135話「追憶! 星獣はどこから?」
富山駅近くのホテル前、ほんのり温かい日差しの下でクッキーはジト目で待っていた。
「朝帰りだなんていい度胸ねー」
「ご、ごめん!」
「すみません」
諸事情があって、生気を養う意味で旅館に泊まってたんだが……。
って言うかマイシを勧誘するの失敗しちゃったし、なんの収穫もなかったなぞ。ちなみにクッキーは「二人で寝て進展もなし? つまんないわねー」とかボヤいてたけど、何期待してたんだぞ?
「ま、仮想対戦センター行くわよ!」
────かくて、また再び試合を繰り返していったぞ……。
「同じ夕夏家だとぉ!? 何様だてめぇ!!」
夕夏家第八子、キュリアはスーツを着た色白で痩せぎすの男。卑しい目で傲慢不遜。髪の毛は耳を隠すロン毛。
メンバーのコンパチ男二人は『夕夏刻印』によるエネルギー貯蔵役でしかない。
大振りの剣から扇状にエネルギー奔流が放たれる。広がった大爆発が周囲の森林を吹き飛ばす。
しかしヤマミは魔法少女特有の紫色調の衣服を身につけ、刃を生やした杖を手に、悠然と立っていた。
「夕夏ヤマミなぞ、聞いた事も見た事もねぇ!! それに魔法少女だとぉ!? ふざけるのも大概にしやがれ!」
豪快に刀剣波を放ち続けてドカンドカン爆煙を噴き上げた。森林が瞬く間に煙幕こもる焦土へと化していく。
しかしヤマミは煙幕を抜けて、空高く飛翔。キュリアはそれを見上げて汗を垂らし絶句。
「き……貴様! 我々の夕夏家でなければ……、な、何なんだッ!?」
師匠クッキーの計らいで、ヤマミは夕夏家とは関わりのない人間という扱いにしてくれた。
キュリアはおろか、ヤミザキすらも認識改変に気付くことはなかったぞ。根本的な解決にならないが、修行の為と一時的な処置となっている。
いつかは四首領ヤミザキを倒せるようにならないと!
「マジカル・フォール!!」
ナッセを連想しながら、ヤマミは急下降のままに杖のブレードを振り下ろした。それはキュリアのかざした剣もろとも顔面を断ち割る!!
「がっ!」
斬り裂かれたキュリアは、ドンと脱落の爆破に包まれた。
ふう、と息をつくヤマミ。
大空を我が物顔で飛び回るグリフォン。
それはキーダの搭乗する召喚獣で、その後ろにシロウを乗せている。シロウは腕を組んだまま氷系の『衛星』を周囲で浮かせ、空から吹雪のように振りまいていた。
おかげで仮想フィールドの森林は雪が積もった銀世界に早変わり。
放っておけば、たちまち身体が凍えて感覚がマヒしていく。チンタラすれば体温が下げられて徐々に力尽きていく。
慌てた相手チームは射撃や狙撃を試みるが、キーダのグリフォンは素早く動き回るため全然当たらない。逆にシロウの氷の矢で狙われる始末。
そしてペンギンのコートを着たナカヤが剣を振るって、次々と相手を斬り伏せていく。
着ぐるみと侮るなかれ、絶対防寒仕様のコートで凍結などを完全防御する。そうシロウチームはこの布陣でAランク層を陣取っていた。
「並の相手ならともかく、ナッセたちどうだろーなー?」
オレは雪積もる森林の中を駆け抜けながら、片腕の弓からボウガンのように光子の矢を連射。その矢は木々の幹や葉の隙間を縫うように通り抜けて、上空のキーダやシロウへと目指していく。
「かわせ! ただの一撃も掠らせるな!」
「了解っす!」
ち! やはり一筋縄で行かないなぞ! ことごとくかわされる。
だが、例え視界が悪かろうとも、オレの『察知』は広大だぞ。敵の位置や動きがガチで手に取るように分かる。だから視界の悪い物陰から射撃が可能だぞ。
──それに動き回って、あちこち生成した弓を設置してある。
オレの『念力』は目に見えない手腕のようなもの。後々に分かった事だが『念力』の有効範囲は『察知』の範囲に連動しているらしいなぞ。
つまり!
あちこち設置された弓は光子を生み出し、次々と矢を撃ち始めた。
そう『念力』によって一キロ範囲の遠くの弓を手動で操作が可能。それによってシロウを集中砲火するように、地上からの弾幕が上空へ撒かれる。
「何!? 『分霊』か? それとも『衛星』の待機弾による時間差同時攻撃か!?」
「捕まっててくださいっす!」
キーダのグリフォンはカクカクと旋回しながら軌道を変えて、ことごとく弾幕の間を通り抜けてかわしていく。
かわしきれない部分はシロウの追尾射撃や、グリフォンの爪攻撃などで迎撃。
それでも『念力』であちこち弓を操作し続けて、第二波、第三波と弾幕を次々放つ。
「……チッ!」
焦れたシロウは大きな氷の塊による『炸裂弾』で地形破壊に踏み切った。
連続で撃ち続けて森林をことごとく粉砕して、吹雪の爆発が連鎖していく。
その辺は読んでたぞ。だから今度は……!
シロウの氷属性射撃によって、地上は森林の代わりに白いモヤで立ち込めている。それを逆に利用。
設置していた一つの弓を浮かせて、移動させながら射撃を試みる。案の定、シロウはそれをオレだと思って氷の矢を次々と降らせ続けている。
でも残念。小さな弓なので、中々当たらない。
多分、シロウにとって「ずいぶん器用に回避するな!」とイラついているはず。なので、この上にない囮になるぞ。
ひっそりと遠い森林に隠れるオレは『刻印』を更に広げ、『太陽の大弓』にバージョンアップ。
糸を引くと共に、光子の矢が膨らむように大きくなっていく。じっくりシロウを狙うよう集中して、引いていた糸を解き放つ。音速を超えて鋭く走る一筋は、ことごとく木々に風穴を空けながら、空へと駆け上がった。
「これは囮だッ!! 馬鹿は五時の方向、よけろ!!」
「はいっす!!」
勘のいいシロウが振り向きざまに叫び、キーダの操縦に応えたグリフォンは軌道上から離れた。
「届けェ────ッ!!」
その咆哮に応えるように光の矢一閃は、別の光の矢で弾道を強引に変え、ついにグリフォンごとナカヤとシロウを貫く。
その勢いで三騎は空中でバラけた。グリフォンはボンと煙に掻き消える。シロウは見開き「な、なんだと……!? 跳弾狙撃ッ…………! がはっ!」と吐血。
「やっぱ化け物っすね……」
空でドドンと脱落の爆発が轟いた。
後ろからナカヤが飛びかかってきたが、ヤマミが超高速飛行で通り過ぎざまに横薙ぎ一閃。上下に裂かれたナカヤは「あちゃー、やっぱムリだったかー!」と爆破四散。
「おお! やったなぞ!!」
「うん!!」
ヤマミと互いに腕をガツンとぶつけ合った。この試合も完勝で終わった。
あくまで弓兵として射撃にこだわった戦法だ。普通に得意な接近戦や奥義を使えば、楽勝だったかもしれない。
だけど、師匠を信じて修行に従った。
おかげで遠隔操作するとか新しい方法を覚えたぞ。これなら一人で波状攻撃とかできるし。
帰ろうとフロントの広場に出ると、シロウたちがいた。
やべ、待ち伏せてたかぞ! 師匠クッキーとヤマミがいるから大丈夫……?
「おい!」
「は、はぁ……」
シロウは相変わらずの高圧的でジッと見てくる。
「星獣は本当に来るのだな?」
「あ、ああ!」
「……そうか。来るのだな」
「信じるの?」
シロウはフッと笑う。
「あそこまで真剣に戦う馬鹿が、嘘のためにそれができるものか!」
分かってくれる人がいた。それだけでもなんかむず痒い気持ちになった。
彼は背中を向けて「せいぜい頑張れ。応援している」と手を振りながら去っていった。その励みに嬉しい気持ちが湧き出す。
「ありがとう! シロウさん!!」
その後、色々手続きを済ませて特急電車で県外に旅立った。
流れ行く景色。オレはヤマミは相席で、向かい側にクッキー一人。
昼飯は富山名物の『ますのすし』。円形の木造箱の中の笹の葉の包を剥がすと、赤身を乗せた酢飯が現れる。
付属のナイフで分割して食べていくと、ほどよい酸っぱい旨みと歯応えのある飯が美味い。
「わぁ……、おいしい!」
ヤマミが目をキラキラさせている。
中々食べられるもんじゃないからなー。これチョイスしててよかったぞ。
────あれから数年後、オレたちは大阪で調査を続けていた。
本当は海外へ武者修行したい所だったが、師匠に止められた。
まずは『星獣』の出現場所と原因が判明しないと、対策も何もないからだ。
調べた結果、星獣は大阪から現れるらしかった。
そういえばハロウィンみたいな世界線で、大阪の専門学校にいたら現れてきたなぞ。今まで気付かなかったな。
星々の見えぬ大阪の夜。とある専門学校の前にいた。
「あ、来る……!」「うん!」
ビリビリと大気が震えているのが肌で分かる。地響きと共に、周辺の地面が隆起するに従って地割れが広がっていく。学校が瓦解し、中から大きな異物が蠢いてきた。
奇妙な仮面に、ギョロリと眼が動く。開けた口からヨダレが糸を引く。地上へ這い出すように次第に上半身から身を乗り出す。メリメリ……!
────その時垣間見た! 星獣が這い出る地面に召喚の魔法陣が!
そして付近に痩せこけた人影が!!
「まさか!! 人為的……召喚かぞッ!!」
「なんて……コト!」
見開いてショックを受けた。
やはり自然に沸いて出てきたのではなかったか!?
「グオオオオオオオ!!!!」
大きな星獣の口が大きく開かれ、咆哮が大音響で響いた。
途端に、破裂するように道路のアスファルトが粉々に剥がれる。そして破片もろとも電柱や自販機などが暴風に流されていった。周囲の建物も剥がれ飛ぶように吹き飛んでいく。なおも衝撃波の津波が吹き荒れて、それだけで破壊を撒き散らす。
ビリビリと全身を貫く威圧と恐怖。間違いなく星獣。
「ははははは!! ついに星獣をんッ……」パクッ!
元凶らしきソイツはたった今、星獣に食われた。グチュグチュ咀嚼され、喉を通る音がした。ゴクン!
そして星獣はこちらへジロリと大きな眼で視線を定めてきた。ゾク……!
────────────何か光った時、意識は途絶えた。
あとがき雑談w
ナッセ「つーか、師匠が星獣倒さないのかぞ?」
ヤマミ「倒せるんでしょ?」
クッキー「じゃあ、次もヤバいの出たら私任せ?」
言葉が詰まる。
クッキー「そうゆうこと。頼り続けたら依存。それじゃ成長できないからねー」
それよりも、星獣以外にもヤバイの出てくるって示唆してないかぞ?
ひょっとして師匠は『未来』が見えてるんじゃないかなぞ……?
星獣以外に、と言うと月とか火星とかの星獣が来たりとか?
クッキー「って言うか、星獣倒すのよりもやりたい事あるのよねー」ソワソワ
ナッセ「なにだぞ?」きょとん!
ヤマミ「気になるわ」きょとん!
クッキー(あんたらの恋の進展。全然進まなくて焦れっちゃう)ぐぬー!
『毛利シロウ(魔道士)』
富山県代表のA級創作士で、県内では一位。
七三に分けた黒髪。厳しそうな目。黒いスーツを着込んでいる長身の青年。そして三人チームのリーダー。合理的思考の創作士。
堅物さと高圧的な態度で、他の創作士から好かれていないようだ。
氷系魔法が得意な魔道士。23歳。
戦い方としては広範囲に吹雪を吹き散らして、その極寒で敵の戦闘力や生命力を徐々に削ぎ落としていく。
その上で氷の矢を放って攻撃もする。
威力値12800
『市賀ナカヤ(剣士)』
飄々とした金髪の男で、チーム共通で黒いスーツ。21歳。
属性の象徴となる動物の着ぐるみを具現化して装備する事で、その属性を無効化できる。ただし一日に一回という厄介な制約がある。
威力値8900
『津富キーダ(騎手》)』
フサフサな赤髪ショートの後輩的なメガネ男っす。20歳。
召喚獣のグリフォンに乗って牙や爪で戦う。回避率が高い。チーム戦ではシロウを乗せて高角度から吹雪を降らせる。
威力値8650
次話『ポジ濃度が高くなっていくと……? ホラー? ミステリー?』