107話「夕夏家総統ヤミザキとナッセの対面!」
────終戦してから、五日目。
いやぁ、もう大阪壊滅しすぎだぞ。
梅田なんか真っ平で、大阪駅と高架橋以外なにもなくなってるからな。
近くの学院や創作士センターがちょこんと残ってるぐらい。
終戦後、すぐには帰れず学院寮で二泊した。回復カプセルにも入らされた。
ようやく帰れたと思ったら、そのマンションは四階から上が吹き飛んでいた。
オレの部屋も被害はあったぞ。大窓のガラス割れてて破片散らばってた。その破片でいくつか本や家電、家具が台無し。あとエキドナフィギュアは無事だった。
オカマサとドラゴリラが恨めしく思うよ。マジで掃除大変だったし……。
「おはよう」「うん、おはよう」
寝起きで、添い寝していた柔らかいヤマミの笑顔にほっこりする。
小っちゃくて丸い顔が愛らしいぞ。
マンションから出ると、修復中や新築していく建物が並んでいる風景が視界に入る。大きな道路を中心にアスファルト舗装工事がちらほら。
壊れた橋などは急遽で修復に取り掛かっている。
「……思ったより早く復旧しそうだなぞ」
それでもヤマミは浮かない顔で俯いている。やはり────……。
終戦当日、朝日が昇ってきた頃。
淡い明るい空に、黒い渦が螺旋状に広がりポッカリと黒い穴が開く。ピリピリと威圧が席巻してオレたちは緊張に包まれた。
黒い穴から一人の男が荘厳と現れた。
「私は夕夏ヤミザキ。夕夏家を纏めている総統だ」
オールバックの長髪。真ん中が白髪。鼻下にチョビ髭。目線が冷たく顔立ちは厳か。黒で統一されている紳士服にマント。どっかの貴族みたいだぞ。
そんな男がゆっくり地面に降り立つと、こちらへ柔らかい笑みをみせる。
「ゆ、夕夏ヤミザキ…………!」
「いかにも!」
間を置いてヤミザキは辺りを見渡し、大阪の散々たる壊滅状況に心を痛めたかのように悲しげな顔を見せた。
「こうなったのも、全部私の責任だ。オカマサ殿、ドラゴリラ殿、コータロ殿に温情をかけ匿ったせいで、このような重大な事件を起こしてしまった。誠に申し訳ない……」
ザッとマイシが睨みつけるように踏み出す。
「じゃあ、どうしてくれるしッ!?」
しかしヤミザキは落ち着いてと両手を上下に揺らしてジェスチャーしながら、首を振る。
「……私はこれまで被った損失を埋めたのち、後継者に我が全てを譲り退任する」
「後継者…………?」
「そうだ。だが、我が夕夏家は後継者に同じ血縁の者を選ばぬ主義。私もまた外部からの継承者で、前任との血の繋がりは皆無だ。
故に厳粛な総統継承式さえ合格すれば、誰でも正式に後継者として夕夏家の未来を担う事になる」
「まだ……、まだやんぜッ!」
声を張り上げるはコータロ。所々怪我していて荒い息をしていた。
側でオカマサとドラゴリラが驚きの視線を向ける。
「この場でナッ……」
コータロがこちらへ拳銃を振り上げた瞬間、ピクンと硬直して痙攣。顔に汗がブツブツ。手の甲の赤い刻印が灯っている。
側でヤマミは怖々と萎縮。
コータロは震えながら銃口をヤミザキへ向けていく。誰もが「あっ!」と声を上げる。
「ヤミザキ────!! 夕夏家を乗っ取る計画が台無しになったが、今ここで殺せばッ!」
「コータロ殿。まず落ち着きなさい」
「うるさいッ!! 死ねえッ!」
ヤミザキの制止も虚しく、パンパンッと銃口から火を吹く。
しかしヤミザキの手前で弾丸は虚空で止まっていた。見開くコータロ。
「貴殿らの悪事はもう暴かれておるのだよ……」
ヤミザキは指を鳴らす。すると複数のモニターが浮かぶ。
「こちら、コータロ傘下の工場を取り押さえました!」
なんと各地の工場を制圧した男たちが次々と報告を申し出た。後にヤミザキが説明してくれたが、彼らは夕夏家の複数いる優秀な息子なのだと言う。
そして工場にはおぞましい計画が隠されていたらしい。
アニマンガー学院の乗っ取り計画も一端だった。
なんと生徒すり替え計画書が明るみになって、それにナッセたち生徒の資料もあった。
従来の生徒を理想のゴツい男のクローンたちに入れ替えるつもりだったらしい。その犠牲者としてタカハツとイワシローが明るみに出た。
「そ、それ、リョーコとオレが……!?」
そう最初に絡んできたイワシローは、実は入れ替えのクローンだったのだ。
既に何人かが犠牲になっており、その事実に体が震えたぞ……。
オカマサとドラゴリラが優しくこちらに接触してきたのも、全ては入れ替えのためなんじゃないかって勘繰るぞ……。
そういえば、彼らは他の生徒も守りながら帰宅していたとか……。ま、まさか……。
オカマサとドラゴリラを見ると「間違いありません」って感じで項垂れていた。
最終的に日本を乗っ取るつもりだったが、モンスター化してしまって一旦計画は頓挫したらしい。
だから隕石とかで人類滅ぼそうと方針を変えてたんだなぞ……。
「貴様ァ! よくも俺様の企みを暴いてくれたな────ッ!!」
コータロがナイフで飛びかかり、ヤミザキの腕に斬り付けて血飛沫が舞う。
つい「あっ!」と声を漏らす。
「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる──ッ!!」
涙目で真っ青の顔とは裏腹に大声を張り上げて、ヤミザキへ再び飛びかかる。
観念したヤミザキは「殺したくないが……、やむを得まい」と手の甲の赤い刻印を妖しく灯らせた。即座にコータロの首を掴む。ガシッ!
するとズズズ……と赤い稲光がコータロからヤミザキへと流れていく。
「があ……ああ……あぁぁぁぁ…………」
ビクンビクン痙攣したコータロは白目にひん剥いて、徐々に動かなくなっていく。
ま、まるで吸血鬼に血を吸われているみてぇだぞ……。
事切れたコータロは地面に横たわった。ドシャッ!
歩み寄ってくるヤミザキの恐怖に、オカマサとドラゴリラはガクガク震え上がっていく。
「お前たちも同罪だ。始末してや……」
「ま、待ってくれぞッ!!」
思わず手を突き出して声を出した。ヤミザキがこちらへ振り向く。鋭い視線が畏怖させられる。
だが震える足で踏ん張る。
「今、殺さないでくれ! こ、こいつらは法で裁くべきだ!」
「おお! 温情深い……。さすがは英雄殿!」
ヤミザキは感銘したと、コロッと笑顔に変わる。
「…………あ、怒鳴ってすみません」
「いや、構わぬ続けたまえ! 言いたい事は遠慮なく言いなさい」
「誠に僭越ながら……進言します。彼らはモンスターとして何度倒されても蘇り続けます。ですから処刑は意味ありません!」
「ふむ」
「せっかく人の世に戻す事ができたので、拘束だけでお願いしてもいいですか?
一応、元人間でオレたちの学友なんで……」
丁重に言葉を選び、オカマサたちをかばってみる。
オカマサとドラゴリラは見開く。
ヤミザキの殺意溢れる威圧から解放されてホッとしたのもあり、ナッセの言葉に頑ななだった心がほだされていく……。
呆然とした顔に涙が伝う…………。
「城路君……」
「よろしい! それでこそ器の大きい英雄。では、そのようにしましょう」
「あ、ありがとうございます……」
ペコリと会釈しつつ、なんとか胸を撫でおろせた。
「あ、あと、まだ一つ頼みたい事があります!」
「なにかな? 言ってみなさい」
唾を飲み込む。萎縮しているヤマミをチラッと一瞥。
「恐縮ですが、ヤマミの刻印を解除してもらえませんか?」
「ふむ。だが、今は出来ぬな」
やはり拒否された……。そこまでは無理かぞ…………。
「はやるでない。今は、と言った。確かに私は責任を取って退任すると言ったが、後継者選びはしなければならぬ。その候補にナッセ、貴殿を入れておいた」
「え!?」
「こたび、今回の戦争での活躍は全て聞き及んでおる。故にナッセよ。我が夕夏家の『総統継承式』へ参加する資格を与えたい!」
「い、いや……。そこまでは……」
思わず否定するように首をブンブン振る。
「後継者になれれば『刻印』の権能も思いのままだ。独裁体制を敷く事も、逆に全部解除する事もお主次第……。そして夕夏家の存続の有無もまた同じ」
「…………すぐ他の後継者を作っても?」
「無論可能だ。継承に関する規程はあるが、手順を踏まえれば簡単に他人へ譲渡もできよう。総統継承式を無事終えて後継者になれればな……」
なるほど。オレが後継者になればヤマミの刻印も解除できる。そんで適当に誰かを後継者にすれば、オレも自由になる。
でも、なんか話がうますぎる気がする……ぞ。
「さて、我が娘マミエとヤマミよ。一緒に帰ろうか」
「はい……お父様」
「はい……」
なんと側にいたヤマミも、リョーコの後ろにいたマミエも、揃ってヤミザキの元へ歩き去っていく。衝撃を受け「お、おい! ちょっ待っ……」と手を伸ばす。
しかしヤマミの目は虚ろだ。
「娘たちは私が預かる。そして『総統継承式』の参加状は貴殿に送っておこう」
ヤミザキは一通の封筒をフワッと風に乗せてよこす。
────こうしてオレは何もできず、黒い穴へ去っていくヤマミとマミエを見送るしかなかったぞ。
「うん。でも、私は事前に『分霊』作ってたからね……」
そう、今オレの側にいるのはデフォルメされたような小っちゃいヤマミだ。
どうやら刻印された者はヤミザキの意のままに動く操り人形にもできるそうだ。
恐らくコータロもヤミザキによって操り人形として格好の悪役に仕立てられたんだ。
口調が途中で普通になってたしな。
後日のニュースや新聞でも、元凶はコータロ一味による独断と終始されてしまった。
ってか、オレにもその『刻印』付けられてた時期あったんだよな。やべー……。
マジ消えてくれてよかったぞ。
消えた理由? 知らないけどな?
今いるヤマミの『分霊』は本体が生きている限り、効力は半永久的に続く。それに本体と違って刻印がついていないので支配は及ばない。そこだけは安心できた。
──でも殺されたら…………。
そうはさせない!!
「必ずヤミザキを倒して、ヤマミの“全て”を取り戻してみせるぞっ!!」
すると涙目に潤んだヤマミは、こちらの足にしがみついて嗚咽した。
そんな彼女の悲哀に、オレの決意が更に昂ぶっていく……。
あとがき雑談w
終戦後、そのままドンチャン騒ぎして一泊後────。
アテナ「あなたたち、お疲れ様です」
クッキー「こんな缶開けてたのねー」
アリエル「久しぶりに楽しかったわぁ~」
ヤミロ「うぷ、二日酔い慣れねぇぜ……」(錠剤パリポリ)
ゴミをまとめて袋に入れて、去る場所を綺麗にして、さっぱりしてから解散。
クッキー「昔を思い出すなぁ……。仲間を増やして強敵に勝ったりとか、色々あったなー。しんみり懐かしいなー」
『究極完全体クラッシュオーガ(???)』
倒された主力の人造人間を融合させて、それをオカマサとドラゴリラが自分のコントロール権で融合して完成される外道の創造。
容姿はゲームのラスボスのように、複数の人造人間が浮かび出ている異形。
四本足に、大きな両腕、股間と首に二つの頭。
瞬間回復の劇薬を6000万個も収納する最凶かつ不死身の存在。
威力値130000(最後の大技780000)
次話『ヤミザキが自分の勝利を疑わない根拠とは!?』