13話「モリッカという得体の知れない男!?」
日本橋にある『アンマールスカフェ』と言う喫茶店は、商店街の中の一つの小さな店だ。入口はカウンターがあって狭いが奥行きが遠く、奥の方でくつろげるフロアがある。
そこでリョーコとモリッカと一緒に軽めの食を取っていた。
「いや~~、ここで『ドラゴンオーブ』の斉天大聖の限定フィギュアをゲットできるなんて嬉しいですよ」
「……違法店だったけどな」
「はっはっは。そうですね。でもこのカッコよさは捨てがたいですよ」
ノリノリなモリッカに、ジト目で見やる。
そのテーブルの上に、パフェとコーヒーとオレンジジュース、そして箱入りフィギュアが置かれていた。
金髪が逆立っていて目もシャープでキリッとした顔、山吹色の道着の下に、赤いアンダーシャツで帯やリストバンドも同じ赤色、差し出しているやや握り気味の手と逆に片足を踏み出しての戦闘態勢とカッコ良いポーズで構えている。
「ナッセさんはこういうの好きなんですね」
モリッカはもう一つのフィギュアケースを見やる。全体的に黄色の色調で、ショートヘアでポニーテールの幼い感じの凛としたキャミソールの少女。岩山に座っているポーズだ。
「ま、まぁ……」
恥ずかしくなって目を逸らす。
というのも散策中で入った店で、推しキャラが高クオリティのフィギュアがあったもんだからつい衝動買いしてしまったのだ。
「知ってますよ。『レジェンド・オブ・セザティア』のエキドナってキャラでしょ?」
「プレイした事ないけどな」
発売後に値段急下降してワゴンセールで叩き売りになったゲームだから、ってのもある。恥ずかしながら外見だけで推しキャラになった感じだ。性格はツンツンしてて愛想悪いキャラらしい。
「ふーん。ロリコンなんだ……」
ジト目のリョーコに呟かれ、ナッセは肩を竦ませ「い、いやその……」と赤面するばかり。
「設定上では数千年も生きてる精霊キャラなんですよ」
「外見がね~~」
にやーっとした感じの笑み。弄られそう……。
「大丈夫ですよ!! 僕だって美少女フィギュア買いますから!!」
そう言い、携帯を取り出して画像を見せてきた。なんと自宅の部屋に、縦横とフィギュアが並ぶようにケースに置かれている。ほとんどドラゴンオーブが多いが、セーラーアイドル戦士やキュアガールなどの魔法美少女系のものもあった。
その光景にナッセは目を丸くする。こんなに多いのかぞ……。まさにオタクの中のオタクだ。
「オレはこのフィギュアで一つしかないから、これは凄いなぞ」
「いや~それほどでも」
リョーコは冷めた目で「オタクって、そーゆーもんかしら」と呆れていた。
「でも不安に思わないの?」
「ん?」
そわそわしてて不安げなリョーコの問いにモリッカとナッセは振り向く。
──というのも、あの違法店でエンカウントした件である。
悪人がモンスター変異して、野次馬を巻き込んで戦闘になった。で、その悪人をやっつけた後、エンカウント世界はいつもの通り収縮して消え去った。
野次馬は「なんなんだ?」と思いながらも、オレ達に礼や賞賛を言うと解散していった。
多分、なんかのイベントもしくは映画の撮影みたいなものと見てるか?
幸い怪我人や死人が出てないのもあって軽く済んだのだが、店は無人になってしまった。誰も警察呼ばないから今日はそのままになってしまった。
いずれ警察が調査に来るんだろうけど、流石にエンカウントの件にはどうしようもないだろう。
ある意味、行方不明事件として扱われそうではあるが……。
「こういうのまた起きるんじゃないの? 今度はあたし達もモンスターになったりしない?」
そういう不安に駆られてかリョーコは落ち着かない。
「大丈夫ですよ!」
なんと平然と答えたのはモリッカ。にこにこ無邪気な笑顔だ。その言葉に怪訝に眉を跳ねる。
「だってモンスター化するの決まって悪人ですからね。特に殺人とかしてる重罪人は確実です」
「それ言ったら、オレも違法店の店長達殺してしまってるんだが……?」
ちょい不安げに言う。
でもモリッカは満面の笑顔で手をブンブン大きく振って否定する。
「ああいうのは全然大丈夫。だって誰かを守るために戦ったんですからね。店長達のように凄い人でなしで欲まみれな人間だと、その邪念に反映した外見に変わるんでしょう。
だっていつもそういうの見てきましたよ。絡んできたカツアゲ不良も、ぼったくりバーの人も、オタク狩りも、いじめっ子もみーんなモンスター化してましたよ。全員ぶっころ……やっつけましたけどね」
「えぇ……」
揃ってリョーコと一緒にジト目でげんなりする。
そんな当たり前のように言われても……。つか初耳だぞ。あと最後の言い直しが余計怖い。
「気になるのはやっつけた元人間が煙になった事でしょうか? 他の野良モンスターと末路は同じでした。まぁ証拠隠滅にな……平和になっていい事ずくめですね」
おい、ちょっとポロッと本音出てるぞ。怖いから黙っとくか。
はぁ、とため息をつく。
「仕方ないから気絶させて、元に戻るか試すかぞ」
「あ、それ無駄ですよ。気絶でも戦闘不能って扱いでモンスターは消えるんですよ」
「え?」
思わず素っ頓狂な顔を見せる。
「僕もモンスターになった仕組みが気になって、気絶させたんですが何故か煙に消えるんですよね」
まるでゲームのエンカウント戦闘と同じだ。死亡でも気絶でも戦闘不能扱い。気絶の場合は戦闘終了後に瀕死の状態で復活してるか、アイテムで復活させるまでずっとか、そういうケース。ただそれは味方の場合。
モンスターの場合は気絶だろうがなんだろうが、倒せば全部消える運命だ。だからか?
もし自分達がエンカウント戦闘で敗れれば、どうなるかは絶対試したくない。
ゲームの設定を忠実に再現しているだけなのか、それともたまたまそういう設定なのか?
「ナッセさん! 一緒についてきてくれませんか? とってもスカッとみなごろ……ワクワクで胸踊る無双を見せたいんだ!!」
無邪気で明るいモリッカ。初めて友達が出来た嬉しかったからだろうか?
ちょい本音ポロッと出てるから怖いけど……。
リョーコと顔を見合わせる。ここで断るのも気まずいし、理由もない。両方頷き合う。
「でも、どこへ……?」
「今なら、あの場所はまだ残っているのでしょうかね」
なにやら意味ありげだ。このモリッカという男は大人しそうな小柄な風貌に見合わず、割と事情をよく知ってるようだ。
────大阪刑務所。囲いは厳粛な塀に鉄柵の門。その広大な土地の中心には立派な二階建てのコンクリート造の建物。
「なんでだぁッ!!?」
頭を抱えて絶句。リョーコも驚いていた。しかしモリッカはニコニコしている。
「ま、まさか自首?」
疑心に駆られる。でも冷静に考えてみたら自首するなら警察署だよな。
「いえ、そろそろかと思いまして」
モリッカの呟きが意味深だ。こいつの考えがよく分からないぞ……。
あとがき雑談w
コトーン! モンスターを倒した時に宝箱が落ちてくる。
ナッセ「作中では省いてたけど、これなんぞ?」
リョーコ「モンスターは消えるけど、時々落とすよねー。アレ」
モリッカ「ああw モンスターの体の部位とかお金とか装備とか入ってるんですよーw」
ナッセ「ゲームみたいだなぞw」
リョーコ「ほんそれw」
モリッカ「体の部位は素材になるので売ったりできるし、武具の材料にもなれますよ」
ナッセ「じゃあお金とか装備は……?」
リョーコ「まさか犠牲になった人の……?」
モリッカ「リョーコの答えが正解かもしれませんねーw 割と犠牲者少なくないですしw」
ナッセ&リョーコ「怖……!」
次話『モリッカの最大最強の技!? ひえええ!!』