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140話「追憶! 漆黒の魔女とバッタリ会う!」

 ヤマミとまだ溝が埋まらないまま、ついに星獣との決戦まで来てしまった。

 総力を尽くして挑んだが、やはり圧倒的力の差は覆せず────。


「グオオオオオオオオ!!!」


 辺り一面、轟々燃え盛る灼熱の地表。その中で星獣ただ一匹のみ、高らかに吠えていた。

 既に地球は火の海と化して、人の住めぬ星となった。


「……やっぱり今回もダメね」

「うん」


 オレとヤマミは『洞窟(ダンジョン)』の入口で、辺り真っ赤かな火の海を儚げに眺める。共に心身疲弊していて満身創痍。

 逃げるので精一杯だった。

 また、このような結末を繰り返すのか。悔しいぞ……。


「やっぱり『運命の鍵』を…………」

「ダメ!! それは許さない!! 許さないからッ!」


 突然ヤマミは声を張り上げて、押し倒す勢いでこちらの両肩を掴んでくる。

 まるで使う事へのリスクを知ってるかのようだった。


「おま……、知って…………?」


 ヤマミは睨みながら頷く。


「星獣に()()を使えば確実に死ぬわ! それだけは嫌!」


 首を激しく振って、使う事への拒絶を示す。

 それでも少し苛立つ。何が何でも否定されてる気がして我慢もギリギリだった。

 地球を見捨てるような負い目を感じつつ、項垂れて洞窟の中へ入っていく。


 東京ドームくらいの広さの入口には、大勢の難民がいた。

 オレたちと同じように生き残った創作士(クリエイター)と軍と一般人。誰もが不安げに暗い顔でたむろしている。もう地球には戻れない。もう住めない……。


「どうするんだよ……。このまま…………」


 心に余裕がなくヤマミへ睨んでしまう。ヤマミはビクッと怯むが睨み返してくる。


「奥へ進むしかないでしょ。見ての通り、帰れる所はもうないわ」

「それはそうだが……」


 いつもヤマミは正論ばっかだ。


 悔しいけど感情的になっても仕方ない。

 けれど、もし早めに『運命の鍵』さえ使えていれば地球は助かってたかもしれない。それだけが尾を引いている。それに加え難民に対して負い目を感じている。


 あちこちで苛立った難民同士で揉め事が起きていて、それを軍や創作士(クリエイター)が鎮めていた。


 そりゃそうだ。このまま住める土地へ行けず、力尽きるかも知れない。

 この『洞窟(ダンジョン)』は得体が知れない。どこまで行けるのか確かめておけば良かったと今更ながらに後悔している。



「では、これより『洞窟(ダンジョン)』の奥へ進む作戦を決めていく!」


 大きなテントの中で、オレたちは軍と創作士(クリエイター)と一緒に作戦会議を行った。

 連絡手段も失った我々は、どこか他に生き残りがいるかどうかも分からない。現存の百人そこそこの一般人を守りながら洞窟を進むしかない。

 だが洞窟にはモンスターが出てくる危険地帯。一般人だけでは歯が立たない。

 従って、我々創作士(クリエイター)と軍が前衛を担って進む方針になる。


 武器の在庫が限られる軍は武器の使用を控え、生きている限りリロードの効く魔法やスキルなどを使える創作士(クリエイター)がガンガン進む事になった。


「おう! ナッセ、大変な事になったなァ……」


 おおらかなアクトが側に立つ。それだけでもホッとする。

 でも知っている創作士(クリエイター)はヤマミとアクト二人しかいない……。これまで障害を乗り越えるために色んなものを犠牲にしてしまったからだ…………。

 志半ばで逝ってしまった彼らを思い出すと胸が痛む。


「なんか寂しいなぞ……」

「だなァ……」


 これ以上、何を失えばいいんだろう……。こんなのまっぴらだよ。これが目指したかった未来なのか?


「『察知(サーチ)』頼むわよ」


 悲しみの余韻もないヤマミが冷たく感じて、内心憤ってしまう。

 だが言ってる事は間違っていない。悲しんでも何も出ない。そんな暇があったら先へ進むのが合理的だろう。


 それにこういった未知の領域では広大な『察知(サーチ)』が役に立つ。

 キロ範囲のレベルで感触できれば危険も減る。だが、常時できるワケではない。

 時間制限がある仮想対戦(バーチャルサバイバル)ならともかく、洞窟探索に数時間も『察知(サーチ)』を続けろとか無理だ。

 数分維持できるだけで充分。つーかそれが限界。

 例えるなら、両腕を左右に伸ばしたままを維持(いじ)するのと同じような感じ。

 おまけに感触範囲が広い分、情報量が多くなるから神経をすり減らしてしまう。


「ナッセ無理すんなァ……、休みながらでいいんだ」

「ああ……、分かったぞ……」


 それに引き換えアクトの労う言葉には安心させられるぞ。


 今日はテントを多く展開して体力を回復するよう休息を務める。

 翌日からが勝負。我々人類の生き残りを懸けた本格的な洞窟探検だからだ。

 前衛はオレたち創作士(クリエイター)数人。その後衛は軍隊。更にその後ろは一般人。最後方は軍隊と二人の創作士(クリエイター)。その陣形で進む事になったぞ。


 すると『洞窟(ダンジョン)』は、いくつも重なったような箱の中を通る感じで奇妙な構造だった。

 箱の中へ踏み入れるたびに重力の向きが変わる。故に、あちこち傾いている箱ごとに向きが変わって戸惑う事も少なくない。


 鍾乳石など洞窟っぽく自然に空いているように見せかけつつも、歩くスペースだけではなく大勢で戦うに不便を感じない人工的な地形が気になる。

 まるで人が通る事はおろか戦う事を前提に作られているように見える。


 阻むモンスターを撃退しつつ進めど進めど、延々と続くような『洞窟(ダンジョン)』の広さにウンザリさせられたぞ。



 ────二日目の夜。

 湖が窺える安全地帯の大広場にて、我々は多くのテントを張って体を休めていた。

 乾きに耐えられず、湖の水を我先にと飲んでいく一般人が多かった。



「またトラブルが起きている。はぁ……」


 軍の隊長が溜息をつく。

 例え喉を潤わせても、やはり長時間の進行で一般人は精神的に参っていて文句を言う人も少なくなかった。もう歩けないだの、腹が減るだの、帰りたいだの、好き勝手言っている者も多い。

 だが、それでも地球は暮らせる所ではない。



「どこまで行けばいいんだ!!」

「俺たちが邪魔だから、ここで見捨てるんじゃないか?」

「嫌だ!! 嫌だぁ!! こんな生活嫌だー!!」

「ねぇ、子供苦しそう! これからどうすればいいのッ?」


 押し寄せる一般人に対して、軍がスクラムを組むように軍用の大きなテントを囲んでいる。

 食料も少ないし、モンスターからの宝箱から得られるアイテムも少ない。


「このままでは全員力尽きる……。食料も何もかも足りなさすぎる……」


 隊長の消え入るような声に、他の兵も項垂れている。

 言われた通り満足な蓄えはない。遠くない未来、いつかは命尽きる人も出るだろう。

 それに軍は自ら減らしてまで、食料を一般人に回している。そして戦力になるオレたち創作士(クリエイター)にも……。


「我々は力尽きてもいい。だが……」

「ああ。これから重荷をお前たち若者に押し付けるのも後ろめたいよ」


 何も言えなかった。言えるはずがなかった。


 気休めでも「いや大丈夫だ。なんとかなる」「きっと住める土地が見つかるさ」などと言えないぞ。

 それに一般人に被害が出たら、その責任を負うのも辛い。

 かと言って見捨てる事なんてできやしない。きっと後悔する。きっと罪悪感に苛まされ続ける一生を送ってしまう。


「くそ……! どうすればいいんだぞ! こんな、こんなッ!!」


 苛立って机に拳を叩きつけた。思わず我に返って「あ……。ご、ごめん」と頭を下げた。

 だが、軍の誰も責めて来る事はなかった。

 叱責はおろか、慰める余裕すらないのだ。一般人もまた過度なストレスで抗議の声が大きくなってきている。

 きっと一人でも死者が出れば、不満が一気に爆発しそうだ……。


 やっぱり、自分の命を捨ててでも『運命の鍵』を使えば!! こんな事には!



 翌日、再びの洞窟進行に渋る一般人をなんとか説得して出発した。

 子供が歩けなくなっただの、怪我しただので、朝から前途多難な事もあった。本当、オレが『僧侶(プリースト)』でよかったなぞ。回復魔法でケガの治療や体力回復が行えるからだ。


 まぁ、流石にどんな優れた回復魔法でも乾きや飢えまでは癒せない。魔法とて万能ではないのだ。その事もまた痛感させられた。



 ────三日目の夜。

 果物が生い茂る緑の広場に出て、一般人たちは歓喜。

 更に湖の綺麗な水も補給地としては最高だった。少し上手すぎる話だが、食料の余裕がなくなるよりはマシだった。正直ホッとしている。


「まさか、ここ誰が作ったのかぞ?」

「……あァ。なにか人為的なものを感じるなァ」


 歓喜している一般人の賑わいを見て、アクトと難しい顔をしていた。

 すると不意に暗転────?


 ドクン……ッ!


 おぞましいドス黒い威圧感が全てを覆いかぶさっていく!

 まるで暗黒のナイアガラ大滝のような、黒く混濁した激流が、こちらを押し潰さんと圧迫してくる!


「あがっ……!」「ぐっ!」「うぅ……」「…………!」


 人々は泡を吹いて痙攣しながら次々と横たわっていく。更に苦悶にもがきながら息絶えていく。瞬く間に百人もの死屍累々が広がっていった……。

 そんな残酷な光景に顔面蒼白で絶句した。


 一体……、何が……??



「はろぉお~! ようこそおいでませぇ~~」


 その猫なで声のような甘い声に振り向く。すると漆黒のドレスを纏う禍々しい雰囲気の魔女が視界に映る。艶かしく薄ら笑みを浮かべ、凍てつく視線に体が強張る。

 全身汗びっしょりに掻き、途方もない恐怖に震えながら、上には上が居ると察してしまう。



「私は魔女アリエルよぉ~~! 以後ヨロシクかしらぁ~?」


 くねくね踊るような優雅な仕草でポーズを決める魔女。

 それでも、ヤツは……ヤツはッ…………遥かに…………!


「今はそのタイミングじゃないから、ご退場願おうかしらねぇ~~」


 アリエルはいつの間にか黒い羽を模した剣をぶら下げていた。ヒュッ!

 するとズカンッと、妙な音がした。


 気付けば辺りの地形は細切れにバラけていく。鍾乳石や岩山だけではなく、フロアごと幾千幾万と斬り刻まれていた。やがて天井も壁も地面もパラパラと崩れていく。

 気付けばオレもアクトも全身から血飛沫を吹き、意識は薄ら暗転────。


 おおらかな笑みを見せる左向きのクッキーが脳裏に浮かぶ。その反対側に冷笑を浮かべる右向きの漆黒のアリエル。

 まるで光と闇、表裏一体かと思わせられる。



 あれが…………、ヤマミの言っていた……漆黒の魔女………………!?

あとがき雑談w


アリエル「作品自体には最初の方で登場してるけどぉ、ナッセちゃんと出会ったのはこの回で初めてねぇ~」


ナッセ「そしてイキナリ殺された!?」

ヤマミ「私も!」

アクト「俺もだァ……」


アリエル「……こんな時に言うのもなんだけど、クッキーも私と同等よぉ」

クッキー「うん、いつもケンカしてるけど決着つかないのよね」


ナッセ「某駄目神みたく、いつもクッキーさん弱そうに見えるけど、あんな恐ろしいオーラを持つアリエルと同じ実力なのかぞ……?」


 ナッセ、ヤマミ、アクトは青ざめてクッキーからズズイと離れる。


クッキー「引かないで! 引かないでったらぁ~!!」(大泣)



 次話『ヤマミさらわれる!? 果たして彼女は……?』

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