22. 捜査
「なんと...」
男爵様は絶句してしまった。代わりに奥様が後を引き継ぐ。
「話は中でお聞きします。粗末な家ですがとりあえずお入り下さい。皆様の馬は厩に運ばせておきますので。」
騎士達と食堂のテーブルで対応を話し合う様だ。私達はどうしよう。カトリーさんが心配だが、一介の冒険者が王太子様と同じ席に着くなんて許されないだろう。でも私ならカトリーさんを助け出すことが出来るかもしれない。今は情報が欲しい。
「王太子殿下、お恐れながら発言をお許しいただけないでしょうか。」
ハルちゃんが顔を上げ、王太子殿下に話かけた。
「許す。ただし手短にな。」
「私は冒険者のタカシ、こちらは妻のタチハでございます。私達もカトリーナお嬢様の救出に加えて頂けないでしょうか。妻は優れた魔法使いです、必ずやお役に立つと思います。こちらが私達の身分証になります。」
王太子の隣の騎士が「無礼者!」と言いそうな顔になっていたが、王太子が手を上げて止めた。身分証を確認した王太子は真剣な顔で私達に向き直る。
「失礼いたしました。タカシ様とタチハ様のことは父から聞いております。どうかお力をお貸しください。」
王様から私達が女神様の関係者だと連絡が行っていたのだろう。王太子殿下はあっさりと私達を受け入れた。まったく勝手に情報を漏らすんじゃないと言いたいが、今回は役に立ったから許してやろう。
周りから 何者?? という目で見られながら私達も食堂に入り席に付いた。そりゃ、王太子殿下のあの態度を見れば、私達がただの冒険者じゃないと分るよね。
まずは今朝届いたという手紙の話を聞く。文面は短く、「お前の愛するカトリーナ嬢を誘拐した。返して欲しくば金貨1,000枚を用意し次の指示を待て。金が用意できたらマンゼート男爵家の屋根に赤い旗を掲げろ。」とだけ書かれている。金貨1,000枚は私の感覚では1億円くらいだろうか。かなりの額だ。男爵様でなく王太子殿下に脅迫状を届けたのは、男爵様では払えないと考えたからか。
それにしても王太子殿下とカトリーさんの接点が気になる。脅迫文には「お前の愛するカトリーナ嬢」と書かれている。これではふたりは恋中だとしか思えない。男爵様がこの点を尋ねると、殿下は言い難そうに説明を始めた。
殿下はひと月前から部下の騎士や兵士達を連れこの町に滞在している。目的は部下の訓練とモンスター狩りを行うことである。男爵様達が殿下のことを知らなかったのは、殿下が身分を隠し、一介の騎士として訓練に参加していたためである。
殿下とカトリーさんは町で偶然知り合ったそうだ(本人の談)。その後何度かデートを重ねていたとのこと。カトリーさんは相手が王太子殿下であることは知らないらしい。
男爵様は殿下が自分に無断で娘と会っていたことについて腹を立てている様だが、さすがに口には出来ない様子だ。まあ、本人同士が好き合っているのであればいいじゃないと私は思う。殿下はハンサムだし、騎士の訓練に参加するだけあってたくましい身体をしている。態度や話し方も自信に溢れていて、カトリーさんの好みだろう。アレフさんのことを「男らしくない」とディスってたしね。
まずは身代金を用意する必要があるが。王都から運んでいたのでは時間がかかる。そこで殿下からエタルナ伯爵に、一時的に立て替えて欲しい旨の手紙を早馬で出しているらしい。近日中に返事があるだろうが、まず断られることは無いだろうとのこと。
身代金が準備できるのを待っている間に、町で出来る限りの聞き込みを行うということになり、殿下は部下の騎士と共に町に出立した。私とハルちゃんも聞き込みと称して町に出ることにする。
殿下とその部下達は、殿下がお忍びでこの町に滞在していることを知っており、かつ殿下とカトリーさんが付き合っていることを知っている人物の中に犯人もしくは犯人の仲間がいると考え、対象となる人物をひとりひとり調べていく様だ。
私とハルちゃんが同じことをしても意味がないので、私達は町中でカトリーさんの魔力パターンを探索することにした。
カトリーさんの魔力パターンを探査しながら町中を1日中歩きまわるがヒットしない。これは町から連れ出されている可能性が高い。そうだとすると、どこへ連れて行かれたか? この町から近い村は規模の小さいものばかりだ、よそ者が来ればすぐに分かるだろう。近くにアジトがあるのか。
「トモミ、カトリーさんは馬車の旅で殺されかけ、家に帰った途端誘拐された。これは偶然と思うかい?」
「でも、馬車ではカトリーさんだけを狙っていた訳じゃないよ。皆殺しにされていたかもしれない。」
「そう、もし全員殺されていたとしたら、カトリーさんを狙った殺人という疑いを逃れられるよね。」
「じゃあ、ハルちゃんは馬車での襲撃と今回の誘拐は同一犯の犯行だって言うのね。」
「可能性はあるよ。」
「そもそも、あの馬車の襲撃の規模はおかしいんだ。襲撃者は全部で20名以上いた。馬も装備も立派なものだった。つまり装備に金を掛けれる連中ということだ。そんな連中が大人数でひとつの馬車を襲ったとしても、ひとり当たりの分け前は知れたものさ。誰かにカトリーさんを殺す様依頼されて、報酬をもらう約束をしていたのかも。」
「でも、馬車での襲撃と誘拐が同一犯なら、わざわざ誘拐しなくても、部屋に忍び込んだ時点でカトリーさんを殺すこともできたんじゃあない。殺さず誘拐した理由が判らないわ。」
「それは確かに不思議なんだ。 じゃあ、次は動機の線から考えてみるか。」
「動機? お金が目当てじゃあないの。」
「仮に馬車の襲撃と同一犯とすると、馬車での襲撃の意味が分からない。殺してしまっては王太子から金をとれないからね。」
「だったら同一犯ではないのかも。」
「こうは考えられないかな。犯人グループは最初は誰かに依頼されカトリーさんの殺害を企てた。もちろん報酬目当てだ。だが、後になってカトリーさんと殿下が付き合っていることを知り、誘拐して身代金を貰った方が儲かると考えた。それだけならまだいいけれど、身代金と殺害の報酬の2重取りを考えているかもしれない。」
「それって、身代金を払ってもカトリーさんは殺害されてしまうってこと? いやだよそんなの。何としても助けないと。 だいたい誰がカトリーさんを殺そうとするのよ?」
「カトリーさんの性格からして、殺されるほど人に恨まれる様には見えないな。あるとしたら殿下がらみか。」
「殿下がカトリーさんと付き合っているのが我慢できない誰かってこと?」
「そういうこと。」
「その辺は殿下に聞くしかないよね。」
結局、その日は成果がないままマンゼート男爵の屋敷に帰還した。屋敷では夕食を取ながら作戦会議だ。ハルちゃんから探査魔法で町を調べたがカトリーさんが見つからなかったことから、トロクの町にはいない可能性が強いことを告げた。探査魔法なんて一般的でない魔法の話を殿下はすんなり受け入れてくれた。これも女神効果だろうか。
殿下たちも1日聞き込みに回ったが、これと言って有力な情報は手に入らなかった様子だ。男爵様ご家族は心労が激しいらしく黙り込んだままだ。
明日の捜査継続を約束し、誰もが無言で部屋を出て行く。殿下たちは町の宿屋に泊っているそうだ。




