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昼間原狂騒・嚆矢 - 22

「やだああー!」

「ダメだ!」

「嫌だったら嫌だあー!!」

「ダメだったらダメだ! あっ、こら尻尾を振り回すんじゃない!」


目にも耳にも既視感。

最近やけに発生頻度の高い修羅場が、ますます春の日差しの濃くなりつつある今日もまた楝家の風呂場で繰り広げられていた。

シャンプー、アンドトリートメントウィズフォックスのようなもの、アゲイン。

押さえつけてくるかがりの手から、必死に逃れようと暴れる手足の爪が風呂場のタイルに当たり、かちゃかちゃと音を立てている。たっぷりぬるま湯を含んだ尾がプロペラスクリューの如く振り回され、壁に天井に、そしてかがりの顔面に大粒の水滴を飛ばした。

狙ってか狙わずか眼球を目掛けて集中的に飛んでくる飛沫に、かがりは閉口した。おまけに抜け毛まで含まれている。次からは水泳用のゴーグルを装着して臨んだ方が良さそうだと思いながら、かがりは犬用シャンプーへ手を伸ばした。

ユウが悲鳴をあげる。


「ぎゃー! 臭いシャンプー!」

「もう慣れたもんだろ?」

「慣れてない! おじいちゃんのお寿司が食べたかったりジューヨー会議に参加したかったから我慢しただけで、全然慣れてないっ!」

「なら耐えられるさ、今回も条件は同じだ。それとも寿司の方を我慢するか? みんなが楽しく美味しく寿司を食べてる光景を想像しながら、ひとり寂しく家で留守番するか? そっちを選ぶならシャンプーはしなくていいんだぞ。いやあ辛抱強いなあユウは」

「うぐっ……!」


ひどいや、などと嘆いてみたものの、どのみち最終的には洗われるしかない事はユウも理解している。そして自分が、がま寿司のいなり寿司の魔力を振り切れないという事も理解している。

まこと人の業とは恐るべし。ユウは抵抗を断念した。

予定調和にも程があると、かがりはぐったり俯いたユウの背中に上機嫌でシャンプーをどばどば振りかけ始める。毛並みに逆らうようにわしゃわしゃ手で掻き混ぜると、たちまち小さな狐の全身は白い泡に包まれた。初めて洗った時よりも断然泡立ちがいい。やはり何でも定期的な手入れは大切なのだとかがりは頷く。

蛇が体を持ち上げて、滴り落ちてくる泡で洗いやすいように場所を空けた。


「お前もやめろって言えよぉ……」

「ヤマカガシはお水大好きなので問題ありません。むしろ2時間程じっくり半身浴していたいくらいです」

「裏切り者ー!!」

「お前は物分かりがいいな。かわいい奴め」

「恐れ入ります。キャリア長いですからね」

「どーせ俺はかわいくないもん……」


ここに至り完全に不貞腐れてしまったユウの頭の上に、かがりは笑いながらホイップクリームのようにシャンプーの泡を盛り上げた。



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