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142話「追憶! ヤマミの行く先……!」

 宝珠の前で事務作業をするようにアリエルはあちこち半透明のモニターを操作し続けていた。それを後ろからヤマミはじっと眺めている。

 すると大きなモニターがヴィンと現れた。


 ヘドロのような混濁する禍々しい黒い空。紫の雲が蠢く。大地は赤黒くて、草木は紫や青など毒々しい色。いかにも魔界といった風景である。そこに跋扈(ばっこ)するは多種多様のモンスター。


「てめぇ! ブッ殺してやるッ!!」

「やってみやがれッ!!」


 黒いスーツの赤いクマと黒リーゼントのオークが殺意まみれで殴り合っている。


「よきよきぃ~! ゲームを楽しんでて、なによりだわぁ~~」


 アリエルが言うに、これは『魔界オンライン』と言う創造世界だ。

 欲に穢れた悪しき心を宿し、それに溺れた人間が怪物へと身を変えて堕ちてゆく先の世界。そこでは常に争いが絶えぬ無法地帯。

 領土争いをメインに、あらゆる武力で相手と殺し合うゲーム世界だ。



「行くぞ!! 進軍ッ!」


 別地域では、汚れた鎧を纏ったオーガが大剣を振りかざす。

 それに追従するように安物の剣を振り上げるゴブリン軍団。その数、数千匹。ドドドッと土煙を巻き上げながら大軍で駆け出していく。


「蹴散らせ!! そんな雑魚(ザコ)ども!」


 巨大な人面カマキリが鎌を振りかざし、周囲の小さなカマキリ数十体が鎌を振るうと三日月の刃を飛ばす。

 それは爆ぜてゴブリン数十体を宙に吹き飛ばす。

 次々と繰り出される斬撃が爆ぜ、ゴブリン達は大勢宙を舞ってボボボンと煙に掻き消える。



「あぁ~、ゾクゾクくるぅ~! 数で押す大所帯の悪人とぉ、一騎当千でいく少数精鋭の悪人の激突ぅ~~!」

「『分霊(スクナビコナ)』みたいなものなの?」


 アリエルは背もたれに背を預けてギシリとイスが傾く。


「似て非なるものねぇ。悪人それぞれが持つ『自分の木』で生成された下僕(しもべ)よぉ」

「自分の……木……??」


 モニターの映像が切り替わる。黒い闇の中の無数ある一つの泡に、捻じ曲がったような幹に赤紫の葉っぱの木が一本立つ。多くの実に人の顔がピクピク蠢いている。

 その内の一つの実が落下。気持ち悪い音を立てて粘液が弾け、中から液まみれの人が起き上がっていく。

 牛の角を生やした大男。液を払うように、ぶるんと顔を振るわせた。


「あらま~、いいタイミングぅ~。負けて復活したトコよぉ~」

「復活……?」


 説明を聞くと、悪人一人一人が自分の空間と木を持っていて、それが彼らのデータバンク。

 例え跡形もなく殺されたとしても、自らのレベルを半減させる代償によって何度でも復活できる。

 勝てばレベルが上がり、負ければレベルが下がる。正に弱肉強食!

 それとは別に、コストが要るものの武器や下僕を生成できる便利なガチャも備えている。この空間には本人しか入れない。そして彼らは闇を通って魔界や洞窟(ダンジョン)などに神出鬼没で現れるのだ。


 このように(おのれ)(ちから)のみで相手を殺し合う為にあるシステム。そこに妥協も協調もない。

 一度悪人としてログインしたが最後、永遠にこのゲームをし続けなければならない。それが『魔界オンライン』の実態だった。



「悪魔の思想だわ…………」

「ふふふ、褒め言葉ねぇ~」


 ブルッと怖気を催すヤマミに、アリエルは満足げに笑む。


「悪人としては万々歳じゃぁない? 警察に追われず、好きなだけ暴れられるものぉ」


 それだけを聞くと悪趣味でしかないように見えるけど、移動中でのいい加減な説明からして真意は他にもありそうだった。ナッセとこれからの為に、多くでも情報を引き出そうと意を決した。



「本当の目的は別にあるんでしょ?」

「へぇ」


 アリエルはこちらに薄ら笑みを見せる。ゾクゾク寒気を感じた。


「地獄の絵図を楽しみたいなら善人も落とせばいいでしょう? なぜ悪人だけ?」

「そぉいう打算的なのは嫌いじゃないわぁ~。是非、我々の組織に入ってもらいたいものねぇ~」

「……答えによっては(やぶさ)かではないわ」


 アリエルの蛇が這いずってくるような睨めつける視線に対して睨み返す。


小賢(こざか)しくてホンット好きだわぁ。(やぶさ)かとは言ったけど「入る」とは言ってないものねぇ。つぅかあ絶対入るつもりなんかないでしょぉ~」


 見透かされるような視線と笑みに、思わず怯む。

 彼女にとっては稚拙な話術にしか聞こえないのだろう。意図が見透かされた。


「答えは単純よぉ~。悪人はいつだって我が強くて欲深いものぉ。『憎まれっ子世にはばかる』って言うくらい生への執着心が人一倍強いからよぉ~~」

「生への執着心……」

「そ! 目的の為に手段は選ばなぁい、保身の為に他人をなんとも思わなぁい、それでいて自分が絶対正しいと盲信してるぅ~」


 我が強い分だけ攻撃性は増す。自分が強ければ、自分の思想を強引に押し付けて支配したり、他人の物を一方的に搾取できたりする。そういう人が他と相容れないのだ。

 だから争いの火種となって、衝突し合うのだろう。


「何が何でも自分の思い通りにしようと邁進する悪人は貪欲ぅ~。そんな人が争い合えばぁ~、発生するエネルギーも莫大ぃ~」


 ヤマミはハッと気付いて冷や汗をかく。


「まさか……その悪のエネルギーを集める為に…………」

「ここまで言えば、そりゃ分かるわよねぇ~」


「集めてどうするって言うのッ!!」


 ヤマミは激情をあらわに立ち上がった。

 アリエルは艶かしくゆったりと立ち上がり、ヤマミへとツカツカ歩み寄る。その威圧と薄ら笑みに体が動けない。顔と顔が間近に合わさる。アリエルの目が細くなる。


「元気になってよろしい事ぉ~。じゃね、いってらっしゃぁ~~いぃ」


 そこでヤマミの視界は途絶えた。フッ!




 気付けば肉体を失っていた。だが通常肉体に備わっている五感を持たずとも、ヤマミの精神体(アストラル)の意識は周囲を()()()()し始めた。

 するとさっきまでとは違う場所になっていた。


《ああ、やっぱり追い出された!》


 細胞のように半透明のブロックが、途方もない量で重なっている光景が映っていた。一つ一つのブロックの中に砂のように黒い粒々が揺らめくように泳いでいる。

 そしてブロックは細胞分裂のように絶えず一斉に複製し続けている。


 そう、それが『並行世界(パラレルワールド)』の正体だった。

 ブロックが並行世界(パラレルワールド)を表しており、砂粒のような黒い粒はそれぞれが一つの宇宙。それが絶えず増殖を続けていた。


 数で例えると、無量大数(むりょうたいすう)って単位よりもっと遥かに多い並行世界(パラレルワールド)がなおも増殖され続けているのだと……。


《よし。まだナッセと()()()()()()……》


 ()()()()()()、自分から遥か向こうまで『赤い糸』が伸びている。そしてこれまでヤマミはそれをたぐり寄せるように、一気に遥か先へすっ飛んでいく。

 その際に何(びゃく)(せん)(まん)(おく)(けい)以上もの多くの並行世界(パラレルワールド)を飛び越えて、自分の知るナッセの魂がいる並行世界(パラレルワールド)へとたどり着いていた。


《でも、この並行世界(パラレルワールド)ブロック!? ()()()()()()()()()??》


 ナッセと繋がる赤い糸が、すぐ近くのブロックに繋がっていた。それはさきほど星獣によって地球を滅ぼされた並行世界(パラレルワールド)だ。

 されど認識するのは『ナッセと私が生まれる前の状態に逆行済み』。

 まるでナッセを追いかけて、その並行世界(パラレルワールド)へ入る前と()()()()()()()なのだ。


《再スタート状態?? でもなぜ? これもナッセの持つ『運命の鍵』の能力?》


 これまでと違うために多少混乱させられた。

 だが、整理をつけて『これまでと方法は変わらない』と落ち着いて、再びその並行世界(パラレルワールド)へと赤い糸に導かれるままに侵入を試みる。


 ()()()()()()()から()()()へと移行するように意識する。

 するとブロックが急激に巨大化して見えるように認識が縮小し始めた。やがてブロックの包む膜が徐々に網目状に見えるくらい拡大してくる。その隙間に飛び込んだ。なおも網目状の隙間は広がり続けていく。

 ようやく膜の層を抜けると大きい黒い粒々が視界に広がる。さっきまで砂粒の小ささだったのに、今では惑星のように大きく巨大な黒い玉だった。


 認識は今でも縮小し続けている為に黒い玉が視界いっぱいにグングン広がり続けていった。やがてその中へ飛び込む。真っ暗闇の最中、無数の銀河系が後ろへと流れていく光景が広がった。

 数多の銀河が通り過ぎていって、徐々に近づいてくる一つの大きな銀河へと目指す。その銀河へ入ると無数の星々がパアッて広がって見えた。そして美しく天の川が横切っている。

 なおも縮小は続き、無数の星々は後ろへ流れ続けていく。

 やがて目の前に一つの小さな輝きが迫ってきている。それこそが太陽だった。


 青い星がビュンと通り過ぎ、今度は縦にリングを持つ薄水色の星、大きな輪を持つ黄土色の星、木目を思わせる大きな星、小さな赤い星と、次々通り過ぎていった。

 そして白い模様が混ざる青い星がグングン近づいてきて、大きくなっていくようにも錯覚した。

 その青い星には緑織り交ぜる茶色の大陸が広がっている。赤い糸は大海の隅っこにある小さな島国へと続いていた。


《ナッセ…………》


 また会えると感慨に耽りながら日本へと飛び込んでいく……。



 真っ暗闇の中の胎児。まだ母の中にいるヤマミ自身の新しい肉体。そこには既に自分とは別の精神が存在していた。


《どうしよう》


 これまで通りだと、その精神を取り込んで融合した後に新しい肉体を得て生まれ変わっていた。

 だがナッセに嫌われているかもと意識している以上、同じように絡むのは怖かった。もしかしたら拒絶されるのかもしれない。

 それでも事情を知らないナッセ自身に危機が迫っている。そう魔王化……。


《ナッセは……私が! 絶対守る!》


 その決意の下、しばし考えて『新しい精神のその知覚情報を一方的に受け取れる状態にして、奥底へ潜む』状態にして生まれ変わる事になった。

 この方法ができるのは()()()()()()でなければならない。そうでなければ、他人の精神を取り込んで体を乗っ取る事ができていた。だがそれは不可能。あくまで対象は()()()()だ。



《頼んだわよ……。新しい()…………》

あとがき雑談w


ヤミロ「おいおい、もう追い出したのかよぉ?」

アリエル「ヤマミちゃん、思ったより勘がよくてねぇ~、焦っちゃったぁ~」


ヤミロ(白々(しらじら)しいぜ……。まぁ、ネタバレすっからだろうがな)


ティメア「ほーほー。おやおやぁ、せっかく(ヤマミ)ちゃんを見に来たのに残念ですねぇ……」

ソネ「…………私たちに出番はない」

トビー「カッカカカ! 残念残念~、まったの機会~! あ、でも出番ないまま物語終わるかもねぇ~」

ティメア「えー、それは嫌ですよー」

ソネ「別にナッセとその世界と敵対する理由はない。そもそもそういう趣旨の組織ではない」


アリエル「ふふふ、悪の組織を気取りたぁいところだけどねぇ~♪」


ヤミロ「ティメアとソネは新キャラだけど、今んトコここでの登場のみだぜ。

 個人的に全員登場させて、例の何とか柱みてぇに黒薔薇十柱(くろばらじゅうちゅう)ってぇハッタリ利かせたいところだがよ……。野暮だったか。ククク……」


 黒薔薇のアリエル。

 黒水晶のヤミロ。

 救世主のティメア。

 水龍姫のソネ。

 死道化のトビー。

 他は未登場……。



『魔界オンライン』

●悪人のみログイン可能。※ログアウト不可。

●基本的に不老不死。個体としての寿命は種族やレベルによって変動。

●自分の姿は選べない。心に反映したモンスターになる。

●自分の種族名はアリエルたち運営が勝手に決める。

●戦闘に勝てばモンスター専用の通貨と経験値が得られる。たまにアイテムも。

●『自分の木』の武器防具と下僕の生成ガチャはモンスター専用のアイテムや通貨と『運』次第。

●死んだらレベルと通貨半減。※生成ガチャなどで得たアイテムと下僕は全部消滅。酷いw

●レベル1で死んだ場合、レベルはそのまま1。

●個体としての寿命で死んだ場合は、スキル含め全てを失ってレベル1で転生。

●苦痛とかは普通にそのまま。

●人間界など通常の世界に出る場合は、エンカウントしてのみ。

●『洞窟(ダンジョン)』ではモンスターだけがゲットできる通貨やアイテムが存在している。

●『洞窟(ダンジョン)』のフロアには一部侵入不可のもある。

●生殖が不要のため生殖器と性欲が存在しない。

●一〇〇%消化率のためウ○コはしない。

●プレイヤーの数に合わせて魔界は拡大されていく。※無制限。

●運営による理不尽なリセットで、全てを失ってレベル1にされる事も……。



 次話『ナッセとヤマミは仲直りできるのだろうか?』

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