朱雀の危険な口づけ(2)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋の物語。
恍惚な表情で貪るようにキスしていると、無粋なあいつが姿を現した。
「とんでもなく変な癖だね。死体の首とディープキスなんて」
突然の声に驚いた朱雀が振り向くと、そこには青龍がいた。
「初めまして。僕は青龍。君と同じ殺し屋さ」
青龍が挨拶すると、朱雀は彼が同業で殺気が無いことから、警戒を解いた。
話を聞いてみると、知り合いが出資してくれたお好み焼き屋をやってるおかげで、料金を抑えることができるそうで、この癖も5歳の時のある出来事がきっかけでなってしまい、それ以来、殺した相手の首とディープキスしないと心が満たされなくなったらしい。
彼女からそれらを聞いた青龍は呆れた。
「とんだイカレたキス魔だね」
「イカレとんのはお互い様やろ? あんたの噂もよう聞くで。若手トップクラスの腕を持っとるくせに己を哀れんどるイカレたアホな殺し屋がおるってな」
朱雀の辛辣な評価に青龍は耳が痛いと思った。
「ま、こんな仕事してるんや。縁があったらまた会おな」
そう言ったあと、青龍は頷いてサッと去り、朱雀は返り血をホテルのバスルームで流してから帰っていった。
翌朝。龍がクラスメートの黒田宙と談笑していると、廊下の方から急ぐ足音が聞こえて来て、同じクラスの色黒少女・猫宮柚が勢いよく入り、
「みんなー。大ニュース、大ニュース……ふにゃ!」
と、言いながら、入口の僅かな溝に躓いて盛大にコケた。
龍に心配され柚が照れくさそうに笑っていると、2人の幼なじみの黒川美夜がため息をつきながら入ってきた。
「ったく、あんたはいつもいつも……」
「黒川さんも大変だね。それより何があったの?」
龍がそう聞くと、美夜は気怠そうに、このクラスに転校生が来ることを知らせた。
その知らせに龍は驚き、宙はかわいい女子ならいいなと期待を膨らませていたが、一方で、言いそびれた柚は自分が言いたかったと、出番を奪われたことにふてくされた。
そうこうしていると、担任の志村紫乃が、転校生と思われるポニーテールの少女を連れて教室に入り、生徒らに着席を促したあと、彼女の紹介を始めた。
「今日から同じクラスで勉強することになった赤羽さんです。赤羽さん。みんなに挨拶を」
「はいはい。初めまして。うちの名前は赤羽雲雀。今日からよろしく頼むで」
自分達に向けて挨拶する転校生の顔を見て、龍は昨夜の寝不足が吹っ飛ぶほどびっくりした。
なぜなら彼女は、9時間近く前に死体とキスしていた、あの朱雀だったからである。
紫乃に言われて龍の隣りの席に向かう雲雀も、彼の正体に気付いたらしく、着席して龍と当たり障りのない挨拶をしながら、持参している携帯電話にメールを送り合った。
『また会ったね。キス魔朱雀』
『せやな。イカレ青龍』
こうして2人のイカレた殺し屋は、クラスメートとして、そして、信頼できる同業者として出会った。
彼らが組むことは果たして吉と出るのか凶と出るのか…………
中学生が店なんてできんのか! ってツッコミもあるかと思いますが、そこは諸々クリアできたということで、大目に見てくれると幸いです。