9話「歴戦! タネ坊とキンタの実力と額!」
五月のゴールデンウィーク明けから間もない11日────。
「やあ! 城路くん。おはよう」
「二人一緒で通学かいな。ずいぶん仲良しやね~」
二人共に前髪後退しててツルツルな額を持つ、ドングリを連想させる楕円形の顔面の優男と、小太りのタレ目おっさんがフレンドリーに手を振っていたぞ。
キラリ~~ン!!
なんと森岳タネ坊と大珍キンタが、額を輝かせて待っていた!?
妙に眩しいのは、きっと朝日のせいだぞ。
「おはようございます。森岳さん。大珍さん」
ペコリと挨拶する。
同じ学院で同じ同級生。同じく創作士であり共に戦う戦友。まだ日は浅いがこれから長い付き合いになるかもしれない。……多分。
「え~~なんでよ!? 二人きりで行きたいのに、ハゲおっさんコンビ空気読め~~っ!!」
「おい! 流石に酷いぞ……」
窘めるようにリョーコに軽く肘打ち。
二人きりって言われるのは正直嬉しいけどぞ……。
「はっはっは。ハゲおっさんコンビか。面白い事を言うお嬢さんだ……」
「ってハゲおっさんは無いわ~~! ワイら二人共、まだ二十代やねん!!」
タネ坊は大らかに笑って流してくれているが、キンタは泣きっ面だ。え、うそ? 若い??
「だが、君らを二人きりにはできない。昨日の学院で先生が何と言ったか聞いただろう?」
キリッとマジな表情でタネ坊は注意を喚起させる。額の輝きも相余って説得力があるぞ。
──ここんところ通学者が次々と行方不明になっていると聞く。
例のエンカウント現象によるモンスター襲撃で命を落とさないとも限らない。特に実戦経験が浅い創作士の単独行動は危険だ。
だからこそ単独で通学せず、チームを組んで通学するように言われていた。
だから近くに歴戦の創作士がいると彼女と一緒でも安心ができる。これほど頼もしい事はない。
髪の方は頼りないがぞ……。あ、これ秘密な。
「ありがとうございます。オレも精一杯頑張ります!」
会釈する。タネ坊もキンタも「なに、畏まらずともよいさ」と気軽にフレンドリーだった。
逆にリョーコは納得いかないかのように頬をむくれさせている。む~~!
四人で固まるように徒歩で通学している最中、
「しかし妙だなぞ……」
目を細める。決して眩しいからではない。キラキラ~。
「何か?」
「エンカウント現象は、なぜオレ達創作士だけを対象にしているんだ?」
「もちろんだろう。我々は『空想』に対抗し得る『創作士』だ。狙われるのは必然さ」
だから初日でリョーコを巻き込んでしまったのはそういう訳か。彼女も一応、創作士である。
「だが、そこまで深刻に陥らせる『空想』とは何が原因で起きてるんだぞ?」
「さぁな? まだ調査中なのだろう? 待つしかないさ」
「せや! 妙も妙やけど、我らが創作士がなんとかやってくしかないんやろ?」
「……妙だと思ったのは、そこだけじゃない。なぜあの学院の装置が都合よく用意されているんだ?」
流石のタネ坊もキンタも押し黙る。
「どういう事ぉ?」
「だって、考えてもみろ! おじさんが説明してたが、今の文明を超えた科学力のあの装置を学院内に設置されているのってかなり異常だぞ!
すごい精巧過ぎて、まるでこうなるのが分かってるかのように準備万端なのが妙なんだぞ」
「そこに気付くとはな……、大したヤツだ」ニヤッとタネ坊。
「せやけど、元自衛隊だったワイらも分からへんな~」
二人の額が揃ってキランと煌き、眩しいあまり不覚にも「くっ!」と呻いてしまったぞ。
その時、不意に黒い円が足元に広がっていった。たちまち全ての光景を暗転するように覆い尽くしていく。ドクン、と心音が鳴り一同に緊張が走った。
「来るぞッ! みな構えるんだッ!」
タネ坊の喚起にキンタとオレは腰を落とし身構えた。慌てながらもリョーコも片手斧を手に構えた。
エンカウントする法則は分からない。だが一日に一回か二回程度の頻度。そして外で歩いている時に限ってである。何故そうなのか、まだ分からない。
だが、現実でロールプレイングゲームをしていると思えば、まだ気が楽だ。
暗転したような殺風景なフィールド。老朽化したようなボロボロで歪んでいる建造物。
今度のモンスターは地面より這い出る石人形だ。思ったより滑らかに動く四肢、そして人間のようにぐりぐりと動く両目、口と鼻を模した模様。材質は分からんが岩を繋ぎ合わせたものではなく、一つの生きた石像のような感じか。
「……生きたゴーレムって事かな」
タネ坊は懐から一対のナイフをスッと引き抜き、両手で逆手に構える。ドングリ頭なのに、殺気こもる鋭い眼光とツルツルな額を見せていた。さすがクラスがアサシンだけあって、並々ならぬ威圧があるぞ。
キンタを見ると、身体が徐々に膨らみ体毛が覆いゴリラのように、いやゴリラになった!
「ウッホオオオオオ!!!」
平手で胸をバンバン叩き、激情のままに猛った。なんとなく髪の毛が十本、二十本と、散った気がした。
二人は気合い入れる為か、互いに手をパンと叩きあって気力を漲らせた。
オレも光の剣を携えてリョーコの前に立っている。
ゴーレムは集団でにじり寄るようにズンズンと歩いてくる。一体一体三メートルを越す巨体だ。太い腕を振り上げ、握っている岩の拳で振り下ろす。速い!
タネ坊とキンタは互いが離れるように飛ぶ。岩の拳は地面を穿ち岩礫を巻き上げた。
交錯するようにタネ坊とキンタはそのゴーレムを通り過ぎ、その巨体を破裂させるように砕いた。
「い、一撃で……!?」
思わず唖然とさせられる。
「ごおおおおおッ!!」
「ウッホオオオオッ!!」
吠える二人の熱い気合いが劈く。底知れぬ情熱。滾る気力。ひしひしと伝わって来るようだ。
タネ坊は両手一対のナイフで幾重に斬り裂き、キンタはゴリラの持つ尋常じゃない膂力でねじ伏せる。
正に破竹の勢い。ゴーレムの大群をことごとく蹴散らし、岩の破片を飛び散らしながらタネ坊とキンタが怒涛の進撃を続ける。
タネ坊は見たところ、懐からあらゆる武器を取り出せる技巧派の創作士。キンタは自身の体をゴリラに変化して力任せに戦うパワータイプの創作士。
二人は真逆のタイプだが、互いの欠点を補うような完璧なコンビネーションだ。オレが割って入る隙間などないぞ。
ずっと前から彼らは二人で数々の戦場を潜り抜けたのだから、当然なのかもしれない。
「おおおおッ!!!」
刻印を発動させ光の剣を振るって二撃三撃でようやくゴーレム一体を斬り崩した。くっ! 硬い敵多いなぞ……。
やはりタネ坊とキンタは強い……! こっちが一匹仕留める間に、二人は数匹倒していたのだ。
「きゃああああ~~!!」
振り返ると、ゴーレム達がリョーコを囲もうとしているのが見えた。
しまった! タネ坊とキンタの戦いに気を取られて見逃したか!
「リョーコ!!」
慌てて、リョーコの前に割り込む。
そんな事情などお構いなしに、ゴーレムの大群はこれでもかと言わんばかりに押し寄せてくる。
「くっ! 盾ッ!!!」
左手をかざし、六角形の光の盾を連ねるように次々と並べ、それはまるで亀の甲羅のようにオレとリョーコを包んだ。
包囲したゴーレム達がガンガンと何度も殴打するがビクともしない。
それを見て、タネ坊とキンタは「あそこまで出来るのか……」と驚嘆を漏らす。
なんとかモンスターを殲滅させると、退くように黒い円は収縮して消えた。
「ええやん! 自由に生み出せる盾とか、ええやな~~!」
「ほう、なかなかやるじゃないか! 光の剣に盾か! 輝いているな!」
ニヤッと感心するタネ坊。
……悪いけど、森岳さんと大珍さんの額には負けるぞ。キララーン!
はっはっは、と笑いながらタネ坊とキンタは「さて、行こうかい」と踵を返した。その時、キンタの後ろからカードが落ちた。
「おい! これ落とし……」
ピキッと石化した。そんなオレの様子に、リョーコは「何々?」と覗き込む。ピキッと揃って石化。
今日は平成21年(二〇〇九年)だ。
キンタの免許証、昭和40年(一九六五年)生まれと記載ッ!!!!
サバ読んでた~~~~~~!!!!!!
キンタが歩んできた44歳という、重厚な額の眩しさは伊達じゃないぞ……。キラーン!
あとがき雑談w
タネ坊「……糞餓鬼がお人好しの馬鹿で助かるよ」
キンタ「せやな! ってか盾厄介やな」
タネ坊「ふむ。これは騙し討ちするしかないかな」
ナッセ「免許証落ちてたよー!」
キンタ「げっ! あ、ありがとなー。見た?」
ナッセ「いえ何も見てません」(そう言うしかないw)
キンタ「ふう、年がバレるトコだったんや」
タネ坊「相棒よ気をつけてくれ……!」
キンタ「これ偽造やし、どうせなら生年月日も偽ればよかったんや!」
タネ坊「…………ああっ! その手があったか! し、しまった~!!」(汗)
キンタ「だ、大丈夫や!! 見てない言うてたし!」(汗)
次話『現代のギルド!? 創作士センター!』