昼間原狂騒・嚆矢 - 15
俺はヒーローになる。
それが、ある地、ある山、ある群れに生を受けた幼い狐の夢だった。
時に仲間を守り、時に導き、果ては己が命を犠牲にしてでも種族の未来を切り開く。
勇敢で献身的な働きは誰もから英雄と讃えられ、あいつについて行けば、という信頼と尊敬の眼差しを集める。
死して後も偉大な功績は忘れられる事なく、長老達の教えに、子供達の歌に乗せて、永遠に語り継がれていく。
それこそが、小さな狐の望む結末だった。
だが今、狐には別の願いがあった。
自分の生まれた意味だとさえ、他に生きる道はないとさえ信じていた夢をも上書きする、強い強い想いがある。
賞賛はいらない。信頼も尊敬も栄光もいらない。
感謝されなくてもいい。語り継がれなくてもいい。残すのが功績ではなく汚点となってもいい。
死と共に忘れ去られるだけの凡夫でも構わない。
ただ一人。たった一人の人間を、窮地から救い出す事さえできれば。
仕事の邪魔をした自分を、殺さないでおいてくれた。
役に立った事が一度もなかった自分を、側において学ばせてくれた。
死ぬ筈だった自分を、大事な力を手放してまで助けてくれた。
おいしいゴハンをくれて、居心地のいい寝床をくれて、時には力を合わせて強敵に立ち向かって。
服やリードや病院は、ちょっぴり嫌だったけれど。
だから、今度は自分の番だ。
活躍する為に弱者しかいない土地を探していたような自分だけれど、今なら大切な者を助ける為に勝ち目のない強者にも挑める。
ヒーローは利己的であってはならない。だからこれは英雄の道ではない。自分がなろうとしているのはヒーローではない。
切り開きたいのは種族の、全体の為の未来ではなく、たった一人の。




