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113話「追憶! モリッカ死す……!」

 逃がすものか、とヤミザキは憤怒の形相。

 彼を(よう)する夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)は「グオオオ」と吠え、高らかに振り上げた文殊利剣に再び漆黒の稲光が迸る。黄金の刀身を漆黒の刃で包む。そして全身全霊でフクダリウスへ容赦なく横薙ぎする。


 ズガアアァァァァァン!!


 放射状に広々と放射される漆黒の稲光。それに伴って発生した衝撃波が大地を深く穿つ。


「ぐああああああああ────ッ!!」




 背中から伝わる轟音と衝撃、そしてフクダリウスの痛々しい悲鳴。

 コハクは歯を食いしばって涙を溢す。逃げるしかできない自分の無力がたまらなく悔しかった……。


 だが、出来る事はフクダリウスに任された逃亡役。


 もう戦えないナッセとモリッカとマイシをそれぞれの槍に乗せて、自分も空飛ぶホウキの要領で自身の槍に乗って超高速で飛び去るのみ。

 勝てない戦いに意固地になる必要はない。

 全滅すればそれまで。気合いや根性でどうにかできる戦力差ではない。最善の手は生き残って『次に(つな)げる』事です。


「飛ばしますよ!!」キリッ!


 槍に乗せられたナッセは虚ろな目で未だ自失。やがて(まぶた)を閉じていく……。



 ────暗転。


 ドドドドドドドドド!!


 地面を走る衝撃波がなおも裂き続けながら、コハクらを追いかける。

 噴火のように飛沫を上げ、巨躯の夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)が背後へ迫るように飛び出した。振り向いて切羽詰(せっぱつま)るコハク。逃げられないのか、と絶望を胸に抱く。


「ナッセは私のものだ……!!」


 仰々(ぎょうぎょう)しい声。夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)の大きな手がコハクらを叩き落す。

 たまらず「うわああああああ!!」と地面に落下して飛沫を吹き上げる。ドドッ!



「うう……」


 我に返ると、コハクと()()()は横たわっていた。モリッカはしゃがみこんだ体勢のまま、こちらへ視線をよこす。

「ナッセさん! 無事ですかッ?」

「あ、ああ!」

 体のあちこちが痛むが、こんな事言ってられないぞ……。


「観念して保護下に入るのだな……。ナッセ!」


 赤いエーテルを揺らしながら、巨大な夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)と共に戦々恐々とさせられる雰囲気で歩み寄ってくる。

 捕まれば例の刻印(エンチャント)を刻まれる。そうなったら何もできなくなるぞ。


「ま、まだだ!! まだだぞ!」


 痛む体を押し、両の足で踏ん張って左右の腕を交差させる。

 キュイイイイ……! 交差した腕へと周囲から光子が収束されていく。ビリビリと大気が震えるのをモリッカは感じた。


「に、二発目のッ! だ、大爆裂魔法……!?」

「まだ撃てるのか…………!」


 ヤミザキは訝しげに舌打ちする。


 それしかオレにできる方法はないぞ!!

 まだ『賢者の秘法(アルス・マグナ)』すら()()()()()()()今、これが繰り出せる最強の技だぞ!


 ビキッと体に激痛が走る。徐々にビキビキビキと引き裂かれるような激痛が行き渡り、体は悲鳴を上げていく。

 だが、それでも! 負けるわけにはいかない!!


 オレはカッと気合いを充実させ見開く。



 「(とどろ)(うな)れッ!! 大爆雷(だいばくらい)デンガ・テンペストサンダーッッ!!!」


 交差した腕を左右に広げ、膨大な雷を解き放った。

「な、雷撃魔法(デンガ)だとォッ!?」

 驚愕に見開くヤミザキを閃光が覆う。


 ズガァァァピッシャアアアアアアン!!!!


 地表を抉り尽くして突き進む一条の爆雷が夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)へと炸裂し、四方八方へと放射状に散らす。辺りの岩山をことごとく打ち貫き、広範囲に渡って莫大な雷が蹂躙(じゅうりん)し、大地を震撼させた。ズズズズ!



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 (かす)んだ視界。止まらぬ苦しい息。引き裂かれるような激痛が全身を走り続けている。立っているのさえ辛い。だが、濛々(もうもう)と立ち込める煙幕の向こうの結果を見届けるまで倒れられない。

 ポタポタ……、足元に滴る血の音が聞こえる。


「もう……終わりのようだな」


 絶望さえ植え付けるヤミザキの声。

 煙幕から、夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)の巨体が抜け出す。所々破損していて、そこから粘着質の体液がゴポゴポ滴り落ちている。その明王(みょうおう)に包まれているヤミザキの体のあちこちは血が(にじ)んでいて、険しい顔をしていた。

 確かに『偶像化(アイドラ)』を貫き、多少なりともダメージが届いたようだった。だが、致命傷には程遠い。


 ガクガクと(ひざ)が震え、ついに地面に落ちた。

 歩み寄ってくるヤミザキを前に(ひざまず)くかのような構図になってしまった。


 ……もはや、生き残れるだけの手段はもう尽くした。


 胸の内を絶望の闇で覆う。諦めざるを得ないと、(くつがえ)せぬ力の差に諦念(ていねん)さえ覚える。

 そして脳裏にヤマミが浮かぶ。

 悲しそうな顔で涙が溢れ、こちらに背を向けて走り去っていく悲哀な記憶。


 ヤマミ……、オレは……何も理解していなかった。それどころか傷つけてしまったぞ。


 心残りは彼女(ヤマミ)だ。だがもうしばらく会っていない。

 謝っても、もう許してくれないかもしれない。冷たい目でそっぽ向くかも知れない。……強烈な罪悪感と後悔が更に胸を締め付ける。


「よく戦った。貴殿の奮闘は永遠に覚えておくとしよう……。お前は私の器にふさわしい男だ。それを誇りながら天に召されるがいい」

「……それしかないかぞ」


 未だ(うつむ)いたままのナッセを前に、ヤミザキは身に包んでいた夕夏(ユウカ)明王(みょうおう)を薄らと分解させるように霧散(むさん)させていく。


「ゆっくり休め。お前は立派に雄々しく生きた」


 ヤミザキは穏やかな笑みで(ねぎら)う。そして掌でナッセの頭を触れんとしたその瞬間!

 オレは鬼気迫る形相で見上げ、一瞬の内にヤミザキの後ろへ回り込んで首を両の腕で締め上げる。

 ほんの少し驚いたヤミザキだったが、余裕の表情で「まだ足掻(あが)くか? 大したものだ」と感嘆(かんたん)する。



 シュババババッと無数の光の矢が飛んでくる。

 それは四方八方から自分ごとヤミザキを射抜く。だが痛みはない。固まったように体が動かないだけだ。その予兆にヤミザキは見開き、ゾッと青ざめた。


「へへっ! 迂闊(うかつ)だったなぞ!! オレにもう力が残されてないと『偶像化(アイドラ)』を解いたのは失敗だったなぞ」

「き、貴様……ッ! 本気かッ……!?」


 ヤミザキごと光の矢で()いとめたナッセの体そのものが輝き始め、周囲に激しく稲光が荒れ狂う。

 凄まじい力場が充填されていって、大地がゴゴゴゴと小刻みに震え始めていく。大気もピリピリ空震に包まれていく。

 徐々にナッセの体は眩いほどに輝度を増していく。


 モリッカは見開き、絶句。


「そ、それは……!? 命を媒介(ばいかい)に自爆する昇天魔法(ラストヘヴン)!! いけませんっ!!」

「ええい!! 離せ!! 離さんかァッ!!!」


 ヤミザキは体を捻って振り解こうと試みるが、震えたまま微動だにできない。


「無駄だぞ! 聖なる光の矢によって、オレとお前は固定された! 引き剥がすのは不可能だぞ!!」

「く……、お、おのれぇ!! 貴様ッ!! これが狙いかッ…………!!」

「ああ。最初(ハナ)っから大爆裂魔法では倒せないのは百も承知。万策尽きた自分を(おとり)に、お前を油断させるためぞ!」


 ヤミザキは絶句した。全身から冷や汗がふつふつと吹き出る。


「ナッセ君!! なんでですかっ!? まだ早まらないでくださいっ!!」


 涙ぐむモリッカに、沈んだ(はかな)げな気持ちで向き合う。首を振る。

 この魔法はかけたが最後、二度と解除はできない。射抜いた敵もろとも道連れに死ぬ。それはそういう絶対的な魔法なのだ。



「…………もしヤマミさんに会ったらさ、伝えてくれないかぞ? オレは夕夏(ユウカ)家の呪縛もろとも空へ()く。今までありがとうな、と」


 眩く輝くオレは涙を溢れるほどに流し、後悔している事を吐き出すように伝言を頼んだ。

 モリッカは「う、うああっ」と涙を流す。

 しかし、キッと顔を引き締める。


「妖狐コンセット!!」

「はいよ!」ポン!


 隣に二足歩行の小さな狐型の小人が煙と共に召喚される。


「……()()頼みます!」

「仕方ねぇなぁ」



 オレとヤミザキは輝きを増し、凄まじい命のエネルギーが膨れ上がっていく。

 焦るヤミザキは「お、お、おのれェェェェェッ!!!」と血眼で吠える。だが、どうしようもない。

 オレは皮肉(ひにく)るように笑む。


「あの世へ一緒に()こうぜ!! 一緒になぁ!!」

「ナッセェェェェ────────ッ!!!」


 弾ける一歩手前の臨界へ達しようとする、その瞬間!




 視界が唐突に切り替わった。


 オレはただ突っ立っていた。何もしていない。代わりに、ヤミザキとモリッカが光の矢で縫い止められているのが視界に入った。

「え…………???」


 見開く。


 今、何が起きた?? 



「も、モリッカ!! 何をした!!?」

「これが……僕の家系能力で召喚できる『妖狐コンセット』の能力なんです……。対象と自分の位置を入れ替えるのが従来の能力ですが、実は隠していた第二の能力があったんです」


 ざわ……! 身の毛がよだつ。


「魔法発動者と自分を入れ替える事で、発動権限を自分に移行させる事が出来るんです! この昇天魔法(ラストヘヴン)は僕が発動した事になりました」


 そんなの……、聞いてないぞ…………!


「おい!!」

「すみません……! でも、あなたはフクダリウスさんや僕の分まで、その先を生きて欲しいんですっ!」

「な、なにを言っているんだ!!! 止めろ!! 止めろォ────ッ!!」


 (うる)んだ涙で視界が歪み、ただただ眩く(にじ)んで見えるのみだ。



「ラストヘヴン────ッ!!!!」


 キュゴオオオオオォォォォッ!!


 超高速で周囲から放射状に集まってきた光の筋がモリッカとヤミザキの元へと収束され、糸玉(いとだま)のように螺旋状に編みこみながら膨張していく。

「うおおおおおおおおお────ッ!!!!」

 身動きもできず、なすすべもないヤミザキは恐怖のあまり絶叫する。


 巨大な光の糸玉(いとだま)は両端から天使のような二つの翼を広げた。バサッとそれは羽ばたき、超高速でモリッカとヤミザキごと天高く急上昇。遥か空から命の輝きがパッと弾けた。


 それはまるで超新星爆発のように、はち切れんばかりの神々しい輝きが大空に広がった。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



 オレは嗚咽(おえつ)し、止めどもなく涙が溢れていく。

 悲愴な爆発音が心に響き、感傷のままに両拳を地面に叩きつけ、腹の底から吐き出すように天に向かって叫び上げた。


「モリッカァ────────────ッッ!!」



 ────再び暗転。

あとがき雑談w


 大歓声で賑わう仮想対戦(バーチャルサバイバル)センター。

 なんとリョーコが黄金に煌く優勝カップを掲げて、喜んでいた。


リョーコ「やったー!! グレイドA級の『大阪杯』を優勝したああー!!」

エリ「ほとんどリョーコが頑張ってたじゃねw」

トシエ「マジでそんなカンジーw」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ! 拍手の嵐!


テル「にゃに?」

ナツミ「ああ、説明する……」


 グレイドとは重賞ビッグタイトル戦。重賞ランクとしてD→C→B→Aと格が上がっていく。

 つまりリョーコが優勝したビッグタイトルは最高峰らしい。

 ただし『大阪杯』以外にもグレイドA級のビッグタイトルは他にもある。


ナツミ「だからリョーコは一冠(いっかん)創作士(クリエイター)って事になる」

テル「にゃにゃにゃはははにゃああw」(目をキラキラして感動)



 次話『ナッセの覚醒! その正体は……??』

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