117話「追憶! 究極混沌魔法!」
……万、億、兆、京、垓以上もの数え切れないほど多くの並行世界を一気に跳躍し続け、何度か転生を繰り返していてある事に気付いたぞ。
一つずつ並行世界を転生していたなら、絶対気付かなかっただろう。
ネガ濃度の低下に従って、犯罪件数と自殺率が減っていくみたいだ。更に言えば残虐性や悪口の語彙も同じく減っていた。
逆に省みる人や、「ありがとう!」「助かったよ!」「君ってすごいな」と言った良い言葉の比率が増えている。それを聞いていると、なんだか認められたようで嬉しい。
言葉だけでも心が和らげるなんて、すごい効果だなぞ。
もしかしたら、こういう善意のあるなしで社会は大きく変わるのかもしれない……。
鍵は時計の針がわりに、反時計回りで時字螺旋を下るように回り続けている。それに従い、風景は下から上へと流れる量子世界。
オレは螺旋時計の中心で光飛礫を上に撒き散らしながら、浮遊感に身を任せていた。
「つーか、元いたトコはブラック世界だったのかぞ……」
「うん。そーなるね」あはは!
グルグル回り続ける鍵を、ジト目で見やる。
顔がなく、どこから笑っているのかわからないけど陽気そうだ。目回さないのかな……?
更に話を聞くと、ネガ濃度とポジ濃度は相反していて、全部で一〇〇%となっているらしい。
オレのいた並行世界では、ネガ濃度が八〇%でポジ濃度が二〇%らしい。ちなみにキリよくしたいので端数は切っているぞ。
運命の鍵いわく「一〇〇%のネガ世界は存在している」らしい……。
どんな世界なのか気になるけど、絶対行きたくないなぞ。
────元いた世界から、二三〇〇秭もの離れた並行世界。
ガタンゴトン、高架橋を走る電車。風景は近未来風に円柱形の高いビルが並び、華やかな光が灯る。
オレはカバンを太ももに乗せてゆったり惰性に揺られる。割と乗っている人は多く、様々な種族がいた。
白いタコ人間、緑のバッタ人間、ピンク色の背の低いトカゲ人間など……。
どうやら多くの宇宙人が地球と交流して、多文化共生になっている世界みたいだぞ。平成頃に黒船ならぬ『黒UFO』が開国ならぬ『開星』を求めた事によって、幕末ならぬ『政末』は終わってAIこと人工知能コンピューターが国を収める新時代になったらしいぞ。
刀が廃止されるように、地球から銃火器が廃止され、代わりに『超能力』を武力とするようになっていた。
軍用試験をクリアして取得が可能な『超能武力』は相手の頭を爆破させる……。
ボガーン!
突然、タコ星人の頭が破裂し、周囲の人は離れていってザワザワ騒然。
ドタドタと黒い宇宙船服の男たちが殴り込んできて、人差し指と薬指を自分の額に当てる。
「AIに従う傀儡民族なんぞ滅べ────ッ! 超能武力『脳破裂殺法』ッ!!」
掌を向けられた周りの人の頭はボガボガガーンと一斉爆破。飛び散る肉片と血飛沫。きゃああああ、と劈く悲鳴が響く。
オレは「思ったそばから……」とジト目で状況を見やる。
「超能武力テロだ────────ッ!!」
ボガボガボガボガ────ン!!!
オレも巻き込まれて死んだぞ。
《……宇宙人と交流できても、こうしたトラブルは起きるようだね》
「他人事で言うなよ! こっち酷い目にあってるんだぞっ!!」
《それは大変だねー》
詰め寄るも、のほほんとする鍵。くっ、憎たらしいくらい他人事だなぞ……。
できるだけ速く跳躍するために短命で終わる世界線をチョイスしているとは言え、気分の良いものではない。
ほとんどあっという間で死ぬから痛みも苦しみもないけど……。
「死ぬ状況に慣れすぎたワイも怖いぞ……」くっ!
────元いた世界から、六三〇穣三四五〇秭もの離れた並行世界。
高校生になったオレは自室でベッドの上で横になっていた。
隅にテレビ。机と本棚。そしてアニメフィギュア。……一見、普通の部屋だ。
人差し指をテレビに向けて念じる。するとパッと映像が映る。
「ちょっとした超能力が当たり前の世界かぞ」
テーブル上のお菓子をフヨフヨ浮かせて、思い通りに手に収まった。そのまま口に運びバリボリ咀嚼する。
平和そのもので、何も起こる様子はない。
ここで一生を平穏に過ごすのも悪くないかもぞ……。まだ童貞だけど。
どこか広大な研究所にて、超念力極限増幅装置に数十万人の博士たちが両掌を向けて「ムムムゥ~」と念じていた。
二階建ての家ほどの大掛かりな装置の中心部にはガラス張りのカプセルがあり、中は真空。
ズッ……!
黒い渦が生まれた。異様な雰囲気が漏れ出る。ズズズズ……!
「よし! 成功だ!! これで異世界転移がッ……」
「ついにリアル異世界転移できますね!」
「こんな現実なんてサヨナラだー! わーい! わーい!」
「いや待て!! 見ろ!」
黒い渦付近の景色がグニャリと螺旋状に歪み、続いて奥行までグイ────ンと空間が引き伸ばされる。
「これ以上は危険だ! 装置を止めろー!!」
「え? ええ?」
「マジかよッ!!」
「……いや、どうやって止めるの?」
「えっ!?」「え?」「ええ?」「えっ?」「お、おいっ!?」
慌てふためく博士たち。しかし一人の博士は落ち着いていて腕組みしている。
そんな彼に周囲の博士たちは「こんな事態でも落ち着いているとは!」「リーダー! 何か手が!?」「また頼みます!」と期待を寄せる。
それにリーダー博士は冷静な表情で口を開く。
「やばい人類詰んだ」
「ああああああああああああ!!!!」
その日、肥大化していくブラックホールに地球は『排水口に吸い込まれる水』のようにズィ────────ッと、ついでに太陽系も一緒に仲良く後を追ったとさ……。
《考えなしに念力でブラックホール作って滅亡したらしいね》
「寝転がってたら、いつの間にか意識途絶えたんでビックリしたけど、そういう事かぞ……」
はぁ、とジト目でため息をつく。
鍵は時字の螺旋階段を下るように回り続け、風景は上へと流れてゆく。
その後もいくつもの並行世界を超え、転生を繰り返し続けていった……。
星々煌く夜空。向こうに浮かぶ洋風の屋敷。山岳や森林に囲まれた何階も積み重ねられた大掛かりの建築。
なんか宙に浮いている線路を汽車がそれを目指してゴトンゴトン走っていた。
「ついに一二〇〇澗もの遠くの並行世界まで来たぞ……!」
三角帽子に裾の長い漆黒のローブ。そして短い杖を手にしている。
同じような格好の人がワイワイガヤガヤと賑やかに同乗していて、なんか気分が盛り上がる。
「オレは今モノホンの魔法使いだぞ! これから大阪魔法学院へ入学するんだぞ……」
するとなんか黒いローブを着た青白いハゲおっさんが蛇をマフラーのように巻いて、通路をヒタヒタ歩んでいた。人相が悪く、シワや目尻の隈が余計助長してる。
もろ怪しすぎて黒幕っぽいなぁ……。触らぬ神に祟りなし、と窓の方へ向く。
コテン!
なんと、事もあろうかハゲが自分のローブを踏んで転んだのだ。しかも下敷きになった蛇はペチャンコでご臨終だ。チーン!
ハゲはゆっくりと立ち上がり、こちらを睨んでくる。顔面真っ赤で震えている。
「よ、よくもワシの蛇をッ! 貴様ァ────!」グオオオ!
「ま、待てッ!! なぜそうなるのかぞッ!!?」
制止の両手を向け、必死に首をブンブン振る。
「問答無用ッ!! 左手に添えるは生の魔法。右手に添えるは死の魔法。
それを融合させた最強大魔法! 究極混沌魔法────!!」
「ギハアァァァッ!!!」
ドガ────ン!
漆黒混じりの極太の光線が汽車一両を勢いよくぶち破り、その惰性で脱線した汽車もろともハゲ含む魔法使いたちは「あああぁぁぁぁ……」と奈落の闇へ真っ逆さまに落ちていった……。
また死んだ。ちくしょう……あのハゲ野郎…………!
《ああいうのいるよね。話聞かず後先考えないヤツ》
「う、うん……」
例え魔法が使える世界でも、ネガ濃度がまだ高ければ余計なトラブルは起きるか……。
思ったより厄介な世界設定だよな。
ちなみにこの魔法使い世界は、ネガ濃度六〇%でポジ四〇%な。
《あのハゲが死んだのが原因で、第四次魔法大戦が起きたよ》
映画のようなスクリーンに、ドゴーンバゴーンと爆発が連鎖しているのが映る。
あのハゲが最重要人物だったのか、って思うくらい世界情勢は悲惨なものとなっていた。
「何故に……?」
世界各地の多くの魔法使いが一斉に究極混沌魔法をバカ一つ覚えのように乱射し、死屍累々と屍を散らし、建物を薙ぎ倒し、大地を荒廃させてゆく。
それでも人々は憎しみに凝り固まって、己の正義を通すために究極混沌魔法で大勢の血を流させた。
「うりゃああッ!! 究極混沌魔法! 究極混沌魔法!! 究極混沌魔法!!!」
っていうか究極混沌魔法って気軽に撃てる魔法だったのかぞ……。
「……これ映画じゃないんだよな?」
《うん。そーだよ。現実》
運命の鍵はポリポリとポップコーンを召し上がっていた。
どこに口があるのか見えないけど、とにかく細い手が生えていてそれで鍵の先端に運んでいる。どうやって食べているんだろう……?
《あんたの責任じゃないさ。遅かれ早かれ、同じ結果になってたよ》ポリポリ。
それはそうだけどぞ…………。き、気になる……。
しかし、なんかオレの何かが膨らんでいるような違和感を感じる。
転生するたびになんか増えてるような気がするぞ。死ぬたびにパワーアップしていく少年漫画的な?
「爆炎魔法!」
なんとなく掌を向けてみると、割と大きい火炎球が撃ち出された。
バゴォーン!!
轟音を立てて大爆発に弾け、その余波の煽りを食らった鍵が「グエー!」と吹っ飛んで床に転がる。
《何すんのさ!! 殺す気ー!?》
「ゴメンゴメン! 思ったより火力凄くてびっくりしたんだ!」
詰め寄った鍵に、慌てて合掌しながら頭をペコペコ下げる。するとピタリと鍵は硬直。
《……ヤバッ! 因子が溜まってきてる。これは急がなきゃ》ボソッ!
「え? なんて?」
《な、なんでもないさ! 次いこいこー!》
……なんかモヤッとするなぞ。
あとがき雑談w
ハゲ「本当は魔法学校に隠されているという『賢者の石』を手に入れて俺様は不老不死になって、非魔法社会を牛耳ろうと思ってたのに! おのれ~!!」
蛇「いきなり潰れて即死とかwww 散々でしたわwwwww」
ハゲ「って事で、俺様の世界の魔法を教えてやろう……」
浮遊魔法
自分やモノを浮かす魔法。相手へは魔法抵抗力に参照して効果の影響が変わる。
疾走魔法
速く走れるようになる魔法。二次効果として体感速度がゆっくり感じられる。
治癒魔法
細胞の自己治癒能力を早める魔法。風邪には使ってはいけない。
菌滅魔法
人体に悪影響を及ぼすウィルスや細菌を滅ぼす最微攻撃魔法。
爆炎魔法
爆炎に弾ける攻撃魔法。手加減するとマッチ替わりになる。
流水魔法
光線状に打つ水鉄砲とか、津波のように押し流すとかする攻撃魔法。
地震魔法
地形を自由に変化させる。攻撃や防御にも使える汎用性の高い魔法。
雷電魔法
電気を操る攻撃魔法。放電したり、落雷させたり。
竜巻魔法
風の渦を生み出す攻撃魔法。相手の攻撃を弾く防御壁も作れる。
これらの属性魔法に「メガ」「ギガス」を語尾につけると威力アップする。
例:爆炎魔法→爆炎中魔法→爆炎大魔法
生の魔法
精神に活力を与える元気魔法。鬱を治す。
死の魔法
生あるモノを死なせる。ただし死にたい意志を持ってる人にしか効果ない。
究極混沌魔法
左手に生の魔法と右手に死の魔法を発動させ、それを融合して放つ攻撃魔法。
互いの特徴を少し相殺し、ほどよく攻撃魔法になった。
漆黒混じりの極太光線を放てる。最強の攻撃魔法を謳う割に、なぜか使い手が多いネタ魔法。
究極蘇生魔法
生の魔法を両手両足、そして口から合計五発発動して融合する事で可能な究極魔法。
状態に関わらず死者を1%の確率で完全復元若返りで生き返らせる。失敗すると死者は灰になる。
ハゲ「最後にこれを教えるが、絶対に試すなよ!」
究極消滅魔法
数百万人以上で死の魔法を発動する事で可能らしい究極魔法。
理論上は黒い渦を発生させて、全ての物質を消滅させ……おや景色が歪んd
蛇「ちょwwwwwww」
次話『師匠との出会い!? メカニワトーリ強襲!!』