18. エタルナ伯爵領
あの王様め、私達のことを門兵に連絡していたな。身分証を女神様自身が使うとは思わなかったかもしれないが、女神様の関係者に失礼があっては一大事と考えたのだろうか。ひょっとしたら本人たちに知られず護衛する様命令が下っている可能性もある。迷惑な話である。私達はお忍びの旅をしているんだ。
私達は人通りの少ない路地に入り、ひそひそ声で今後の相談をする。
「これはまずいね、どうしようか。」
「そうだね、このまま注目されていたら女神の関係者ではなく女神自身だとバレるかもしれない。」
「仕方がない、目的地を変更しよう。人間族の国でも他の貴族の領地なら王様の連絡も行ってないと思うから。」
ああ、王都でのグルメ行脚の夢が...。王様許すまじ。 女神の呪いでハゲるとか言って脅かしてやろうか(しないけどね)。それにしてもどこに行こう? 王都の次にどこに行くかは王都に着いてから考えるつもりだった。今すぐ決めろといわれても思い浮かばない。
「ハルちゃん、どこかお勧めはある?」
「いや、そんなこといきなり言われても?」
そうだよね。ハルちゃんだって神殿の町から出たことが無いんだ。いきなり言われても困るよね。
「決めた、とりあえずエタルナ伯爵領に行こう。」
そう宣言すると、私とハルちゃんは回りにひと目が無いことを確認してから瞬間移動した。
景色が切り替わる。周りは再び森の中だ。ここはエタルナ伯爵領の領都の近くの森の中。ここから歩いて領都まで行く。初めからやり直しである、ずいぶん時間を無駄にしてしまった。
歩いて領都の門まで歩く。エタルナ伯爵領にしたのは、単に最初に頭に浮かんだから。確か神殿地下の魔法陣はエタルナ伯爵領のアレフさんが作成したんだ。それで記憶に残っていたのかもしれない。ここなら、王様が他の貴族にまで私たちの事を連絡していない可能性もあるし、仮に連絡していたとしても、エタルナ領は王都から遠いから王様からの連絡がまだ届いていない可能性が高い。
エタルナ伯爵領は辺境だけあって、その領都の規模は王都と比べて控えめである。人口は1万人程度のはずだ。王都と同じ様に城壁に囲まれているがその高さは3メートル程度である。門の前にも2 ~ 3人が順番を待っているだけだ。私達が門番の兵士に身分証を示しても特に変わった反応はなく、「ようこそエタルナ伯爵領領都へ」との言葉と共に、すんなりと中に入れてもらえた。王都の門番兵に比べて気さくな感じで好感が持てる。
「もう夕方だから、町を散策する前に宿を取った方が良いと思うよ。」
「賛成。いい宿があるかな。」
ちょっと引き返してさっきの門番さんに、お勧めの宿について聞いてみる。
「門から入って右手にある女神の祝福亭がお勧めだよ。ちょっと料金は高いんだが料理がおいしいと評判だ。」
門番さんにお礼を言って、女神の祝福亭に向かう。しかし、何て名前を付けるんだよ。宿の名前と私に関係はないだろうけど、何かはずかしい。
女神の祝福亭はそれほど新しくはないが、外壁は綺麗にペンキが塗られており女性受けしそうな建物である。神殿の町や王都では珍しい木造だ。
扉を開けて中に入ると、
「いらっしゃいませ。お食事ですか、ご宿泊ですか?」
と元気な声が響いた。見ると1階はレストランになっている様で、カウンターの向こうにいるウェートレスの恰好をした若い娘さんの声の様だ。
宿泊希望である旨を伝える。朝食付きで1泊ひとり当たり銀貨1枚とのこと。高いのか安いのか良くわからない。ルーテシア様の辞書にもホテルの標準料金までは記載がないからね。こういう体験が出来るからこそここまで来た甲斐があるというものだろう。とりあえずふたりで2泊分の料金として銀貨4枚を払い、部屋に案内してもらう。夕食は1階のレストランで別料金で食べれるらしい。もちろん外で食べて来ても良い。
部屋に荷物を置き、領都を散策することにする。
ふたりで手を繋ぎ町を歩く、久々のデートだ。町は小さいものの思ったより活気がある。エタルナ領は大森林に接しており、そのためモンスターを求めて大森林に行く冒険者が多い。領都でもいかにも冒険者という恰好をした者たちが目に付いた。兵士でもないのに腰に剣を差しているのですぐ分る。町の中央に行くと冒険者ギルドの建物があった。好奇心から中を覗いてみたいと思ったが、ニセ冒険者である私たちだ、勝手が判らずへまをして化けの皮が剥げたら大変なので前を素通りした。
大通りには沢山の屋台が店を出しており、美味しそうな香りが漂っている。女神の祝福亭の料理も気になるが、こちらの屋台も気になる。宿には2泊する予定だから宿の料理は明日でも食べれるはずと腹をくくり、今日の夕食は屋台を回ることにする。オーク肉の串焼き、野菜と肉の炒め物、ラーメンもどきを食べるとお腹がいっぱいになった。オーク肉以外は美味しかった。オーク肉は以前神殿で食べたものと違い、固くて塩辛く肉のうま味がない。
宿に戻って1階のレストランでお酒を楽しみながら明日以降の予定を話し合う。この領の名物と言えばモンスターの肉だ。さっき屋台で食べたオーク肉は今一だったが、グレートウルフやコカトリスの肉も美味しいと評判である。どこかに食べれるお店があるだろうか。ウェートレスさんに聞いてみる。
「はい、肉料理で有名なレストランがあります、カトレア亭ですね。ただ...」
と言いにくそうに続ける。
「ドレスコードが厳しいので、旅の冒険者の方には向いていないかと。」
「そうなんですね。 教えて頂いてありがとうございます。」
たとえドレスコードに合った衣装があったとしても、そんな堅苦しそうな店はごめんである。
「ここは大森林から少し遠いですからね、塩漬け肉以外は手に入らないのです。カトレア亭は収納魔法を使える魔法使いを複数人雇用して、リレー形式で新鮮な肉を傷めずにここまで運んできているそうです。その分値段が高いのですけどね。」
「だったらもっと大森林の近くの町へ行けば食べれるのかな。」
「はい、そうだと思います。具体的なお店の名前までは知らないですけど。」
「貴重な情報ありがとう。」
私はウェートレスさんに感謝した。これで次の目的地は決まった様なものだ。
「ハルちゃん、もっと大森林に近い町に行って見ようよ。」
ハルちゃんが、そこまで肉にこだわる必要はないんじゃないかと言ってきたが、そこはうまく丸め込んだ。我儘な妻でゴメン、でも食は大切なのだ。
ハルちゃんと話をして、明日、もう1日領都に滞在して女神の祝福亭の夕食を食べ、明後日には大森林に一番近い町トロクへ向かうことを決めた。




