145話「追憶! ナッセの告白」
覚悟を決めたオレは口から血を流しながらも双眸を見開く。カッ!
「星天の妖精王! 御開帳『運命の鍵』!!」
眩い光と共に背中の蓮の中から鍵が飛び出すと、クルクル回転しながら頭上へ舞う。
朱に染まった羽は背中を離れ、宙で踊りながら次第に弓の形へ合体していく。
それを手にし、鍵は弧を描きながら矢筈のように弓の弦へ納まっていく。
よろける満身創痍の体を必死に踏み堪える。片目を瞑る。口から垂れ滴り落ちる血。
「グオオオオオオオオ!!!!」
迫ってくる星獣。大きく口を開け、膨らむ光球が周囲から光子を集めていた。
それをしっかり見据え、ヤマミを愛しく思い浮かべながら、叶えたい願いを鍵に乗せつつ狙いを定めて光の弦を引く。
……この破滅の連鎖を……止めてくれッ! そして……!
想いを込めて引いていた弦を離す。光の波紋を放ち、運命の鍵は一条の光の矢となって勢いよく放たれた。
それは光飛礫を撒き散らしながら真っ直ぐな軌跡を引いて星獣を目指す。
「ガアァ!!」
星獣の口から刹那の光線が放たれた。
大気が破裂、周囲の大地が飛沫を上げ、光線は軌道上の全てを抉り尽くしながら光の矢へ直撃。しかし光線はキュービック状の飛礫となって分解しながら流れ消えていく。そして光の矢は相変わらずの速度で突き進む。
星獣は爆音響かせて光線を連射するが、ことごとく霧散されていく。
「グゥゥオオオッ!!」
憤怒のままに叩き落とそうと右腕を振るった。しかし光の矢に触れるや否や、肘の辺りまで腕はキュービック状の破片に砕け散る。見開く。
そのまま光の軌跡は真っ直ぐ星獣のみぞおちへ潜り込む。すると風穴を開けるように、螺旋を描きながらキュービック状の破片に分割していく。
「ウガアアアアアアアッ!!!!」
星獣は絶叫を上げ、苦しそうにもがきながら暴れ始める。
やがて肩や腰にも及び、分解は更に進んでいく。必死の形相で、もう片方の手で鍵を掴むも、逆にキュービック状の破片に散った。絶句する星獣。
荒い息を切らしながら、霞んだ目で見据える。事の顛末を見届けようと堪えていた。
鍵に込めた願いを反復する。
そして…………、オレと友達に………………!
そのまま星獣を永遠に消してしまうのは忍びない。
人類を滅ぼすほどの恐ろしい魔獣ではあるが、それでもオレたちと変わらない生命体。きっと痛みも感情もある。だから心も存在しているんだと思う。
独り善がりで勝手にそう決めつけてごめんな……。
でも、そんな星獣と友達になれたらいいな。
「ガアアアアアァァァァ……!!」
大量のキュービックが渦を描いて舞い続けた。
断末魔を上げる星獣は既に形を留めなくなっていた。次第に断末魔が静まっていくと、破裂するようにキュービックは四方八方に吹き飛ぶ。それは縮小し、虚空へ消え去っていく。
だから今は……眠っててくれな…………。
結末を見届け、力尽きて仰向けにゆっくり倒れていく。弓も元の羽に分解されると散開して背中の花へ吸い込まれていく。
「ナッセェェェ!!!!」
突然飛び込んできたヤマミが倒れゆくオレを受け止め、嗚咽する。
沈んでいく意識の最中、そんな彼女の顔が見れて心は不思議と安心していく。
「ヤマミ…………もう全部……終わったよ…………」
「えぐっ……えぐっ……なんで……なんでッ…………」
大粒の涙を流しながら、ギュッと抱きしめてくる。温かい。
「ごめん…………」
愛されていたのだと、今更ながらに悟った。
ここまで大泣きするヤマミは見た事がなかった。彼女の震える体。滴り落ちる温かい雫。悲しみに暮れる赤い顔。
最後に……会えてよか…………。
ドクン!
途端に自分の何かが胎動する。
黒い何かが暴れるように溢れてくるのが分かる。まるでオレが引き裂かれそうだ。
「うぐぅッ!!」
ドクンッ! ドクッドクッドクッ!!
周囲の大地が地響きを起こしながら隆起していく。ピリピリ大気が震え始める。そして、オレから凄まじい黒い波動が放射状に吹き荒れていく。
ヤマミはその拍子で圧される。
なに……これ……!? なにか、とてつもない恐ろしいものが……ッ!!
胸元から黒いヒビが放射状に広がっていく。心臓が黒く染まっていくような強烈な違和感を覚える。
その瞬間、クッキーが言っていた言葉を思い出して見開く。
────時限爆弾。
「ナッセェ────ッ!!!」
「ヤ、ヤマミ!! こ、これが……その『理由』ッ…………!?」
涙を流し続けるヤマミは頷く。
「う、うん! 『運命の鍵』の力を使うたびに因子が溜まり続けて、それが限界を超えると魔王になってしまうの!!」
「ま、魔王に……!? オレがッ!?」
「どうしようもない状態に進行してて、もしそれを言えばきっと絶望して魔王化が早まるから!
……ごめんなさい! どうしても言えなかったの!」
そうか……。そういう事だったのか……。
転生し続けて、何か増えている違和感の正体は……こういう事だったんだな……。
そしてそれは減る事はなく、際限なく増え続ける。
繰り返していけば魔王化するのは……時間の問題だった…………。
オレがそれを知れば……最初っから詰んでいたのだと絶望して魔王化が早まる。
だ、だから…………妖精王アマテラスも……ヤマミも……鍵も……。
本当の事を言えなかったんだ……!
「だから……ヤマミは心を鬼にして…………」
「ごめんなさい! ごめんなさぁぁあい!! ホントはそんな厳しくしたくなかった! ホントは……ホントはぁ……優しくしたか……ったッ……!」
取り乱して泣き喚くヤマミの様子に、どれだけ辛い想いを抱えていたか汲み取れた。
嫌われていなかった。逆だ。好きだったんだ。だから……。
ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!
「う、ぐああ!!」
獰猛な胎動に比例して、黒い波動は激しさを増して烈風が吹き荒れていく。
凄まじい威圧が重々しく辺りを席巻していく。まるで星獣クラスだ。
「た、頼む! 早くオレを殺し……!」
抑えきれない。苦しい。辛い。
溢れ出てくる膨大な黒いエネルギー。もう手遅れなほどに獰猛で強大だ。
「で、でも!」
ヤマミは首を振る。
「今の内に死ねば、次の並行世界へ飛べる! だからッ……!」
世界が震撼に包まれ、徐々に強烈な威圧がオレを中心に広がっていく。
ヤマミは漆黒の嵐の中を突き進んで、震える腕で刃を生やした杖を振り上げていく。切っ先が煌めいた。
「こ……こんな事のために……鍛えたんじゃないのにぃ…………」
涙ぐんで嗚咽するヤマミ。
こんな事を頼むのは荷が重いけど、こういう時だからこそ彼女にして欲しかった。
笑んで見せ、ゆっくりヤマミの頬に手で触れる。熱い涙が伝わる。
「ヤマミ……好きだよ…………!」
伝えたかった想いを込めて囁いた。ヤマミは次第に驚いていく。
そして不安にさせまいとニッコリと笑いかけた。そして「頼む」と添えた。
ヤマミはこれ以上にないほど悲しい顔で涙を流し、体を震わせながら葛藤をあらわにしている。
「うん……。私も……好きだから…………! 大好きだから……ッ!!」
「ありがとう……ヤマ……ミ…………」
ヤマミは悲痛な顔でポロポロと涙を流したまま、思いっきり杖を突き下ろした。
ドッ!
────────万華鏡のように移ろいゆく風景の量子世界。
ゆっくり目を覚ますと、未だ胸の黒いコアが黒煙を漏らし続けている。
心もひどく荒んでて黒いモヤが覆ってる。
気付けばクッキーが目の前にいた。その側でおろおろする『運命の鍵』がいた。鍵も下から黒ずんできている。
「ク、クッキー……?」
「じっとしてて」
オレは直立状態で浮かされているようだった。
「……黙っててごめんね」
クッキーも悲しそうな顔をする。でも、それでも例え話として懸命に伝えようとしたのも分かる。
もう今は全てを知ってしまった。
魔王化は止められない。どうしようもない末期状態……。
「記憶を消すわ。そして次の世界は新しいあなたとして生きてもらう」
優しく微笑むクッキーの人差し指がオレの額に触れる。
気休めにしかならないけど、これしか方法はなかったように窺える。だから甘んじて受け入れる事にした。
「おやすみ」
「うん。おやすみ……」
母に宥められて眠る子のように、ゆっくり闇の中へ目を閉じていく。
あとがき雑談w
ヤマミ「ナッセ……ナッセェ……!」(泣)
ナッセ「なんなんだぞ? ってかそれロマンサーガ2??」
スーパーファミコンに『ロマンサーガ2』が挿されていて、テレビには決戦場っぽいダンジョンに主人公がいる。
何度帰ろうとしても「逃がさん……お前だけは……」とメッセージが出て、引き返されてしまう。
主人公はナッセという名前ェ!?
ヤマミ「えぐっ……えぐっ……なんで……なんでッ…………」
ナッセ「いやいやいやいや!? なんでオレの名前入れてんのォ??」
ヤマミ「ごめんなさい! ごめんなさぁぁあい!! ホントはラスダン挑みたくなかった! ホントは……ホントはぁ……ちょっと入ってみただけだ……ったッ……!」
どこでもセーブができるがゆえのミス。
引き返せなくなるラストダンジョンでセーブしてしまい、ラスボスに勝てないと詰んでしまう。
敵の放つ致命的な攻撃を回避するスキルや、超強力な攻撃スキルや魔法とか無いと……。
ヤマミ「こ……こんな事のために……鍛えたんじゃないのにぃ…………」(嗚咽)
ナッセ「」(絶句)
クッキー「敵を一方的にボコれる『ターボタイム』と、死んでも即復活可能な『リバイバルノヴァ』を持ってたから、それで辛うじてエンディングいけたよー! うにうに」
次話『そして追憶の先に『剣士』ナッセが誕生!』