朱雀の危険な口づけ(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋の物語。
平成17年4月11日午前0時。龍は自身のサイト『青龍の逆鱗』に起こっている異常事態に気付いた。自分を頼って依頼してきたはずの客達が、次々とキャンセルしていってるのである。
詳しく調べてみると、自分の同業者が運営していると思われる闇サイト『朱雀』に客が流れてることがわかった。
もう少し価格を安く設定した方がよかったかと反省しながら、そのサイトを閲覧した龍だったが、その予想外の内容に、思わず飲んでいたお茶を吹き出した。
「な! 本来50万のところをたった5万!? いくら殺し屋稼業は安くしたもん勝ちだからって、この値段は……」
興味を持った龍は、その依頼の内容を見て、大阪府内だということを知り、
「同業者の仕事を見るのも勉強の内、かな」
と、呟き、見学に向かおうと決心してから、画面に吹きつけたお茶を後悔しながら丁寧に拭いた。
その日の午後11時。1人の塾講師が、ホテルの一室に少女を連れ込んでいた。
夜景に感動する少女の背後から塾講師は近付き、肩を抱き寄せ、
「どうだい? 君。この夜景をバックに俺とキスとか?」
少女は一瞬戸惑ってから、
「えぇよ。あんたやったら」
そう言うと2人は、大人のキスをした。塾講師の方は手慣れていたが、少女のキスは彼より何十倍も上手かった。
「どや? うちのキス」
「うまいな。ホレてしまいそうだ」
そう誉められて照れる少女を見て、塾講師は内心喜んだ。
これで、今まで食い物にしてきた生徒ら同様、自分の虜になると思っていたからである。
だが、その喜びは少女の言葉によって一気に冷めることとなる。
「けど、そりゃ無理な話やな」
「え?」
「だってあんた。もう死ぬもん」
少女はそう言うと、右腕に隠していた物から、鉛筆ぐらいの大きさの鉄の針を3発撃ち、塾講師の体に命中させた。
「き、君は、いったい……」
痛みと混乱で動揺する彼に対し、少女は同じく隠し持っていた打撃部分が刃になったトンファーを2本取り出し、振り回した。
「知らんか? うちは殺し屋サイト『朱雀』の管理者で殺し屋の朱雀や」
そう。この少女こそが朱雀だったのである。
「うちのキスはよかったやろ?ほな、地獄に堕ち」
朱雀はそう言うと、目にも留まらぬ早斬りで塾講師の首を切断し、死亡を確認すると、何を思ったのか死後硬直する前に生首の口を開き、返り血を浴びながらディープキスをしだした。
作中では描かれていませんが、今回の依頼者は、この講師に食い物にされた塾生と、その親です。