119話「追憶! 魔女らしくない魔女!?」
燃え盛る荒廃した大阪。あちこちで傾いた残骸が炎にまみれている。
「さて『量子世界』へ戻ろっか?」
ペロッと舌が上唇を舐め、はにかんだ笑顔でクッキーはこちらへ振り向く。
めくれるように周りの風景がスルッと上へと流れ、万華鏡彩る亜空間に切り替わった。
《え? 戻ったの??》
運命の鍵がギョッとこちらへ振り向く。いやいや、オレも驚くわ!
クッキーさんは「はろー」と手を振る。鍵はかしこまって《ク、クッキー様!》とペコペコ先端を曲げてお辞儀する。
量子世界の住民である鍵も知ってるとか……、超有名人?
「あら? 『運命の鍵』? 話せたっけ?」
《え? えぇ? 先代の保有者なのに知らなかったんすか!?》
……先代??
「おまたせー!!」
目の前に美味しそうな匂いが充満する食卓が映る。エプロンを身につけた満面の笑顔のクッキーが両手を広げて、テーブル上の豪勢な料理を披露していた。
いつの間に……。
辺りを見渡せば、量子世界特有の万華鏡風景。ここだけタイルで敷き詰めた床に柔らかい絨毯、そして食卓テーブル、その上に美味しそうな料理が並ぶ。
白いご飯に、瑞々しい緑と赤いトマトのサラダ、香り漂うから揚げ、並ぶウィンナー、自分の手前にはミルクが注がれたコップと豪勢だ。
「たんと召し上がれ! お疲れも吹っ飛ぶような美味しさでやみつきになるよー!」
横を見ると、鍵も身を曲げて椅子に座っていた。
しかし戦った後だからか体は重いな……。まだズキズキ痛む。
「一つ聞きたい」
「なに?」
人差し指を立てて、真顔でクッキーと向き合う。
「ここは量子世界。そこへ自由に行けるあんたは一体何者だぞ?」
「魔女クッキー。……と簡単な自己紹介はした」
コクリと頷く。
「単刀直入で言うと、私はあちこち世界を渡れる異世界人」
「いせか……」
ほ、本物の……?
「うん。信じてるようだね。そう、並行世界含めたこの世界とは別の……、とある遥か遠くの世界から来た人間だよ」
「見た目、オレとそんな変わらないんだ」
「当たり前! 同じような種族同士で世界は繋がってんの! タコ星人なら、タコ星人と。昆虫人なら、昆虫人。似通った部分で繋がるシステムになってる」
詳しいなぞ……。まるで神様みてぇだ……。
クッキーはエプロンを外し、こちらと向かい側の席に腰掛けた。
「そんなあなたが、なぜこの世界に……?」
「そういうのは後! それより食べましょ!」
にっこり笑顔で、どうぞどうぞと逆向きの両手を差し出して催促する。
「ここじゃ飲まず食わず寝ずでも平気だから、食べるとかそういうのは……」
「そんな事言ったら野暮でしょ。美味しい味を嗜むのもいいんじゃない?
ね、一緒に食べよ?」
人差し指を立てて、クッキーは明るい笑顔で片目ウィンク。
言葉に不思議な温かみを感じる。自ら魔女と言ってる割に、親しみのある言動は人間臭い。
とはいえ、確かに唾を飲み込みたくなる美味しさだ。あるはずのない食欲が湧いてくるように感じる。
「……で、では、いただきます」
合掌して頭を下げる。箸を手に料理の数々を口に運んでいく。……美味い。
柔らかい笑みを見せていたクッキーは、突如ニヤッと妖しく笑む。
パアアッ! と自ら体が輝きを放つ。
「なっ、なんだっ!?」
食べていたら、自分の体が輝いたのだ。しかしそれも収まっていく。
鍵は恐る恐るとこちらへ振り向く。
気付けば、先程まで重かった身体が不思議と軽くなっていた。まるで連日勤務で蓄積した疲労が全部吹き飛んだかのような清涼感を感じる。
「な、なにをしたんだぞ?」
「フフフ……、傷んでいるその身体を、妖せ……回復料理で治しましたー」
えへん、と得意げに胸を張るクッキー。
ようせ…………??
……ああ、究極混沌魔法の使いすぎで身体を悪くしてたもんな。
やっぱ火力が強いゆえに負担も想像以上に重かったなぞ。
魔法使い世界では、そんな気配もなく連発しまくってたよーな気もするが……。
「あと『究極混沌魔法』は使わない方がいいよ」
「え?」
「……あれが何故ネタ魔法にされてるの分かる? 取得が簡単で威力も高い究極魔法。誰でも使える反面、思考停止してしまう魔法でもあるもの」
更に話を聞くと、究極混沌魔法は既に完成された魔法で、これ以上改良の余地がない。
その利便性に頼って他の魔法を使わなくなる。
故に自分の成長も奪ってしまう。だからバカ一つ覚えとネタ魔法にされている所以だった。
「更にもう一つ、プレゼントよ」
上唇を舐めてウィンクするクッキー。気付くとテーブル上には青白く淡く灯る複雑な紋様と文字の羅列が浮き出てきた。おお、魔法陣っぽいぞ。
クッキーが「インストール開始」とこちらへ指差すと、テーブルから紋様が浮き出してフワフワとこちらへ流れてくる。
それはズズズッと右手に吸い込まれるように収縮。すると右手の甲に星型のマークが浮かぶ。
「な、なんだこりゃああ!?」
右手を見て、思わず驚いてしまう。
「それは武具などに付加する魔法陣こと『円環』は、『刻印』と呼ばれる。身体自身にも付加できるバージョンだから、自分の意志でその効力を発動できるよ」
なんだか更に体が軽くなってきた気がするぞ。
思ってみれば、転生するたびに何か重くなってたしなぁ。気にせねば何でもない程度の緩やかな蓄積だったから、気にしていなかったけど……。
「爆炎魔法!」
鍵とは反対方向の誰もいない場所へ撃ってみると、普通の大きさの火炎球が出てきた。バゴン、とほどよい爆発で弾けた。
……パワーアップどころか弱体化してる。本当にこれでよかったのかぞ?
「バカね! 魔法や技の威力が高いほど、身体に返る反動が大きくなるよ! ろくに鍛えず慣れさせずに使ったら身体を壊すよ!」
「そ……、そうなのか……?」
「でも、逆にレベルさえ上がれば、強力な魔法や技も使えるようになるからねー」
「そっか」
うんうんと頷くクッキー。心なしか鍵は安心してるように見えた。
「という訳で、転生する前にきっちり基礎叩き込んでやるわ!」
「えっ! ええー!?」
「何事もレベルアップは必要だよ!」ズズイ!
腕をまくってにじり寄ってくるクッキーに、思わず気圧されて後しざりする。
「ギニャ────!!」
──そして量子世界でだが、時間にして三週間経った。
野球のグラウンド場。マウンドで投手板に立つオレ。精悍な表情でユニフォームを着て野球帽をかぶっている。グローブにボールを入れたまま、本塁を見据えている。
キャッチャーはクッキー。マスクや防具を身に付けて、しゃがみこんでミットを真ん中に構えている。
バッターボックスには鍵が細い両腕でバットで構えている。
クッキーが真剣な顔で頷く。それに頷き、片足を振りかぶって煙幕が舞う。
「うおおおお!!」
オーバースローで白球を思いっきり投げつける。それは旋風渦巻きながら真っ直ぐと高速でキャッチャーミットへ目指す。
鍵はニヤリと笑んだような雰囲気を見せ、バットを振るう。しかしボールは手前でカクッと落ちて、キャッチャーのミットに収まる。ドバァン!
空振った鍵は唖然とする。
《な……! フ、フォークだと……!?》
「ストライクーバッターアウト!! ゲームセット!!」
明るい笑顔でクッキーは高らかに宣言。悔しがってバットを下ろす鍵。
わぁい、と両拳を振り上げた。
「……って、なんやねん!!」
とグローブを地面にバシンと投げつけた。
いつの間にか雰囲気に飲まれて、世界観ぶち壊しの野球なんぞやってたんだぞ!?
「冗談はさておき、一通りファンタジー世界入門編は取得できたね」キリッ!
「そうかな……?」
疑い深くジト目で、ドヤ顔のクッキーを見やる。
本当に魔女かってくらい人間臭すぎる……。魔女って言えば、俗世離れて怪しい実験や薬とか色々やってるイメージだったが、全然そんな事はなかった。
運動で体力や筋肉をつけ、授業で魔法の撃ち方や応用などを学び、スピリなんとかの瞑想をやるだけだった。むしろ健全だったぞ。
最後だけなぜか野球やってたけど……。
するとクッキーはスピードガンを取り出しては見せてくる。
「じ、時速……、一五六キロ!?」
高校生では剛速球レベル。プロ野球でも中々の戦力となる。
ちなみに『刻印』を発動せず、素の身体能力でこれだ。たった三週間でここまで鍛えこまれるのかって不思議だ。
長年鍛え込んで甲子園目指している球児には申し訳ないぞ……。
「今回は量子世界での精神体にイメージ鍛錬を叩き込んだから、急に強くなったように感じるだけ」
「……いつもの感じで忘れていたが、ここじゃ肉体ないもんな」
「そうそう!」
「ってか精神体を鍛えてもな……、肉体には影響ないんだろ?」
「そんな事はないよ」
クッキーは首を振り優しく笑む。それはなんだか安心させてくれる。
────元の世界から、四三〇載三〇〇〇正もの離れた並行世界!
ハロウィン風に、尖った屋根が特徴の洋風の屋敷が並ぶ町。やや黒っぽい色調が多い。
路地の黒い電灯はカボチャ型のランタンをぶら下げている。
富闇県のとある魔法中学校。並ぶ机に多くの生徒。学ランにセーラー服と、意外と学生服は元いた世界と変わらない。
オレはと言うと、机のノートに目を落として勉学に励んでいるトコ。
背後から微かな動きを察して人差し指を立てて念じる。すると後ろから飛んできた消しゴムがピタッと宙に止まった。
「うおっ!」
後ろに振り向くと、ガタッと不良たちが立ち上がって驚いているようだった。
どうやらイタズラでこちらに消しゴムを投げていたようだ。
「消しゴムならちゃんとあるぞ? 要らないから返す」
「お、おう……」
手を振って、念力で浮いている消しゴムを不良の手へ戻す。当人は汗をたらし呆然。他の生徒も先生もドヨドヨとざわめいていた。
ふっふっふ、超能力が当たり前の並行世界で幼い頃より会得したこの念力。驚いただろうな。
この時、隅っこから姫カットロングの女生徒はキョトンとしていた。
あとがき雑談w
ヤマミ「あの料理に『妖精の種』を混ぜて食べさせたのね」
ウニャン「うん♪」
ヤマミ「そしてあの『刻印』で、封印を施して負担を抑えた……」
ウニャンはうんうんと頷く。
ウニャン「これで男の妖精王がついに誕生するよ」フッフッフ!
ヤマミ「……まさか!? そのために!?」
ウニャン「だって誰もやってくれないんだもん。ドラゴンが人気でねー、そっちに流れるみたい」
ヤマミ「確かに漫画やゲームでもドラゴンはよく見かけるわね」
ウニャン「全くだよ! 風評被害も甚だしい」プンプン
──後日。
ヤマミ「ねぇ、妖精と竜、どっちになれるとしたらどれがいいの?」
ナッセ「そりゃドラゴンだぞ! カッコいいしなー」
ヤマミ「……妖精王とか?」
ナッセ「えー! それ女がやりそうなヤツだろ? 頼まれたってイヤだよ」
ヤマミ「やっぱりね……」
ナッセ「ドラゴンになれるなら、光か闇! カッコイイだろ? レーザーとか闇のブレスとかさ」
ヤマミ「う、うん…………」
ヤマミ(これはもう言えないわね。でも同情するわ……)
ウニャン「君もワタシの種を食べて妖精王になってよ」( ^ω^ )
次話『ついに運命の人と出会う!?』
ヤマミ「……つ、ついに来たっ////」ドキドキ////