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108話「神ってる運命! 誇大な予言……!?」

 終戦してから、十一日目────────。


 青空の下、不規則な大きさの岩山が並ぶ荒野。僅かに草や木が申し訳程度に生えている。


「おおおっ!!」


 ナッセの光の剣とマイシの剣が火花を散らして交差。ガッ!

 続いてガッガガッガッと目にも留まらぬ剣戟がぶつかり合い、周囲に地響きと煙幕を散らす。炸裂剣(バーストソード)が爆風を広げ、弾かれたナッセは後方の絶壁を足場に上方へ飛び、(シールド)で更にトトトッと俊敏に飛び上がって岩山の上に立つ。


「甘いし!」


 竜の翼を象るオーラを羽ばたかせ飛びかかるマイシが剣を振るう。鋭い眼光で見切ったナッセはすかさず彼女の刀身を払う。後方の岩山が粉々に破砕。ドッ!


「おおおおッ!!!」「かあああッ!!!」


 大気が爆ぜるほど、二人はあちこちで激突を繰り返していく。ドガガガッ!




 それをモニターで見守るスタッフたちと『分霊(スクナビコナ)』のヤマミ。

 この施設は元々、藻乃柿(モノガキ)ブンショウらが私物化していた所だ。アニマンガー学院の裏施設で、高度な文明のあらゆる機能が揃っている。

 今、ナッセとマイシが『仮想空間(バーチャル・ルーム)』で実戦形式の修行をしている所だった。


 ここは以前、ミノタウルスと戦った所と同じだ。

 ただ殺風景だからと、仮想の地形を生成した。この辺は仮想対戦(バーチャルサバイバル)センターとほぼ変わらない。



 本来なら藻乃柿(モノガキ)ブンショウの許可を取るべきだが、彼はもうここにいない。


 なぜなら、ヨネ校長が今回の戦争で機密で星獣召喚するという危険な実験をした事を知り、この件を追及して藻乃柿(モノガキ)を追放処分としたからだ。

 優秀なスタッフたちにブラック近い作業を強制してた事も含め、これだけ高度な施設を私物化して、あまつさえ社会の脅威となる実験を独断でしようとするのは許しがたい事だ。

 これではオカマサたちの人造人間計画と何らも変わらぬ非人道的行為……。


 逮捕せず、追放するだけでも藻乃柿(モノガキ)に対するせめてもの温情というところか。




「私を追放した事を後悔させてやる!!」


 追放時、藻乃柿(モノガキ)は恨み節まみれで吐き捨てた。するとヨネ校長は悲しげに首を振る。


「これ以上、人の道を外れ続ければやがてモンスターへ堕ちてしまう。どうか頭を冷やして欲しい。このような処分にせざるを得ず、本当に申し訳ない…………」


 ヨネ校長は深々と頭を下げた。

 さすがの藻乃柿(モノガキ)も自分のカルマホーンの事が気になっていてか、これ以上は何も言えなかった。ギリッと歯軋りし、寂しげな背中を見せて去っていった……。



 その後、ヨネ校長は「これまで慣れぬカモフラージュの授業をさせて済まない」と生徒たちにも事情を話して頭を下げてくれた。


 というワケで、ようやく生徒たちは施設を思う存分使って修行を行えるようになったのだ。

 元々、創作士(クリエイター)としての授業はこういう風に自分の力を試し、磨き、鍛えていくべきだった。

 ……まぁ、それでもイラストや漫画の描き方を学びたければ、表向きの教室で授業を受けれるようになっている。


 今回の戦争でついていけないと思った創作士(クリエイター)の大半は、作家としての道を歩む事を決めたり、自主退学したりしていた。



 ヤマミはウニャンの側に座り込む。


()()は使えるかい?」

「ううん!」


 残念そうに首を振る。

 ()()とは、黒い『分霊(スクナビコナ)』を地形に伝播(でんぱ)させていく『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』能力の事だ。あの時はとっさに撃ったけど、その時は“出来るのが当たり前のような感覚”だったらしい。

 とは言え、普段通りに魔法を『衛星(サテライト)』で撃っても弾速は速くなく空から飛んでくるが故に、コータロが気付いて避けてしまう公算が高かった。

 だから()()が偶然的に使えたのは幸運だった。


「……なぜ使えたのか、分からないわ!」


 額に手を当てて苦悩する。

 いつの間にか自分が『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』になってたのかも分からない。今のこの『分霊(スクナビコナ)』は普通のものだ。漆黒の妙な『分霊(スクナビコナ)』ではない。

 だが、この能力がきっかけで普通の『分霊(スクナビコナ)』ができるようになったのだ。



「あー、やっぱマイシすっげぇ強いな! なかなか勝てねぇ」

「はぁ? 本気出せばまだイケるっしょ?」

「出してらぁ! でも、火力の差で押し切られるし」


 帰ってきたナッセとマイシがちょい対話していた。


 戦績を見るに、十回戦えば三回くらいしか勝ててないのがナッセの勝率だった。

 スペックではマイシの方が圧倒的に上回っているため、長々と粘れるナッセはむしろ頑張った方とも言える。それでもマイシは納得がいかない様子だった。

 それはそのはず、天才のコハクや超人モリッカとさえ、どちらか勝つにせよ短期で勝敗がついてしまう。


「……お前、本番だと強いタイプかもなし」

「かなぁ?」


 落としどころを決め、二人の対話は終わった。



《あの二人、まだまだ伸びるね。この調子で切磋琢磨(せっさたくま)と競わせておこう》

「まだ……強くなるの?」


 ウニャンは愛らしい猫の顔で頷く。


《ナッセもそろそろ、次の段階へ進む時期だね》

「次の段階……?」

《うん。マイシは初期の(ドラゴン)化ができているが、ナッセはまだまだだよ》

「まさか……、ナッセもドラゴンの力を……?」

《ううん。それと双璧を成すものさ。前の世界では自在にできていたから、思い出すだけなんだよね》


 ヤマミは脳裏に、四つの白い羽を背中に浮かせる長髪のナッセが浮かぶ。

 一度も見た事がないというのに、なぜそれが一瞬浮かんだのか困惑した。神秘的で優しくも儚げな雰囲気が香りのように漂ってくる気がした。


《正直言って今のままでは、ヤミザキには絶対に勝てないよ》


 ヤマミは(うつむ)いた。

 そうと知らず歩み寄ったナッセは「ん、どうしたの?」と()頓狂(とんきょう)だ。


「ってか、総統継承式って一ヶ月後だったし?」

「うん」


 マイシはナッセに聞いた後「うーん」と片目つむって考え事し始める。


 これほど期間を開けているのは、大阪の復旧の為だろう。

 実は夕夏(ユウカ)家のコンパチ男たちが復旧の手助けとして万人単位で動員されていた。必要な物資を大阪に流通させ、魔法で大地を操作して整えたり、断水を解決したりと、さまざまな分野で役に立っていた。


 本来なら半年以上もかかるところを、一ヶ月で元通りにしようとするのだ。

 さすが四首領(ヨンドン)ヤミザキというだけあって、絶大な権威は計り知れないほどだった。


「ってか、本気でオレを後継者にするつもりかぞ? ヤミザキって男は……」


 後継者候補にされたオレ自身も少々怖気付いていた。

 それでも目的に合っている。後継者になれば夕夏(ユウカ)家の『刻印(エンチャント)』を解除できるのだ。

 ──だが、後継者になるという事は自分が四首領(ヨンドン)として夕夏(ユウカ)家の総統として責務を背負う事になる。


「降りてもいいんだけど……」

「いやだぞ!」


 ヤマミはこちらの心情を察して(おもんぱか)ってくれるが、やはり降りれない!


「なら、いい方法があるし!」


 ニヤッとマイシは小悪魔的に笑む。オレは「え?」と汗をかき、目を丸くする。

 壁に背を預けたまま床であぐらをかいていたフクダリウスは、片目開いて聞き耳を立てていた。




 立派で大きな屋敷の中の一室である書斎で、ヤミザキは嬉しそうに怪しく笑んでいた。


「待ちわびたぞ……! これでようやく理想の器が手に入るのだ!」


 この為だけに長々と準備も済ませた。

 コータロらを引き込んだのも、全ては次の器をヒーローにする為の必要なかませ犬だ。彼らは予想以上に役に立ってくれおった……。


 単純で馬鹿なコータロなど、最初っから後継者にするつもりはなかった。

 思い通り道化として踊ってくれて、事を起こした全ての元凶として引き受けて死んでくれた。


「ハハハハ……」


 ヤミザキの手の刻印(エンチャント)が赤く灯り、ズズズッと葉脈のように展開され広がっていく。

 それは体全体に及び、首を通って顔面に左右対称の紋様が這い回った。

 その巨大な威圧によって、大地が大きく揺れた。ゴゴゴ!


「ようやくだ! ようやく!! 我が力に耐えうる器を我が手に!!!」


 興奮してか、喜々と半握りの両手を挙げた。


 ゴゴゴゴ……、震え上がる大地に屋敷はミシメシと軋んでいく。

 他の息子たちは畏怖し、汗を垂らす。


 …………未だ見せなかった強大すぎる……威圧……! これほどとは……!!



「おっと、屋敷を壊してしまう。私とした事が年甲斐もなく興奮してしまった」


 地震は収まったが、ヤミザキは未だニチャアと怪しく笑む。

 目の前に輝かしい器が来るのだ。これほど長らく渇望した事はなかった。


 魔王級とも言えるほどのMP(マジックプール)を持つ、才気あふれる器!


 そして『予言』でも確実に望み通りになるようなのだ。



 (なんじ)の家系の命運を握る器。(なんじ)と相性は良く、後々の未来に多くの幸をもたらすであろう。

 (なんじ)は己の底を器にぶつけ、天地揺るがす闘争に発展する。しかし恐るなかれ、(なんじ)はその最中で器を理解し、そして己の運命を託せるようになろう。

 器は忌まわしき呪縛を(はら)い、そして(なんじ)の覚悟と使命を受け継ぐ。それは(よこしま)なる勢力を断ち、(いびつ)な世界をも回帰(かいき)させるほどまでに至るであろう。



 曖昧(あいまい)な表現は相変わらずだ。少々、引っ掛かりはあるが、相性が良いときた。

 直接的な勝敗は記される事はほぼないが、似たような文面でこれまで私が敗北した事はなかった。間違いなく私が勝つ。そして私の全てが、この器から少年の器へと託されるという解釈(かいしゃく)で間違いないだろう。


 多少話が大袈裟(おおげさ)な気がするが、それだけ未来を大きく変えるほど、器に途方もない可能性が秘められているという事か……。


 ヤミザキは嬉しくてたまらず、笑いが止まらなかった。ハハハハ……!




 夕夏(ユウカ)家の広大な庭園!! そしてその中心に(そび)える大きな屋敷! バン!

 そんな土地を囲む(へい)と巨大な門扉(もんぴ)を前に、ナッセ、マイシ、モリッカ、コハクが立ち並ぶ。

 ウキウキと小躍りするモリッカはともかく、コハクはジト目で呆れ気味に立ち尽くす。マイシはというと胸元で掌に拳を叩き込み、ニッと好戦的な笑みを見せる。


「殴り込みだし!!」

「ちょっと待てぞぉぉぉ────ッ!!」

あとがき雑談w


 自主退学した人たち。(ただの人間)


キウイ「プロ漫画家になろうと入ったら、ヤバい戦いに巻き込まれそうだったわ」

アコ「ねぇー? ほんっとついていけないー!」

サカマ「ああ。大阪壊滅してるし、これ以上学院にいられないわな」


モンタ「……あのタネ坊とキンタのせいだよ」

キウイ「ええ。ウチの彼氏も行方不明なってるし」

アコ「自衛隊になりたいって剣士(セイバー)ねー。気の毒だわー」


サカマ「多分もう会う事がないと思う……。じゃあ達者でな」


キウイ「ええ、短い間だっだけど楽しかったわ。じゃあね」

アコ「キウイちゃん、連絡し合おうねー」

キウイ「もちろん! またね~」


モンタ「今までありがとうございます」


 ばいばーい! と大阪駅で各々電車に乗って帰路……。

 それぞれ何を思う所があるのか、物憂げな顔で流れる景色を眺めていた。



 次話『殴り込んでヤミザキと対面!?』

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