132話「追憶! ライバル出現!」
立山連峰と呼ばれる白い雪ががかった山脈。青い風景に溶け込んでいるソレは絶景スポットでもある。
今の並行世界では県名が若干違うが、故郷である富山県と言ったらこれが目を引くであろう。
富山駅近くの仮想対戦センターは割と大きい立法長方形型の建造物だ。
オレたちは師匠から制限を課されて試合に臨んでいた。
仮想空間は、見渡しの良い青空の下の市街地。オレは高いビルの上で突っ立ったまま目を瞑る。
すると感覚が広がっていって約一キロ範囲の地形と、ちらほら動く相手チームを感触する。警戒しながら断続的に動きを刻むチーム。そのまま突っ走るチーム。そしてオレの相棒であるヤマミは、警戒しているチームに近付いていくようだ。
オレの『察知』は一キロ範囲までを感触できるぞ。
「よし!」
両腕を伸ばし、それぞれ星光の弓を具現化。その中心部に光子を生む。突っ走っているチームへ光の矢の弾幕を浴びせる。
案の定、相手チームはバラバラに飛び退いて避ける。通り過ぎた弾幕は道路を爆裂させた。
「く! しょっぱなから炸裂弾かよ!」
「よし! 回り込もう!」「了解!」
相手チームは、こちらの位置へそれぞれ別ルートを通って来ようとする。
本当なら、こっちも近付いて斬り伏せたい所だぞ。
だけど、師匠は「接近戦は避けて、なるべく遠距離攻撃で倒してね」などと制限を課したのだ。本当に面倒……。
今度は市街地の路地に合わせて、軌道を設定した『炸裂軌道弾』を撃つ。
押し寄せる弾幕に追い詰められた相手は、咄嗟にジャンプして屋根の上に飛び移ろうとする。その途中を狙って弾幕を素早く撃ち込む。
「しまっ……」
「く! 誘われたか!」
ドガガガン、三人それぞれ爆撃を浴びて爆発。棺桶となって転がる。
魔法少女ヤマミは杖から魔法の刃を生み出し、踊るように振るって相手チームを斬り伏せていく。
そうヤマミは逆に接近戦をやるという制限だ。
修行の甲斐もあって、苦もなく相手チームを撃破。さほど時間はかからず、完勝で試合は終わったぞ。
「よし!」「やったね!」
ヤマミと拳をぶつけ合った。ガツン!
対戦申請ルームで師匠は「おつかれさま」と笑顔で労ってくる。
今の対戦で一気にBランク層へ上昇。
その様子に他の創作士たちがザワザワどよめいていた。
「おいおい! 今の弾幕すげぇな!」
「本当はA級創作士じゃねぇの?」
「初めて見る顔だぜ?」
「これ、地方のじゃなくて全国オンラインのだ」「マジか?」
「ナッセとヤマミ……? 聞いた事ないな?」
「うかうかしてられねぇ! 奴ら確実にA級上がるぜ」
自販機でジュース買いに行ったら、そういう声が流れてきてたぞ。
目立たないようにコソコソ通路を歩いて、ルームへ戻ろうとする。すると目の前に背の高い人がいた。
黒髪を七三に分けていて、厳しそうな目。黒いスーツを着込んでいる青年。
「お前が城路ナッセか?」
「あ、うん……」
「……ステータスの高さに恵まれた馬鹿が! それだけで勝ち抜けるほど世界は甘くはない」
冷たい目で言い捨てて通り過ぎるのを見て、おっかないなと萎縮。
「魔道士の毛利シロウだね」
気付いたらクッキーが歩いてきていた。
毛利シロウ。
富山県代表のA級創作士で、県内では一位。そして三人チームのリーダー。様々な魔法で相手を詰めていく合理的思考の創作士。
堅物さと高圧的な態度で、他の創作士から好かれていないようだ。
だが実力は確か。相当な強敵になるぞ。
シロウは観戦席にいる同じチームの二人に合流。
物言わず、ナッセの次の試合を待つ。それを見て二人はキョトンとする。
「ひょおー? えらく気になってますねぇ?」
飄々とした金髪の男も同じく黒いスーツ。彼は剣士の市賀ナカヤ。
「シロウさんにしては珍しいっすね」
フサフサな赤髪ショートの後輩的なメガネ男。彼は騎手の津富キーダ。
「いや。調子に乗った馬鹿が、どう挫折するか見届けてやる」
それを知る由もなく、オレたちはすぐ次の試合にインした!
ヤマミは相手チームへ攻め入って次々と斬り伏せていく。こっちは高い所から弾幕をばらまくだけ。それだけで相手チームは次々とやられて棺桶化。
ふと察知範囲が一直線の弾道を感触したので、一歩引くと弾道一筋が眼前を通り過ぎた。
やっぱ長距離狙撃で狙ってくるよな。
大方、弓兵や魔道士辺りに狙撃タイプがよくいる。
オレのように長距離狙撃に切り替えれるタイプと、狙撃のみに特化したタイプと、色んな狙撃手がいる。
弾幕モードじゃ届かんから、後回しにしとこ。
狙撃をのらりくらり避けて、ひたすら弾幕を張り続ける。
「おおーっと!! ナッセ選手、底なしの弾幕で誰も寄せ付けませんー!!」
観戦席は歓声で沸く。
前代未聞の弓兵創作士の登場で、話題が広がっていた。
「あいつのMPってどんくらいっすかね?」
「マジ無限じゃねぇ?」
二人のヤジにも、シロウは黙ったまま見てるだけだ。
「ふう。あらかた片付いたか。次は遠くのヤツだなぞ。狙撃モード」
星光の弓に光子の矢を生み、これまでとは違って光の糸を引いていく。
今度は時計の針のように、円形だった察知の範囲を細長く伸ばしてグルグル回す。それで遠くにいる創作士を感触したら定める。
隠れていようがいまいが関係ない、狙いすまして射るのみ。ピキュン!
音速を超えた一条の光が空を走る。
それはコンクリート造の建造物を幾重も貫通し、狙撃手の胸を射抜いた。
「が、がはっ……! な……なぜ、この位置がッ…………?」
驚愕したまま吐血。前のめりに沈み、ドンと爆破四散。
「二人目狙撃っと」
ピキュンと矢を放つ。しばらく間を置いて、遥か遠くで小さな爆発がドンと見えた。
ナッセとヤマミ二人を映すモニター上方に、黄金の立体文字で『WIN』が浮かぶ。紙吹雪が散って勝利を祝福。
「勝ったね!」「ああ!」
労い合うように、ヤマミと手を叩き合う。彼女と手で触れて嬉しいぞ。
「この試合を勝ったのは……、新参チーム『スターメビウス』だァ──ッ!!!」
ワアアアアアアアアッ!!! 観客の歓声で大音響に沸いた。
驚いている二人とは裏腹に、シロウは未だ冷静だ。
「ひょえー、攻撃範囲やべーじゃん!」
「迂闊に近付けないっすねぇ」
「お前たちなら、間合いを詰めて斬り捨てる事など余裕だろう。違うか?」
二人は不敵に笑む。フッ!
「へいへい、面倒だがねー」
「騎手の機動力をもってすれば、あっという間っすね」
幾度かの試合で、オレたちは数々の創作士を倒して順位を上げていった。
なんかエセバーニングとゴリラとか何かいたけど、ごめん瞬殺した。
「今度の試合は白熱間違いなし!! この試合を勝ったチームは、A級創作士として昇進できまーすッ!!」
歓喜に湧き上がっていく。
シロウも「ようやくか」とニヤッと笑みを見せた。二人もウキウキで観戦。
モニターにナッセとヤマミの『スターメビウス』チーム。そして他のチームがそれぞれ表示されて『FIGHT!!』と文字と共に試合開始された。
今度の仮想空間は、高低差異なる寺が連なる山奥。現実ではありえない奇妙な風景だった。
渓谷の薄暗い底に激流の川がある。
ドガァァァアン!!
突然、寺一つが木っ端微塵に爆破四散。遅れて振動が地面を伝わった。
「な、なんだぞっ!?」
濛々とした煙幕が晴れると、広く削られた谷の上で一人の女剣士と、三人倒れている創作士。それは爆発。ドドドン!
「へっ! 他愛ないし!!」
燃えるような赤髪のセミロングを揺らし、好戦的な視線をギラギラさせている。赤いセーラー服にスカート。片手に刀。
た、確か龍史マイシだったっけ? チームの癖に一人で登録してたヤツだ。
つーか、破壊力ヤバい!!
「すまん! 制限破るぞ!!」
「え! ちょっと!!」
観戦ルームはザワザワと騒然していく。腕を組んでいたシロウも怪訝な顔をする。
今まで目立たなかったのはマイシ自身が『炸裂剣』をやらずに、通常攻撃でサクサク斬ってただけだった。
いざ、昇進試合となると本性を剥き出しにしたようだぞ。
本気でやらないとヤベー!!
瞬時にマイシが目前に現れ、狂気に満ちた顔で竜の爪を連想させる一刀を振るってくる。すかさず渾身のエーテルを込めた光の弓を振り上げる。
「無駄だしッ!!」
ドガアアァアッ!!
爆ぜた爆裂が寺を粉々に散らす。
押し負けて吹っ飛ばされて、後方の絶壁に背中を打ち付けた。「ぐあ!」
「ナッセェ!?」
「ぐ、お、重い! 気を付けろ!!」
マイシは今の一撃で倒せずで「あ?」と訝しげだ。
エーテルの尾を引きながら突進するヤマミが杖の剣で斬りかかる。マイシはそれを剣で受け止める。
ガッギィン!
その思った以上の重みに、マイシは片足を地面にめり込ませ「ぬ?」と僅かに驚きをあらわにする。その隙を突いて!
「スターライト・フォ──ルッ!!」
オレも高くジャンプしてからの弓での振り下ろしだー!
マイシは咄嗟に剣をずらして一緒に受け止める。ズン、と地面がめり込み衝撃波が波紋のように広がる。
ビリビリと競り合い、バンと衝撃波を散らして双方ともに弾かれる。
気合充実、ヤマミと一緒に全力疾走でマイシへと再び飛びかかる。
「おおおおおおッ!!!」
「やあああああッ!!」
ガキィン! ッキンキキギン! ギィンギン!! ガギギギン!
思った以上の剣戟の嵐に、マイシは「く! こ、こいつら!!」と必死に捌いていく。
周囲の木々が余波だけで薙ぎ散らされ、激突の度に地面が震え、嵐のように烈風が吹き荒んで破片を運んでいく。
アクロバティックに縦横無尽と渓谷を飛び回って、激突の連鎖を展開していく。
クッキーは「あちゃー想定外だわー」と額に手を当てた。
「かあっ!!」
「おおおッ!! スターライト・グレートアローッ!!」
マイシの吐く極大火炎球と、オレの大きな光矢が激突! ドッッ!!
空間を震わせるほど激しく爆ぜ、衝撃波の嵐が所狭しと吹き荒れた。ゴゴッ!
シロウは相変わらず表情を変えていないが、サーッと青ざめて冷や汗タラタラ。
「……こいつらヤバない?」
あとがき雑談w
対戦している時に、実はヤマミとリョーコは出会っていたのだ!
リョーコ「あたしは斧女子リョーコよ!」
ヤマミ「斧女子……?」
たゆんたゆんと、リョーコの揺れる巨乳に目が行く。自分の控えめな胸を見やる。愕然とした事実が脳にガツンとぶつかる。
まるで斧で頭をカチ割られたように!
ヤマミ「……斬る!」
涙目でプルプル震えるヤマミ。その剣幕にリョーコは「え? ええ?」と汗タラタラで引きつる。
リョーコ、身に覚えのない怨恨に爆散される! ドーン!
次話『マイシ、マジで強ぇえなー!! 仲間にできるか?』