131話「追憶! 始動『弓兵』ナッセ!」
フルフルと悔しさがこみ上げ、ついに胸中で滞った憤りが爆発!
せっかく大勢のヒーローで戦ったのに!
極めた奥義も決まったのに!!
それを圧倒的な力の差で突き放し、そして人類を滅ぼした!!
「なんなんだ!? あの星獣! ラスボスかよぉぉぉっッ!!!」
《ナ、ナッセェェェェ────ッ!?》
うがーっと怒りをあらわにし、鍵はそれに驚いて飛び上がる。
「っていうか、詰んでるじゃねぇかぞっ!? あれじゃ無理だろっ!!」
……ここは万華鏡彩る風景。量子世界。
キッと鋭い視線で振り向くと、鍵はビクッと怯える。汗タラタラしてるのが見える。
構わず鍵をガシッと掴んで、肩を揺らすみたいにシェイクする。
「なぁ? アンタ! どんな運命も変えられる可能性を持った神器ってったよな? な? なぁ??」
《う、うん。そうだけど……》
「量子世界ではなく、通常の世界で“その力”が使えねーかぞッ!?」
すると鍵は沈黙した。
「お、おい!?」
《あんまり言いたくなかったけどね……》
なんか思いつめた顔してる気がするぞ。ただの鍵の先っぽなのに、そんな顔してるように見えた。
《もちろん、使えるけど……》
「なんかリスクあるのかぞ?」
鍵は頷く。先っぽをクネッと下に曲げただけだが、そう見えた。
《その世界でのキミの命を代価に、私に願いを込めて召喚して対象に差し込む》
「し、死ぬのかぞ?」
《願い次第で、すぐ死ぬのかも知れない。でも、使って欲しくないんだ。ヤマミがいてもいなくても、この方法だけは避けて欲しかった》
悲しげにそう言ってくれてるのが分かる。
死んでも転生するだけなのだが、その場合はヤマミを置いてけぼりにしてしまう。でも、鍵にとっては関係ない。
例え、ヤマミがいなくとも使って欲しくないと思ってたのだろう。
《だから、これは本当にとっておき。なるべくなら使って欲しくない……。
例え、転生で何度も命を得たとしても多用しないで! キミにして見れば変な話だけど、お願い! できれば使わないで!》
泣きそうな顔で懇願しているように見えた。
並行世界で死んでも、ここでまた会える。何度でもだ。
それなのに有限であるかのように言ってくる。でもまさか、願いを叶える鍵にお願いされるとは思ってなかったぞ。
普通に考えれば『命を代価になんでも願いを叶える』自体が鍵の役目であるはず!?
悪魔の契約のような感じなのに、むしろ鍵の方から使わないで欲しいなんて、確かに変な話だ。
「いや、なんでも願いを叶えるんだろ? だったら自分の命を増やすとかすればっ!」
《ダメだよ! そんな事したら、因ッ……》
慌てたような叫びが、詰まった?
「いん……? なんだ?」
《ううん! 何でもない! とにかく矛盾しているけど、そう言う類の願いはしないで! きっと後悔する! 私はもっとキミと一緒にいたいんだ!!》
「それはどういう……??」
なんか切羽詰まってる!?
やっちゃいけない感じの空気か……?
命の代償を打ち消すような矛盾する願いでは都合が悪い、って感じだけど鍵の様子からして損得勘定の意味ではなく、なにか恐ろしい危険が起きるのかもしれない。
なんだか胸騒ぎがする。ザワ……!
そ、そういえば、転生するたびにオレの力は増していくんだっけ?
今も少し……増えてる! 思えば不気味だよな……!?
どこまで…………、増えていくんだぞ………………?
不安になって俯いていると、鍵はそっと顔を覗き込んでくる。
《星獣に使いたいんでしょ?》
ギクッとする。
《今の内に言っておくよ。今度の世界で『星獣を消したい』って願いを叶えたら、並行世界全体に効力が及んでしまう。つまり、どこの並行世界へ行っても星獣は存在しなくなるんだ! 二度と!》
「そ、そうなの!?」
《うん。だって、キミも並行世界を渡っているでしょ? それだけ効力が強いんだよ! だからよく考えて使って欲しいんだ!》
……これじゃ星獣を消すのが可哀想になってくるなぞ。
消えて欲しいくらい憎い相手を消すって意味では、都合がいいんだろうけど……。
「すまん……! 使わないですむよう、なんとかしてみる!」
《ナッセ。ありがとう…………》
しみじみと、想いが伝わる。
《あとね、通常の世界では私はしゃべれない》
「え、そうなのか?」
《うん! でも、もし使う事になっても叶える事自体に拒否はしないよ……》
少し悲しげだ……。
ひょっとしたら、オレの中の何かが増えてる事と関係してるのかな?
心配させたくなく、そっと鍵を抱きしめる。
まるで生き物のようにビクンと反応し、安心するように身を預けてくる。
「あのさ、イチャイチャしてて悪いけど」
ギクッと身が竦み、振り向くとクッキーが呆れた顔で見ているようだった。
そーいえば、師匠も一緒にいたな。
その後、オレの『刻印』の調整をしてくれた。また体が軽くなった気がする。なんかクッキーも深刻そうな顔をしていたなぞ。
「とにかく、善は急げだ。次からは私が師事するから」
「え?」
「次の並行世界で、あんたを鍛えてあげる」
軽くウィンクして微笑んでくる。
────元の世界から、五六〇極六五〇〇載もの離れた並行世界!
一見、普通の街並みで文化も日本らしいが、違うのは『創作士』と言うものが全面に出ていて、ある程度充実している事かぞ。
無論、田舎を含めて全国に創作士がいて、ギルドの役割を担う創作士センターや仮想対戦センターも地域ごとに設置されていた。
師匠いわく、この辺りの並行世界から『創作士』という概念が強くなっているんだそうだ。
前のアメリカでのヒーローってのも似たようなものだったし、かなり前から前兆があったっぽいな。どっかでも『創作士』なんて単語も聞いてたしな。
ちなみに、オレの元いた世界では『創作士』なんて単語すらなかった。それどころかクラスやスキルなんてのが存在しない。
もちろんレベルの概念もないし、強くなれるにも上限が低い。
師匠は言ってたけど、ネガ濃度が高いと『可能性』の概念を狭めるらしい。
今だから思うけど、野生のクマ程度すら倒せないって弱すぎるかな?
当時、そこにいたら絶対的な強敵。銃弾すら通さない分厚い毛に皮膚。更に車すら破壊できる膂力。おまけに足も速いときた。非力な人間じゃひとたまりもねぇ……。
ナッセの前髪の真ん中辺りに銀髪が混ざっている。
「むむ……」
杉の木の上でオレは淡い光を放つ弓を手に、光の矢をキリキリ糸で引いていく。
今のオレは『弓兵』だぞ。
毎度の事ながら『刻印』によって、現クラスに最適な武器である『星光の弓』と『光子の矢』を具現化できる。
オーラで目視したクマを遠くから見据える。集中し、引いていた糸を離す。
矢は大気を切り裂きながら、軌道上の木々もろとも目標のクマの胴体に風穴を空け、着弾地点から噴火のように土砂を噴き上げた。ドッ!
クマは「ウガァッ」と血飛沫をぶち撒け、その巨体が沈んだ。
「おしっ!」
階段を降りるように、足裏からの星型手裏剣によって空中歩行。トントン!
以前の並行世界で培った能力は受け継いでいる。もちろん奥義も……。
「こっちは終わったわ」
「オレもだぞ!」
ヤマミがカゴを背中に微笑んでくる。
まだ十歳に満たないオレたちだけど、山奥で師匠と一緒に修行しているぞ。
月夜が映える夜。焚き火の前で、クッキーは焼き魚をポリポリ頬張る。
ってか、日中何もしないでオレたちが獲ってきたもん食ってるよ……。いや、その気になれば自力で出来るよな。
第一、こういったサバイバルを教えてもらってるし。
でもやっぱ「ズルい……」と思ってしまう。ぐぎぎ!
「食べたら『心霊の会話』。その三十分後に、私と一時間軽く格闘ね」
「おう!」「はい!」
クマや魚を食べ終えて、『心霊の会話』と言う特殊な瞑想をする。なんか自然霊を会話できるらしいけど全然だぞ。
「おおおッ!!」「やあっ!」
クッキーを相手に、ヤマミと一緒に拳や蹴りを繰り出して打撃の嵐を浴びせる。
しかし余裕と捌かれて、ただの一撃も入らない。
それでも身のこなしに回転を取り入れて一撃一撃に重みを持たせ、素早く打つ打つ打つ。
更にフェイント入れたり、アクロバットに動き回ったり、懸命にテクニカルな格闘を繰り広げたのに全然通用しないぞ。
ぜーは、ぜーは、ヤマミと一緒に大の字で仰向けになっていた。
息も切らさず、平然とクッキーは「ナッセもヤマミも一〇〇〇〇超えたか。うん、上々ね」などと呟いている。
なんか度々数字を言ってたけど、一体何なんだろう?
聞いても「気にしない気にしない」ってはぐらかしてくるぞ。モヤッ!
師匠の独り言で、オレがニンジャだった頃は八〇〇〇だとかどうとか言ってたな。
まさか戦闘力だったりしてな……? まさかね……?
山奥にありがちな木造の小屋。
実はオレたちの自作。師匠から教えてもらったけど上手くできてると思うぞ。
そこでヤマミと一緒に二つの布団で横になっている。
「ねぇ、今回の世界も星獣来るかな?」
「きっと来る。なんかいくつか前からか、確実に出てくるようになったな」
「だね……」
ヤマミは不安そう。
「でも、なんとかして異世界へ行きたい!」
「うん! 私も……!」
幼い顔のヤマミの安心したような微笑み。
やっぱドキドキさせられるなぁ。まだ精通してないけど、なんか疼いてくる。
またヤマミに会えたし、ぐっすり安眠する毎日を送れたぞ……。ぽかぽか。
────そして数年が経った。
空を覆う木々の葉っぱの隙間から、日差しが木洩れ出ている。
ついに15歳になったオレはヤマミと一緒に背筋を伸ばして、クッキーと向き合っていた。
「仮想対戦センターに行こ! つーことで山を降りるよ!」
あとがき雑談w
ミニシュパA「シュパーン」
ミニシュパB「シュパパーン!」
ヘイン「これが皇帝たるヘイン・エス・シュパーンである、この余の『分霊』じゃ!」
ミニシュパC「シュパシュパ」
ヘイン「余一人で一つの国家じゃ! それで国を陥落させるのも容易よ!」ドヤ!
ゴールデンミニシュパ「シュパー!」
シルバーミニシュパ「シュパー!」
ヘイン「金と銀だとぉ!? そんなもん生み出した記憶ないんじゃが!? ま、まさか独自に進化を!?」
マウンテンミニシュパ「シュパァァァァァア!!!」全長一万m!
ヘイン「待たんかいワレェ!! 進化も限度があるじゃろがぁぁぁあ!!!」
ズーン、ズーン! 「待っ」プチッ!
ヘイン死亡確定アル! ちーん!
次話『ついにライバルと出会う!? 一体何者ッ!?』