昼間原狂騒・二岩 - 2
今日の営業時間が終了した。
店の扉を施錠し、住居となっている二階へ上がる。
夕食と入浴。テレビを眺めながらティータイム。ちょっと狭いが浴室もついていて、一人暮らしには充分すぎる広さだ。
一服したら、上を羽織って一階の工房へ向かう。
明日はアンティークショップは休みなので、丸一日工房に籠もって注文の品に取り掛かる予定だ。好きな仕事が交互にできるなんて、実に恵まれた生活だと風香は思っている。
剥製の方は師匠筋からの紹介で、アンティークの方はこの街で少しずつ客がついてくれているし、プライベートでも思わぬ出会いが最近あった。開店当初は期待と不安で一杯だったが、この調子なら何とかなりそうだと、最近やっと肩の重みが軽くなりつつある。
このまま十年、二十年と続く、地域に愛される店になってくれれば。
工房内の静謐な空気に包まれて、風香はひとりそんな思いに浸った。
カタン。
と、視界で揺れるものがあった。
僅かな動きであったが、かといって見逃す程小さくもない。
風香は予約ノートを取り出そうとしていた手を止め、首を傾げた。ここには自分一人だけの筈だ。じっと目を凝らしても、室内にあるのは納品を待つだけとなった剥製が二点のみ。
片方は雉。もう片方は若い雄鹿。
今にも動き出しそうな生命感に満ちているが、それは素材の良さと風香の卓越した技術により生み出された輝きであり、本当に生きている訳ではない。当然いくら眺めても瞬かない眼が見返してくるだけで、毛の一筋もそよぎはしなかった。
気のせいかなと、風香が視線を引き出しに戻そうとした時。
ガタン、と今度こそ気のせいや聞き間違いでは済まない大きさの音が静寂を破る。
わあっと声をあげ、反射的に振り向いた風香の前で、
ガタン、ガタンガタガタガタガタガタ!
雉が、そして鹿が。
右に左に激しく揺れながら、固定された四肢のまま滑るように床を直進してきたのである。
「動いたぁー!?」
夜の工房に、風香の絶叫が響き渡った。




