10話「現代のギルド? 創作士センター!」
大阪の繁華街に紛れて、区役所のように広くて大きな建物が建っていた。
入口に「梅田創作士センター」と広告塔が建ってある。見た目、装飾もなく派手でもなく地味に普通のビルだぞ。
「……大阪のは初めて来たけど、地元と違って大きいなぞ」
呆然としたまま、グデーとなっているリョーコを背負っていた。
「俺達は報酬を受け取りに行く。彼女は君に任すよ。じゃあお先に」
「あ、はい」
先頭のタネ坊とキンタはさっさと入っていった。
意外と重ぇ……。力尽きたリョーコを背負うのも楽じゃない。こうなったのにもワケがあるぞ。
────1時間前!
キラリンッと、タネ坊の額が煌く。
「城路君……。その魔法陣みたいなのは君の『創作』かい?」
「ああ。元が非力なんで攻撃力、守備力、敏捷力など、ステータスを強化する補助魔法を刻印から発動させている。重ねがけで更に強化も可能だぞ。ただ、発動中は魔法力を消耗し続けるんだ」
タネ坊は今回の戦闘で、本人が全然疲れてないようにも思え、まだ余力があるのだなと察した。
「では、他に『刻印』はあるのかな?」
「うん。光の剣を形成するヤツと、盾を形成するヤツの二つ……。
師匠との修行期間は長くなかったから、これくらいしかできない。けど、これから学んでいけば色々できるようになるかもしれない」
色々汎用性のある『創作』だとタネ坊とキンタは内心感心した。これから可能性が広がるのだろう。まだ彼は発展途上というわけか。
「む~~!! 仲間ハズレにするなんて、ひっど~~い!!」
不満なリョーコはブーブー頬を膨らませ、両拳を振り上げた。
「あのさぁ……」ジト目で見やる。
「城路君。その『刻印』を他人に与えたりとかも出来るのかな?」
チラリとタネ坊はリョーコを見やる。それにナッセは察した。
「……出来なくはないぞ。ただ設定によるかな? オレの魔法力経由型なら有効範囲内にいないと発動ができない。独立型なら自分自身で発動できるけど本人のMPの量次第かな? 上手くできるといいんだけど……」
「じゃあやってよ! あたし一人でだって出来るから──!」と鼻息鳴らして胸を張るリョーコ。
「へいへい」
仕方ないと、リョーコの手の甲に刻印を指でなぞって記していく。他人に自分の刻印を記してあげることなどなかった。
だからまだ分からない事も多い。不慮なトラブル起きないといいけど……。
「これでオレと同様、刻印を自由に発動できるぞ」
「にへへ──!」
るんるんと上機嫌なリョーコに、オレは溜息をついた。まぁいいか。
「なんだかなぁ……」
で、またエンカウントした。
またゴーレムがぞろぞろと現れてきた。硬い敵にウンザリするナッセを尻目に、リョーコは不敵に笑む。
「見よ! これがあたしの……、新しい力ッ! 刻印パワーアップ!!!」
リョーコは手の甲を見せつけるように高々と挙げ、叫んだ。その刻印がそれに応え、淡く光りだした。
手の甲に円で囲む『星』印の紋様が展開され、力強さが彼女の身に浸透していく。
「お、おお~~!!」
湧いてくる力に、リョーコは歓喜の声をあげた。
「ヌガアアァァァァ!!」
ゴーレムが一斉に拳を振り上げて襲って来る。身構えていたナッセを、リョーコは腕を伸ばして制止。
タネ坊とキンタは身構えたまま様子見だ。共に額をキランとさせて……。
「せいやーっ!」
ゴーレムに向かって斧を振り下ろすと、豪快に両断。破片が飛び散り、ほぼ木っ端微塵だ。
「うわお……!」
簡単に倒せた事に、リョーコは目を丸くして驚く。
よし、行ける! と、徐々に自信と共に勝気が湧き上がる。
「いっせ──のッ!!」
続けてゴーレムを二体三体、斧の一撃の下で豪快に打ち砕いていく。
自分が『刻印』を発動させても、ゴーレムが相手だと二撃三撃で倒すのがやっとだ。
クラスの戦士としてのリョーコ自身の膂力は元々高かった。
それに加えて『刻印』でパワーアップしている。一撃で両断できる事など容易いのかもしれない。
だが……、
「はあっ、はあっ、はあっ!」
リョーコは肩を落とし、激しい息切れしていた。
汗でびっしょり濡れていた。傍目から見ても疲労困憊だ。やがてフラッと体勢を崩す。
「リョーコッ!!」
慌てて、倒れゆく彼女の身を胸で受け止める。
「ウゴガァァ────ッ!!」
それに、委細構わずとゴーレム達が覆いかぶさってくる。
ギン、鋭い視線を見せ、手の甲の『刻印』円の小さな星を二つに増やす!
リョーコを抱きかかえつつ「おおおッ!!」と吠え、一周するように光の剣で一閃。周囲のゴーレムを木っ端微塵に斬り払った。一斉爆砕と、岩の破片が四散した。
「城路君、小野寺は大丈夫か!?」
タネ坊とキンタはゴーレムを蹴散らしつつ、こちらを冷静に窺ってくる。
「心配ない。すごく疲労してるだけだぞ」
やはり無理か……。数分で倒れるようじゃ、実戦にはまるで役に立たない。それに無理し続ければ体を壊すかも知れない。
リョーコの手の刻印に人差し指で触れ、消滅させた。
「えう~~! 消さないで~~!」
「そのザマじゃ無理だっつーに」
泣きつくリョーコの頭を、優しく叩く。ぺしぺしー!
「……と、このような事があって、MPの回復をお願いできませんか?」
「では、創作士カードを提示してください」
言われるままに、オレはカードをカウンターの女性職員に渡した。
一連の処理をこなした後、職員は会釈して丁重に「承りました。では、あちらへ」と別室へ促す。そして同時にプリントを貰い、渡したカードを返してもらった。
案内された部屋には、大きなカプセルが等間隔に並ぶ広場だった。
近くの装置のスイッチを押すと、パカッと上部のガラス状の筒が開く。背負っていたリョーコを下部の座席に座らす。再びスイッチを押すと、上部の筒が降りてきて密封され、中で暖かい黄緑の光が灯った。
「患者のMPが全快するまで、一時間二十三分かかります。しばらくお待ちください!」と装置が放送。
長いな、と気怠く思いながら近くの椅子に腰かけた。
周囲を見渡せば、あちこち創作士が眠るようにカプセルに入っており、近くに仲間か友達か、関係者がたむろっていた。
エンカウント現象が各地で起こる為、その戦闘で傷付き、力尽きる人も少なくない。
それ故に、国を挙げて設立されたのが『創作士センター』だ。ゲームで言えばギルドみたいなものだぞ。
そして回復センターとしても機能する。ただし病院と違い、怪我の治療と、状態異常回復と、体力魔法力の回復のみだ。
怪我の程度によって、回復にかかる時間も増減する。
四肢欠損レベルの重症なら、数日のカプセル入りを覚悟しなければならない。だが、機能としても優れているので全快さえすれば、すぐに五体満足で戦える状態になる。
それと理由は知らんが、一般人は利用できない。できるのは創作士カード所持者のみだ。
この『創作士カード』も、自分が創作士として登録して発行してもらっている。いわゆるキャッシュカード、免許証、保険証みたいなものだ。
当然というか、カードの表面には、本名、生年月日、性別、番号が記されているだけだ。角度をズラせば、プリズム加工で創作士の紋章が浮かび上がる。地味で面白味がない。
ゲームや漫画の世界のように、冒険者ランクやステータス数値などが表示できたらいいなぞ。
「……今思えば、学院の装置と同じレベルの超科学力だなぞ」
それでも暇なのは変わりない。暇を潰そうと、ショルダーバッグから本を取り出して読み耽っていく。
「待たせた?」
なんか音鳴って、開いたカプセルから、背伸びしてスッキリ全開のリョーコが笑顔で出てきた。
溜め息をつき、本を閉じた。
「さて、報酬受け取りに行くかぞ」
「あたしも行く行く!」
別のカウンターで、創作士カードを提示して報酬を受け取る。
これもカードの機能だ。持っていると、所有者が倒したモンスターを自動でカウントする。種類や強さで報酬の量が変わるらしい。
「へっへー!! 九千円キタ────!!」
「そうか。よかったなぞ」
こっちが五万円の札を受け取っていると、リョーコはガーンと衝撃を受けた。
「な、なんで!? アンタの方が多いわけ~~??」
「……いやなんか、補助魔法かけた扱いでプラスされるみたいだ。強化の程度で変わるかもしれん。まぁ、純粋に倒してきた数が多いってのもあるけどぞ」
ブーブー言うリョーコ。子供か……。それでも可愛いなぞ。
「ぐぎゃああ~~~~!!」
ドタバタとキンタが床を転がってきた。呆気に取られるオレ達と、戸惑う周囲の創作士。
「な、なんだ……?」
「こ、転んで怪我したんや! せやから、も、毛根もろとも再生させてくれへんっ!?」
まるで瀕死の重症を負ったかのように、白々しい芝居で震えた手を伸ばす。
「いえ、毛根細胞が死んでいるなら無理ですが……?」
「え? そんなこたぁあらへん!! 頼むやで~~!! このままじゃ、毛根全滅しちまうんや~~!! ハゲは嫌や~~~~!!」
ガバッといきり立ったキンタが女職員の両肩に摑みかかる。必死にわしわし揺する。女職員が「やめてやめて」訴えても、キンタは頑と聞きはせず食って掛かるばかりだ。
……結果、警備員につまみ出された。当たり前である。タネ坊は溜め息をつきながら出て行く。
呆然するオレとリョーコ。後頭部に汗が垂れる。
「どっか食べに行こうかぞ?」
「うん。そうだね……」
無関係を装って、創作士センターを後にしたのだった……ぞ。
あとがき雑談w
タネ坊「なんであんな恥ずかしい真似をしたんだい?」
キンタ「本来の姿じゃないとはいえ、ハゲは嫌や~~!!」
タネ坊「それな!」
なんと二人の今の姿は本来の姿じゃないらしいぞ!? 一体何者ッ?
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