136話「追憶! ポジ濃度100%の世界!」
────元の世界から、九八四〇極六五〇〇載もの離れた並行世界!
今回もヤマミと一緒に師匠の下で修行を続けて、今は海外で武者修行のため、ドイツに住んでいるぞ。
そしてそのマンションのバスルームで、鏡に映る自分を眺めている。
前髪がほぼ銀髪に変わっていて、片目だけ橙のオッドアイ……。
最初は白髪が増えたと思い込んでたけど、銀の艶として髪の毛はちゃんと生気を帯びている。
「心なしか、身長も縮んでいるなぞ……」
なぜ、そうなったのかは分からない。
ただ体調の方は普段通り。どうでもよいと思うけど精通するのが遅い。転生するたびに、だんだん遅くなっているように感じる。
元いた世界では一三歳だったのが……、今では一五歳だぞ。
ヤマミは外見を気にしないでくれてるんだけど、なんか心配だぞ。
師匠に聞いても、目を逸らして口笛吹き始めるし…………。
──っと、閑話休題。
藻乃柿ブンショウ。
アニマンガー学院に在籍している彼こそ、星獣召喚の元凶……。
コイツはもう取り押さえたから出てこない────、はずだ!
「ただいま、ロシアは未知の怪物によって壊滅。繰り返す。ロシアは未知の怪物によって壊滅!
直ちに避難所へ避難して下さい! 直ちに避難所へ避難してください!」
不穏な警戒音を鳴らしながら、テレビで緊急放送がされていた。
思わず立ち上がった。ヤマミも立った。緊張が走り、戦々恐々に陥っていく。
「そんな! 藻乃柿はとっくに捕まってるはず!」
「あ、ああ……。だが本当に星獣かぞ……?」
途端にゴゴッと垂直地震が襲った。振動が部屋を揺らし、こちらも体勢を崩しそうになる。
「……星獣以外いないでしょ」
「そ……そうかも……」
マンションの屋上へ上がると、地平線に火炎が轟々燃え盛っているのが視界に入った。そしてその上空に稲光走る黒い暗雲が不安を表すかのように立ち込めている。それは濛々と広がっていくようだった。
ドイツはオランダ、ベルギー、フランス、イタリア、オーストリア、チェコ、ポーランドに囲まれた国。ポーランド側のベラルーシやウクライナの隣に広大なロシアが広がっている。
つまりちょっとした近所だぞ。
途端に間欠泉のように大規模爆発が高々と噴き上げた。更にあちこちで爆発が次々噴き上げていく。
ゴゴッ、数分遅れて地震が断続的に伝わり、凄まじい暴風が通り抜けてきた。それに煽られて車が軽々と吹っ飛び、木はバサバサ葉っぱを揺らし横倒しされる。屋根の瓦がバラバラと剥ぎ取られる。
遠く離れているってのに、台風より酷いな…………。
やはり……星獣かぞ。
なんでロシアが呼び出したのか分からない。だが、今起きているのが現実だ。
師匠が言うに、星獣は星のエネルギーを持つ生命体らしい。無尽蔵のエネルギーと途方もないパワー。もしそれを兵器として扱うなら恐ろしい事になる。
「くっ! バカだ……。オレは思い違いしていた! 野心家なら誰だって星獣の力を欲しがるじゃあないか!」
「ど、どうするの…………!?」
胸にもたれかかるヤマミを見ると、唇を震わせて青ざめていた。
ギュッと彼女を抱きしめ、燃え上がっている地平線を睨む。しかし眩い光が全てを覆う。
大陸さえ消し飛ぶほどの大災厄の破壊光が、ドイツを丸ごと蒸発させた。
────元の世界から、二恒河沙四八〇〇極もの離れた並行世界!
オレの髪の毛半分が銀髪。両目とも橙色。更に身長低い。精通するまで一六歳。
クラスは『格闘僧』。体術を鍛えて、アクロバットな動きができるようになったぞ。オーラの扱いが上手くなって、気と魔法を混ぜる第二次オーラのエーテルの精度が上がった。
海外の武者修行は中華周千国。仙人と妖怪が実在していたぞ。なんか三国志武将っぽいのとか色々混ざってたなぁ……。
────元の世界から、一八恒河沙三一〇〇極もの離れた並行世界!
オレの髪の毛は銀と黒のシマシマ。両目とも明るい橙色。更に身長低い。精通するまで一七歳。
クラスは『鑑定士』。師匠によってガンガン色んな物を鑑定させられて目利きが良くなったぞ。一番しんどかった世界だった。
師匠曰く『鑑定』スキルは、標的の成分や効力と数値などステータスを表示する補助系スキル。
勝手にステータスを表示してくれる訳ではなく、ちゃんと自分で価値を吟味してきた経験を補助するものなんだそうだ。
師匠に贋作か本物かクイズもやらされたなぞ。
このように非戦闘時の日常でも役に立つからと叩き込まれた。
────元の世界から、三〇恒河沙八〇〇〇極もの離れた並行世界!
「おおっ! つ、ついに来たぞ────────ッ!!」
量子世界で、嬉しくなって両拳を突き上げてバンザイだ。
なんたって念願の異世界へ行ける並行世界だからだ! しかもネガとポジが等しく釣り合っている並行世界!!
……だが、ふと気になった。
「なぁ、師匠……」
「ん、なに?」
運命の鍵と一緒に並んでいるクッキーに振り向く。
「……ポジ濃度が高い並行世界って、どんな世界なんだ?」
「言うと思ったわ。ってか、待ってたわー」
なんかウキウキしてるなぞ。
「確かにポジティブな方がいいよね。いい事多いといいよね。……でも」
「でも?」
「ここから先は私が特別に見せてあげる!」
クッキーは片目ウィンクして上唇をペロッと舐めた。
ウニメイスを具現化し、それを高らかにかざすと複雑な魔法陣が展開されていく。十つの円を繋いだ立体魔法陣。寒気がするほど、神々しくも恐ろしい雰囲気の……。
「全界網羅創造陣!! ポジ濃度が高い世界へ飛んでけーッ!」
神々しい魔法陣によって、あっという間に量子世界は光に覆われていった。
アニメ調の世界。青空の下、カラフルな屋根が並ぶ住宅地。そして赤い屋根の一件の家。
「ナッセ! そろそろ起きろよー!」
ビクッと起き上がると、近くであぐらをかくウニ頭が特徴のまんまるい青いロボットがいた。
どっかで見た事あんぞ……。腹にポケットて…………。
思わずジト目で見やる。
「おまえ……誰だぞ……?」
「なんだよ! オレはウニえもん! ついにボケたのか」
「この世界、版権的にヤバいだろおおぉぉ────ッ!!」
思わず濃い顔で絶叫した。
土管が三つ並んで積まれている空き地。
ぜってー見た事ある光景だぞ! ぜってーアレだ!
「やい! ナッセ生意気やねん!」
「へっへへ、イジメてやれー」
太ったドラゴリラに、チビのオカマサ。やはり暴力の拳をあげるドラゴリラ。
「またお前かよ!?」
反射的に張り手で突き飛ばす。ドラゴリラは軽々と吹っ飛び土管にドカンと激突。砕け散る土管。オカマサは立ち竦んで、震えながら腰を抜かす。
普通なら死ぬかもしれないレベルなのに、ドラゴリラは片目星型で舌出しで「きゅう」と気絶してるだけだ。何故かキズバンとかあちこち貼ってある。
まるで漫画の世界にやってきたみてーだ……。
「どうしたの? ナッセくん」
なんとヤマミがやってきた。ドキッ!
クリッとした目に丸い顔。可愛らしいデフォルメされたような外見。気付けばオレもデフォルメっぽい。
するとスッとウニえもんが背後から忍び寄る。
「ここはポジ濃度が七割でネガ濃度が三割の並行世界……」
意味深な静かな言葉にゾクッとした。
再び全ては光に包まれた。今度はなんだ……………?
ほのぼの草原に山。そしてコミカル調の太陽。
その辺の池を眺めると、デフォルメされた自分が映る。何故か赤いヒーロー服に茶マント。これもどっかで見た事あんぞ……?
「きゃー助けて──!」
振り返ると、可愛らしい家が並ぶのどかな村。そこで黒い悪漢がユーフォーみたいな乗り物で飛び回って機械の腕でイタズラしていた。
デフォルメのヤマミが泣き叫んでいる。
じっと見ていても、悪漢は追い回すだけで家を潰したり人を殴ったりしない。子供のようにおいかけっこしたり、汚れさせたりするくらいだ。
「やめろ────!! アッカンマン!」
「むむっ! ナッセマン!」
しかしアッカンマンのユーフォーから放たれた炎を浴びて、オレはフニャッと力を失ってへたり込む。
すると白いトラックがブロロロとやってきてウニおじさんが、オレの顔ソックリなのを持ってきたぞ。投げつけてくると顔が入れ替わる。勢いで顔がグルグルー!
「元気百倍!! くらえ! ナッセパーンチ!!」
腕をブンブン回して、勢いよくドッカーンとユーフォーを殴る。
アッカンマンは「コリャアッカ────ン!」と空の彼方へ飛んで行って、キランと煌めいた。喜んだヤマミが「ありがとう! だいすきー!」と抱きつく。
「って、オレはア○パンマンかよぉぉぉ────ッ!!」
思わず濃い顔で絶叫した。
すると背後からスッとウニおじさんが意味深に呟く。
「ここはポジ濃度が九割でネガ濃度が一割の並行世界…………」
ああ、ひょっとして段々と簡易的になっていくのか……?
複雑な病気も怪我もない。つまんない仕事もない。嫌な事が起きても「転んで痛いー」みたいな感じで、不幸感が弱い。逆に待っていても幸せな気分になったり、いい事がやって来たりと、元いた世界と真逆の世界だ。
「じ、じゃあ……ポジ濃度が一〇〇%の世界は…………?」ゴクッ!
再び世界は光に包まれた。
綺麗な花が彩りと花畑。蝶々が舞っている。木々も生きてるように揺れる。よく見ると草も花も木も顔がある。にっこり笑顔で明るい。
自身の浮遊感に疑問を持つと、湖を見て自分の姿に絶句した。
二頭身のちっちゃな妖精になっていた!?
「ナッセちゃーん!」
手を振りながらにっこり二頭身ヤマミが飛んできた。やはり妖精だぞ。
ポワポワ幸せな気分に浮ついていく。一緒に飛び回って、花の蜜を吸って、他の妖精と遊んだりと、幸せしかない!
あはははは、無邪気に明るく笑う。
「って、オレは何しとるんだあぁぁ────!!」
思わず濃い顔で絶叫した。
あとがき雑談w
ナッセ「ネガ濃度が一〇〇パーセントの世界ってどんなの?」
クッキー「あら? 行かないのに興味ある?」
元いた世界はネガ濃度八割、ポジ濃度二割なのだが……。
クッキー「可能性がゼロになる世界。幸福感が全くない世界。悪意と弱気と強欲だけが共存する世界。そして破滅だけの世界」
ナッセ「ひえええ! 説明だけでもヤバそう……!」
可能性がゼロということは、全く成長しない。ずっと才能がない状態。技能がないから何もできない。文明も文化も作れない。更に複雑な怪我や病気が多くて、しかもそれを治す医療機関が存在しない。
幸福感が存在しないので、苦しみが強いか弱いかだけの概念。
しかも相手を攻撃するための悪意が強いくせに、弱い心しか持たない豆腐メンタル仕様。
そして苦痛が弱い環境を求めるために欲深く争って潰し合いして、勝ち負けにかかわらず等しく破滅していく……。だから勝者、頂点すら存在しない。
クッキー「地獄そのもの。独裁者とか、血も涙もない極悪人が転生するらしいね」
ナッセ(真剣な顔での『~らしい』はボカしてる! ぜってーボカしてる!)
クッキー「悪い事できないもんだね~w」
ナッセ「絶対行きたくないなぞ……」:(´◦ω◦`):ガクブル
次話『そのポジ100%の世界である事実を知る……!?』