103話「終わらせはさせないぞ! 星獣召喚!」
眩く燃え盛っている隕石が間近と迫っていて、地上を赤々と照らす。凄まじい熱気が伝わる。唸るような地鳴りと空震。誰もが絶体絶命と息を呑む。
超巨大で、創作士の攻撃でなんとかなるレベルを遥かに超越していた。よしんば破壊できても、今度は散らばった破片が地上の各地を穿つ。どのみち詰んでいるのだ……。
マイシですら「お、終わったし……」と唖然としている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!
そんな絶望的状況にほくそ笑むオカマサとドラゴリラ。
全て吹き飛んで文字通り真っ白。これで未練もなく魔界オンラインへ没頭できると、感慨深く世界の終末を堪能しようとする。
「これで全てが終わったな……!」
「せやなー! 長かったわー」
オカマサとドラゴリラは「乾杯」と、赤い液体を揺らしグラスワインの端を軽くぶつけ合った。チン!
誰もが諦めざるを得ない最中、力尽きて伏せているノーヴェンは冷静にそれを見届け、少し片手を挙げる。親指と人差し指を伸ばして、ピストルの形をとる。
司令室のモニターでノーヴェンのサインを見届け、ミコトはシュバッとデッキからカードをドローする。
「……とりあえず手札に切り札となるコンボに必要なカードは揃えてあるZE!」
ヨネ校長、ヤマミ達はそれを固唾を飲んで見守る。
と言うのも、これもノーヴェンの第二の策であった。第一の策は用心深いオカマサに破られた。だが、これは囮だった。そう実は二段構えの策だったのだ……。
「ノーヴェンが身を張ったおかげで、奴らが自ら手札を公開してくれたZE! これで確実に────……」
藁に縋る思いで「だ、誰か助けてくれぞ────!!」と叫ぶ。
すると足元から明るく灯ってきた。気付けば、なんと足元に広大な魔法陣が広がっているではないか。
複数の円環で重ねる魔法陣は複雑に入り組んでいて、文字の羅列が円に沿って記されている。ここまで大掛かりな構造は途方もなく高度な感じがする。
「え? な、なにこれ??」
「ナッセ君!」
声に振り向けば浮いているメガネが近付いていた。
「あ、ノーヴェンが作ってくれたのかぞ?」
「イエ……、ではこれはユーの作ったものではないのですネ?」
思わず首を振る。
こんなもん書けるワケないぞ。ヤマミとかなら分かるけどぞ……。
「コレは大規模な召喚魔法陣デース! これは……星獣の!?」
アクトが『星獣』と言っていたのを思い出す。
前の世界を滅ぼそうとしていて、前世のオレが倒したという……アレ!?
あんな恐ろしいものを呼び出せる? 誰が? 一体??
「た、大変ですッ!!」
「なんだ? 後にしろ!!」
バタンと部屋に飛び込んできた研究生に、苛立った藻乃柿は怒鳴る。
なぜなら、世界の存亡をかけた戦いが映っているモニターに食い入っていたからだ。
「せ、星獣召喚用の大型魔法陣が消えています!!」
「なんだと!! じゃあアレは!? まさかナッセが!!?」
藻乃柿はモニターへ振り向く。確かにナッセの足元には、自分たちが長年かけて作り出した召喚魔法陣が浮かんでいる。
「え? ええ?? なんでそこにあるんですか~??」
飛び込んできた研究生はモニターに映っている魔法陣に仰天する。
藻乃柿はギリッと歯軋り。
なぜこちらが密かに作り出していた魔法陣がナッセの元へ移動したのか分からない。そもそも魔法陣が勝手に移動するワケがない。
「まさか……星獣自ら…………!? あ、ありえない…………!」
藻乃柿は内心動揺が広がり、なぜだか嫉妬が湧く。
まるで運命がナッセごときを助けてるように見えたからだ。ダン、壁に拳を叩きつける。
魔法陣から溢れた眩い閃光がナッセを覆っていく……。
《クク……、また会えて嬉しいぞ…………》
厳かな声に気付けば、見知らぬ遺跡の場所に立っていたぞ。所々、遺跡の残骸が見当たる。空は混濁したような虹色。
見渡しても誰もいない。側にいたはずのノーヴェンのメガネもない。共通としてあるのは足元の魔法陣だけ。歩くと同時に魔法陣も動く。
不意にゾクッと寒気が襲う。
目の前に妙な仮面をかぶった漆黒の大きな化け物がいた。しかし囲むように神殿の支柱が阻んでいて、まるで鳥籠のようになっている。
あ、暴れ出さないかなぞ……?
「だ……だれ!?」
《我か……? 我は……お前ら人間で言う『地球』の星獣だ…………》
「お、オレたちが立ってるあの地球!? ほ、星は生きていたのかぞ……??」
神殿の中の大きな目が細められた。
《妖精王の子よ……。覚えていないのだな?》
「え? 何を……? あ、そうだ!! 隕石が落ちるんだ!! は、早くなんとかしないと!!」
も、もう間がない! 話ししてる暇なんて……ッ!
《ここは精神世界。召喚士と召喚獣を繋ぐ特別な空間。通常空間の時間は流れない。安心しろ》
「…………え?」
召喚士って……?
《やはり本当に覚えておらぬのだな……。まぁ良い。お前の友として見過ごせん……》
「友…………?」
《貴様は前の世界で『運命の鍵』を用いて、我を友にしたいと願って力尽きたのだ》
「あ、そーいや。アクト先輩もそんな事言ったっけな。なんか鍵で刺して倒したとかどうのこうのって」
神殿の柱から大きな黒い指がぬうっと伸ばしてきて、コツンと頭を小突く。
すると、頭に何か流れ込んできた。同時に溢れる想いも蘇ってきた。ジワッと悲しい気持ちが胸を満たす。
そうだ! そうだった!!
オレは『運命の鍵』で、暴れ狂う星獣を狙い撃った。
なんでも願いを叶えてくれるならば、星獣をも友にしたいと強く願った。
でも力尽きてしまったんだっけ……。
《後は自分で思い出せ! それより契約を交わすがいい。己の手を差し出すのだ》
「あ、うん……」
言われるままに腕を伸ばすと、手が星獣の指と触れた。すると、閃光が溢れた。
《何を願う? 友の頼みならば何でも叶えよう…………》
気付けば、隕石が手前に迫ってきている瀬戸際状況だ。
そして嘲笑うオカマサことクラッシュオーガ。しかもワインをすすってやがるぞ! あんにゃろ!
憤りの感情をトリガーにして、合掌し「おおおおあああ!!」と気合いを発して踏ん張る。
全身から噴き出す膨大なエーテルが嵐のように吹き荒れ、周囲に渦を巻く。マイシもコハクも肌にビリビリ響き、驚く。伏せていたノーヴェンも驚きを隠せず呆然。
司令室のミコトもカードを発動する手を止めた。
「ここで終わらせはしないッ!! オレは……オレはッ、ヤマミと一緒に異世界へ旅したいんだァ────ッ!!」ゴゴゴォ!!
溢れ出す強き想いを胸に、ありったけのエーテルを注ぎ込んだ魔法陣が更に輝き、地鳴りと共に大きな何かがせり出てくる。
ズズン!
二対の白い翼を広げた青い猫のような巨獣。模様として陸地のような柄が走り、全身に部分的に雲が幕のように覆っている。そして長い尻尾がたゆたう。
顔から仮面が崩れ落ち、猛獣の風貌をした猫の顔が「ニャオオオオン」と大気響かせる咆哮を発した。
その頭の上で小人のようにナッセが立っている。
「ってか、猫ぉ────っ!?」
誰もが目を丸くする。さしものクラッシュオーガですら目を丸くし驚き返っている。
藻乃柿はワナワナ震え「なんだ……これは……!?」と愕然。
服従の仮面が外れた事にも驚いたが、それ以上に星獣はナッセに従っているようにも見えた。
《それがお前のイメージか……。近頃の若者ならドラゴンやスーパーロボットをイメージしそうなもんだがな》
「い、いや……、これしか思い浮かばなくて……。すまん」
《それより隕石をなんとかしたいのだな?》
「ああ! うん! 地球さん、お願いだッ!!」
空で大気の渦が巻き始め、台風が大規模に吹き荒れる。
荒々しく吹き荒ぶ烈風が日本全土を駆け抜けた。その驚くべき現象に誰もが驚愕させられた。
あのでっかい猫! 天候すら操れるのか!?
星獣は台風を肉球にまとわせ、飛び上がると同時に猫パンチを繰り出す。台風と共に繰り出されたそれは隕石を包み込んで、遥か宇宙へと勢いよく弾き飛ばす!
────そして閃光が爆ぜた! カッ!
ッドオオオオォォォォン!!!
隕石は爆発し、つんざく轟音で全てを震わせ夜空を真っ白に照らした。
ものすごい余波が荒れ狂い、地上を駆け抜けていった。地響きと共に森林が揺れ、湖と海で荒波が騒ぐ。
ゴゴッ! 衝撃波の津波が余韻として吹き抜けた。
シュウウ……、煙幕が立ち込め静まり返った。
《確かに願いは叶えた……。友よ、また会おう…………》
静かに佇む星獣は、霧状となって放射状に散った。ボシュン……。
地面に降り立ち、「はぁはぁ」息を切らしながら笑んだ。左手には召喚用の魔法陣が『刻印』として付加されていた。
「ありがと! 地球さん!!」
あまりの嬉しさと感謝を込めて、左手の『刻印』に労った。すると淡く灯って応えてくれた。
なんかいいなぁ。地球さんと友達とか……。
「ナッセェ!!」
気付けばモニターに泣きそうなヤマミが映る。
笑顔で「おーい! やったぞー!」と元気よく手を振ると、ヤマミは「うん」と頷きながら満面の笑顔に変わった。
彼女の安心した笑顔にはホッとさせられる。やって良かったって感無量した。
「マジでやったなしー!!」「やりましたね!」
マイシたちが笑顔で集まっていく。わあああっ!!
ヨネ校長は清々しく笑み「全くいつも生徒には驚かされるわ」と感慨にひたる。
スミレもエレナもリョーコも「やったぁ!」と歓喜に飛び上がっていた。
コマエモンもフッと目を瞑って笑む。ミコトとノーヴェンは『禁じ手を使わなくて済んだ』と胸を撫で下ろす。
創作士たちも、それぞれで喜びを分かち合っていた。
和気藹々と笑顔が広がる最中────……。
ガチャン、落ちたグラスワインが割れて赤い液体がぶち撒けられた。
茫然自失と言葉を失うオカマサ。ドラゴリラは「あ、ああ~~!」と表情を崩し落胆していく。
そして魔法陣が記された石は、全て効力を失いポロポロと砕け落ちていった……。
あとがき雑談w
頭にタンコブ作ったクッキーとアリエルはぶすっとしているw
クッキー「でもね、あの惑星生命体を味方にできるなんて凄いっしょ!」
アリエル「ってか『運命の鍵』がチートすぎなのよぉ~!」
本来なら、惑星生命体にとっては人間など細菌レベルの認識しかない。
表に出てきた星獣は小さな分身みたいなものらしい……?
なので、普通なら人類なんかと和解する事は不可能。仲良くなるのは有り得ない。
ナッセがやらかしたのは例外中の例外っぽい。
クッキー「でも、味方になった星獣なら隕石なんてちょいのちょいねーw」
アリエル「ウチらも余裕だけどねぇ~w」
アテナ「さぁさぁー後はラスボス! いよいよ大詰めねw」(にっこり)
次話『全力と全力の激戦! そして最後に勝つのは……!?』