった。


城路(ジョウジ)ナッセ殿一名のみ、入るがいい……》



 その声に愕然とした。


 一人で来いと脅迫してきているようなものだ。

 ノコノコと行けば体を乗っ取られて終わりだ。ヤツは日本中の人々を支配するほど強い執念がある。手段は選ばないだろう。

 押し潰されそうなプレッシャーで胸の鼓動が激しい。


「ヤマミさん、時空間同調できますカー?」

「ええ! もちろん!」


 ヤマミは黒マフラーとフードを具現化して身に纏う。足元に黒い花畑を広げ、背中から二枚の黒い羽を浮かす。目の虹彩に三日月のマークが浮かぶ。

 向こうの黒い渦を凝視し、側に黒い花びらで渦を巻きながら時空間の穴を開けていく。


「ナッセ大丈夫!! こちらで向こうの時空間とリンクできた。私も行くから!」

「お、おう!」


 ヤマミと頷き合う。不安だったが、彼女なら必ず助けてくれる。そう信じれる。


「ナッセ君。ノーヴェン君の策を、そして共に歩んできた仲間を信じなされ」

「ああ!」


 ヨネ校長に言われると、なんだか勇気が戻ってきた。

 ヤマミたちに見送られながら堂々と学院を出て、人々の空けた道を歩いて黒い渦へと飛び込む。ズッ!


 同時にヤマミも黒い花吹雪の渦に包まれて消えた。

 ノーヴェンとヨネ校長は無言で頷き合う。教室がガシャガシャと変形を始めて行く。




 大勢の歓声沸く、超巨大ドームの中心に降り立つ。

 周囲を囲む城壁のような高い壁。そして階段のような座席は大勢の人々で埋め尽くされている。祝うように紙吹雪が舞い続ける。

 ────孤立無援。オレ一人だけが床の魔法陣の上に立っている。


城路(ジョウジ)ナッセ殿。我が夕夏(ユウカ)家ドームへようこそ!」


 声の方へ見上げると、ベランダみたいな高台にヤミザキが豪勢なマントを纏って現れてきた。不敵な笑みで重々しい威圧を漲らせている。

 その風貌に息を呑む。膝が震える。


「でよ……、オレが候補なんだろ? 他の候補いないじゃないかぞ?」

「もう選別など必要ない。我が王子たちも承知済みだ」


 ヤミザキの背後から王子たちが揃い踏みと現れた。いずれもただならぬ猛者(もさ)の威圧を感じる……。

 しかし、最初(ハナ)っからオレの体が狙いだったのかぞ……。



「では継承式を始めよう!! 貴様の器を貰い受けるぞ!」


 全身を刻印(エンチャント)で埋め尽くしヤミザキが手をかざすと、魔法陣が赤く輝き、光の帯が高く伸びていく。

 そして周囲から血管のような屈折する幾重の筋が這い寄ってくる。それはオレの足元に絡みつき、じわじわと下半身から這い上がってくる。


「う、うわあああああああああああ!!!!!」


 怖気走る赤い浸透が体に入ってくるのが分かる。

 ヤミザキをチラリと見ると、してやったりという笑みで憎たらしく思えた。だが!



「なーんちゃって!」


 怖いのを堪え、余裕と笑んでみせる。

 大の字に手足を広げ、パァンと刻印(エンチャント)の侵食を弾き散らす。それは宙に溶け消える。


「な、なに……!?」


 驚きに見開くヤミザキを見て、なんかスッキリした。


「バーカ!! 見て分かんねぇかぞ? 先にこれを剥がさないとな!!」


 と、星のマークが浮かぶ青白い刻印(エンチャント)の拳を見せた。そしてヤミザキへ指差した。

 ヤミザキは「ぐぬぅ……!?」と顔を歪ませる。


 なーんてな。実は妖精王の力で弾いただけなー。

 以前、ヤマミから付けてもらった夕夏(ユウカ)刻印(エンチャント)を、マイシ戦で一瞬妖精化して知らずに除去した事があった。それと同じ。妖精王となったオレにそんなもん効かねぇ!

 ……某漫画のようにベラベラと正直に理屈を暴露せず、オレの刻印(エンチャント)の仕業だとミスリードするように言ったのもノーヴェンの策の一つ。



 ズドオオオオッ!!


 大地を震わせながら闇の火柱を噴き上げて、ヤミザキは巨大な『偶像化(アイドラ)』を具現化し憤怒の形相で歯軋り。


「……ならば! この場で引き剥がしてやるッ!!」

「ひょえええ!! マジびびる!! 怖ぇーよオッサン!!」


 わざとらしくオーバーリアクションする。マジで怖いけど!



「早くナッセェ!!」


 途端に黒い花吹雪の渦を広げ、現れたヤマミが手を伸ばす。慌ててそれを掴む。そして渦の中へ引き込まれた。

 その後、黒い衝撃波が炸裂。ドームの中心から飛沫を高々と噴き上げた。


「う……、またか! おのれェッ!!」ギリッ!


 またしてやられたと、ヤミザキは憤りが収まらずはらわた煮えくり返る。激怒の唸り声に、王子たちも畏怖で引き気味だ。




 学院の教室、と言うか既に司令室に変形済みの所へ黒い花吹雪の渦が発生。飛び出たオレとヤマミは流されながら着地。ザッ!


「ふう……助かったー」


 なんか寿命縮んだ思いだぞ……。

 エレナが喜んで抱きついてくる。リョーコも駆け寄ってくる。


「わー!! よかったーよかったぁー!!」

「ふう、ハラハラしたわよー」


 エレナちゃん、くすぐったい。でも無事帰れて良かった……。

 なぜかヤマミがエレナにチョップかましていた。ぺしーん!



 囲んでいた人々がいなくなった今がチャンスと、ノーヴェンはメガネを煌めかす。


「今デース!! アニマンガー学院の起動を!!」

「うむ! 了解じゃ!」


 大きな操縦席でヨネ校長は頷いた。

 カタカタと半透明モニターのキーボードを叩き、何かレバーを引く。すると浮遊感がした。


「え? えええー?? 学院浮いてるー!?」


 そう、地下部分も含めて学院自体がボコッと宙に浮いたのだ。

 ガシャンガシャンとスフィンクスのような形状へ変わっていく。それ見た事あるような……。


「創作戦艦アニマンガーホース発進ッ!!」くわっ!

「そういう名前ぇぇ────ッ!!?」


 オレたちは全員目を丸くして叫んだ。


 急激な上昇で、地上の街並みがグーンと遠ざかっていく。

 そのまま巡航高度に達した後、白い雲上を飛行機のように水平飛行。たゆたう雲の隙間に大地や青い海が窺えた。


 いや、そんな航空機能が……?

 つーかアニマンガー学院って何なんだぞ? 地下の施設もそうだけど、こんなギミックは一体何の為に??



「そ、それはいいけどぞ……。わざわざ危険を冒してまで総統継承式へ行く意味あったのかぞ?」


 気を紛らわす為に、ノーヴェンに気になった事を聞いてみる。


「ええ、洗脳された人々とヤミザキが集合してフライング継承式を行うのも想定済み。敢えて大人しくドームへ行ってもらって注意を引く必要がありましター」


 確かにハナっから候補たちで悠長に選別を行う気はなかったな。


「そして誤情報を与え、()()を仕込んでから帰ってくる必要があったのデース。さて仕込みましたカ?」

「あ、ああ。仕込んでおいたぞ。……しかしなぜ嘘の情報を?」

「ユーが妖精王だと分かったら、継承などせず本気で抹殺しにくるでショウ。上位種族である妖精王を、四首領(ヨンドン)とはいえ人間ごときが乗っ取れませんからネー。

 これで戦いは少しでも有利になるかもしれまセーン」


 ははぁ、そういう事かぞ。

 オレに「妖精王に変身してはいけまセーン」と策の説明の際に釘を刺してきたのはそのワケか。

 これならヤミザキは全力で大規模破壊とかできないなぞ。勢い余ってオレを殺してしまったのでは器が台無しだ。

 ノーヴェンさん、すげー頭いいな。

あとがき雑談w


ヨネ校長「即席ゆえ、細かい事つっこまんといてねw」


『戦艦アニマンガーホース』

 スフィンクスに模したクリーム色の戦艦。頭部分が操縦席を含む司令室である。

 様々な部屋があり、生活出来るだけの必要なものは揃っている。

 収容人数は約500人。魔法炉最大MP(マジックプール)約1000万。


 主な武装。

 連装光子砲。連装光子主砲。連装機関光子砲。アニマンガー超光子主砲。自律極小飛行光子砲。

 普段は格納されていて無害そうに見えるが、臨戦時に出てくる。

 さながらデカい弓兵(アーチャー)


 他の機能。

 六角形型光子壁(バリア形成)。装甲魔力コーティング。破邪結界。察知(サーチ)レーダー(約50km)搭載。放射線完全防御仕様。温度、気圧、換気、空調など環境操作。重力制御装置。自動修復機能。時空間転移装置(ワープ)。

 ……その他色々。


 かなり大昔に製造された飛行戦艦。目的は謎。使われている合金は地球の材質ではないと判明している。

 概要石版の古代語に「ノリで製造しちゃった実用性皆無のロマン艦。緊急用としてならイケるかも」と記されているとかなんとか……。


アクト「おいおい版権スレスレのグレー戦艦出していいのかァ……?」



 次話『向かう先は、国外の懐かしい仲間との再会!?』

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