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147話「ヤマミの追憶……!? 後日談」

「ヤマミが死んでいる…………!?」


 マンションのナッセの部屋で狭いながらも一同は集まっていた。

 ウニャン、ナッセ、ヤマミ、マイシ、モリッカ、コハク、フクダリウスはベッドの上のもう一人のヤマミを見下ろす。息はしていない。右手の赤い刻印(エンチャント)は『死』の文字で禍々しく刻まれていた。

 おそらく先ほどの撤退でヤミザキはヤマミを用済みと判断したのだろう。


 気付けばヤマミの『分霊(スクナビコナ)』は消えていた。



「……ってか遠隔からでも殺せるんだな! ヤミザキめッ!」くっ!

「大丈夫」


 悲哀に暮れるオレの肩に手を置いて、ヤマミが一歩出る。

 赤い刻印(エンチャント)にヤマミは指で触れ、黒く上塗りしてパラパラと粉々に剥がしていく。そして今度は心臓部に掌を向ける。

 すると眩い光を放って、胸に鍵穴のマークを中心に魔法陣が浮かび上がった。


 ガション! と鍵穴の形が変形して、魔法陣ごと掻き消えていく。


「こうなる前提で、僅かながらに私の一部を忍ばせて陣を敷いていた。表向き呪いなどで殺せたように思わせつつ、それらを弾いて仮死状態に切り替えておいたわ」

「って事は……まだ生きて!?」

「ウウム……。そのような力が!?」

「これは…………人間のなせる技じゃない……」


 フクダリウスとコハクも息を呑む。

 なぜかマイシは大人しい。目を逸らしたままで気まずい様子だ。殴り込んで返り討ちに遭った事を気にしているようだ。



「それから、今の私は『精神生命体(アストラル)』。既に肉体を失っている身」

「え!?」


 思わず驚いてヤマミへ顔を向ける。

 そうか、それで心臓の鼓動が感じられなかったんだな。抱いた時、柔らかくて温かい感触は本物の肉体と変わらなかった。そのように具現化していたのかぞ?


「でもなぜ死んで……?」

「その話はまた後。そろそろ継承の儀式を行う。体を持たぬ私ではなにかと不都合があるわ。

 それにナッセの転生がもうない時点で、このヤマミで最後になる」


 告げられた言葉に息を呑む。ヤマミは目をつむって首を振る。


「元々、このヤマミと私は同一人物。たどってきた時間と記憶に相違があるだけで、自分自身そのもの」


 ヤマミの下半身がパラパラと黒い花吹雪に分解されていく。

 それは寝ているヤマミへ螺旋を描くように吸い込まれていく。徐々に分解が進み、黒マフラーがふわっと落ちていく。


「ヤマミ……!」

「心配しないで、元々のヤマミへ戻るだけ」


 オレの顔を察してか、心配させないようにと優しくクールに笑む。そして顔までパラパラと花吹雪に分解。一片残らず寝ているヤマミへと吸い込まれていった。

 静寂の間を置いて、しばし見守る。




 ────とある暗黒の世界。ここはヤマミの深層心理である精神世界……。


 前世のヤマミは闇の海を進み、未だ眠っている今世のヤマミを見つけて手首を掴む。すると今世のヤマミはその拍子に目を覚ます。


「あ、あなたは……?」

「私もあなた。あなたも私」


 繋がれた手から、今世のヤマミの脳裏に濃密な記憶が流れていく。

 元いた並行世界(パラレルワールド)でナッセと会って初恋した事。父であるヤミザキに用済みで殺されて、次の世界でまた会って喜びを分かちあった事。

 ハワイへ駆け落ちし、アメリカで奥義を一緒に努力して完成させた事。


 ……星獣との繰り返す滅亡の悲劇。

 ナッセをこの手で殺した惨劇。


 そして感涙して心が震えるほどのナッセとの奇跡の再会…………。



 流れるような記憶の最中、二人のヤマミは互いに引き合っていって体が徐々に重なっていく。

 思考も心も魂も通じ合って、二人は納得したように笑む。


「私はナッセと」「一緒に異世界へ……」「行く!!」


 共に同じ熱く想う気持ちで二人は一人へと融合していき、放射状に眩い閃光を広げていく。




 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!


 心臓の鼓動が聞こえ始めた。

 頬に赤みを帯び、生気が宿る。指がピクピクッと震える。しばししてから上半身を起こす。


「……う」

「ヤマミ! そんな急に起きてだいじょう……」


 ヤマミは掌を差し出して制止。頭痛がしたように額に手を当てる。

 すーはー、すーはー、深呼吸を繰り返す。


 ナッセの方へ「いいわ。もう大丈夫……」と微笑む。



「うわー! マジで生き返りましたよー!! すっごい! すっごいー!」


 目をキラキラさせてピョンピョン飛び上がるモリッカ。コハクは目を丸くする。


 そしてマイシは唖然とする。

 先ほどナッセとヤマミの妙な話についていけなかったが、実際に目の当たりにすると『転生』というのを確信する。

 そして脳裏に幾度かナッセと衝突してきた記憶がよぎった……。


 ドクン!


《もう前世の記憶のサルベージが済んだみたいだね。さすが上位の精神生命体(アストラル)であるドラゴンだね》


 ウニャンはそんなマイシを見てフムフムと勝手に納得していた。



「ごちゃまぜの記憶が落ち着くまでしばらく時間がかかるわ。でも本当、ここでのあなたとの付き合いはそんな長くないのに、随分長く付き合ってきた濃密な感覚があるわ」

「ハワイへ駆け落ちした事も?」

「ええ……、あの時は悪かったわ。ごめんなさい。極端だったわ」


 ヤマミは俯く。


「ううん。もういいよ。でも無事で良かった」


 屈んでヤマミを抱きしめる。確かな温かい感触に生きている鼓動。

 ヤマミもまたオレの背中に両手を回してギュッと抱きしめてくる。なんだか胸の内から情欲が熱々と……。


《イチャつくのは後にしてくれないかな?》


 ウニャンの冷静な言葉にハッとして、思わず互いに離れた。

 気付けばフクダリウスたちが注視してくる。なんだか視線が痛い。やっちまった。


「もげてください。もげて」


 なんかコハクがジト目でボソボソなんか言ってるぞ……。

 つーかイケメンなんだから妬まなくてもいいのに。


「コハクジェラシー! コハクジェラシー! みっともなぁい」ケヒャッヒャ!


 コハクの周りをグルグル周回しながら、からかうモリッカ。

 耐えかねてか二人は取っ組み合いのケンカになって、どったんばったん騒々しくなった。



 するとマイシが何を思ったのか、ヤマミの頭をポンポン叩く。次はほっぺをぷにぷにつつく。更に後ろからスカートをペロッとめくる。


「黒かし……」

「ちっ、ちょっと! なにするのっ!?」


 慌ててオレの方へ飛び退くヤマミ。赤面している。いつの間にかオレの腕に抱きついていた。


 ってかマイシが言った色って……、いやいや考えないでおこう!

 そ、それにしても、だ……大胆だなぞ……。



「フン! 分かった事は並行世界(パラレルワールド)がいくつもあろうとも同じ自分は全て同一人物。自分そっくりの別人は存在しない。アクトの件でも分かれし」

「あ、そっか……」


 リスタートして前世の世界と二つ重なっているとはいえ、アクトは一人のままだ。前世のアクトは存在しているが、この世界のアクトは存在しない。

 つまり同じ人物は同時に二人以上存在しないって事になる。

 ヤマミの場合は既に肉体を失ったために、二人存在しているように見えた。


「理解したようだなし」

「なんかマイシが理解できているのが凄い不思議だぞ……」

「殴るぞし」


 不機嫌な顔で拳を見せるマイシに「す、すまん悪かった……」と頭を下げる。

 なぜか精神世界由来の転生云々の理屈も理解してるし、凄いな……。


《さすがドラゴンだね。『力』『魔』『知』そろって極めて高い能力を有する。単純なナッセを(たばか)るなんて簡単だろうね》

「おい! こらてめぇ!」

「それは言えてるわね……」


 ヤマミまで頷いて同意かよ、とショックを受ける。

 でも確かにヤミザキへ殴り込みするまで普通に騙されてた。ドラゴン並みに賢いならそれくらい出来ても不思議じゃないなぞ……。


 そんな折、ヤマミはコホンと咳払いする。すると一同は不思議と静まる。そしてヤマミへと視線が注がれる。


「……その後の事をそろそろ話すわ」




 魔王化する前兆か、全てを震わせながら黒い波動を放射するナッセ。

 ヤマミはこれ以上にないほど悲しい顔で涙を流し、体を震わせながら葛藤をあらわにしている。


「うん……。私も……好きだから…………! 大好きだから……ッ!!」

「ありがとう……ヤマ……ミ…………」


 愛しさで溢れるナッセへ、ヤマミは悲愴な涙を流しながら思いっきり杖を突き下ろした。

 

 ドッ!



 すると破裂したように黒い波動は吹き飛ぶ。そして驚くほどの静寂が訪れた。

 息絶えたナッセの側で、ヤマミは前屈みで泣き震えていく。


「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 衝撃的な悲しみで頭を抱え、曇った空に向かって慟哭した。

 止めどもない涙を流し続け、深い悲しみの叫びは空に轟いていく。しばらく続いていたが、それも収まり涙も枯れた。

 まるでその心を映すかのように、ポツポツと雨が降り出す。


 深い悲しみのあまり打ちひしがれるヤマミは疲れた顔で俯き佇んでいる。

 脳裏にナッセとの思い出が何度も思い返されていく。心が躍るほどあまりにも充実していて、辛い時も病める時も側にいてくれるだけでも百人力だった。

 彼女にとってナッセは大きな存在となっていた。それを喪失したのはあまりにも大きすぎた。


 その心境か、魔法少女の衣装の白い部分が徐々に黒へ染まっていった……。


 

 疲れた顔でナッセのマフラーを掴む。するとそこから漆黒に染まっていく。するりと剥がすと自分の首に巻く。

 ゆっくり立ち上がる。すると足元の影から黒い小人が複数人抜け出て、ヤマミの周りを周回するように踊り舞っていく。

 そして影で暗く覆う顔に赤く灯る鋭い双眸が映えた。カッ!


 愛の言葉を受け、そして大切な人を失ったという悲哀なる喪失によって彼女は『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』へ覚醒したのだった……。

あとがき雑談w


 精神生命体(アストラル)とは簡単に言えば幽霊である。

 ポジとネガ濃度が等しく釣り合った状態では、幽霊の存在は普通に認識できて当たり前。だからアンデットとかゴーストとか普通に周知されている。


ナッセ「精神生命体(アストラル)って、食費浮くし便利そうだなと思うけど?」

ヤマミ「冗談じゃないわ……。二度とごめんよ」


 ヤマミはその後の事を話してくれた。

 普通の生物のように摂食する必要がないので消化器官が存在しない。おいしい料理とかスイーツとか食べられない。もちろん味覚などない。

 味覚器官を再現しても、消化した感覚が無いからモヤッとする。普通にバラバラになった料理を内蔵してるだけ。


 更に言えば睡眠も取る必要がない為、夜が長く感じて退屈すぎる。

 寝るという気持ちよさを味わえない。


ヤマミ「あなたの事ばっかり考えてて余念なかったからだけど、そうでなかったら死ぬほど不便だと思う」

ナッセ「そ、そうなのかぞ……」

ヤマミ「うん!」


ウニャン《でもそれって未熟だからなんだよね。まだ肉体の質感だけではなく、あらゆる器官を具現化できて初めて一人前なんだよ?

 アマテラスだって完璧精神生命体(アストラル)だったし》


ナッセ&ヤマミ「ええ!? うそ……!?」

ウニャン《そこまで至高の域に達するのに、長い年月の修行が必要なわけで……》


 実はアマテラスは山ほどのスイーツをガブガブ食べまくるという大食いだった。

 そして丸々太った彼女をナッセたちは見た事があった。

 幸せそうにゲプッとしていた事から、充分に味覚を楽しみ後に消化もできていた。まるで生きている人間のようだったぞ。

 しかし、丸々太った妖精王とは中々お目に……。


アマテラス「やめてぇ!! それ思い出さないでぇ!!」(恥)



 次話『ヤマミが語る衝撃の真実とは……!?』

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