14話「恐るべき魔法? まじかる大爆裂!」
────大阪刑務所。囲いは厳粛な塀に鉄柵の門。その広大な土地の中心には立派な二階建てのコンクリート造の建物。
嬉しそうにモリッカが誘ってきた場所だぞ。
理由は分からないが、何か起こるようだぞ……?
「あ、そろそろですよ」
すると、ポタポタと滴る音と共に例の黒い円が刑務所を中心に広がっていった。今回は複数の円が重なり合って辺りを混沌の世界に変えた。
立派だった刑務所も、ここでは廃墟のように黒ずんだボロボロの建物だ。
エンカウント現象が起きると元あった世界と同じ地形で切り替わるが、何故荒廃した風景になっているのか未だ分からない。ちょい気になるが、今はどうでもいい。
「お、おお! やっぱり改心しない悪人は全然懲りないから、いいですねぇ」
まるで目を輝かせた子供のようにモリッカは、廃墟の刑務所を見てブンブンと拳を振っている。
まさか向こうの事情が分かるのか……? 気を感じているってことじゃないよな?
次第にグチョグチョ、ガシャガッシャン、歪な音が聞こえる気がした。
嫌な胸騒ぎで心音が高鳴っていく。リョーコもビビってかオレの後ろへ隠れる。
刑務所の屋根が部分的に噴火するように弾けた。そして飛び出す人影。それはダンと刑務所の門へ降り立ち周囲の地面を陥没させた。鉄柵もひしゃげて形無しだ。
「ぐるる……」
縞々の模様の服を着た猿のような大型モンスターが四つん這いでこちらを睨んでくる。
「まさか……」
「はい。そうです。受刑者がモンスター化したのですよ」
「がるっ!」
飛びかかる罪人モンスターをモリッカは笑顔のまま余裕綽々で裏拳一発。
凄い勢いで吹っ飛び、刑務所の塀にグシャアとめり込み周囲が陥没。ゴフッと吐血し首を垂れた。ボシュン、と煙に溶け消えた。
まるで手馴れた様子でモリッカは片手間でモンスターを一蹴したのだ。
リョーコと一緒に呆気にとられる。
もう魔道士じゃないなと、二人の思考は一致した。
いくらなんでも身体能力強過ぎる。自分のように魔法で強化したわけでもなく、純粋に素の身体能力で……。
もしかしたら例のカタツムリもワンパンで木っ端微塵に砕きそう……。
そうしている間に、いつの間にかぞろぞろと罪人モンスターが刑務所から脱獄していた。
それぞれ容姿は異なるが全て人型。だが気性と形状からしてもはや魔獣だ。
狼男だったり、オーガだったり、ゴブリンやオーク、時には肥大化した顔に手足が生えただけのもある。その数、数千体に上る。あの刑務所にそんな人数が収納されているのか甚だ疑問ではある。
「だが……数が多すぎるぞ!!」
「そこで僕の魔法が光ります! 見ててください! 火力には自信があるんですッ!!」
楽しそうなモリッカ。ようやく杖を取り出し意気高揚とかざす。魔法かどうかはさておいて。
「ぐるああああああああああああ!!!!」
一斉に敵意を剥き出しに咆哮を上げ、飛びかかる罪人モンスター。圧巻だ。大地を揺るがしながら大人数が津波のように襲い来る。
「くっ!」
複数の盾を等間隔で浮かし、更に光の剣で構える。その後ろで縮こまるリョーコ。
「ま~~じ~~か~~る~~」
モリッカは杖をゆっくり後ろへ引いていく。次第に光子が杖の先っぽに収束。急激に溢れるオーラが吹き荒れた。地面を揺るがし、周囲を旋風が渦巻く。ビリビリ……大気が震える。
迫るモンスターの大津波に、モリッカは目をキランとさせた。
「大~爆裂ゥ~~~~ッ!!!!!」
勢いよく杖を振り、先っぽを向ける。膨大なオーラの奔流が扇状へ解き放たれ、地面を抉りながら罪人モンスター全てを光の彼方へと押し流していく。轟音とともに大爆発が高々と広がっていった。その余韻で地鳴りが伝わってくる。
赤々とした光景に唖然。
「なに……これ……!?」
その時、師匠の事を思い出していた。
「これ教えておくけど、できる限り使わないでね」
まだ魔女クッキーに師事されていた頃だ。目の前に広がる数キロ範囲に及ぶ広大なクレーター。魔女クッキーが自ら実践したものである。
その容赦のない破壊力に驚かされた。初めて見た強烈なインパクト。忘れられようがない。体の底から震え上がるほど何か感情が駆け巡った。恐怖でもあったのかもしれない。感嘆だったのかもしれない。
これが人間の出せる破壊力なのか、と呆然するほどだった。
本人は「大爆裂魔法」と称していたが、詳しい説明を聞くと正式名称は『エクスパンション』で強化系補助魔法である。
なぜ大爆裂ってネーミングにしているのは破壊力が強調できてていいから、という理由である。
詰まるところ、魔法はそれぞれ一つ一つ効力が違い、そしてそれに必要な精神エネルギー量も決まっている。火の玉を生み出すためにMPから供給する量を2とする。それはレベルが上がって魔力が上がり威力が上がっても放出量は2と決まっている。不変なのだ。
だが、エクスパンションの補助魔法を併用すると、その量を増やす事ができる。2を10にする事で、その分だけ効力を爆上げできる。つまり意図的に火事場の馬鹿力を解放するようなものだ。
当然、それに対して体への負担が大きくなる。それで体を壊す事もありえる。最悪死ぬ。
最大MPの三分の一ぐらいに放出量を抑えて放つのが『人』として耐えられる限界量。それでも反動は大きいし連発もできない。目安として一日一発こっきりの大技として使うのが適切らしい。
師匠クッキーも、若い頃は結構無茶してたらしい。それ故に念を押されたのだ。
「これ、勘違いされる事が多いけど攻撃魔法じゃないからね。回復魔法にも補助魔法にも使える。どんなスキルにも応用できるってのが強みだね。まぁ放出量の制御が難しいから攻撃魔法で使ってるけど」
師匠は火、水、氷、風、地など各属性攻撃魔法で『エクスパンション』を使えると言っていた。だが、まさかオーラ技にも使えるとは思わなかった。
いやモリッカの場合は、普通に一つの超必殺技なだけかもしれないぞ……。
つか『まじかる大爆裂』って……。
なにこの無理矢理魔法にした感じのネーミング。杖を使ったから魔法だ、みたいな。
「どうですか? スッキリするでしょう?」
晴れ晴れとモリッカは両腕を広げてこちらへ向く。童顔で無垢な丸い目が余計恐ろしく感じた。無邪気な子供が平然と虫をちぎるような感じと似ている。
なにか指摘したり窘めたりすれば、矛先向けかねん……。こ、殺される……。
「わー!! 気持ちいいなー!!」
「ええ! す、すっきりしたわー!!」
リョーコと同じように両腕を振り上げて喜んでみせる。ははは……。モリッカは満足してにっこり。
「はぁ……疲れたな」
その夜。日本橋から帰ってマンションの自室へドアを開けようとする瞬間、黒い円が広がった。
なんで!? こんな時に! もう九時過ぎてるからゆっくりしたいのに!
フィギュアを包むレジ袋を片手に、恨めしい気持ちで光の剣を携え、睨みつける先に数匹のスライムモンスターが現れる。苛立ちで歯軋りした。
荒廃したマンションのドアが外側から派手に吹き飛ぶ。
「おおおおお!!!」
振るう剣によって描かれた光の軌跡が数度、数匹のモンスターを斬り裂いた。飛沫が散るように霧散。ふう、と息をつく。
周りを見ると荒廃した自分の部屋。狭い所で戦ったせいか、いつの間にか入ってしまったようだ。
荒廃しているとは言え相変わらず自分の部屋だ。だが傷んでいるのを見るのは良い気分ではない。
見慣れた自分の所有物もあったが少し違和感がある。……増えている。
散らばっている本は煤けていて端がボロボロ。自分が持ってないものもある。
作業机の上の汚れた原稿用紙が目に入る。
「……これは?」
自分が描いたのか?
確かに自分の作風で描かれた漫画の原稿用紙。描いた覚えのない漫画だ。心なしか自分より上手い。
時計を見やると針は三時三十五分で止まっていた。当然といえば当然か。
テーブルの上に卓上カレンダーがある。ドクン! 目を疑った……。
今は二〇〇九年五月二〇日。
でもこれは……二〇一七年八月!? ……未来!? ここは未来の世界なのか!!?
そして向こう側に見える棚の上のフィギュア。所々欠けていて煤けてはいるが、黄色い色調にポニーテールのキャミソール少女。それに見開き瞳を震わせ血の気を失う。
レジ袋を離しガランとフィギュアケースを落とす。
「ま……さ……か…………!?」
何故なら今日買ってきたはずのエキドナが、もう一つそこに!
あとがき雑談w
ヤマミ「こっそり後つけてたけど、なにあれ? 魔法とは呼べない破壊力ね」
スミレ「初めて見たよ~! なんか魔法を極大化させる補助魔法~?」
ヤマミ「か、帰りましょ……」コソコソ
モリッカ(あらあら~お二人さん帰っちゃうんですか~w)
ナッセ「どうした? 誰かいるのかぞ?」キョロキョロ
リョーコ「? 誰もいないよー?」
モリッカ(ヤマミさんってナッセさん好きなんですねぇw でも黙っときますねw
自分で告白しなきゃダメですしね~w)
次話『世界の違和感!? そして襲撃!』