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148話「夕暮れに眩しい笑顔!」

 語られたヤマミの真実に騒然とした。


「そ、そんな事が……!!?」


 ヤマミは頷く。

 ……事情を知らないコハク、モリッカ、フクダリウスたちにも、オレたちが辿った経緯(けいい)を説明した上での真実。

 並行世界(パラレルワールド)ごとに星獣によって人類を滅ぼされた事。

 そして『運命の鍵』による因子(いんし)でナッセが魔王化する事と、とりあえず今は大丈夫とも付け足した。


「それから、これは返すわ」


 ヤマミはオレのマフラーを手に、自分の黒いマフラーを重ねた。すると互いに繊維を絡ませて黒いマフラーは元の色に戻りながら一つになっていく。

 ……正直驚いたけど、元々は同じだもんな。ってかマフラー生きてるみたいだ。




 既に外は夜。フクダリウス、コハク、モリッカとはマンション前で解散した。


 三人が背中を見せて去っていくのを、ヤマミと一緒に見送った。彼らの姿が見えなくなっても、しばらく沈黙していた。

 気になってチラッとヤマミの方を見ると、こっちを既に見ていて思わずビクッとした。


「また一緒に寝ていい?」

「あ、うん……」


 ドキドキと胸が高鳴る。心地よい情欲が全身を駆け巡る。


 ……互いにすれ違って以来、何年も一緒に寝ていなかったっけな。




 灯りを消した暗い自分の部屋。オレは天井を眺めている。視界の片隅に窓の月が入っている。

 同じベッドでヤマミが側で横になっている。


「迷惑だった?」


 ヤマミへ振り向くと間近に火照(ほて)った顔が視界に入った。澄んだ瞳にハイライト。綺麗な顔立ち。艶かしい唇……。

 オレは「ううん」と首を振る。ヤマミは安心して口元を(ほころ)ばせる。

 いつも一緒に寝ていた時より、なんだか色が違って見える。


「でも久しぶりね」

「うん」


 安心させられる彼女の言葉。

 ギュッとオレの手を握ってくる。……温かい。

 そして一人寂しかったのもあってか、ずっと握ったままだ。魔王化しかけたオレの殺害を行わせて孤独にさせた罪悪感もあり、彼女がどのようにしてきても構わないつもりだった。

 すると、ふと思い返したように記憶が巻き戻っていく。



 ポジティブ一〇〇%の世界でのアマテラスの住まう雲上の白い城。そこでは流れ星降らすクリスマスツリーが一望できるベランダで、オレがアマテラス様と向き合っている場面が映る。


「想像を絶する過酷な運命になるでしょうが、決して絶望の底へ落とすものではありません! あなたが明るく輝くための最後の試練だと思っています!」


 ギュッとこちらを抱きしめてくる。

 思えば、これが魔王化する運命を示唆(しさ)していたんだろう。この時点でオレは知らずに詰みポイントに入っていたんだ……。

 一度でも鍵の力を使えば魔王化する一歩手前。


 とはいえ、決して気休めで言ってるんじゃない。慈しめる可愛い世界の子だからこそ、血の涙を飲んで信じてくれているんだと思う。

 きっとオレがそれを乗り越えて、先の未来へ切り開けられると……。



「それでは、()()()()()()()()()に一言────」

「え?」


 当時のオレにはその空白の時間は認識できなかったが、今は鮮明だ。



「いつも戦いや星獣の事で頭いっぱいでしょ? ずっと緊張してますよ」

「そ、そりゃ……瀬戸際の状況ですし……」


 空白が晴れた場面で、白い蝶々の群れが飛び交い続ける不思議な空間。アマテラスの背後から白い羽が十つ。そこから眩い後光が広がっていた。ついでに光輪もあって神秘的だ。

 今だから分かるけど妖精王の持つ完成されたフォースなのかもしれない。重厚な雰囲気を感じさせる。


「あんたたち若いんだから、ちゃんと青春しときなさい!」


 オレの鼻に指一本で触れ、優しく微笑んでくる。

 広がる仄かなぬくもり。まるで心が癒されて安心感で満たされる。そして視界は徐々に心地良い真っ白に包まれていく……。



 ハッと気付けば、薄暗い寝室に戻っていた。

 未だにじんとする温かい気持ちが余韻(よいん)として胸中に残っていた。

 眼前のヤマミはぐっすり寝入っている。安らかな寝顔だ。だが彼女の手はオレの手を握ったままだ。


 ……そうだったぞ。久しく忘れていた。


 ずっとオレは緊張してばかりだ。今後の瀬戸際な状況に切羽詰(せっぱつ)って心に余裕がなかった。

 思い返せばハワイへ行った時の感動だって、いくつもの並行世界(パラレルワールド)を渡ってきたのに、なにものにも代え難い感情だった。


 オレの好きな水着を着てくれた彼女(ヤマミ)とはしゃいで海水浴した事も楽しかった。それにアメリカで一緒に毎日買い物に行ったりと、何でもない日常も意外と充実していた。

 当たり前だと思って流していたが、本来は貴重な思い出となる心の財産。

 なんでもない他愛のない日常での思い出の積み重ねもまた、ヤマミと繋ぐ絆を強めていけるものなのかもしれない。


 戦いで仲間との絆を築いていく展開が漫画やアニメでもよくあるけど、そもそも戦いは日常起こせるものではない。

 それにあくまできっかけの一つでしかない。


「……ありがとな。アマテラス様」


 ────決めた!




 カーテンを開き、眩しい朝日が部屋中をぱあっと照らした。

 ヤマミは眠たそうにまぶたを擦りながら「うぅ……」と身を起こす。リフレッシュした気分を胸に!


「おはよ!」


 出したい感情を笑顔として発した。

 少し驚いたヤマミは「うん……、おはよう……」と眠気覚めやらぬ顔で頷いた。


 洗面所の前の鏡でヤマミと一緒に歯磨きした。ごしごし。



 そして温かいご飯、目玉焼きとレタスとウィンナーを朝飯として「いただきます」と二人で合掌。

 茶碗と皿を空にした後、コップのミルクを喉に流す。ごくごく。


「ごちそうさま」


 互いに合掌して、満たした腹に満足した。

 最後に全ての食器をキッチンで洗い終えて、ヤマミへ振り向く。


「東京ファンタジーワールドへ行こか!」

「え?」


 未だ横座りしているヤマミは目を丸くする。


「そんな事してる場合じゃないって思うけど、オレ考えたんだ。人生戦いばっかりじゃ気が休まらないだろ?」

「……うん」

「今日は日曜日だし、東京へ行こう。そして思いっきり羽を伸ばすんだ」

「ナッセ…………」


「オレはヤマミと一緒に遊びたい!」


 決意を胸にはっきりと告げた。しばしの沈黙。


 もうここはオレの元いた悪意と闘争まみれの世界じゃない。従って下心や打算で恋人と恋の駆け引きをする必要はない。恋愛は泥沼の戦いじゃない。純粋に恋して、共に歩んでいこうとするだけでいい。

 度々、意見の相違や気持ちのすれ違いもまたこれからあるだろう。

 だけど疑心暗鬼になったり、相手を責めたりする必要はない。どうやって共に歩めるか一緒に考えていけばいい。


「うん! 遊びたい」


 ヤマミは微笑んだ。そんな明るい顔がオレは見たかった。

 だって胸がポカポカしてくるから。




 晴天の最中、大阪駅で特急に乗り景色が流れていく。数時間ガタンゴトン揺れながら、青い海が見える景色を眺める。浜辺近くの街並みが通り過ぎていく。

 お菓子の箱を開けて「どうぞ」とヤマミに差し出す。

 少し気恥ずかしそうに「ありがとう」と箱の中のチョコを一個取り出して口に入れる。


「東京は行ったが事あるから時空間移動できるけど?」

「いい。こうやって普通に乗っていくのも風情(ふぜい)があっていいだろ?」

「それはそうね……」


 ヤマミはあまりにも人間からかけ離れた事をし続けてきた。

 オレを殺して以来、悲しみのあまり心を闇に沈め、効率よくなすすべき事を最短でやってきた。

 とある『事件』で肉体を失いながらも、最後まで孤高の精神生命体(アストラル)として生きてきた。もはや心に余裕などありはしなかった。


 非常に高い戦闘能力でありとあらゆる障害に一人立ち向かってきた。

 引き裂かれるような心の傷を抱えながら、それでもオレへの想いを胸に未来へ独り歩み続けた。


 もうオレと会えないと陰鬱(いんうつ)になりながら寂しく…………。



 だからこそオレが人間の生活へ引き込むんだ。

 やらかした失敗への償いでもない。ただ純粋にヤマミにもオレと一緒に普通の生活を楽しんでもらいたいだけだ。


 昼を過ぎた頃に弁当を二人で食べ、他愛もない会話を繰り返す。

 そうしている内に、硬いのが抜けてなかったヤマミの顔も随分柔らかくなってきた。




 眼前に広がる大きなメルヘンな城で模した遊園地。


「着いたぞー!! ファンタジーワールドォォォ!!」

「ふふっ」


 オーバーなリアクションで両拳を振り上げて明るい声を吐き出し、ヤマミは吹き出した。

 混むほど多くの人で人気の高さが窺えた。

 黒い猫耳が大きく、ひょうきんな笑顔をしたデフォルメされたネコ人間が「ようこそこんにちは」と手を振っている。


 元いた世界じゃ着ぐるみだったけど、この世界では違うと思う。多分。



「あっつ……」


 休憩所のトコで大きなネコの顔を脱いで、オッサンが舌を出して息を切らすのを目の当たりにしてしまう。

 こちらにハッと気付いてかぶりなおす。

 そして無理に大げさなポーズで手を振る。


「は、ハロー!」

「あ……お疲れさんです」


 ここでも着ぐるみだったー!!




 複雑に入り乱れるレールを高速で走るジェットコースター、模型の馬に乗って回転するメリーゴーランド、右往左往とブランコするバイキング、建物の中のレールを進むダークライドなどアトラクションを思う存分楽しみ、その刺激を身に味わって開放された気分になった。

 今まで辛かった事なんて忘れてしまうくらい心が晴れ晴れになっていく。


 赤々とした夕陽の下、ゆっくり上昇していく観覧車の中でヤマミと一緒に遠のいていく地上を眺めていた。


「こんな事……なかった…………」


 ヤマミは肩を震わせて涙を流す。その背中をさすってあげる。

 辛くて悲しいからじゃない。楽しすぎて感動で溢れているんだ。何も考えず楽しむ事だけをやっていく。それが幸せすぎた。

 おかげで(よど)んでいた心が一気に晴れたんだ。


「またこれから行こう! また一緒に楽しもう!」


 心からの笑顔でヤマミに言う。

 涙を拭って「うん」と頷いて微笑んでくる。そして二人で「ふふふ、ははは、あはははははっ!!」と明るく笑いあう。


 夕景に映える二人の笑顔がより眩しく輝いたのだった……。

あとがき雑談w


リョーコ「ナッセーおはよー!」


 明るい笑顔。金髪おかっぱ。そして揺れる大きな胸。


ナッセ「おはよう。月曜日からハイテンションだなぞ……」

ヤマミ「おはようございます」(他人行儀)

リョーコ「なんかヤマミちゃん、冷たいんだけどぉぉ?」(泣)

ヤマミ「気のせいです」プイッ!


エレナ「ねぇねぇ! そんな事よりナッセちゃん誘ってよっ!」

リョーコ「あ、そうだった! ナッセー、一緒に夕夏(ユウカ)家殴り込もー!」


ナッセ「だが断る!!」

ヤマミ「同じく」


リョーコ&エレナ「ええー! なんでよぉー!」(>_<)(>_<)


ヤマミ「今日から学校でしょ! サボらない!」(開き直って生徒会長風)

リョーコ&エレナ「ぶーぶー!」(>ε<)(>ε<)


 マミエの事が気になるからとストレートで誘ってきたらしい。

 そう思うと相対的にマイシの方がまだ知性的に見えてしまうなぞ。



 次話『追憶編はこれで終幕! 次は四首領(ヨンドン)ヤミザキと決戦ぞ!!』

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