105話「結束! みんなの『賢者の秘法』!!」
ゴゴゴゴ……、絶えない地鳴りが世界各地の人々を恐れさせていた。
周りの建物や木々が震える。
誰もが大地震かと、混乱で逃げ惑っていた。道路はすでに車の渋滞で停滞していて、苛立ちのクラクションが所々鳴っている。
震源地となる大阪はすでに荒野。
残ってると言えば大阪駅と高架橋及び線路、創作士センター、仮想対戦センター、大阪アニマンガー学院、区役所、その他いくつか要所は守られていて無事だった。
夜空の下、辺りを明るく照らすほど業火のオーラを噴き上げながらクラッシュオーガの大きな両手とドラゴリラの口の前で、プラズマボールのような光球が威光を放ちながら膨らみ続けていた。
「ごははははッ!! どうだ!? この俺たちの熱血はッ!? 貴様らエセ熱血ではどうにもできまいッ!!」
「さすが相棒や! さすがオカマサはんや────ッ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
なおもクラッシュオーガの足元の地面が崩壊を続け、瓦礫が舞い上がっていく。
「く……、くそ! ここまで来て一撃必殺に切り替えてくるとは…………!」
「あたしたち無力だよ! 悔しい~!」
揺れる司令室でコマエモンとリョーコたちは悔しがる。
なすすべもないと、オレは悔しさを胸に満身創痍の体を立たせるしかなかった。
まだ戦える力は残っている……。だが、あの巨大な光球を破れるだけの体力はもう残っていない。
「ナッセ君。『賢者の秘法』の錬成をお願いしマース!」
「え!?」
ノーヴェンが歩み寄って、メガネをくいっと押し上げていた。
そ、そーいえばクラッシュオーガを倒す方法はもう一つあった。
エーテルの攻撃で精神ダメージを与える他に、クラッシュオーガを跡形もなく消し飛ばすほどの大技で倒すという方法が!
「た、確かにまだ一発分は残ってるけど……、対抗できるほどには……!」
押し潰されそうな不安とプレッシャーで尻込みしたくなる。
しかしノーヴェンは首を振る。
「『賢者の秘法』とは、周囲に自然霊のエネルギーをかき集めてそれを超圧縮する事で、擬似的な『賢者の石』に錬成する技術と聞きマス」
「あ、うん……。でもそれが何か?」
「言い換えれば、我々のエネルギーもかき集められるはずデース!」
「で、でも!?」
まだ戸惑っていると、マイシは苛立ってきた。
「いいからやるしッ! あたしの力も分けてやるし──ッ!!」
「あァ……、オメェは俺の相棒だからなァ……。もちっと自分を信じてやれや!」
「行きましょう!! ナッさーん! まじかる大爆裂のエネルギーをぜんぶあげますから!」
「僕も微力ながらも力を存分に貸しましょう。それだけあなたに敬意を払っていますから」キリッ!
マイシ、アクト、モリッカ、コハクは笑んでいる。信じてくれている……。
彼らの信頼にじんわり心に響いてくる。
「刀剣波だ! アレを『賢者の秘法』でパワーアップさせろ」
フクダリウスはガッツポーズで拳に握りしめる。
「で、でも刀剣波はまだ……苦手…………」
「ナッセ!! 一緒に行きましょう! 先の未来へ! 異世界へ!」
モニターのヤマミが必死に叫ぶ。
……そうだった! 諦めたら異世界へ旅なんてできっこないもんな。
優しく笑むノーヴェンがナッセの肩に手を置く。
「ナッセ! あなたしかいないのデス……! 頼らせてくれませんカー?」
「…………分かった。うん、やってみる!!」
全身からエーテルを噴き上げた。ドウッ!
太陽の剣を天に向かってかざし、周囲に光の波紋がポツポツ浮かび上がる。それぞれ収束した無数の雫が太陽の剣へと吸い込まれていく。ギュオオオオ……!
それを見たオカマサは「フン! エセ熱血が!」とほくそ笑む。
「みんな手をあげて────!」
「うんっ!」
リョーコがエレナと共に両手を上げ、そう叫ぶと周りも同調して一斉に手が挙げられた。
ナッセの元へ、広範囲から数え切れぬ光の雫が集まっていく。太陽の剣の宝玉となるように圧縮されていくに従って、足元の地面がベコンと陥没した。
「ぐ……!」
……お、重い!
これが……みんなの力…………!
ズシリとのしかかる感覚に、跪きそうになり体が悲鳴を上げる。頬を汗が伝う。未だに収束は続き、それに伴って集まっていく力で更に更に重くなっていく…………。
『賢者の秘法』
ありとあらゆる全ての自然霊の力を己の力で束ね、凝縮して莫大なエネルギーに錬成する秘術。他力本願なようで実際はそうではない。
古今東西の魔法とは、すべからく自然霊などの力を行使して己のMPから供給して発動できる奇跡現象。
そう『賢者の秘法』とはそれを突き詰めた究極版なのだ。
故に、他の魔法と一画をなして途方もない力を背負うハメになる。
その莫大すぎる力を自分一人では背負いきれず、なかなか成功に到る事がないのが超高難易度会得スキル所以たるものである。
「やば……!」
握る手が震え……! ぼ、暴発しそうなほどの重い力に、もう耐えられな……!
すると、幽霊のように薄らとマイシの手がすうっと太陽の剣を包み込む。
今度はアクトのゴツい手が反対側から薄ら浮かんで包み込む。今度は別方向からモリッカの手が、コハクの手が、ノーヴェンの手が、フクダリウスの手が続々現れて包み込んでくる。
スミレも、エレナも、ミコトも、みーんな差し出してきて包み込んでくる。なんだかじんと心が熱く沸き上がってくる。
みんなが……、みんながッ、力を貸してくれてるんだッ……!
《大丈夫……! 私たちがいるから…………!》
薄らとヤマミが上半身浮かび、女神のように微笑んでくる。そして優しく両手が太陽の剣を挟み込む。
愛おしいほどに優しくて暖かい力が全てを抱括してくれる……。
あ、ありがとう!! これなら────!
膨大な量が一点の光り輝く宝玉と化し、眩い波動を放ち始めた。
「つ、ついに……! みんなの『賢者の秘法』がッ、完成した────!」
ナッセたちの地面がズゴンと窪み、周りの風景が壮大な宇宙に広がってゆく。そして煌びやかな星々が無数渦巻く巨大な銀河が展開される。
まるで呑みこまれんばかりの荘厳とした圧倒的な銀河の剣だ!!
「な、なに!? 満身創痍の糞餓鬼ごときに──────!?」
周囲に激しい余波を吹き荒れさせるナッセたちに、クラッシュオーガは見開いた。
これまで激しい戦闘を繰り返し、相当な消耗をしているにも関わらず、今日一番の力場が溢れたのだ。ビリビリと威圧が体を貫いてくるように感じた。
直感でナッセの存在がヤバイと危機感が募っていく。放っておけば、みんなと絆を深め合うたびに、もっともっと力をつけて手がつけられなくなっていく。
今の内に潰さないと!
今の内に抹殺しないと!!
今の内に糞餓鬼は消し飛ばすべきなんだ────ッ!!
「サンライトセブンともども、くたばれ────ッ!!
ジャスティス・バァァーニングファイナル────────ッッ!!!」
稲光激しく迸る光球から、一条の極大な雷光線が放射された。それは地面を裂きながら直進────。
「ギャラクシィ・シャイン・スゥ──パ──ノヴァ────ッッ!!」
精一杯、巨大な銀河の剣を振り下ろし、大地が裂くほど極大な奔流を放つ。そして直線上の大地を裂きながら直進!
二つの巨大な光線がついに激突!! 眩い閃光が溢れる!
ズドゥオッ!!
両者の極大な光線の衝突が激しくスパークする!
その影響で大地が深々と崩壊し、破片が吹き飛ぶ。なおも激突し続けるスパークから、放射状に電撃が迸る。
それが流れ出した電撃が辺りのあちこちに落雷。広い範囲に飛び散って破壊を撒き散らしていく。
ドッ! ドドッ! ドッドッ! ドッ! ドッドド!
あちこち飛び散る電撃に、他の創作士も「うわあああ」と腕で顔を庇う。
慌てて障壁を張り、電撃を弾く。
「な……なんという激突だよ……! 同じ創作士が繰り出すものとは到底思えんッ!」
「ぎ……ぎっ、ぎぎぎぎ!!」
「ごお、ごおおおおお!!!」
オレの刀剣波とクラッシュオーガの光線が一進一退と衝突を繰り返し、ほぼ互角の戦いを見せていた。
その衝突による超振動が日本はおろか世界全土に響き渡り、破片が舞い上がっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ!!!
「糞が……ッ!! 俺たちの熱血と互角などと思い上がってるのかな!? ならば……ッ、修羅外道三十割をッ、百割増しだぁあ────ッ!!」
「更にハス太を全て生け贄に捧げ、パワ────アップや────ッッ!!」
大阪中にいる、全てのハス太一人一人それぞれに渦が包み込む。
「な、なんでやねんっ!?」
「わ、ワイら全員!? ぜ、絶滅やんけっ!」
「そんなのいやだ────ッ!!」
包む渦がハス太を跡形もなく搾り取り、その生命エネルギーがクラッシュオーガへと集約されていく!
「その破壊力! 一五〇万以上や!!」
「これが俺たちのド根性!! これが真の熱血だぁぁぁぁッ!!!!」
ズオオオオオッ、とクラッシュオーガ側の光線は更に勢いを増す。
それは徐々にオレたちへと押し潰そうとしてくる。後ろのマイシたちもそれぞれ得物をオレに向けてエネルギーを供給し続けているが、依然と形勢不利は覆らない!
「もっと振り絞るしッ!!」
「も……もうやってますよ!!」
「ナッセ君! ファイトデース! ネバーギブアップ!!」
「ぬうう!! 負けぬ! 負けぬぞぉ!!」
「相棒!! 踏ん張れ!! まだオメェは力の全てを出し切ってねェぞ!!」
「力を大爆裂させてくださいッ!!」
マイシたちも必死に力を振り絞り、歯を食いしばっていた。
額に汗ビッショリでナッセは全身を震わせながら、全身全霊と銀河の剣に全エネルギーを注いでいた。
こ、これは、オレ一人の力なんかじゃない……!
みんなが……みんなで、完成したこの力! 絶対に無駄にしたくないッ!
だ……だからッ…………!
「ま、負けるかぁぁぁぁぁあッ!!!」
必死と片目瞑って、腹の底から懸命に叫び上げる。
「だ、ダメじゃ……! 完全に押されておる…………!」
ナッセたちサンライトセブンが押し負けているのを見て、ヨネ校長は苦い顔で吐露した。
あとがき雑談w
アリエル「他人の力を道具と、己の力に束ねるクラッシュオーガぁ!」
クッキー「仲間の力と信頼を、奥義の力に束ねるナッセェ!!」
アテナ「その相対する二つの激突ー!」
クッキー「あんな卑劣漢に負けるなー!! ふれーふれー頑張れー!!」
アテナ「孫ちゃん頑張ってー!!」
アリエル「黒マフラーヤマミさえ加わればぁー!! ぐぎぎ!」
ペンライトを振りながら、モニターに向かって精一杯声を飛ばす。
次話『限界を超えて悪漢に打ち勝てるかっ!?』