139話「追憶! スパルタヤマミ!」
ポジ濃度一〇〇%の世界から帰還し、ポジとネガが等しく釣り合う世界での量子世界に戻ったぞ。
するとクッキーは真剣な表情でウニメイスを掲げて、四方数千万キロ及ぶ超大型魔法陣を展開していった。
「地平線彼方にまで……!」
《す……すごい……! 先代とは……なんというお方…………》
これは惑星ほどの大きさの十つの円を元に構成される超~巨大過ぎる魔法陣だ。
運命の鍵がブルッと震えるくらいだから、相当なレベルぽいなぞ……。
「全界網羅創造陣よ! この並行世界をメインの世界にして、リスタートシステムを構築ッ!!」
地平線彼方にまで広がっている魔法陣が、上に向かって光の帯を放つ。まるでオーロラの壁のような壮大な光景だ。
…………す、スケールが違いすぎる。
と言うか、リスタートとかセフィロトとか難しそうな専門用語多いなぞ……。
「……あなたの元いた世界と世界観が変わらない所を選んだから、これまでのような変わった世界観じゃないよ。この方が異世界転移する時に雰囲気出ていいでしょ?」
クッキーは片目ウィンクして快く笑んだ。
────元の世界から、三〇恒河沙八〇〇〇極もの離れた|並行世界《パラレルワールド》!
ナッセの出身地である、富山県。
それは入江の広大な海に、青い背景に溶け込んだ立山連峰。そして多くの住宅地とそこそこのビルが並ぶ平穏な町だ。
堤防近くの多く並ぶ住宅地の中のひっそりした一軒家……。そこへ師匠クッキーがヤマミと一緒に訪れていた。
「では城路ナッセ君を預からせてもらいますね」
「よろしくお願いします」「ナッセ、言う事を聞くのよ?」
なぜかアッサリ承諾する両親。二人の弟は沈黙している。
転生するたびに、こんな風に都合よく弟子入りできるのも師匠クッキーの手腕によるものだ。
「ナッセよろしくね。あたちはヤマミです」
やはり五歳相応のヤマミが笑みを見せた。
オレも「うん。ヤマミちゃん、よろしくお願いします」と頭を下げた。そして準備しておいたリュックを背負って、クッキーの後をついて行く事になった。
見送ってくれる両親は笑顔で手を振っていた。
大きな川を横切る橋を走る万葉電車の車両に揺られながら、のんびりとのどかな景色を眺めた。
ヤマミに振り向くと「また会ったね。さぁ、今度こそ!」と、いつになく真剣な顔で張り切っていた。
オレのクラスは『僧侶』だ。
もっぱら回復、治療、浄化、補助などが得意な後衛タイプ。苦手ではあるが『鑑定士』なんかよりはマシだぞ。
山奥で、クッキーとヤマミと一緒に修行を繰り返す。
前の並行世界で慣れているため、スムーズにサバイバル能力を活かして自作の家建築や食料調達などをてきぱきとこなせた。
鈍らないように日頃から鍛錬を繰り返すべき、前世で培った弓兵スキルで、素早く動く獲物を次々と射止める。
……気になっている事だが、ちらほら生態系を外れたモンスターをよく見かける。やけに知能が高い。倒すと煙になって消える。希に宝箱を残す事もある。
宝箱の中身は倒したモンスターと同じ部位か、お金か、武具だったぞ。創作士センターで売れば、討伐分も合わせて金になった。
妙だが、修行にもなるから気にしない事にしたぞ。
そして晩になるとヤマミと組手をする。拳を交わし、身を翻し、蹴りが薙ぐ。格闘の応酬で打撃音が響く。その度に風圧が周囲の地形を撫でていく。草木が揺れ、砂埃が舞う、葉っぱが舞い落ちる。
師匠は焼き魚を食べながら「五歳の時点で五〇〇〇越えかぁ。まぁ順応するわよね」と呑気に眺めていた。
「じゃあ、今日はここま……」「待って! まだ、お願いします!」
師匠が切り上げようとすると、ヤマミは真剣な顔で延長を促してくる。
クッキーは後ろ髪を掻いて「またぁ? 長くすればいいってもんじゃないでしょ?」と溜息をつく。でもヤマミは食い下がらない。師匠が根負けするまで訴えは続いていたぞ。
……なんかヤマミは積極的というかスパルタというか。
やけに厳しさを求めて修行の質を上げようとしてる。正直言ってちょっと……。
「今回が最後のつもりで星獣をなんとかしなきゃダメでしょ? ね?」
「え? あ……うん……」
ヤマミに話を振られて頷かざるを得なかった。
本当はしんどいけど、星獣の事を思ったら納得せざるを得ない。
嗚呼、ゆっくり休みてぇ…………。
このように、最近彼女の様子がおかしい。積極的に取り組むのはいいんだが、どこか焦ってるような感じもある。根を詰めてるって言うか。
そのおかげでスパルタ修行みたいになっている。
「立ちなさい! まだまだ行くわよ!」
地に転がっているオレに、ヤマミは構えたまま厳しく激を飛ばす。
どっちが師匠か分かんねぇな…………。
ちょっと胸にムカムカが溜まっていくが、オレたちが十歳になる時、クッキーは「二〇〇〇〇越えね」と呟いているようだった。着実に成果は出ているけど、精神的にしんどい……。
それでもヤマミの態度は全然軟化しない。不甲斐ないオレに愛想つかしたのかな…………?
一五歳を迎える頃、再びマイシと相まみえた。
人気のない荒野。あちこち大きな岩山が疎らと立っている。風が吹く最中、オレはマイシと向かい合っていた。
その後ろでヤマミが真剣な面持ちで控えている。
「へっ! 前にも会ったような気がするが、挑んでくるならぶっ殺すし!」
「マイシ! 行くぞッ!!」
精度の高いエーテルを纏って、マイシへ星光の槍で斬りかかる。切り結ぶと途端に大地を割るほどの衝撃が爆ぜて、周囲に余波が広がっていく。
吹き荒れる烈風で砂埃と共に岩礫が波紋のように流されていく。
手元の槍に加え、肘や膝などから光のクナイを生やして攻撃の手数を増やす。マイシが離れれば、光の弓に切り替えて弾幕を広げる。
マイシは「チッ!」と苦い顔で炸裂剣で捌いていく。
爆ぜる爆発が連鎖して重なり、爆風と共に空震が広がっていく。
その最中、マイシと得物を交差して激突。
更に素早く飛び交って、あちこち空中で激突の衝撃波が爆ぜる。
以前よりはずっと善戦できている事に自分でも驚いた。まだマイシの方が上ではあるが、物量ならこっちが上だぞ!
何度武器を砕かれても即座に生成して、攻撃を絶やさない。
「おおおおおッ!!!」
「かああああッ!!!」
奥義の『無限なる回転』を槍の切っ先に付けたまま突進。マイシも火竜の衣を纏いながら轟々燃え盛る炸裂剣を振るう。
その激突から閃光が溢れた。
大地を大きく揺らし、劈く爆音が大気を震わせて、地盤が爆ぜるように飛び散り、そして大爆発が明々と天高く膨らんでいった……。
「へっ! このマイシを楽しませた礼として、今回は見逃してやる。ありがたく思えし」
満身創痍のマイシは不敵に笑み、飛び去っていった。
オレはクレーターの中心で大の字で倒れていた。激痛で身体がピクリとも動かない。呻いていると、霞んだ視界に血みどろのヤマミが入ってくる。
あの後、ヤマミも戦ったが敗れたようだ。
「……何で負けたの! ああもう、せっかく猛特訓したのに! それから、その状況から即座に立て直せる機転も必要よ! できるでしょ! さっさと回復してッ!」
苛立った顔で無理を急かす言葉に、胸のムカムカが溢れだそうとする。
すると「なんてこと!」とパァンと弾けた音がした。
しばらくして、身体が徐々に楽になってくるのが分かる。沈みかけた意識も戻ってくる。なんとクッキーが心配そうな顔で回復魔法の光を当てていた。
「し、師匠!?」
「じっとしてなさい! 重傷だよ!」
腕も足も骨折してる上に深い傷もあって全身血塗れだったらしい。自分で回復魔法を使える余裕がないほどに酷い状態だった。
そして側で、頬に手を当てて呆然とするヤマミが腰を抜かしていた。
師匠が叱責して頬を叩いたようだ。少し気が楽になった。
「なんで……?」
「バカね! 無理しちゃダメとか、『できるだろう』なんて不確かな断定はダメとか、何度も言ってるでしょ! そのうち死んじゃうから!」
「でも! 星獣が来るまで時間がない! マイシくらい一人で倒せるようにならないとッ!」
「あんたねぇ…………」ハァ……。
首を振って呆れるクッキーの溜息に、ヤマミは悔しそうに歯軋りしていた。
なりふり構わないのか「私一人ででもマイシを倒しにいく!」と飛び出そうとする。それを慌ててクッキーが手首を掴んで制止。
「止めないで!! 私が見本になってみせる!」
「バカ! なんでそう無茶をしようとするの!」
「さそまなきゃ未来は終わるでしょ!」
「だーかーらー!」
彼女は譲れぬとばかりに抗議が止まない……。
そんな二人を煮え切らない気分のまま眺めるしかなかった。
しかしオレの何が嫌なんだ……? 何か気に入らないのか? 分かんねぇ……。
その頃から別居みたいな感じになって、別々の部屋で暮すようになった。
師匠も困ってて申し訳ないと思う。でもヤマミは様子がおかしい。今まで好意的だったのに何があったんだろう?
何度も理由を聞こうとしても、話し合いを設けようとしても、彼女は「あなたの為だから!」とか「星獣をなんとかしないと!」とかで頑として取り合ってくれない。
もう付き合いきれなかった。
「悪く思わないであげてね。本当はヤマミも心配しているんだけど頑固つーか、不器用つーか……」
クッキーもクッキーでなぜ彼女をかばうんだろう?
悩みの種になってて、溜息の回数が増えているのに?
「私もね、よく失敗するから」「うん、思ったように上手くいかないよ」「完璧な魔女じゃないからね。まだまだ未熟だよ」
……と、師匠の弱音みたいなのも聞くようになった。
ボソッと「子育てしてた頃を思い出すわぁ」と聞こえて、実は既婚者という事実にも驚かされた。
質問攻めすると、もう子供は巣立ちしていて、夫はどこかへ旅立ってて、自分はこっちの世界でオレたちの師匠をやってると親身で言ってくれたぞ。
これまで師匠クッキーを完璧な魔女だと思っていただけに、驚かされた。
女性でもあり既婚者でもあり、オレたちと同じように喜んだり悩んだりする普通の人間なんだって、改めて思い知った。
寂しく静かな部屋で、テーブルに腕と顎を乗せてエキドナのフィギュアを眺めていた。
黄色い色調にポニーテールのキャミソール美少女。細い首、控えめな胸、曲線描く尻、そして太ももなど、すらっとした形状が美しい。美人だが物言わぬ顔。
それでも、やさぐれて凍てつく心境には少なくとも慰めになった。
「……オレの事、嫌いになったのかな?」
好きだと言ってくれたヤマミの初々しい笑顔を思い出しながら、目尻に涙が溢れる。
あとがき雑談w
クッキー「省いちゃってるけど、回復魔法のそれぞれは教えてるし、仮想対戦センターにも通って修行はしてるぞよ」
ナッセ「僧侶の魔法って、割と多いなぞ」
ヤマミ「復習して!」キッ!
ナッセ(なんか厳しいなぁ……)
『回復魔法』
ナース、リナース、ベルナース(単体回復)
ナースィン、リナースィン、ベルナースィン(全体回復)
元々は『治手』『励治手』『全快治手』が旧名称。
『治療魔法』
ケアポイ(毒治療)
ケアパラ(麻痺治療)
ケアメン(混乱、呪い、幻惑など精神系治療)
ミケア(全状態異常治療)
※『○○ーデ』は全体。例、ミケアーデ(全状態異常治療&全体)
『蘇生魔法』
ミラクル、ミラクリン、ミラクラーマ(単体戦闘不能回復)
ミラークィン、ミラークィーナ(全体戦闘不能回復)
『守備強化魔法』
カタラ(単体)
カタラル(全体)
『守備弱体魔法』
ヤワル(単体)
ヤワラル(全体)
『敏捷強化魔法』
ハヤス(単体)
スバヤース(全体)
『敏捷弱体魔法』
スロモ(単体)
スローモス(全体)
『攻撃強化魔法』
リキア(1,5倍)、リキバイア(2倍)、リキグレイト(3倍)
『属性付加魔法』
○○・フカーズ。
例、ホノ・フカーズ(火属性付加)。デンガ・フカーズ(雷属性付加)など。
『霊撃魔法』(ゴーストなど霊体系モンスターにダメージを与えられる攻撃魔法)
レヴ、セントレヴ、ホーリーレヴ。
元々は『霊武』『清霊武』『祝霊武』が旧名称。
ナッセ「全部会得とか無理だぞ……」
ヤマミ「だらしないわね」キッ!
クッキー「厳しくしなくてもいいんだけどね」トホホ。
ナッセ「つーか、強化、弱体を活用して戦う創作士あんまいない件w」
作者「脳筋戦法多くてすまぬw」(*ゝω・)てへぺろ☆
次話『すれ違っていく二人……! 不穏な気配……』