青龍と朱雀の夏休み(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋の物語。
だが、花火が打ち上げられてから十数発目に入ったところで、徐々に雲雀の様子がおかしくなり、隣りでモジモジしながら息を荒げていた。
「ん? どうしたの? 赤羽さん。トイレならあっちだよ」
「ちゃう……そんなんや、ない……てか、あんた……ほんまデリカシーないな……」
龍は一言謝ってから具合を聞くと、雲雀はトロンとした顔で、
「体が……疼く……火照る……もう、我慢でけへん……龍ぅ、これ、鎮めてぇ」
と、訴えかけてきた。どうやら花火に見とれている内に、変な方向に興奮してしまったらしい。
「鎮めてったって、どうすれば……」
方法がわからず、どうしたらいいか聞くと、雲雀は頬を赤らめながら、
「せやから、その……うちとキス、して……」
雲雀からの注文に龍は取り乱した。
恋人でもないのにというのもあるだろうが、知っての通り雲雀は、人を殺してディープキスしないと心が満たされない狂った癖の持ち主である。すなわち、彼女とキスすればそれは死を意味する。
さすがに雲雀もそのあたりはわかってるらしく、海水浴の時に拾ったロープを取り出し、後ろ手に縛ってもらった。
「これでいい?」
「あぁ、おおきに。ほな、早速……」
そう言ってすぐ、雲雀は龍にディープキスをした。
龍は、こんな突然の形でファーストキスを奪われるのかと内心驚きながらも、彼女のためならとまんざらでもない感じで、拒絶することはなかった。
が、やはり打ち捨てられたロープでは、彼女を止めることはできなかった。衝動を抑えることができなくなった雲雀は、自力でロープを引きちぎり、龍を押し倒して彼の首を絞めた。
「……すまん。ほんまにすまん。けど、もう……」
謝罪を口にするも、雲雀の手の力は強まる一方で、食い込んだ彼女の爪によって龍の首が傷付けられ、そこから血がつーっと流れた。
抵抗もせず、このまま殺されるかに思われたが、彼女の殺気にあてられたことで、龍は青龍の姿になり、雲雀の手をどかして起き上がった。
「血、出ちゃったね」
「す、すまん。うち……」
雲雀が再び謝ると、青龍は微笑み、
「大丈夫。君の心は、僕が満たしてあげるよ」
と、言い、今度は青龍の方から雲雀にディープキスをした。
さっきまでの受け身のキスと違い、情熱的で濃厚で、脳を揺さぶるような熱いキス。
優しい龍からは想像もできない攻撃的なキスに、雲雀は戸惑った。それは普段の彼とのギャップだけではなく、
(な、何やこのキス……人を殺してもないのに、うちの心が満たされて……いや、それどころか溢れてまう! こんままやとうち、青龍の……龍の虜になってまうぅ……)
そう思ってる内に青龍は龍に戻って顔を離し、お互いに恍惚しきった目をして見つめ合った。
その間も花火は絶えず上がり、断続的に2人を照らし続けた。
翌日。2人は白浜旅行を続行し、日が暮れた頃に大阪に帰った。
この2日間で龍と雲雀の距離は、今までよりもぐんと縮まり、ただの友人から、強い絆で結ばれた親友となった。
まぁ、残念なことに立場の強さは相変わらずで、龍はその後も彼女が何かの拍子で興奮する度に、キスをせがまれることになるのだが。
とはいえ、キスから進展した2人の関係は今後も目が離せないかもしれない…………
2人の甘い話で終わった。『死獣神~血の書~』
次回作からは、再びいつもの血腥い話に戻ります。




