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115話「追憶の旅立ち……!」

 なんと精神世界に来てしまったナッセは地球の星獣と目が合ってしまったぞ。


「な、なんか変な夢見てたらと思ったら、どういうことだぞ!?」

《落ち着け。あれは夢ではない》


 わたわた慌てていたら、星獣の穏やかな(なだ)め声で落ち着いた気がした。

 キョロキョロ見渡せば、遺跡が残骸のように建ち、辺り一面の花畑。空はすっきりしたような青空に雲が流れている。心地よい風が肌を撫で、地面の花が揺れる。


 以前、初めて星獣と会った時とは違うぞ……。

 空は混濁(こんだく)してたし、花畑なんかなかった。しかも星獣を囲む神殿もあった。


《お前と新たに契約したからだ。それで服従の仮面も呪縛の神殿も解かれた。そして今はそちらの精神世界に邪魔してもらっている》

「そ、そうなのか……?」

《クク……、しかし無防備な精神世界よな。我がお前を襲えば乗っ取る事も容易だ》

「えっ!?」


 思わず身構える。しかし星獣は「はっはっは」とおおらかに笑う。


《友にそんな事できるかい!》


 柔軟な態度に安堵する。

 しかし言われてみれば、襲われたら絶対殺されるよな……。


《お前の記憶をほじくりかえして済まなかったな》

「それで夢として出てきてたのか?」

《その影響はある。だが、さっきも言ったように夢とは違う。()()()()()()()()()()()()()。前世といっても同一人物として人生のループを繰り返している意味でだ。……さっきの記憶は一巡前のだな》

「ループ……?」

《しかし今のお前はこれまでの記憶を忘れている。一巡前までは全ての前世の記憶を持ち越しにできていた》

「だがなぜっ!? オレは忘れて……??」


 星獣は猫のように前足をペロペロ舐める。


《我に『運命の鍵』を撃ち込んだ後、やっぱり悲観的になって自ら記憶を消したのかもな。だが、未練が残った為に不完全だったのでは? だから時々漏れ出てくるんじゃないか?》


 そういえば、と思う。

 時折フラッシュバックのように脳裏を駆け巡る記憶。厳しいヤマミを拒絶し去られてしまった後悔の記憶。黒髪だらけの奇妙な学院生活……。

 そして今はモリッカやリョーコの凄惨な死。


「た、確かに、アレはリアリティーがあって……、心が締め付けられるような……」


 そうだよ……。後悔しかない記憶ばっかりじゃないか。

 アクトが相棒だったってのも実感できたし、今でも生き残ってるのが安心するくれぇだ……。


《今の人生では運良く悲劇は起きていない。が、それも続くとも限らん》

「っていうか、なんでオレの記憶をほじくってたんだ?」


 星獣は頭を垂れる。


《……済まない。我はお前という人間に興味を持ったからだ》

「オレの?」

《そうだ。普通なら、自分の体表に張り付いている生き物になど関心持たん。お前も身の回りの細菌なんて気にしないだろう?》


 自分で腕を見下ろす。

 そりゃ、細菌なんてどうでもよいよな。


《例えが無礼で済まないが、我の認識がこうだと思ってもらえれば助かる》

「あ、ああ……」


《さて、ほじくってたのはナッセとしての人生がどういうものか知りたかったからだ。しかし数奇な人生をよな。何度もループを繰り返しながら並行世界(パラレルワールド)を次々()()()()()いるとは!》


 思わずその言葉に食い入る。


《クク……、我は前に「自分で思い出せ」って言ったが、それでは何年かかるか分からん。だから今のお前には早く思い出してもらいたい》

「ええ? あんな辛いのを?」

《……全部じゃなくていい。必要な記憶だけでいい。それと》


 なんか地面が震えたと思ったら、向こうで大きな山がボコッと突き出てくる。

 荘厳(そうごん)としていて天を突き破らんとするほどの高さだ。



《今なら『大爆裂魔法(エキスパンション)』が撃てるはずだ》


 あ、確かに! 今まで体験した事なかったのに、方法と慣れが体に染み付いている!?

 腕を交差し、その部分に光子を収束。溢れる魔法力が放射口へと溜まるのが感覚でわかる。同時に体にのしかかる負担の痛みもまた感じる。

 大地を揺るがし、全身を包むように旋風がゴウッと吹き荒れた。オレはカッと見開き、交差している腕を一気に広げた。


()()かれろッ!! 大烈斬(だいれつざん)ヒュザ・テンペストォォ──ッッ!!!!」


 爆音を響かせながら、膨大な暴風の奔流(ほんりゅう)が扇状へ解き放たれた。風の刃が幾重(いくえ)乱雑(らんざつ)に吹き荒れ、山とその周辺を巻き込んで破壊を撒き散らす。


 スザン!!!!


 斬り裂くような大きな轟音と地鳴りと共に全ては真っ白に吹き飛んだ。


 唖然とする自分。その天災かと錯覚しうるほどの大暴風は想像以上のものだったぞ。

 綺麗に切り取られた平らで広大な断面。シュウウ、と煙幕が流れる。


 ほええ……。マジで使えるぞ……。



《ちなみに負担による痛みは気のせいなので、ここでなら連発は可能だ。なにしろ深層に位置する精神世界だからな……》


 ニヤニヤ嬉しそうな星獣。

 でも、確かに今のオレは大爆裂魔法はおろか昇天魔法(ラストヘヴン)も……!?

 気分が引き締まって、ギュッと拳を握る。


 ……アレだけは絶対に使いたくないぞ。あれは悲しいだけの魔法だぞ。



《話を戻すが、辛い記憶まで取り戻すのは嫌だろうと思う。だがしかし、これまで得てきた経験やスキルも戻ってくるのが大きなメリットだ》

「それをやって欲しくて……?」

《今のままではヤミザキには勝てんからな。モリッカは生きておるし》


 た、確かに!


 一巡前のはフクダリウスが盾となり、モリッカの自爆で多大なダメージを受けたヤミザキを相手に妖精王の力を全開にして辛うじて勝てた。

 でも今はそんな前提がないから、万全のヤミザキと戦うハメになる……。


「そ、そういや、地球さんを召喚できればっ!」

《今のお前では無理だ。あの時は(あらかじ)め込められた召喚魔法陣だからこそ、あれほど大きな星獣で召喚できたのだ》


 ああ、そういやあの魔法陣は藻乃柿(モノガキ)って人たちが作ったものなんだよな。それをオレが横取りして勝手に起動しただけだもんな。起動するだけでもものすごく消耗したけど……。



「で、でもよ……ヤミザキには『賢者の秘法(アルス・マグナ)』が全然通用しなかったぞ…………」


 落ち込んで頭を垂れるオレの頭に、優しく大きな星獣の手がポンと置かれる。その手が離れ、見上げると星獣は優しく笑んでいた。


《では魔女クッキーに聞いてみろ。お前がこれまで奥義と称してきたのは単なる基本中の基本でしかないと言ってくるはずだ》

「ええっ!?」

《魔女クッキーは我々星獣の間でも有名だからな……》


 思わずポカンとする。


《お前も切磋琢磨(せっさたくま)と長く修行を重ねていけば、いずれは単騎でヤミザキを超え、クッキーのレベルに達するかもしれん! その日が楽しみだわい!》


 かかかっと笑う星獣に安心させられ、その励ましが自分の心の支えになってくれた。

 友達っていいもんなんだなぁ……。

 まさか星獣と友達ってのも驚く事なんだけど、それをオレは願ったんだよな。



《準備はいいか? 記憶を取り戻す旅立ちのな》

「え!?」


 思わず心がギュッと引き締まる。ドキドキと心音が高鳴る。


《ヤミザキの強固な精神に対抗できる、お前の強き『目的』と『信念』を取り戻せ! それも勝利の鍵だ!》


 息を呑む。


 確かにヤミザキの言葉は重かった……。

 今の薄っぺらいオレじゃ太刀打ちできない。例え力で上回ったとしても、確固たる信念による滲み出る力には勝てないだろうなと、想像に(がた)くない。



「……じゃあ、頼むぞ!」

《それでこそ、我が友よ!》


 ────暗転!




 暗くジメジメした陰鬱(いんうつ)な気分が心にのしかかる。

 気付けば、辺りは無機質な機器が並んでいて、同じ作業服を着た人々が黙々(もくもく)と作業を繰り返していた。自分も同じように、コンベアによって目の前の流れてくる機械に向かって確認作業をする。もしくは重いものを運んだりする。急いで部品を届けたりする。それが何時間も続くとチャイムが鳴る。

 ……やっと定時が来た。


「これから三時間残業を頼まれてくれんか。やってくれるな? な!」


 顔面にシワが細かく刻まれた厳しそうな上司が圧力をかけるような物言いで頼んできて、心に重いものが更にのしかかる。

 毎日毎日、そういう労働の繰り返しで足裏、腰、肩に慢性的な痛みが蓄積している。

 薬や湿布(しっぷ)でだましだましやっていくしかない現状に(さいな)まされている……。


「……はい」


 それでも逆らえず、覇気のない返答で承諾(しょうだく)


 ────三時間後の残業を済ませると、上司は業務的態度で「お疲れさん。明日もよろしく」と作り笑いで(ねぎら)ってくる。陰鬱(いんうつ)だ……。



 電車に揺られながら流れる夜景を(うつろ)に眺めるのが、いつもの帰宅だ。

 はぁ、と溜息が漏れる。

 電車にいる皆も疲れきった顔をしている。寝ている人もいる。いずれにせよ見てて気分が晴れないのは確かだ。


 会社辞めたいなぁ……。でも生活できないしなぁ…………。


 そういう事を常々思いながら、一人寂しいマンションの部屋の明かりをつける。

 コンビニで買ってきた晩飯を平らげると、ビール缶を空にして酔いしれる。それだけが(わず)かな幸せな時間だった。

 部屋に漫画やゲームが散乱しているが、気力がなくて手に取るのも億劫(おっくう)だ。


 死にたい…………。


 空虚な毎日が同じように繰り返されたら、何のために生きているのか分からなくなる。

 会社に入って、四十三歳まで生きてきたが充実した事なんて一つもない。友達もあまりいないし、彼女もいない。つまんない人生だ……。


 スマホを手に、ウェブ小説を読み漁る。


 異世界転生して充実する生活が送れる物語……。

 ファンタジー世界は今でも憧れだ。だが現実にはそんなものなどない。でも現実にあったらいいなぁ……。

 ああ……、ふとした事でトラックにひかれて異世界転生できねーかな…………?



 広々とした青空。生い茂る森林。風に撫でられる草原。

 可愛い美少女(ヒロイン)がこちらに恥じらってくる。打算的にこちらの地位や収入を吟味(ぎんみ)する事なく、純粋に恋に落ちてくれる彼女と手を取り合って、剣と魔法で異世界を渡り歩いていく。


 そんな楽しげな妄想に(ふけ)りながら寝落ち────……。

あとがき雑談w


ナッセ「確かに大爆裂は強いけど、三大奥義の賢者の秘法(アルス・マグナ)を会得した今なら、要らないかな?」

星獣《そうか?》

ナッセ「大爆裂は負担が重い。剣士(セイバー)となった今のオレにはキツいぞ」

星獣《……ふむ? なぜ剣士(セイバー)だとキツいのか?》


ナッセ「痛いままだと満足に戦えねぇぞ」

星獣《流星進撃(メテオラン)とも違うのか?》

ナッセ「ああ……。断然な。大爆裂は無理矢理出力を広げるから、負担ヤバい」

星獣《使ってみないと分からん感覚よな……》

ナッセ「うん。だから燃費の良い奥義さえあればいいわけでw」


星獣(クッキーは両方ポンポカ使ってたけど、アレは例外か……)


 ※本編でも『賢者の秘法(アルス・マグナ)』会得後は全く大爆裂魔法使ってませんw


 追憶の旅ということで、回想シーンが続きますが欝展開は長くないです。

 割とコメディ感が強いかもですので楽しみいただければ幸いです。



 次話『現実世界から転生の旅の始まり!?』

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