102話「起死回生!! ノーヴェンの策!」
学院の司令室で、ヤマミとリョーコはフワフワ浮いているメガネに何かボソボソ話していた。
それを見てウニャンは「通信できるのも分霊のメリットだね」と呟く。
ピリピリと周囲は緊迫するように振動が続いている。夜空から轟々と燃え盛る隕石が尾を引きながら落ちてくるせいだ。
何層もの大気層を突き破り、地上を目指すソレは日本列島丸ごと粉砕するほど巨大だ。
落下を許せば、二次被害として巻き上げた土砂の津波が大気を覆い尽くし、地球上の環境は地獄へと変貌し、全ての生命体を死に追いやる。
かつて栄華を極めた恐竜の時代を一気に壊滅に追い込んだのと同等レベルだ。
「な、なにしてるんですか? 早く逃げないと!!」
「どこへだ?」
「……どこへって? うんと遠くにですよ! 早く!」
疎らと逃げていく創作士。しかし逃げずに突っ立っている創作士もいた。
「日本ごと消えるんだ。逃げ切れるレベルじゃあないだろ…………」
振り向いたオッサンは失笑していた。それに若手の創作士は愕然とした。
大阪駅付近の創作士はなぜか数人留まっていた。
なぜなら、黒マフラー女が動揺もせず隕石を見上げていたからだ。それでなにか期待をしていた。
「……ねぇ、大丈夫なの?」
近くにいた創作士がおそるおそる聞く。やはり黒マフラー女は振り向かない。
「今ここで最悪な結果にはならない。絶対に」
「────え?」
ぱちくりと唖然とする。
謎めいた一言に驚かされたが、彼女の言う事を都合よく解釈すれば「隕石で滅ばない」と言ってるように聞こえる。
何度か問いかけたが無言だ。反応はない。だが、依然と目の前の脅威にも揺るがない彼女は確信を持ってるように見えた。そこが少し安心させられた気がした。
大地を揺るがしながらクラッシュオーガは両腕を振り回し、マイシ、アクト、モリッカと凄まじい攻防の応酬を繰り返していた。ズガガガガガッと打撃音が鳴り響き、余波と煙幕が吹き荒ぶ。
フクダリウスが「ぬんっ!」と上空から斧を振り下ろして、オカマサの顔面を深々と斬り裂くも元通りに傷が塞がる。
マイシ、アクト、モリッカ、フクダリウスはその場を飛び退いて離れた。
オレはコハクと並び、九十九紅蓮と呼ばれる槍と、『衛星』の太陽の剣が無数浮かんでいた。その数、数百本!
「行っけぞぉぉぉ!!!」「行きなさいッ!!」キリッ!
コハクと一緒に腕を振り下ろすと、槍と剣は勢いよく射出される。
クラッシュオーガは「こんなものォォォ!!」とオカマサの両腕と巨大な両腕を振り回して弾ききっていく。弾かれた武器は虚空で爆発、その連鎖が轟く。
しかし絶えない槍と剣の嵐に苛立ち、全身高速回転によって竜巻を作り出して天と地を繋いで吹き荒れていく。
その凄まじい竜巻を前に、弾かれた槍と剣は全て爆発させられてしまう。
フクダリウスは「フクダリウス・ハリケーン!!」と、戦斧を振り回して生み出した旋風の渦が竜巻と化して、二つのソレが激しく衝突!
ズギャアアアアン!!!
絡み合う二つの竜巻が破裂し、乱気流の烈風が全方位に吹き荒れ、大地を揺るがしながら破片を運んでいく。
ナッセたちは腕を交差して顔をかばい、腰を落として堪える。
なおも激しく荒れ狂う風が通り過ぎていき、衝撃波の波が地面を揺らしながら駆け抜けていった。ゴゴッ!
荒い風が落ち着き、煙幕が立ち込める最中、あちこちから肉塊同士が糸状で繋いで一つにくっついて元通りクラッシュオーガとして蘇ってしまう。ニッと勝ち誇るオカマサ。
汚れが目立つフクダリウスは汗を垂らし「くっ! これでもか……」と苦い顔をする。
「燃えるぜ! 燃えてくるぜぇぇぇえッ!!!」
最期の遊びでしかないのか、オカマサは心躍り、昂ぶる気分のままに叫んでいた。決して互い競い合って共に燃え上がるという殊勝な気持ちは全くない。ただの愉しみの為の独り善がりの『熱血』……。
オレは雰囲気でそう悟り、悔しくも残念そうで、澱んだ気持ちが滞る。
ノーヴェンは眼前に無数のメガネで連ねた防壁で凌いでいた。そして複雑な魔法陣を足元に描いていた。
……禁忌魔法『エクス・エンドーラ』。
それはミーも知っていマース!
宇宙に漂う隕石へ直接『刻印』でマーキングして、膨大な魔法力を注ぎ込んだ魔法陣により召喚できる大掛かりな魔法デス……。
彼らが気軽に発動した風に見えますが、アレは既に完成している魔法陣を起動させたに過ぎまセン。
歴史上でも発動させた例は多くありまセン。
なぜならこの魔法には致命的な欠陥がありマス。術者自身が解除すれば容易に防げるし、熟知した魔道士か召喚士がいれば破る事も容易デース!
「フフフ……! オカマサさん、ドラゴリラさん……。ミーがいながら発動させたのは失策でしたネ!」
「な、なに!?」
「なんやてッ!?」
オカマサとドラゴリラは動揺し、ギクッと頬に汗が垂れる。
ノーヴェンは弓兵ではあるが、魔法の知識は魔道士と遜色ない。
「くっ! そうか、お前も魔道士のようなものだったね!」
「この手の魔法は隕石に『刻印』のマーキングを付けて任意の座標に召喚するタイプデース。従って、逆に宇宙へ召喚し直す事も……」
なんとメガネ一つが隕石に接近していて、マーキングの『刻印』を描いていた。
思わず「おおっ! さすが頭脳明晰だなぞ!」と歓喜。
マイシもヘッと笑む。
コハクもフクダリウスも様々反応は違うが安心しているようだぞ。
「エクス・エンドーラ返しだッ!!」
そう叫ぶノーヴェンは万歳するように両手を天に掲げ、足元の魔法陣から眩い光が溢れた。カッ!
巨大な隕石を包み込むように大渦が巻き起こって、それは収縮していって丸ごと消してしまう。
しん、あれだけ絶えず振動していた大地と大気は静まり返った。
「や、破ったぞ────ッ!!」
ついガッツポーズする。
しかし不穏にもオカマサはニヤと笑む。
すかさず両手を挙げ「エクス・エンドーラ返し返しッ!!」と光を灯らせる。
再び上空で大渦が吹き荒れ、巨大な隕石が荘厳と姿を現した!
「何ッ!!?」
見開くノーヴェンに、オカマサは「何を驚いている?」と薄ら笑みを浮かべる。
「再び発動し直しただけだ。魔法陣が一つだけだと誰が言ったかな?」ククッ!
ノーヴェンは「な!」と雷に打たれたように驚愕。全身を震わせ「そ……そんな……!」とガクリと膝を落とし、うつ伏せに倒れる。
今ので全魔法力を使い果たし、もはや余力も残されてはいない……。
「せや! こうなる事も警戒して、魔法力が込められた魔法陣をいくつか作らせておいたんや……。おっと術者は死んでいるから解除させる事もできへんがな~」
「そういう事だ……」
オカマサは五つの石をポンポンお手玉してみせる。その石には魔法陣が書かれている。つまりあと五回も発動し直せるのだ。
「あ、あと五回ッ……!!」
「まんま信じるの可愛いやね~! 乱暴して掘りたいわ~」ぐへへ!
「まぁ、発動式の石は手持ちだけにあらず……。過労死させるほど作らせたんだ。百個以上はくだらないかな?」
再び万事休すに陥ったナッセたちに絶望がのしかかった。
もはやその手の破り方は封じられたも同然だった。やはり狡猾なオカマサは用意周到で執念深い。
「ごあーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
悪魔のように嘲るオカマサを前に、ナッセたちは無念の想いで立ち尽くすしかなかった……。
ゴゴゴゴ……、震える屋敷。私室で窓から隕石を眺めるヤミザキ。余裕綽々で笑みを浮かべていた。
「……ヤミザキ様!」
「夕夏家第一子、コクアか」
「第二子ブラクロの……、そんな『予言』を信じて大丈夫ですかッ……!?」
「うむ。大丈夫だ。問題ない」
後ろで跪いている美形の好青年。黒いスーツを身に包み、マントを羽織っている。
彼はヤマミとマミエとは別の母から生まれた第一子息子だ。総統ヤミザキに心酔する忠実な長男でもあった。
「アレは表現があやふやだが、外した事は絶対にない」
窓を眺めたまま、ヤミザキは紙切れを後ろへ放る。コクアはそれを掴む。何か書かれている。
緑豊かな大地、繁栄する人類、それらを脅かす危機迫る。心無き魔により呼び出されし、天災如し大いなる天空の侵略者。されど運命の契りを交わした妖精王の子の願いに、星の精はそれに喜んで応えよう。その絆を前に侵略者は去るであろう。
「運命の契りを交わした妖精王の子……?」
「おそらくナッセであろう」
確信したかのようにヤミザキは笑む。
コクアは確信した。
これまで数百年もこの『予言』によって、数々の脅威をくぐり抜けてきたお方。
それ故に読み違えはまずない。こう書かれていたならば、確実にその通りになるのだ。
……ただ、妖精王の子がナッセだとして、どういう意味かは定かではない。
ナッセの個人情報は、我が家の調査団によって詳細まで調べ上げられた。
我が家の後継者最候補。血縁に合わぬ銀髪で、実年齢に遅れた未成熟な身体の不思議な人間。だが両親は黒髪の普通の人間。外見は確かに中性的で妖精の化身と思っても大げさではない。
「妖精のようなナッセの運命? 星の精? それが巨大隕石を防ぐ……と?」
「どんな方法かは、私も与りしれん。だが、『予言』は外れた事は一度もない。それから『その者の命を賭した犠牲により未曾有の危機が去った』『多くの生を代価に、代わりにその者は天命を得た』などの表現がないから、自他ともに被害は出んだろう……」
震えるコクアの頬を冷や汗が伝う。
「信じられんのは無理もない話だ。だが面白くないか? こういう曖昧さが逆に想像を掻き立ててくれおるわ」ククッ!
「は……はい!」
コクアは頭を下げる。
総統がそうなら、それを疑わず最期まで付き従うのみと覚悟を決めた。とは言え、内心バクバク心音が高鳴っている。一歩間違えれば日本ごと総統ヤミザキも何もかも消えるのだ。
隕石を見上げ、悔しそうに唇を噛む。
「頼む! だ、誰か、なんとかしてくれぞ────ッ!!」
────隕石衝突まで、あと一〇分!
あとがき雑談w
アリエル「エクスエンドーラって古ぅ~w」
クッキー「……魔法陣作成がめんどくさくて、莫大な魔法力を注いで発動させるまで時間かかる上に、隕石召喚してから炸裂するまで死ぬほど時間がかかるから、燃費悪いのよね」
アテナ「それに敵味方巻き込む上に、制圧するべき土地も消し飛ぶから、テロリストですら使いたがらないねー」
三人はビール缶開けて、ツマミ食べて、観戦してがらそんな話をしていた。
アリエル「じゃあ即座エクスエンドーラぁ~w ほいっとぉw」
なんとゴゴゴゴと巨大な隕石が炎を纏ってクッキー目かげて急降下ー!
クッキー「うにあああー!! ウニメイス・スィング!!!」
なんとウニメイスででっかい隕石をゴスンとアリエルへピッチャー返しだー!!
超高速で地面を直線上に削りながら、アリエルへ!
アリエル「なんのぉ~! オーロラスラッシュ・エンド!!」
なんと背中の浮いている一つの漆黒の羽を剣に変え、オーロラのような優美な軌跡を描きながら一刀両断!!
綺麗な断面で真っ二つになりながら、アリエルを左右から通り過ぎていく隕石。
ドゥオオォォォン!!!
遥か後方で二つ大爆発して、甚大な爆煙がキノコ雲を作っていく。
アテナは「遊びはほどほどにね」と障壁を貼って、広がってくる天災級の余波を難なく防ぐ。
クッキー「こんなちっこいの一つw 今疲れてる?w 無理しないでねw」
アリエル「へぇ~? そんなにお望みなら十個でいいかしらぁ?」
ゴゴン! なんと二人にゲンコツが下ろされた! げきちーんw
アテナ「ほどほどに、ってたでしょ~w」(にっこり)
次話『ナッセの助けを呼ぶ声に応える最大最強の味方が!?』