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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第7話 揉むな!

「とりあえず普段よりガッチリ固定してあるから、大丈夫なハズよ」

 晴海は純平の胸を何度も揉んだ。感触はボールそのものだが、大きさや見た目などで不自然な点はなくなっている。

「でもさぁ……ホントにこれ着けないとダメなわけ?」

「当たり前でしょ! これがなかったら、どうすんの」

 純平が手にしているのはブラジャーだ。男でこんなのを着けるだなんて、もはや変態以外の何者でもない。

「でもさぁ。素っ裸になるわけじゃないし、体操服着てるんだからいいんじゃないの?」

「ダメ! 着けてないと不自然になっちゃう」

「そもそもボールの時点で不自然だと思うけど……」

 純平は固いボールをギュッと掴んだ。こんな弾力があるのだろうか。触ったことがないので当然ながらわからない。

「つべこべ言わない! とりあえず、今日を乗り切ればオッケーなわけよ。だから、しっかりやってよね」

「休んじゃダメ?」

「それこそダメよ!」

 涼子が間に割って入った。

「あそこはね、欠席に対しては特に厳しいの。もしいま休めば、夏休み以降の晴海の成績にも響きかねないわ」

「……あっそ」

 純平はため息をついてカバンを持った。

「気をつけてね」

「へいへい」

 純平は二人の見送りを適当にあしらって足早に家を出た。

「あーあ。何でもそうだよなぁ……昔から晴海、晴海ばーっかり。俺のことなんて、あんまり誰も気遣ってくれないんだから」

 足元に転がっていた石を蹴っ飛ばす。なんだか自分のやっていることがバカバカしくなって、不意に泣きたくなってきた。

「……あーあ!」

 思い切り大声を出してみた。それだけでも少しスッキリする。

「とりあえず走ってみよ!」

 純平はスカートがめくれ上がるのも無視して学校まで思い切り走ってみた。最近つけだしたリンスの香りが鼻に届いて、ちょっと気持ちが楽になる。

「……もう少し頑張ってみるか!」

 高校に落ちてから結構落ち込んだ純平だが、考えてみれば3ヶ月という短い間でも高校生活を普通男子が入れない女子高で楽しむことができるのだ。

「頑張らなきゃ、3ヶ月も損だもんね!」

 ついつい女の子口調になってしまう。悲しい習性とでも言えようか。校門が見えてきた。そのまま駆け込んで、一気に靴箱まで行ってしまおう。そう思ってさらに気合いを入れようとした寸前だった。

「ちょっと! 高垣晴海!」

 突然目の前に女子生徒が飛び出してきた。

「うわぁ!? 危ない!」

「ちょっと止まりなさ……きゃーっ!?」

 純平は止まれるはずもなく、思い切り女子生徒に突っ込んでいってしまった。

「アイタタタ……」

 純平はスカートがめくれ上がってパンツが見えていないかを気にした。女子としてもこれは不自然ではないだろう。

「なんなんだ……あ!?」

 下を見ると、ぶつかった女子生徒が下敷きになっていた。

「わぁ! ごめんなさい! 大丈夫?」

 元ラグビー部員でその部員の中で軽いとはいえ、純平の体重は60kg。身長165cmのわりには重いほうかもしれない。特に女子の中では重いはずだ。

「早くいいからどいてくれない?」

「ごめんなさい!」

 女子生徒は立ち上がってスカートについた砂を払う。砂埃が舞って純平の顔に降りかかった。

「私の名前は、(わたな)() ()(りん)

 花梨はビッと人差し指を純平の鼻に突きつけた。

「は、はぁ……」

「私は貴方を正直言って、嫌いだわ」

「は?」

 突然嫌い宣言をされたのではたまったものではない。

「あの……私、何かしました?」

「何かしました!? 貴方は何もわかっていない!」

 グイグイと花梨は純平に歩み寄る。

「まず、その姿勢!」

「姿勢?」

「なんでそんなビシッとしてるの!?」

「それは……」

 曲がりなりにも運動部に入っていた。礼儀作法などにはうるさい部だったし、スポーツをやるにあたっては姿勢が悪いと後々悪影響を及ぼす可能性も十分にあった。そのため、純平は普段から姿勢には気をつけている。だけれども、気を抜けばたまに猫背になるわけだが。

「中学時代に所属していた部が、何かと礼儀作法や姿勢にうるさい部でして」

「それだけ?」

「は、はぁ……そうですが」

「じゃあ、次の質問」

「何ですか?」

 グッとボールの谷間を突かれた。

「!?」

「なんで貴方の胸はそんなに大きいの!?」

「はぁ!?」

 突っ込むトコそこかよ、と純平は思ったが次の瞬間、なるべくしてほしくない方向へと花梨は展開を持っていき始めた。

「ちょっと失礼」

「や……失礼ってアンタ朝から何して……」

「ふーむ。弾力がなかなかあって……」

「や、やめーい!」

 気づけば全力で花梨をぶっ飛ばしていた。昨日、美砂を突き飛ばしたときよりも激しいやり方だった。

()ったーい……突然なにすんのよ!」

 花梨がスカートのホコリを払って純平を突き飛ばし返した。

「アンタだって何なのよ! 人のボー……じゃなくって、胸を揉んだりして! 人の許可なく揉むな!」

「別にいいでしょうが! 同性で同じクラスなんだから!」

「そんなの関係ない! コイツ、最低!」

「コイツ!? よくもそんな言葉遣いできるね!?」

「うるさい! この変態女!」

 純平の一言に、花梨の表情が曇った。

「変態〜?」

「そうよ! 変態だわ、変態!」

 なんとか理性を保って女の子口調で喋っている自分に少し情けなさを感じつつ、純平は言いたいことを言いまくる。

「なーにーが……」

 花梨がフルフルと手を震わせて次の瞬間、ありえない言葉を大声で吐き出した。

「女が変態で何が悪い!」

 シーンと周囲が静まり返る。

「花梨……それ、女の子のセリフじゃないような気がするわ」

 そばにいた花梨の友人、竹園(たけぞの) 絵磨(えま)がそっと耳打ちした。

「とにかく! 私はアンタのすべてが気に入らない! とりあえず、今日の身体検査ですべて白黒つけてやるんだから、覚悟してなさい!」

「は……はぁ」

「行くわよ、絵磨!」

 そう言い残すと、花梨は颯爽と靴箱へ向かった。

「おっはよ、晴海」

 後ろから美砂がやって来た。呆然としている純平の横で、美砂が呟く。

「身体検査で何を争うつもりだろうねぇ」

「さぁ……」

 しばらくすると騒ぎを聞きつけた和沙がやってきたので、二人は慌てて靴箱へ向かって走り出した。

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